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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
雷の精霊編
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第160話 宰相、最後の悪あがき

いつもより少し長くなってしまいました。

小型の馬車に乗り込んだ、俺とシュミア、リミリアと気絶させて簀巻き状に縛り付けてある男を乗せた馬車は何の妨害もなく、街と城の境目にある跳ね橋付近へと到着していた。


俺達のことが既に宰相にバレ、何らかの妨害があると懸念していたのだが、その心配は良い意味で裏切られ、スムーズに事は進んだ。


「其処の馬車とまれ!」


突然、外から掛けられた声に条件反射で剣の柄に手を伸ばした俺を、隣に座るリミリアが制した。


「ミコトさん、落ち着いてください。 城に危険物が持ち込まれないようにするための検分ですから」


リミリアがそう言うと色は違うものの、リミリアが着ている物と寸分違わぬ鎧を身につけた男2人が馬車の中へと入ってきた。


「護衛騎士隊長のリミリア殿でしたか。お怪我はもう大丈夫なんですか?」

「ええ、長い間皆さんに御心配をお掛けしていましたが、近々本来の職務に復帰できそうです」

「それとシュミア殿に、姫様の危機を救っていただいたミコト殿ですね。此方の者は?」


検分の騎士は未だに蓑虫状態で馬車の床に転がされている男を見て妙な表情を浮かべている。

俺とリミリアは如何説明すれば良いのか迷っていると、御者席のシュミアが声を発した。


「この者は私が此度の任務で捕らえた重要参考人です。任務の内容は王妃様直々に言い渡されたものですので、此処で説明することは出来ませんが」

「いえ、失礼いたしました」


検分の騎士は最後に馬車の下を確認すると城の方に合図をし、跳ね橋を下ろしてくれた。


馬車は何事もなかったかのように下ろされた跳ね橋を渡ると、そのまま城内へと入ってゆく。

何時か見たような長い階段の下に馬車は停止し俺達は馬車を降りた。


「さて此処からが正念場ですね。まだ宰相殿に情報が伝わってなければ宜しいのですが」


リミリアは近くに事情を知らない別の騎士が立っている事から、態々『宰相殿()』と発言し、不快感を顔に出さずに淡々と話していた。


「それでは行きましょうか」


そう言ってシュミアは証人となる男を軽々と肩に背負い、長い階段を上がろうとするが此処で俺は『何故昇降機を使わないのか?』と聞いてみた。


「昇降機は王族の方々専用の物です。私達護衛騎士といえど、一般の騎士が使用することは禁じられています」

「それに昇降機が一度に運べる人数は3人だけなので、どちらにしろ無理なんですけどね」


その後も階段を一段一段、肩に男を背負って昇っているシュミアに代わり、俺が男を背負うと言ったのだが頑なに拒否された。


そしてそれから数分後、自分よりも重い男を肩に背負っていたシュミアは何の息切れもせずに謁見室のある最上階へと上り詰め、会議をしている場所へ向かっていた。


(彼女も見かけとは思えない、並大抵の体力ではないな)

(マスターの体力は反則とも言えるような物ですけどね)

(本来、魔術師が無茶苦茶な体力を持つのは可笑しい事なんだろうな)

(どうやら目的の場所に到着したようですね。中から孤児院の前で出会った者と同じ気配がします)


会議室となっている場所へと到着すると丁度会議が終了したのか、続々と大臣や騎士が部屋から退出していく。


「此処は会議室です。何用でしょうか?」

「『重要な会議をしているので誰も通すな』との命を受けております。お引取りください」


俺達が会議室の入口に近づくと扉の前で槍を持って警護している2人の騎士が話しかけて来た。


「ヴィナリス姫の護衛騎士隊長リミリアです。此度は陛下に緊急の御報告がありますので、入室を許可願います」

「同じく諜報部隊所属のシュミアです」

「了解いたしました。陛下に聞いてまいりますので、暫くお待ち下さい」

「分かりました」


扉を護っていた騎士はもう1人の騎士に槍を預けると重い扉を開けて会議室へと入って行った。

それから数秒後、騎士は俺達の前へと戻ってきて、こう告げた。


「陛下がお会いになられるそうです。此方にどうぞ」


騎士はリミリアに話しかけると同時にきびすを返し、先導する形で円卓に座る陛下の元へと誘った。


可也の人数が座る事が出来る円卓に着いていたのは、陛下と王妃様、それに問題となる宰相と見たことのない全身を緩めに覆う、真っ白な衣を身につけた長い髪の女性の姿だった。

更に壁際には護衛騎士だろうか? 10人程の人相の悪い男達が、槍を持って構えていた。


円卓から立ち上がって此方に一瞬、目を向けた宰相はリミリアとシュミアに担がれた男を見て驚愕の表情を醸し出している。


「護衛騎士隊長リミリア、何か緊急の用があると騎士から聞いたのじゃが? みれば我が娘の危機を救ってくれたミコト殿も一緒ではないか」


リミリアは陛下に問われ、一瞬宰相の方を睨みつけると肩に担いでいた男達を下ろし、床に片膝をついて臣下の礼を取ると話し始めた。


「此度はお忙しいところを申し訳ありません。至急、陛下のお耳に入れたいことがあり参上いたしました」


すぐ傍に立っているメタボな体格をしている宰相は暑いのか、それとも冷や汗なのか大量の汗を必死にハンカチのような物で拭き取っていた。


「で、では陛下、私はこれで失礼いたします」

「ふむ」


宰相はそっと陛下に頭を下げると、其の場から逃げるように退出しようとするが。


「お待ち下さい宰相殿。此度の緊急の報告は宰相殿にも御関係があることなので、この場に残って頂きます様、お願い致します」

「しかし、私めには陛下から申し付けられた大事な仕事がありますゆえ・・・・・・」

「宜しいではありませんか、ゆっくりなさっていってくださいね」


王妃の全てを見透かす目が宰相に向けられると、まさに『蛇に睨まれた蛙(体格的にも)』というべきか、宰相は足が竦んで動けなくなっていた。


「では、そなたの言う緊急の報告とやらを聞きましょうか」

「はい。宰相殿が御力を注いでおられる、孤児院のことで御報告にあがりました」

「孤児院か・・・・・・今まさに会議で今期の支援金を採算していたところじゃ」

「まずは、この者の証言をお聞き下さい」


リミリアは目で合図すると、傍で同じ様に臣下の礼を取っているシュミアが目隠しをして簀巻き状に縛られている男に当身を食らわし、目を醒まさせていた。


「さぁ、先程口にしたことを再度此処で喋りなさい」

「あ、ああ分かったから、拷問はやめてくれ」


拷問って、俺が知らない間に何をしたんだシュミア・・・・・・。


「お、俺は命令されて教会の神父を殺した。それから昔のつてを頼り、奴隷商から比較的顔の整った餓鬼どもを借り、命令にあったとおりに臨時の孤児院を作り上げた」


最初の『教会の神父を殺した』と発言してところで王妃の表情が変化し、『臨時の孤児院』のところで国王と白い衣を身につけた女性の表情が厳しいものとなった。


王妃は俺にやったように嘘を見破るような目線で男を睨みつけている。


「続けて!」

「俺はその後も命令されたとおりに、本来の孤児院で餓鬼どもを監視し続けた」

「子供達は碌な食べ物を口にしていなかった様だが?」

「命令では、子供達の生死は問わないものだった。仮に病死や餓死などで死んだ場合でも街の住民に見つからないように運び、街の外で魔物の餌にするように言いつけられたんだ」

「それで? その命令を下した者は此処にいるか?」


リミリアはそう言うと、男の目に巻きつけてあった布を剥ぎ取った。


「ああ、其処に居る太っている男だ。俺達はそいつに金で雇われていたんだ!」


シュミアは暴れだしそうな男に再度目隠しをすると、首に当身を食らわし気絶させた。


「これが緊急の報告です。街の路地裏で汚れた衣服を身に纏った孤児達をミコト殿が見つけ、調べていくうちに現状が判明したため、私とシュミア、ミコト殿の3人で孤児達を救出いたしました」

「で、出鱈目だ! 何者かが、わしに罪を着せようとしているに違いない!」

「どうじゃヴィア、あの者の話は信用出来るものか?」


陛下は終始無言で、縛られた男を睨んでいた王妃に声を掛ける。


「ええ、あなた。わたくしの魔術であの者の発言を一言一言逃さずに聞いていたところ、口の動きや目の動き、顔の表情から見るに本当のことを言っているようですわ」

「そうか・・・・・・では決まりじゃな。衛兵、宰相ライブリットの身柄を拘束せよ!」


国王が会議室内に立っている衛兵に命令するも、何故か一向に動こうとはしなかった。


「何をしている! ライブリットを拘束せぬか!」

「無駄ですよ。こやつ等はわしの私兵、貴方の命令には従いませんよ」

「なんじゃと!?」

「少し計画が早まりましたが、問題ないでしょう」


宰相は口元を緩ませながら立ち上がると、先程まで冷や汗を流していた人物とは思えないほど堂々と驚くべき事を口にしていた。


「此処で王と王妃を殺害し、その罪をこの者どもに着せてワシがこの国の王となるのだ」

「貴様!」

「おおっと、今なら泣いて謝れば許してやらんこともないぞ? わし専用の慰み者となって貰うがな」

「この恥さらしが。誰が貴様の思うようになるか!」

「ふん、ならば仕方がない。多少勿体無い気もするが、この場にいる者を殺せ! 1人も生きて逃がすな。早い者勝ちだ、より多く殺した者には報奨金をだしてやろう」


その後、壁際に立っている衛兵と扉の前で槍を持って警備していた騎士も宰相の私兵だったようで、次々に武器を持って襲い掛かってくるのだが、流石は騎士隊長。 

まるで蜘蛛の子を散らすように次々と切っていく。


そんな折、存在を忘れていた縛られていた男の胸に槍が深深と突き刺さり、証人の男は息絶えた。


「まず1人! 続けていくぜぇ、次はテメエだ」


証人の男を殺した衛兵はまるで殺しを楽しんでいるかのように下卑た笑みを浮かべると、俺に切りかかってきた。

俺は咄嗟にかわし、すれ違い様に愚かな衛兵の右腕と左足を付け根から切り落とした。


「な、なんだと!?」


衛兵の男はバランスを崩して床に倒れたところで、別の衛兵に首を踏まれて息絶えた。

諍いが始まって数分後、此方は唯の1人も死傷者は出さずに全ての衛兵を始末し、残るところ宰相の存在だけとなっていた。


「ば、ばかな! あれだけの兵をもってしても敵わないというのか・・・・・・」


すっかり意気消沈とした宰相は異変に気づいて飛び込んできた騎士の手によって拘束され、牢に入れられた。


その後、宰相の屋敷を捜索した結果、金庫の中に孤児院の運営費用として着服してきた金貨数百枚と敵国ゴルダリアンの王に宛てた書が発見され、宰相は売国奴として街の広場で公開処刑となった。



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