第159話 孤児達の治療と
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此れからも『異世界を渡りし者』を宜しくお願い致します。
孤児院で助けた、戦争孤児である少年少女たちを乗せた荷物運搬用の台車は、街の一角にある騎士舎へと到着した。
最初にリミリアが姿を見せ、次にシュミアが姿を現すと1人の女性が敬礼をしながら走り寄ってくる。
「カルーシャ、この子達がさっき言っていた孤児たちよ。水浴び場に連れて行って、綺麗に洗ってあげて」
「分かりました。さぁ君達、私の後に付いてきてくれるかな? 大丈夫、何も痛いことはしないから」
カルーシャと呼ばれた女性は薄汚れた格好の孤児達を連れて建物の奥へと移動していった。
「あと、メルディは居る?」
シュミアが誰かの名前を呼ぶと、先程まで仲間の騎士と喋っていた女性が此方に歩いてくる。
「お呼びですか?」
「ええ、確か貴女の御実家は洋服店を営んでいたわね。適当に人数分の子供服と下着類を揃えてくれるかしら。代金は後で纏めて請求してくれる?」
「分かりました。直ぐに行ってまいります」
メルディと呼ばれた女性も軽く頭を下げた後、身につけていた軽鎧をはずして、外へと歩いていった。
「捕まえた男達の尋問を奥の部屋で執り行っているのですが、御覧になられますか?」
「尋問って・・・・・・もしかして拷問とか?」
「昔はそうでしたが、今は流石にそのような事はしません。精神的な苦痛になるだけで肉体に損傷を与える物ではありませんから」
肉体的苦痛じゃなく精神的苦痛って、どっちもそれほど変わらないんじゃ?
「如何しますか?」
「いや遠慮しておくよ。其れより、子供達を見てこようかな」
「分かりました。向こうにはカルーシャが居りますので、何かあった際には彼女にお申し付け下さい」
俺は近くを歩いている騎士に場所を教えてもらいながら水浴び場に辿りつくと、其処には大量の泡で洗われている孤児達の姿があった。
リミリアが言っていたカルーシャという女性も子供達の元気のよさに疲れ果てているようだった。
「こら~~待ちなさい! まだ頭を洗ってる途中でしょ。戻ってきなさ~い」
「やだ~~~目に沁みるもん」
身体中を泡まみれにして元気にはしゃいでいる孤児達を、他の騎士達と四苦八苦して捕まえている彼女達を見て不謹慎ながらも笑みが零れてしまう。
「まったくもぅ・・・・・・ってあら? 確かミコト殿でしたね。何か御用でしょうか?」
「子供達を助け出した時、身体中に生傷が目立っていましたからね。治療できればと思いまして」
「治療ですか? 患部を綺麗に洗ってから、薬を塗って行こうと思っているのですが」
「薬よりも魔法で治す方が確実だと思いましてね」
「ミコト殿は魔術師の方なんですか!? これは大変失礼を」
「いや、止めて下さい。 世間では『魔術師は偉い』と言われていますが、俺から言わせて貰えば別に大したことはないのですから」
「大した事ないって、ミコト殿は変わっておられますね。そこらで威張り腐っている魔術師とは大違いだ」
「ところで治療に当たって、其処の個室を使わせていただいても宜しいでしょうか?」
俺は直ぐ後ろにある2畳ほどのスペースが2つ隣り合わせになっている個室を指差し使っても良いか聞いてみることにした。
「えっと、はい。問題ありません」
「では身体を綺麗に洗った子供達から順に個室へと通してください。其処で治療しますので」
っとカルーシャと会話していると、其処に大量の服を持ったリミリアとメルディが現れた。
「もうそろそろ身体も洗い終えたかと思って来てみたんですが、大変なことになっているようですね」
「リミリア様、申し訳ありません」
「リミリアさん、丁度良かった。これから身体を洗い終えた子供達を個室内で治療するから、治療を終えた子供達から順に服を着せていって欲しいんだけど頼めるかな?」
「治療ですか? 分かりました。メルディ、服を持って付いてきて」
「了解しました」
その数分後、俺が個室の中で用意をして待っていると一人目の少年が頭からすっぽり、ローブのような物を着込んで、リミリアに連れてこられた。
「ミコトさん、お願いします。傷は右太腿と左足首、それに背中に鞭で打たれたような蚯蚓腫れがあります」
連れてこられた少年は、身体をビクッと震わせながら俯いて俺と目をあわそうとしなかった。
「じゃあ、これから治療するから。大丈夫だよ、目を瞑って10数える間に終ってるから」
俺は少年に優しく問いかけて目を瞑らすと、リミリアから説明された場所に手を置いて治療を始める。
その間、少年はと言うと律儀にも指を折って数を数えている。
「い~ち、に~い、さ~ん・・・・・・・・・・・・・は~ち、きゅ~う、じゅう!」
で『10』を数えた瞬間に目を開けた頃には俺の治療は終えていた。
「治療終ったよ。何処も痛くないかな?」
「ほんとだ! ほんとに治っちゃった。ありがと、お兄ちゃん」
少年の身柄はリミリアからメルディに移され、隣の部屋で用意した服を着せていく。
「では、次は・・・・・・」
その後、『魔法』と聞くだけで逃げたり、泣き喚いたりと騒がしい治療風景が展開され、2時間程が経過した頃には全ての孤児達の治療は完了していた。
そして孤児達は全員、騎士舎の食堂の方で暖かい食事を終えて仮眠室で眠っている。
「ふぅ~此れで全員の治療が終えたな。リミリアさんとメルディ、それにカルーシャもお疲れ様」
今はカルーシャの淹れてくれたお茶を飲んで世間話をしていると、不意にメルディが惚気話を語り始める。
「やっぱり子供の笑顔は良いですねぇ。私も子供が欲しくなっちゃいました」
「おっ? メルディ問題発言だね。相手は居るの? お姉さんに教えなさい」
「えっ!? 居ないわよ。そういうカルーシャこそ、彼と何処まで行ったのかしら?」
と会話が弾んでいると其処へシュミアが飛び込んできた。
「リミリア姉さん、男達の口を割らせた結果。黒幕が判明いたしました」
「誰だったの!?」
「予想していた通り、宰相のライブリットです。情報によれば、今現在は城で会議をしているはずなので、捕まえるならば好機です」
リミリアは先程までカルーシャとメルディの会話に和んだ表情を醸し出していたが、黒幕の宰相の名前をシュミアから聞かされた直後、表情を一転して険しい表情になった。
「では、証人を連れて城に行きますよ。ミコトさんは如何なさいますか?」
「如何するって俺も城に行くよ。此処まで来たら最後までやらないと気がすまないしね」
「分かりました。それでは私とシュミア、ミコトさんと証人乗せれるだけの馬車を今すぐに用意しなさい」
「「了解いたしました!」」
リミリアが号令を出すと、カルーシャとメルディはサッと立ち上がり、敬礼したあと走っていった。
「申し訳ありませんが、私達は用意がありますので、先に建物の入口で待っていて貰えませんか?」
「分かりました。入口で待っていれば良いのですね?」
「はい、お願いします。それほど長くは掛からないかと思いますので」
それから十数分後、言われたとおりに建物の入口で待っていると、全身に護衛騎士の青い鎧を身につけたリミリアが馬車を引っ張って姿を現した。
シュミアも俺が城で世話になっていたときのメイド服のような格好ではなく、忍び装束のような服装をして御者席で馬の手綱を引いている。
「お待たせいたしました。城の中には宰相の息が掛かった者達が大勢いるので、最悪の展開を予想して騎士鎧を装着しました」
普段の温和な表情の彼女からは予想できないが、青い鎧で全身を覆うリミリアを見ると、『本当に護衛騎士だったんだ』と思ってしまう。
「早く行かないと宰相に感付かれてしまうかもしれません。急ぎましょう」
こうして俺とリミリア、シュミアと証人となる目隠しをした男1人を乗せた馬車は、事の黒幕とも言える宰相を裁くため、城への道を馬車でひた走るのだった。