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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
雷の精霊編
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第158話 孤児解放

シュミアが一般的に公表されている、偽の孤児院へと忍びこんだ頃、俺とリミリアは問題の孤児院の約100m手前にある建物の影へと身を潜めていた。


本当ならば到着した早々に、酷い扱いを受けている孤児達を解放したかったのだが、見張りなのか数人の男達が武器を携え、待ち構えていた。


窓に板を打ち付けている建物の前に2人、奥の街の図書館側に抜ける道に1人、俺とリミリアが隠れている、直ぐ傍に1人と目に見えるだけで少なくとも4人の武装した男達が居る。

4人のうちの誰かを討つ間に残った者が逃げ、報告を受けた黒幕に逃げられでもしたら、もとの木阿弥だし、かといってこのまま此処に居ても時間が経過していくだけで何にもならなかった。


「見張りが4人いるようですが、如何いたしますか? 騎士隊の応援を呼びましょうか?」

「考えたくはありませんが、もしもこの件の黒幕が騎士隊の中にいるとしたら、此方の考えている事が筒抜けになってしまいますから、俺とリミリアさんだけで解決しましょう」

「しかし、幾ら雨の影響で視界が悪いとは言っても此方は2人、相手は最低でも4人ですよ?」


そうなんだよなぁ・・・・・・リミリアの言うとおり、人数的には此方は不利でしかない。

 

魔法で攻撃する事も出来るけど、殺さないように加減するのは難しいし、避けられた時に周りの建物に被害が及ぶのも避けたい。

建物の影で目を瞑り、顎に手を当てて何か手はないかと考えていると、先程まで小雨だった雨は大降りに変化し、視界が更に悪くなっていた。


そんな時、不意に『バシャ』という水をはねたような音が聞えたので、音の出所である孤児院に目を遣ると、孤児院の前だけ他の道と比べて窪地になっているのか見張りの男達のくるぶし付近まで水が満たされていた。


「此れは好機だ。リミリアさん、悪いけど図書館側の道に移動してくれるかな? 俺はこっちから奴等に攻撃するから、そうすれば黒幕に連絡しようとして1人は逆方向から逃げようとするから捕まえて欲しいんだ」


俺が作戦指示をリミリアに話すと、困惑したような表情で問いかけてきた。


「それは構いませんが、そうすると残りの3人が一斉に、ミコトさんの居る方に襲い掛かってきますが大丈夫なんですか?」

「俺はリミリアさんの準備が整い次第、手前の男を打ち倒してから魔法を使って男達を身動き出来なくします」

「魔法ですか・・・・・・分かりました。ですが、私の準備が整った事をミコトさんに伝えるには如何したら良いのですか? 大きな音を立てれば彼等に気づかれてしまいますし」

「それも大丈夫です。俺は見知った人間の気配なら、眼で見なくても感じられますし」


と言っても本当は精霊に付いて行ってもらうんだけどね。


「分かりました、それでは移動します。御武運を・・・・・・」


リミリアは俺に軽く頭を下げると音もなく走り去って行った。


(アクア、悪いけど彼女に付いて行ってくれるか? リミリアが此処と反対方向の道に到着次第、俺に念話で教えて欲しいんだ)

(分かりました)


もともと気配のない精霊が移動したとは感じられないが、アクアを信じて5分ほど待っていると。


(主様、たった今、リミリアさんが所定の場にお付きになられました)

(分かった。じゃ、アクアは戻ってきてくれ)

(はい)

(さて、俺も行くとするか。魔力解放っと)


アクアからの念話を受け取った俺は剣の柄の部分に手を置くと、瞬時に手前の男の前に移動し、腹を柄で強めに打ち付けた。


「き、きさま、何も・・・・・・ゴフッ!?」


男は俺の攻撃で身体を前のめりに『く』の字に倒れ、口から泡を吐き出していた。


「少し強めにし過ぎたか? まぁ死んでないようだし、別にいいか」


孤児院の前で見張りをしていた2人の男は一瞬躊躇したが、直ぐに剣を抜いて襲い掛かってきた。


俺はその様子にも慌てず、目の前の水溜りに手を差込み、氷の魔法を使用した。


この事で一気に足元に溜まっていた水は氷と化し、男二人は剣を持ったまま前のめりに倒れる。


「き、貴様魔術師か!?」

「あ、足が抜けん!」


通りの向こう側にいた男は仲間の現状を見るなり、逃げようと通りの向こうへと走り出すが、待ち構えていたリミリアによって為すすべもなく、取り押さえられた。

俺は足元を凍らされて未だ身動きが取れなくなってもがいている2人の男達と、未だ『く』の字に身体を折って呻いている男とリミリアが捕縛した男、合わせて4人に低威力の雷撃魔法をぶつけて気絶させると、外の見張りをリミリアに頼んで孤児院の中へと足を踏み入れた。


すると其処には1人の目つきの悪い男が天井に付くか付かないか程の長い槍を手に持って座っていた。


「てめぇ、何者だ? 見張りが居た筈だが殺したのか?」

「彼等には少し眠ってもらっているだけだ。お前も同じ様にさせてもらう」

「はんっ! 俺を誰だと思っていやがる。テメエみたいな奴に倒されるほど弱くねえぜ」

「そういうことを口にする奴に限って大したことないんだよな」

「ほざけっ! 全身穴だらけになって後悔しやがれ」


男は縦に持っていた槍を俺のほうに向けると、恐ろしいほどのスピードで突いてくる。


「どうしたぁ~~~手も足も出ねえじゃねえか? 今なら地面に頭を擦りつけて謝るなら許してやるぜぇ」

「許す気なんて無いくせに、よく言う・・・・・・」

「ばれたか。ハッハッハッ、では死ね!」


男は喋りながらも高速で打ち出していた槍を戻し、力を込めて槍を振るってくる。


「攻撃は良いが、此処が室内だと言う事を忘れているんじゃないのか?」

「しまっ・・・・・・!」


男が繰り出した攻撃は、ものの見事に壁へとめり込み、その衝撃で男は槍から手を離した。

俺はその隙を見逃さずに腹を殴ったところ、男は『く』というより『つ』のような体勢で奥の壁へと飛んでいき、壁にめり込んだ。


「此れでも手加減したつもりなんだけどな。思ったよりも強くなかったと言う事か」


俺は壁にめり込んで気絶した男を再度(とどめ?)、雷撃魔法で気絶させると中から窓に打ち付けてある板を外し内部に光を齎した。


「中から凄い音が聞えてきましたが、大丈夫でしたか?」


外から声を掛けてきたリミリアに事情を説明していると其処へシュミアが現れた。


「ミコト様、教会を占拠していた2人を捕らえました。 身柄は騎士舎へと運び入れ、カルーシャ達に見張らせております」

「騎士舎? カルーシャ?」

「カルーシャは私の直属の部下で信用に足る人物です。騎士舎とは、街の中にある騎士専用の宿舎だと思ってくだされば結構です」

「ん、分かった。此方も後は孤児達を助けるだけだ」

「じゃあ、この人たちも騎士舎に運びましょうか。シュミア、手を貸してくれる?」

「分かりました。荷物運搬用の幌付き台車を舎から借りてきているので、乗せて運びましょう」


俺は男達の処理をリミリアたちに任せ、此処にいるであろう子供達を捜していると、室内の隅で震えている孤児達を見つけることが出来た。


「悪い奴等は懲らしめたから、もう出てきて良いよ」


俺が優しく声を掛けると、昨日少女を庇っていたアルという少年が恐る恐る此方に近づいてきた。


「あなたは・・・・・・先日果物を下さった方ですね。僕達が自由になったと言うのは本当ですか!?」

「ああ、皆捕まえたからね。あとは黒幕を暴くだけだね」

「あの~~~僕達はこれから如何すれば良いのですか?」

「此処に置いておくわけには行かないから一旦、騎士舎に連れて行くよ。心配しなくても悪いようにはしないから安心してほしい」

「・・・・・・分かりました」


そうして俺と孤児達は男達を運び終えて、空になった台車に乗り込むと騎士舎に向けて出発した。


リミリアとシュミアは子供達の痩せ細った手足と身体に残る生傷に悲痛感を感じていた。

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