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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
雷の精霊編
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第153話 本の無い図書館

広場でぶつかられた女性、リミリアを診療所まで送り届けた俺は来た道を少し戻り、街の図書館へと足を進めた。


図書館と聞いて楽しみで胸が高鳴っていたのだが、残念ながら予想は大いに外れ、本棚のスペースの割には置いてある本が少なかった。


「いらっしゃいませ」


俺が図書館に入って直ぐに現状を目の当たりにしていると不意に横から女性に声を掛けられた。


「此処が図書館で間違いありませんよね?」

「? はい。そうですが何か?」

「いえ、思っていたよりも本の数が少ないなと」

「やはり、そう思われますか。はぁ~~~」


本が少ないと言った途端に表情を曇らせて溜息をつく受付に何処か罪悪感を感じていた。


「も、申し訳ありません。悪気は無かったんですが」

「気になさらないで下さい。これでも数ヶ月前までは、本棚に隙間がないほど本で埋め尽くされていたんですよ。それなのに、それなのにぃ・・・・・・」 


図書館の受付は目を瞑って涙を浮かべている。


「あの~差し支えなければ、理由をお聞かせ願っても宜しいですか?」

「い、いえ、人に聞かせるような内容ではありませんから、お気になさらずにお寛ぎ下さい」


その後も俺がなんと言おうが、受付の女性は一歩も譲らなかった。


仕方なく残されていた数冊の本をパラパラと読んでみるが、精霊の居場所を示すヒントすら見いだせないまま、図書館での用事はなくなった。


俺は未だに落ち込む表情をしている受付の女性を尻目に、図書館を出て広場を目指し歩き出した。


その途中、今頃は診療所で治療を受けている筈のリミリアが杖を手にゆっくりと足を引き摺りながら舗装されてない道を歩んでいた。


確か、帰り道は妹さんが迎えに来てくれると言っていたはずだが?


何かがあったのだと思い、俺はリミリアに話しかける事にした。


「リミリアさん? 診療所で何かあったんですか?」


リミリアは俺の問いかけにビクッと身体を震わせながら俺の方へ振り向くと、何故か溜息を吐きながら表情を落としていた。


今日はよく溜息を聞かされる日だな。


「ミコトさんでしたか・・・・・・どうして此処に? 図書館での調べごとは宜しいのですか?」

「『どうして此処に』というのは俺の台詞ですよ。診療所で怪我の治療をしているのではなかったのですか?」

「少し思いがけない事が起こりまして、これから家に帰る途中だったんです」

「妹さんが迎えに来る筈では?」

「はい。妹もまだ仕事をしている時間ですので、迷惑を掛けるわけにもいかず」


俺はその後、リミリアの背にそっと手を添えながら広場へと戻り、近くのベンチに座らせると何があったのか聞くことにした。


当初はリミリアも口を固く閉じていたのだが、俺が心配そうに何度も聞くと漸く口を開いてくれた。


聞かされた内容を纏めると、如何やら傷を治療してくれている魔術師から此れまでのほぼ倍額という法外な治療費を請求され、ほとほと困っているのだそうだ。


「何故誰も国に対して、その事を訴えないのですか!? そのような事、違法そのものじゃないですか」

「もし訴えて、この国から出て行かれるような事になっては、私のほかに治療を受けている方々が困りますので。魔術師様の存在はとても貴重ですので、もしも居なくなられると、高価な薬草に頼らざるを得なくなりますし」


そういえば国境の町でギルド長の女性も言っていたな。 

魔術師は自分達の存在を逆手にとって膨大な金を要求すると。


そんなこんなでリミリアと話をしていると、何処かで見た女性が息を切らせながら診療所のあった方角から走ってくるのが眼に入った。


周りに屯していた人たちも『何事か!?』と女性に注目していたが、あまりの形相に目線を外していた。


「姉さん! リミリア姉さん!!」

「え? シュミアなの?」


ん? シュミア? 確か城の中で俺の案内役を務めてくれる女性がそんな名前だったような。


「そうよ。 何時もより仕事が早く終ったから驚かそうと思って診療所に行って見れば『もう帰った』って聞かされるし、心配したんだからね!」


そう言うや否や、何処かで見たシュミアという女性はリミリアさんに正面から抱きついた。


「ちょっと!? 周りも見てるし、ほらミコトさんだって」


リミリアさんは抱きつかれながら、顔を真っ赤にして抗議をしている。


「へっ? ミコトさん?」


抱きついていた女性も辺りから注目の的になっていた事に気がつき、今頃恥ずかしくなったのか、顔全体を両手で覆いながら周囲に目を泳がせている。


俺も抱きつかれていたリミリアの横で如何対応して良いのか分からずに直立していると目を泳がせていた女性としっかり目があった。


「ミコト様!? どうして姉さんと一緒に居るんですか?」


如何やら何処かで見た女性ではなく、城で案内役を務めていたシュミア本人だったようだ。

しかもこの事にはシュミアだけでなく、リミリアも吃驚していたようで。


「シュミア、ミコトさんと知り合いだったの?」

「姉さんこそ、如何してミコト様と?」


その後は広場の中央付近のベンチで周囲の注目の的に晒されているリミリア、シュミア姉妹と、とばっちりを受けたかのごとく姉妹から指を指されている俺の姿があった。


どうでも良いが2人共、人を指差すなんて行儀がわるいぞ・・・・・・。



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