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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
雷の精霊編
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第149話 王都コーランディア

街から護衛として此処まで付いてきてくれた、辺境騎士との諍いから2日後の夕方頃、漸く王都であるコーランディアが目前に迫っていた。


此処に来る道中で暇つぶしの会話がてら、セフィアに護衛騎士のことを聞くと、未だ暗い表情で虚ろな目をしている辺境騎士と比べて、それなりに立場が上なことが判明した。


セフィアの話を纏めると、王都直属の近衛騎士がヴィナリス姫や国王、王妃の護衛として数十人が護衛騎士として鎮座しており、その下に一般の街や村に派遣される騎士が居るという。


俺は只管元気をなくしている騎士を横目で見て、どういう職種なのかを聞くと。

一般の街に常駐する騎士と比べると、給料は桁が1つ違うほどなのだそうだが、王族の護衛だということで常に命が危険に晒されているということだった。


一般的には王都以外の街で、王族に出される数々の料理の毒見や、時には戦争の時に影武者として軍隊の指揮、そして最も過酷なのは命を狙われた場合は自分の命よりも優先して王族の盾となることらしいのだ。

魔術師はどの騎士隊に所属されるのかと聞くと、魔術師はその存在自体が極希少であり、戦争には参加させられないとの事だった。


セフィアの話によれば、魔術師は国民千人の内、一人居れば良いほうで戦争時における勝敗の決めてとしてもかなり重要だという事だ。

色々な事を考えていると何時の間にか街に到着していたようだった。

窓から外を見てみると、複数の国民が馬車を指差して何事かと話しているようだ。


馬車は国民の喧騒など何処吹く風で、一直線に城への道を進んでいく。

街中を何事もなく通り過ぎ、城の一歩手前というところで馬車は停止した。

何かあったのかと思い、外を見てみると其処には何人なんびとをも寄せ付けぬほどの深く巨大な亀裂が地面に刻み込まれており、亀裂の向こう側にこれまた巨大な城門が聳え立っていた。


「ヴィナリス姫様御帰還である。開門!」


馬車の御者席で馬の手綱を握る騎士が大声を張り上げると、いつの間に馬車の横に居たのか2人の騎士が白い旗を振り、城へと合図を送っていた。


そしてその数秒後には『ゴゴゴゴッ』という重厚な音を立てて巨大な門が左右に開かれていく。


「なんじゃ、ミコトその顔は? 口を空けておると馬鹿みたいに見えるぞ」

「姫様、無理もないですよ。ミコト殿はこの国に来たことがないと仰っていましたから」

「そうか、そうであったの。許せ」

「いえ、正直驚いているのは確かですし。それにしても、この大地の亀裂はいったい」

「それは、先々代の国王様が大地の傷跡と呼ばれる、この亀裂を見て『この地に城を構えれば、敵が攻められぬ天然の城砦が出来る!』と言ったのが始まりで」


と言う事は誰かの攻撃でこうなったのではなく、自然の崖の上に城を築いたと言う事で間違いないのか。


そうこう考えていると、重厚なる城門は完全に左右に開ききり、城の中から跳ね橋が降りてきて崖に橋が架けられた。

橋が架かると同時に馬車は動き出し、城門に吸い込まれていくかのように巨大な門の中へと入っていった。


「姫様! 無事な御帰還を心より嬉しく思います」

城へと入ったと同時に馬車の前で、口元に謎の中国人と思うような怪しげな髭を生やしたメタボな男が、脂汗を掻きながら頭を下げていた。


「・・・・・・宰相のアジェルト殿だ。何時見ても眼を背けたくなるほどの暑苦しい顔だ」


俺が『コイツは?』というような顔をしていると、隣に座っているセフィアが珍しく嫌な顔をしながら小声でボソッと呟いていた。


今の今まで馬の手綱を握り続けていた騎士が姫の手を取り、馬車から下ろさせた。


「おお、宰相ではないか。これは要らぬ心配をかけたの」

「いえいえ、姫様がご無事で何よりです。大変だったでしょう、今日はもうお休みくだされ」


宰相と呼ばれたメタボ男は、ヴィナリス姫を心配していたような口ぶりだったが、姫の姿を確認した一瞬、口元が吊りあがったのを俺は見逃さなかった。


「そうも言っておれん。事を父上に報告せねばならぬしな」

「左様でございますか。では姫様より、一足先に事を説明して参ります」


宰相の男はドテドテという足音とブヨブヨという擬音が聞えてきそうなほどに腹の脂肪を揺らせながら、足元が覚束ない今にもすっ転びそうな足取りで、額の汗を拭きながら城門から城内へと続く長い階段を駆け上がっていった。


「ほれセフィア、ミコト何をしておる行くぞ」

「はい」

「分かった。ところで護衛騎士の見習いにするとか言ってた、あの男は如何するんだ?」


馬車を降り際に眼を俺が座っていた座席に向けると、未だに縮こまった男が其処に居た。


「そういえば、そうじゃったな。誰か、誰か居らぬか?」


ヴィナリス姫がパンパンッと手を叩くと、セフィアと同じ様な青い胸当てを身に付けた女性と、その後方に同じ様な青い鎧を身に付けた男が2人、通路の奥から姿を現した。


「これは姫様、お帰りなさいませ」

「おお、ルアロスではないか。久しぶりじゃのぉ」

「セフィア副隊長も御苦労様でした。他の護衛騎士達は残念でしたが姫がご無事だった事は喜ばねば」

「あの者達が居らねば、我が此処に帰って来る事は出来なかったじゃろう。亡くなった者達の家族には深い感謝をもって接してくれ」

「はい、お気遣い感謝いたします。して姫様、何か御用でしょうか?」

「そうじゃったそうじゃった。其処の馬車に乗っている者を護衛騎士の見習いとする。此処での規律の事も踏まえて、教育を施してくれぬか?」

「この男を・・・・・・で御座いますか?」

ルアロスと呼ばれた女性騎士は、終始無言で馬車の座席に座っている男を見て、怪訝な顔をしている。


「ああ、今回のことで我の大切な騎士を4人も失った。一刻も早く使えるように教育してほしい」


ヴィナリス姫は口元を綻ばせながら、セフィアと目線を合わして笑いを堪えている。


「はっ! 了解いたしました」


ルアロスは後方に待機していた男に手で合図すると、2人の騎士は馬車の座席から男を降ろし、両脇を抱えるようにして通路の奥へと連れて行ってしまった。


「それでは失礼致します」


ルアロスは頭を深く下げると2人の男の後を追うようにして通路の奥へと歩いていった。


「セフィアどうじゃ? あの男は使い物になると思うか?」

「正直言って無理だと思います。 2日持てば良いほうではないかと」

「ふむ。ミコトは如何見る?」

「『如何?』と言われても、俺は護衛騎士がどんな訓練をするか知らないから、何ともいえないな」

「そうじゃったな、すまぬ」


そう言ってヴィナリス姫は簡単な謝罪をするが、一国の王族が俺みたいな余所者に謝罪をする事自体、異例の事だろう。


「姫様、そろそろ参りませんと日が暮れてしまいます」

「おお、こうしては居られんの。父上に此度の事を説明せねば」


ヴィナリス姫も先程の宰相と同じ様に階段を上がるものと思っていたのだが、何故かルアロスという女性護衛騎士が歩いていった通路に向かって歩いていった。


はて? 長い階段を上がっていくんじゃないのかな?

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