第140話 精霊を探しに外へ
ドワーフ族の助けもあって、ノスフィルド鉱山から無事に20kgの鉄を持ち帰った俺はグレイアスの錬金講習最終審査を受け、無事に錬金術士と認められた。
そして俺は此処までの世話をしてくれた魔道具屋のガンツさんに挨拶をするべく、商店街を目指していた。
商店街の中ほどにある魔道具屋まで残り100mと言うところで恒例ともいえる、聞き覚えのある怒鳴り声が聞えてきた。
「てめえ! 何回言っても分からねぇな。 そんなことじゃ、何時まで経っても半人前のままだぞ」
怒鳴り声の直ぐ後に何かが転倒する『ガラガラガシャーン!』という盛大な物音も聞えてきていた。
「けっ、口ばかりが一人前になりやがって」
「相変わらずですね」
「ん? おお、兄ちゃんか今日はどうした?」
「いえ、ガンツさんの御蔭で、無事に錬金術士に認められたので一言御礼をと思いまして」
と言いながら、頭をガンツさんに下げる。
「よせやい。 ケツがむず痒くなっちまうぜ」
ガンツさんは此方に背を向けると、頭を掻きながら照れているような仕草を見せている。
「元はといえば期限が過ぎていたにも拘らず、ガンツさんが声を掛けてくれた御蔭で錬金講座に参加する事が出来たのですから」
「いや、切欠を作ったのは確かに俺かもしれんが、合格したのは兄ちゃんの実力だ。 堂々と胸を張って自慢しても良いとおもうぜ。 ・・・・・・それに比べてウチの若いモンは」
ガンツさんがふと店の奥に目を遣り、俺も視線を追うようにして目を向けると其処には初日に俺の持ってきた魔道具に対して無茶苦茶な買取額を示した店員が戸棚の下敷きとなって生き埋めのような状態になっていた。
(さっきの派手な音の正体はこれか)
「何時まで寝てるつもりだ。 さっさと起きて仕事しねえか!」
アンタが自分が突き飛ばしたんだろうに。
ガンツさんから再度激が飛んだ後、店の奥に居た他の店員が、埋もれている店員を発掘するかのように次々と折り重なるようにして倒れている戸棚を起こしている。
「まったく、柔な野郎だぜ。それで此れから如何するんだ? 土術士にでも入隊するのか?」
「それも誘われましたが、今は行かなければならない場所があるので」
「直ぐに出発なのか?」
「いえ、これから旅の支度として食料などを揃えようと思っています。 貴重な魔道具の御蔭で保管場所にも困りませんからね」
「おぅ、気をつけて行けよ? またな」
「はい。 ガンツさんもお元気で」
俺は再度、深く頭を下げると食料品を取り扱っている店へと足を進めた。
その後、数箇所もの食料品を取り扱う商店を巡り、所持金の約9割9分9厘分の果物や肉類を購入し、亜空間倉庫に収納した。
前の世界から持ってきた硬貨も錬金術を使用して鋼材へと変化させたのだが・・・・・・銀貨と言っているのにも拘らず、銀3割、鉄6割、他の不純物が1割と、とても値がつくような代物ではなかった。
こんな事なら、元の銀貨のままで『何かの工芸品』として売れば値がついたかもしれない・・・・・・。
(今のところ食料は此れだけで良いか。足りなければ、魔物でも捕まえて食えばいいし)
(凶暴な魔物もマスターに掛かれば、ただの食料ですか)
(問題ないだろ? 人に害を為す存在を始末して腹も膨れるんだから、一石二鳥ということで)
(はぁ~~魔物に同情してしまいそうです)
(それはそうと腹が減ったな。 出発前に腹ごしらえをするとしようか)
俺はそういうと何時もお世話になっている、宿屋に隣接している酒場へと足を運んだ。
「いらっしゃい! 今日は、なんにしましょ?」
「そうだなぁ・・・・・・何時ものルンゲの丸焼きを6人前で」
「わっかりました! 毎度あり」
その30分後から店員によって次から次へと運ばれてくる料理を、ベルトコンベアでの流れ作業をしているかのように俺の胃袋へと消えていく。
(何時も思いますが、物理的に言ってマスターの何処にアレだけの量が入って行くんでしょうか? 如何考えても体格の倍以上の質量がありますよね)
(うん。 どういう訳か・・・・・・ムシャムシャ・・・・・・腹が膨れないんだよなぁ・・・・・・ゴリゴリ)
(マスター、行儀が悪いですよ。食べるか喋るかどちらかに統一した方がよろしいかと)
ムシャムシャ、ゴリゴリ、グチャグチャ、モリモリ。
(食べる方を優先しましたか。 もういいです)
その後、厭きれた様な口調のルゥにツッコミを受けながら、2時間ほどで全ての料理を食べ終えた。
「毎度の事ながら、気持ちの良い食べっぷりですね。お会計ですが、青銅貨9枚になります」
俺は普通の道具袋の中に手を入れると青銅貨9枚を取り出して出口付近にいる女性へと手渡した。
これで所持金は全て使い切った事になる。
「えっと丁度ですね。 有難うございました、またのお越しをお待ちしています」
腹を擦りながら酒場を出て行くと、後には目が点となって俺が座っていたテーブルの傍にいた他の客と、その積みあがっている皿を厨房の奥へ次から次へと運んでいる女性店員の姿があった。
(さて、それじゃあ出発するか! まずは南のサウシュルド鉱山から行くか)
(行くのは良いのですが、錬金試験のように入坑許可証を貰わないといけませんね)
(そういえばそうだったな。 じゃ職人ギルドからだな)
その後、職人ギルドで南のサウシュルド鉱山の入坑許可証を受け取ると、今度こそ街の外へと歩き出した。
序に東のイストライル鉱山の入坑許可証も欲しかったのだが。
『許可証は1回につき、1箇所の鉱山しか発行できないよ。 イストライル鉱山に行きたければ、サウシュルド鉱山の入坑許可証を返してもらわないとな』との返事が返ってきたのだ。
上手い具合には行かない物だ。
「そういえば、日没まであと僅かだな。ルナは試験に合格したんだろうか?」
夕焼けで赤く染まりかけた空を見上げながら俺は颯爽と街の外へと歩き出した。
一方其の頃、錬金試験中のルナはというと・・・・・・。
「ルナ~~~大丈夫?」
「クシュン! あ~~~頭いたい。折角鉱山に行ける資格を貰ったのにーーーー」
ルナは自宅のベッドで横になっており、額の部分には母の手によって冷たい水で冷やされたタオルが乗せられている。
「仕方ないわよ。 魔力の使いすぎで、気づかないうちに身体に負担が掛かっていたのね」
「うううぅぅぅぅ・・・・・・」
「唸ったって、だ~め! 今回も良い所まで行ったんだし、次回の錬金講習できっと合格するわよ」
「分かってはいるんだけど諦めきれない。でも頭痛くて動けない」
「はいはい、無理しないで眠りなさい。じゃないと治る物も治りませんよ」
ルナは母の手によって静かに眠りについた。
ちなみに体調が完全に回復したのは、錬金講習期限の5日後だったという。
当然ルナは錬金資格を獲得できず、半年後に開催される次の錬金講習に向けて特訓を開始するのだった。