第137話 尋問されるミコト?
最愛なる息子の死を目の当たりにして、陛下は目を真っ赤に腫らしながら数分もの間、泣き続けていた。
そしてそれから更に数分後には、隊長達数人の手によって秘密裏に献上箱の中に入れられ、遺体安置所へと運ばれた皇太子の遺体とともに陛下と一緒に『息子に逢わせてくれ!』と俺に言い寄ってきた女性が付いていった。
あとでグレイアスから聞いた話では、如何やら亡くなった王子の御后様のようだった。
その後、貴賓室から玉座の間へ場所を変更した俺達は、円卓のようなテーブルに隊長達とともに座って談話していた。
「さてオヌシには、みっとも無い姿を見せてしもうたのぅ」
「いえ、当然の事だと思っていますから」
「聞けば、息子の最後を看取ったのはオヌシだと言う事だが間違いないか?」
「はい。 俺があと一歩早く辿りついていれば、このような事には成らなかったのかもしれません」
「そう自分を責める物ではない。 息子の状態を見る限りでは、そなたが間に合っていたとしても死は免れぬ状況であっただろう。 息子を連れてきてくれたことを深く感謝する」
再度、俺に対して頭を下げようとする陛下を俺は手で制した。
「すまぬが息子の・・・・・・マファリスのいた状況を教えてはくれぬか?」
「はい。 あの時は錬金講習の本試験のためにノスフィルド鉱山へ行き、必要量の鉱物を持って街へと戻ってくる途中で、直ぐ横を恐ろしいほどの速度で王子殿下の操車する馬車が通過しました。 そしてその数秒後には黒い鎧を身に纏った2人の男が馬車の方へと走って行き、その直後馬車は横倒れになり悲鳴が聞えたのです。 俺は何かがあったものだと思い馬車に駆けつけたのですが、其処には血塗れで横たわる王子殿下と、その懐から何かを探しているような黒い鎧を身につけた男が座っていました」
実際、俺が到着していた頃には馬車の中で死んでいたからなぁ・・・・・・。
まぁ、現代とは違って検死技術なんてないから、死亡推定時刻なんて分からないだろうしな。
俺が此処まで話すと、陛下の顔が怒りで真っ赤になってしまっていた。
反対方向に目を向けるとナジェリアが『風術士であるミコトが練金講習?』と小声で唸っている。
「それから如何したのだ? 続けよ」
「はい、俺が其の場に辿りつくと男のうちの1人は既に其の場から姿を消し、もう1人の何かを探していた男が俺を見て『目撃者は生かしておけぬ』と言いながら、大量の火炎球を俺に向かって打ち出してきました。 俺は咄嗟の判断で火炎球をかわしながら男の懐に潜り込むと至近距離で高威力の魔法を打ち出し、相手の男を殺害しました」
『殺害した』と口にした瞬間、円卓に座っている隊長から睨まれた様な視線を感じた。
「・・・・・・その男は如何した?」
「男の仲間が来た時の事を考え、荒野の近くにある森林の中へ死体を隠してきました」
俺が『森に死体を隠した』と口にした瞬間、陛下が何かの合図をして円卓に座っている衛士を数人立ち上がらせた。
立ち上がった衛士たちは陛下に敬礼した後、足早に玉座の間から外に出て行く。
「なるほど、状況はわかった。 それにしても何故、街に息子を連れてこようと思ったのだ? 門番の衛士の報告では、そなたは息子を王子だとは知らなかったらしいではないか」
「襲っていた男を魔法で吹き飛ばした拍子に王子殿下の靴が脱げ、中から2通の手紙が出てきました。 失礼とは思いながら、封のされていない方の手紙を読むと『どうか、この手紙をルイベアスの城へ』と書かれていたので街の関係者だと思い、亡骸を荒野に放置して置くよりは故郷の地で眠らせてあげたいと思い、此処まで運んできた次第です」
「ふむ。 その手紙は何処にある?」
陛下の直ぐ横に座っている、緑色の雷のような形の印が鎧の右胸に描かれている男性から手紙の事を聞かれ、懐から蝋で封をされた1通の手紙と血で染まった便箋を取り出し、円卓の上へと置いた。
その男が手紙に手を伸ばすよりも早く、陛下が手紙を握り締めていた。
「ははは・・・・・・間違いなく息子の字だ。 わしに何を伝えたかったのかは知らぬが無理をしおって。 親より先に死ぬとは親不孝者めが」
陛下は手紙を胸の前で握り締めながら皺くちゃな顔に更に皺をよせて涙ぐんでいる。
その後、俺の知っている事を全て話し終えると『絶対に他の者にこの事を洩らすな』と再三の釘を刺され、この場は解散となった。
そして城を出て宿屋に向かう途中、何者かに後ろから声を掛けられた。
「ミコトッ! ちょっと待ってくれ」
声のする方へと振り向くと、其処には息を切らせたグレイアスとナジェリアの姿があった。
居ても立っても居られなかったのか、グレイアスを差し置いてナジェリアが俺の両肩を掴み声を荒げて質問・・・・・・というより尋問してきた。
「何故、風術士のお前が錬金を使えるのだ!? 1人の人間につき1属性しか使えないはずだ。納得のいく説明をしてもらおう!」
「お前、風術士だったのか!? だが、確かに土術士の魔力を持っていたし、一体如何いうことだ?」
2人とも城と宿屋などの商店街が並ぶ、中間に位置する市民公園とも言える場所で声を張り上げているものだから周囲を歩いている、何の関係も無い市民が痴話喧嘩と勘違いして何事かと集まりだしている。
俺は質問攻めにしてくるグレイアスとナジェリアの手を取ると、逃げるようにして宿屋の自分の寝泊りしている部屋へと飛び込んだ。
「2人とも、狭いとは思うが我慢してくれ!」
「此処は宿屋か? さて、納得のいく説明をしてもらうぞ?」
「この場所に我等を連れてきたということは聞かれたくない内容なのだな?」
仮にも土術士隊隊長であるグレイアスと炎術士隊副隊長であるナジェリアがこのような異常事態の中、此処に居ても良いのかと思いながら話をする事にした。
ナジェリアには魔法で飛行しているのを見られてたし、グレイアスには錬金講習で実際に鉱石を錬金していたのを見られていたし。
さて、どうやって説明しようかな。
目の前で魔法を見せている以上、『2人の見間違いでした』で纏めるには無理がありすぎるよなぁ~~~