第135話 帰り道での戦い
久々となる、ミコト無双です。
ノスフィルド鉱山と街のほぼ中間に差し掛かった頃、俺のすぐ脇を身体に触れるか触れないかの場所を1台の馬車が、ものすごいスピードで通り過ぎていった。
(危ない操車をする奴だな。 掠っていたら、唯では済まなかったぞ?)
そう思っていた次の瞬間には馬車は轟音を立てて横倒しになり、馬車は見るも無残な木片と化していた。
俺は目の前で起こった惨事により、操車を行なっていた人物のことが気になり、横倒しになった馬車に近寄ると・・・・・・其処には既に冷たくなっている、背中に何本もの矢が突き刺さった血まみれの男が横たわっていた。
馬車を引っ張っていた2本足の蜥蜴のような生き物は、横倒しになったショックで馬車に結ばれていた手綱が解け、荒野を一目散に走り去っていった。
(如何やら、大分前に既に亡くなられていたようですね。 馬車に付いている血糊も完全に乾ききっていましたし)
(すると、馬車は制御不能になった状態で走り続けていたのか)
俺は死体となった者にそっと手を合わせて立ち去ろうとすると、馬車が走ってきた方向から先程逃げた蜥蜴のような生き物に跨る、黒い鎧を着た男達が現れた。
男達は此方に顔を向けながら、手振り素振りをして仲間内で会話しているようだった。
「ふむ、既に事切れているか。 どうやら、我々が手を下す必要は無いようだな」
「師団長、傍らに誰か居るようですが、如何なさいますか?」
「決まっているだろう? 我々の姿を見られたのだ。 可哀想だが、口封じを施さなければな」
「それならば是非、私めにご命令下さい。 この頃、暴れられずに鬱憤が溜まっているもので」
「良いだろう、この場は任すぞ。 まぁ、お前なら大丈夫だとは思うが、遊びすぎて逆に返り討ちに遭わぬようにな」
「はい!」
そう言いながら師団長と呼ばれた人物は回れ右をして、身体を来た方向へと向けた。
「おっと忘れるところだった。 少しだけなら遊んでも構わないが、息の根を止めた後は文書を手に入れることを忘れないようにな」
「はっ! 分かっております。道中、お気をつけて」
男達は互いに胸の前で敬礼のような仕草を見せ、数秒後には片方の男は来た道を走り去っていった。
「漸く行ったか。ふんっ! 大した実力も無いくせに隊長面しやがって、胸糞悪い・・・・・・何が『遊びすぎてやられるな』だ!」
男は師団長と呼んでいた人物が視界から見えなくなると同時に被っていた猫を脱ぎ、まるで人が変わったかのような悪態をつき始めていた。
そして、ゆっくりと玩具を手にした子供のような笑顔で俺の前へと移動してくる。
「さて、テメエも運がねえな。 荒野のド真ん中で俺に出会った事を後悔しながら死んでくれや」
「アンタ何者だ? ルイベアスの街の衛士ではないのか?」
俺が『ルイベアス』と言う言葉を口にした直後、眉間に深い皺を寄せて睨みつけてきた。
「お前こそ一体何者だ? 殺されそうになってんのに意外と落ち着いてやがるな」
黒い鎧の男は『何時でも俺を殺せる』とばかりに無防備で俺の目の前まで歩いてくる。
「それに、事もあろうに俺が平和ボケした国の衛士だと!? 冗談にしても笑えねえ話だぜ」
男は厭らしい笑みを口元に浮かべながら、舌なめずりをして俺の周りを歩いている。
そして馬車の下敷きとなって息絶えている血塗れの男の傍へ行くと、何やらゴソゴソと懐に手を入れて何かを探しているようだった。
「おかしいな。 無いわけは無いんだが・・・・・・おい、貴様。 コイツから何か受け取らなかったか?」
そう言いながら死体をまるで道に転がっている石のように蹴り飛ばしながら、悪態をついていた。
「何をしているんだ! やめろ」
俺は死体を弄ぶ、男の悪態に我慢できずに一気に距離を縮めて殴りかかる。
「グッ!? 行き成り何をしやがる!」
死体を散々蹴り飛ばしたり踏みつけたりしていた男は予期せぬ、俺の一撃で後退りをした。
「中々やるじゃねえか。遊んでやろうと思ったが止めだ! 惨ったらしい死をくれてやるぜ」
男は不意に俺から距離をとると、掌を俺のほうへ向けて何やらブツブツと口にしている。
そして次の瞬間、掌から打ち出された火炎球が俺の頬を掠めて後方の地面に着弾し、爆風が砂塵を舞い上がらせていた。
「大した威力だが、当たらなければ意味はないな」
俺が独り言のように、ボソッと言った一言が聞えてしまったようで・・・・・・。
「俺を舐めるのも大概にしやがれ!! 次の一撃でテメエは終いだーーー」
男がそう言った次の瞬間、俺の周囲に何十もの、炎の塊が浮かんでいた。
(一つ一つの炎塊は大した威力はありませんが、マスター以外にとっては致命傷になる量ですね)
(あの男が言っていた『惨い死』というのが其れか。 確実に人殺しを楽しんでいるな)
「行けーーーーー!」
厭らしい笑みを浮かべていた男が声を発した次の瞬間、俺の周辺を漂っていた炎の塊が一斉に俺に向けて飛来してきた。
「ハァッハッハッハァーーー死ね死ね死ね死ねぇ。 死体も残さず、消滅してしまえ!」
男はまるで狂ったかのように奇怪な笑い声を上げ、魔法の餌食となっている俺を見ている。
そして肝心の攻撃を受けている俺はというと、全ての炎塊を防御魔法であるファイアーウォールで受けきっていた。
攻撃が始まってから数分後、漸く周囲に浮かんでいた炎塊が無くなった頃には俺が立っていた場所を中心として半径数十mがドーナツ状に抉れていた。
「終わったな、面倒臭えが死体の確認をするとするか。 既に燃えカスしかないだろうがな」
「誰・が・燃えカスだ? あれしきの攻撃で俺を殺せるとでも思っていたのか?」
「き、貴様・・・・・・何故、あれだけの攻撃の中で生きている!? 化け物か?」
「俺が化け物だと!?」
(はっ!? マスター冷静に)
男の口から『化け物』という言葉が発せられた瞬間、俺の中で何かが切れるような音が聞えた。
ルゥの声も一瞬聞えたような感じはしたが、今は何の声も聞えない。
それからどれだけの時間が経ったのだろうか。
意識が戻ると、荒野の至る所が隕石でも落ちてきたような擂鉢状に抉れており、その内の一つに先程まで俺と相対していた男が両腕の肘から先と右太腿から先が炭化した状態で、驚愕の表情を見せながら、血まみれになって横たわっていた。
「これは一体。 俺は何を如何したんだ!?」
(マスター漸く意識を取り戻したのですね。 心配しました)
(ルゥか、俺に何があったんだ?)
(前回と同じ様に憶えてはいらっしゃらない様ですね。 マスターは人が変わったかのように執拗に逃げ惑う男に対して魔法攻撃を繰り返し・・・・・・)
ルゥから齎された言葉に、俺は取り返しの付かない事をしてしまったと反省する事となった。
俺に暴言を吐いた男も、ほんの少し前までは息があったらしいのだが、出血多量のため死んでしまったと。
そして馬車の操者であった、血塗れの死体に近寄ると、爆撃の余波を受けていたのか靴が脱げ、中から2通の手紙のような物が姿を現した。
一通の手紙には完全に蝋のような物で封がされているようだが、もう片方の手紙は読むことが出来た。
そして其処にはこう書かれていた。『どうか、この手紙をルイベアスの城へ』と・・・・・・。