第134話 ドワーフ一族
ノスフィルド鉱山内で遭遇したドワーフ族と名乗る男の道案内のもと、鉱山内を進むこと十数分。
漸く目的にに到着したようで、ドワーフ男が足を止めた。
「此処がこの鉱山で採掘している最深部だ」
男が俺を奥へと誘うと、其処には4、5人の鉱夫が壁を鶴嘴で掘り進んでいた。
「お~い、連れてきたぞ~~~」
此処まで道案内してくれた男が、鉱山全体に響き渡るような大声で叫ぶと一心不乱に岩壁を掘り進んでいた鉱夫たちが一斉に此方を振り向いた。
「なんじゃゲオル。 ラグダを起こしに行ったのではなかったのか?」
「そうだったんだがラグダの奴、何処にも居なかったんだよ。 日々文句ばかり抜かしておったから逃げたのではなかろうかの?」
「それは不味いのぉ~、錬金する者がいなくては商売あがったりじゃぞ」
「ああ、俺もその事実に落胆していたんだが、此処に戻る途中で出くわした人間が錬金出来るとかで連れてきたんだよ。 聞けば鉄を持って帰らないといけないらしくてな、それならばと連れてきたわけじゃ」
俺を此処に連れてきた男と岩壁を掘っていた男がなにやら暗闇で話をしている。
何時までも、こうしては居られないので思い切って聞いてみる事にした。
「あの~~いまいち事情が分からないんですが、俺は此処で何をすれば良いんですか?」
「おっとそうだったそうだった。 紹介すっから、こっち来てくれねえか?」
そう言われてランタン片手に奥へ行くと、其処には案内してきてくれた男と背格好がそれほど変わらない、髭面の男達が3人と手にヤカンを持った女性が1人立ち此方を見ていた。
その中から地面に触れるか触れないかまでに髭を伸ばした御爺さん(?)が話しかけて来た。
「お前さんには逃げた奴の代わりに、採掘した鉱石を錬金して欲しいんじゃ。 このままでは約束された日までに鉱物を納めることが出来なくなってしまうからのぉ」
「あ、ゲンル爺! 俺が言おうとしていた事を」
「錬金ですか? 3日後には鉄を持って戻らないといけないので、其れまでで良いのなら構いませんが」
「なら、お前さんが持って行く鉱石もわし等が掘り出してやろう。 その代わり、錬金は頼むぞ」
「分かりました」
此れで何処に埋まっているか分からなかった鉱石も探し出す事が出来るし、俺は錬金すれば良いだけで、かなり楽ができたな。
「それにしてもオヌシ、人間にしては変わっておるのぉ」
俺が1人で納得していると、先程のゲンル爺と呼ばれた御爺さんが話しかけて来た。
「わし等が今まで出会ってきた人間は我等ドワーフ族を蔑み、冷たい目で見るのが当たり前だというのに、オヌシからはそのような表情は一切見当たらん」
「そうなんですか? 今までにもエルフや翼人など、数多くの亜人達と過ごしてきましたからね。 慣れてしまっただけですよ。 貴方達を否定するという事は彼等も否定する事に繋がりますからね」
「そうか! そう言ってくれると、嬉しくて涙が出てしまいそうじゃの」
「ゲンル爺、サボるの良くない、仕事する!」
「分かっておるワイ! そう急かすでない」
そう言ってゲンル爺と呼ばれた老人は服の袖で目を擦りながら鶴嘴を手に取り岩壁を掘っていく。
見てみると採掘しているのは俺を此処に連れてきてくれた男とゲンル爺、それに名も知らないドワーフ。
そして1人のドワーフの男がせっせと掘られた鉱石を木の箱に詰めていく。
「あなた、人間族だけど良い人そう。 喉渇いたら言って? お水渡すから」
一連の採掘作業を見ていると、俺を見て挙動不審になっているヤカンを手に持ったドワーフ族の女性が不意に話しかけて来た。
「ありがとう。 今は大丈夫だから、その内お願いするよ」
「・・・・・・うん」
「お~い、こっちに水くれ!」
そうしている間に採掘をしている、名も知らないドワーフの鉱夫から水の催促が来る。
呼ばれたドワーフの女性は怪我でもしているのか、右足を引き摺るようにして男の傍まで歩き、水を渡した後も同じ様に右足を引き摺って戻ってくる。
「足、どうしたんだい? 怪我でもしているのか?」
俺がそう聞くと、女性は衣服の裾を膝まで捲くって数cmほどの傷を見せてくれた。
「ほんの少し前、鉱山で魔物に襲われた。 少し痛いけど、問題ない大丈夫」
「とても大丈夫そうに見えないよ。 血が滲んでるじゃないか」
「大丈夫、ドワーフは人間より皮膚が丈夫。 こんな傷、怪我のうちに入らない」
そう言って歩き出そうとする、女性の一瞬の隙を付いて弱めの回復魔法を傷に施す。
時間がかけられなかったので、ほんの少ししか治療できなかったが、少しはましだろう。
「今、何したの? とても暖かい感じがした」
「早く傷が治るように、御呪いを掛けただけだよ」
「ありがとう」
女性はランタンの熱に照らされたのか頬を真っ赤にして俯いてしまった。
(マスターも罪な人ですね)
(何を言っているんだ? 俺が何かしたか?)
(はぁ~~~)
溜息をつくルゥと頬を染めるドワーフの女性が良く分からなかったが、そのまま作業を作業を見守る事にする。 すると漸く錬金のお呼びがかかる事となった。
「お~い人間、こっち来て錬金してくれ!」
「はい。今行きます」
そのあとはドワーフ達に人外のような魔力量を不審がられないように、調節して錬金していったり、採掘の手伝いをしたりして時間は過ぎていった。
そんなこんなで鉱山に入ってから既に丸1日が経過し、ドワーフの仕事のノルマは達成し、更に俺がグレイアスの待つ、城に持っていく鉄も揃った。
「いや~アンタの御蔭で、何時もより作業が捗った。 ありがとよ」
「いえ、俺も楽に鉄を得ることが出来て、嬉しいですよ」
そのあとも世間話を繰りかえし、来た時と同じ様にゲオルと呼ばれたドワーフ族に鉱山の入口まで案内してもらった。
「それじゃあ、有難うございました」
「良いって良いって。こっちも仕事を手伝ってもらったんだし、此方こそありがとよ」
軽く挨拶をしたあと暗闇の中で別れ、丸1日ぶりに外へと出た。
外に出たと同時に此方を心配そうに見つめている、来た時と同じ2人の門番に声をかけられた。
「あ、あんた大丈夫だったか!? 丸1日も出てこなかったから魔物にでも襲われたんじゃないかと心配していたんだが」
「大丈夫ですよ。 ご心配お掛けいたしました」
「無事なら、それで良い」
採掘現場での丸1日の間に、俺以外の人間から悪い印象しか受けてないと言う話をドワーフから聞いていたので、敢えて口に出さずに鉱山内で魔物に出くわして隠れていたという話にしておいた。
「それでは街に戻ります。 あっと忘れてた。ランタンと鉱山の地図と魔道具です」
「うむ確かに。 目的の物を手に入れたからといって気を抜くなよ? 鉱山と違って見通しは利くが、平原の魔物の危険性は比べ物にならないのだからな」
「分かりました。 有難うございました」
俺は門番に軽く感謝の言葉を述べると来た時と同じ様に街までの道を戻っていった。
余談ながら、来る時と同じ様に数多くの魔物に襲われたのは言うまでもない。