第133話 地底で出会った者
翌朝・・・・・・と言っても、時間的に寝坊して昼近くになってしまったが錬金本試験のため、俺は街の北門から外に出て、ノスフィルド鉱山を目指していた。
グレイアスの話では到着までに半日の道程だと言っていたが、俺の足なら2時間もあれば着くだろう。
まぁ実際には、“あんまり早く到着しても怪しまれるだけ”と判断し、少し早足で此処1時間ほど、荒野のド真ん中を歩いているだけなのだが、俺の運が余程悪いのか、はたまた魔物の生息率が高いのか定かではないが、1時間の間に魔物とのエンカウントが5回とは。
と、こうして思考している傍から6回目の魔物が大きな岩陰から姿を現した。
「グオオオオォォォォォーーーン!!」
その魔物は牛のような胴体に鹿の角を取り付けたような妙にアンバランスな姿をしていた。
(またか・・・・・・いい加減にしてほしいものだな。 食料は今のところ、足りているんだけどな)
(マスターだけだと思いますよ? 魔物を食料呼ばわりするのは)
(だが、見かけとは裏腹に魔物の程よく締まった身体は美味いぞ?)
(全世界共通だと思いますが、魔物の血には毒があるため普通の人間では一口目で即死でしょうね)
ルゥと心の中で会話している間にも魔物は此方に向かって威嚇している。
ただ、俺が其れに関心を示さないだけで五月蠅いだけなのだが。
(まぁいいか。 魔物をのさばらせておくだけでも百害あって一利なしだからな、処分しておこうか)
(何故か、魔物の方が可哀想に思えてきました)
俺はルゥの魔物に同情するような声を無視して剣を振り下ろすと、魔物は左右に両断された。
(これで6頭目と。鉱山に到着するまで、何頭の魔物を始末すればいいのかね~~~)
そして其れから約2時間後、無事に鉱山へと到着する事が出来た。
因みに此処に到着するまでに狩った魔物数はというと、延べ20体にもなる。
俺は溜息をつきながら鉱山内に入ろうとすると、俺の目の前に槍を持った2人の男が姿を現した。
「何者だ? 此処はノスフィルド鉱山、許可無き者は立ち入ることはできない」
「怪しまれたくなければ、此処には近づかない事だ」
「いえ、此処に用があってきました。 入坑許可証は此れです。御確認下さい」
そう言って俺は予め取り出しておいた、職人ギルドで受け取った入坑許可証を男に渡した。
「ふむ。 職人ギルド発行の許可証に間違いないな。 すまなかったな此処最近、不審者の情報が数多く寄せられていてな、警備が厳しいんだ」
「不審者ですか?」
「ああ、俺達の目を盗んでは鉱山に入って鉱石を盗んでいくんだよ。 一昨日も許可した憶えのない男が鉱山の中で魔物に襲われて、見るも無残な状態で死んでいたからな」
門番の片方の男と世間話をしていると、もう1人の男が手に何かを持って姿を現した。
「鉱山の中は入り組んでいる上に真っ暗闇だからな。 此れを持っていけ」
そう言って手渡してきたのはランタンと火種が入った缶状の物、筒状に丸めた紙、それに一つの指輪だった。
「ランタンと火種は分かりますが、他の2つは何ですか?」
「一つは鉱山内の見取り図だ。 と言っても日に日に掘り進められて行くからな、大まかにでしかないが」
「指輪の方は位置確認の魔道具だ。 指輪を身に付けて鉱山に入ると装着者の魔力に反応して地図に現在位置が光点として浮かび上がる仕組みになっている」
「ただ貴重な魔道具だからな。 用が済んだら返してもらうから失くさないでくれよ?」
俺は其れだけを聞くと早速鉱山内へと足を進める。
「あっと、もう一つ。 さっきも言ったが鉱山内には極稀ではあるが、魔物が現れる事がある。地図にも記載されているが、遭遇した場合は無理をせずに避難所に逃げ込めよ」
「分かりましたーーー」
2人の門番に了解の意を込めて手を振ると、今度こそ鉱山の中へと入っていく。
説明にあったとおり、鉱山の中は真っ暗闇で今向いている方向さえ分からなかった。
俺は手渡されたランタンに火を灯すと頭上に掲げ、地図を見ることにする。
すると指に嵌めていた魔道具の指輪がうっすらと光り、その直ぐあとに地図の方に光点が現れた。
(こんな便利な魔道具があるんだな。 原理は分からないが、流石は魔法世界というだけはあるな)
(マスター、魔物の気配探知はお任せ下さい)
(ああ、悪いけど頼む事にするよ)
(了解いたしました。 それと鉱山が崩れる恐れがあるので魔法は使わない方が良いと思います)
(分かった)
俺は持っていた地図を元あったように丸め、ランタン片手に道なりに進んでいく。
鉱山に足を踏み入れてから1時間後、不意にルゥから念話が齎された。
(マスター! 右100mほどの場所に何者かの気配を感じます。注意してください)
(魔物か!?)
(いえ殺気のような感じはしませんが、人とは異なる気配を感じます。 残り50mです。明らかに此方を把握しているようです)
ルゥが言うのは魔物かどうか分からないが、剣を何時でも抜けるように身構えて右方向に視線を這わす。
「おんやぁ~アンタ何モンだぁ~~」
暗闇から姿を現したのは鶴嘴を持った、身長が1mあるかないかのズングリムックリな男だった。
ただ手にはランタンといった照明器具は何一つとして持ってはいない。
「えっと、どちらさまで?」
「其れを聞いてんのはオラだぁ。 格好からして鉱夫には見えねえな、門番の言っていた不審者って奴か」
「い、いえ違いますよ。 此処には入坑許可証を見せて入りました」
「本当か? 嘘は言ってないべな~~」
「本当ですって! 此処には錬金術に本試験のために鉱石に含まれている鉄を取りに来ただけですよ」
「錬金術? アンタ錬金できるのか!?」
「一応それなりには」
「丁度良かった。 アンタとは初対面で申し訳ねえが、頼みがあるんだが構わねえか?」
「先程も言ったように、鉱石を錬金して持って帰らないと行けないので簡単な事なら構いませんよ」
「そうか良いか! ああ、心配しなくても採掘現場まで連れてってやるから心配すんな」
地図で見ても何処にあるか分からなかった、採掘現場に連れてってくれるなら一石二鳥という訳で助かるし、頼みを聞いても良いかな。
「こっちだ付いて来てくれ」
「それは良いんですが、真っ暗闇なのに照明は必要ないんですか?」
「俺っちはドワーフ族だ。 毎日毎日穴倉ン中で仕事してれば照明なんて無くても道は分かるさ」
そう言われ、ドワーフ男の道案内のもと、鉱山の奥深くへと歩いていく事となった。