第132話 錬金術仮免許試験
「知らなぃ・・・・・・いや知ってる天井か」
(マスター、朝です。 起きて下さい)
(ん? ルゥか。おはよう)
(漸く、お目覚めですか。 早く行かないと遅刻になってしまいますよ?)
(なぁ、ルゥ)
(なんでしょう?)
(俺は昨日、どうやって宿屋に帰ってきたんだ?)
(憶えてないんですか? ルナさんが肩を貸してくれて、此処まで連れてきてくれたんですよ?)
(! そうだったのか。迷惑をかけたみたいだな)
(それはそうと、早く行かないと本当に遅刻になりますよ? 既に朝を知らせる鐘は鳴り終わりましたから)
ルゥの言葉を聞いた俺は直ぐに着替えると、道具袋を通じて手元に取り寄せた果物を齧りつつ城へと急いだ。
城へと到着すると、其処には既にルナが笑いながら待っていた。
「ねぼすけ君、目ぇ醒めた?」
「昨日は迷惑をかけて済まなかった。 感謝している」
俺は頭を下げながら、ルナを拝むように両手を合わせて感謝すると。
「ちょっと、やめてよ恥ずかしいな。 私も初日にミコトさんに借りがあるからね、貸し借り無しってことで宜しく!」
「はははっ! そうだな」
俺とルナはその後、此方を見て口元に笑みを浮かべていた衛士に通行証を見せ、教室へと入った。
その数分後にグレイアスは朝の挨拶をしながら、鉱石が木箱一杯に詰め込まれた物を抱きかかえるようにして教壇の上に乗せた。
「おはよう! ミコトは今日は絶好調のようだな。ルナは魔力を回復したか?」
「「大丈夫です! 問題ありません」」
「おお、元気良いな」
グレイアスは此方を見て満足そうに頷くと俺とルナの机の前に10個ずつ、鉱石を積みあげた。
「早速だが、昨日言ったとおり錬金の量、重さをこなして貰う。 うまく行けば、1日早いが、鉱山での実習訓練に移行してもらう事になる。 出来なかった場合は見送りだ」
俺は魔力が規格外だからなんとかなると思うが、問題はルナだ。
昨日は時間ギリギリで1個だけ練成していた。
制限時間はどれ程か知らないが、成功する確率は低いだろう・・・・・・。
「ルナ大丈夫だ。 落ち着いていけ」
「うん。 ありがとう」
「それでは用意は良いな? 制限時間はこれより2時間! では始め」
グレイアスの開始の合図とともに、俺とルナは目の前に積まれた鉱石を手に取り、錬金を施していく。
昨日の感覚を思い出し、鉱石を両手で挟み込むと土属性の魔力を放出し、ただの石と鉄とに区分していく。
俺のほうは見る間に1個、また1個と成功させていくが、ルナの方はやっと最初の1個が錬金し終わったようだ。
この時点で既に開始してから1時間弱が経過している。
「ふむ、ミコトの方は流石というべきか魔力の使い方が上手だな。 対してルナの方は苦戦しているようだが、最初の方に比べて格段と上達しているようだ」
俺は次々と目の前に置かれている鉱石を錬金していった結果、制限時間を1時間残して全ての鉱石を錬金し終えた。
「ミコトは文句なしの合格だな。 まさか1時間も残して全て錬金してしまうとはな」
ルナの方を見てみると脂汗を流しながら、1個1個着実に錬金をしている。
「ルナ頑張れ!」
ルナは疲労のためかウインクで俺の声援に答えると、残り僅かな魔力を搾り出しながら錬金をしていく。
だが、そうしている間にも刻一刻と時間は無くなっていく。
そしてルナが6個目を錬金し終わり、7個目に手を掛けたところでタイムオーバーとなった。
「ふむ、俺が持ってきた鉱石は全部が全部、形、大きさ、量ともに全く同じ様に俺が錬金術で作りあげた鉱石だ。 ミコトとルナには10個ずつの鉱石を用意していた。 10個全てを錬金したミコトは文句なしの合格。 片やルナは6個錬金だが、そのうちの2個は完全に錬金しきれてはいないため、差し引いて4個だな。 初日に比べて、その頑張りは評価してやりたいところだが、これも規則だ悪いな」
ルナは眼が虚ろな状態で辛うじて肘を立てて耐えていたが、グレイアスの『悪いな』という言葉で完全に気力がなくなったようで、力なく机に突っ伏していた。
「・・・・・・くやしい!」
「悔しがる気持ちは痛いほど分かるが、此れが普通だ。 我が土術士隊に措いても錬金の資格を持つ者は隊員100人のうち、数人しかいないほどだからな」
ルナは悔し涙を流しながらも、グレイアスの慰めの言葉で元気を取り戻し、教室を出て行った。
「さて、ミコトは文句なしの合格なんだが、正直驚かされたよ。 まさか本当に合格してしまうとはな」
「どういうことなんですか?」
俺はグレイアスが『こんなこと有り得ない』と頭を押さえている仕草を見て疑問に思っていた。
言葉を聞く限りでは、最初から俺もルナも合格させないようにしていたようにしか見えない。
「いやな、錬金を使用するにあたって、魔力の異常消費を体感してもらおうと思っていたんだが」
予想に反して鉱石全部を練成した挙句、未だ余力を残している俺が信じられないと言ったところか。
「ま、まぁ、難題を叩きつけたとはいえ、合格には違いないからな。 明日からの本試験を説明しようか」
そう言ってグレイアスは俺を伴って城から出ると、街の入口近くにある建物へと誘った。
「此処は街の東、北、南に位置する鉱山と錬金術師を管理している職人ギルドだ。 此処で明日から執り行われる本試験の手続きを行なう。 その前にミコトにはクジを引いてもらおうか」
グレイアスは俺の目の前に3本の棒状の物が入れられた、木で出来たコップのような物を置いた
「最終試験は街から東方にあるイストライル鉱山、北方にあるノスフィルド鉱山、南方に位置するサウシュルド鉱山で執り行う。 3箇所とも、街から半日歩けば辿りつく場所にあり、内部構造も酷似している」
最終試験で何をするのか、予想できてきたかも。
「さてミコト、目の前にあるクジを1本引いてもらおう。 そのクジによって行き先は決定される」
俺は優柔不断という性格が災いしてか、中々決められず思い切って目を瞑り、1本のクジを引き抜いた。
「漸く決まったか。 えっと北か、ノスフィルド鉱山に決まりだな。 ほら此れが入坑許可証だ。鉱山入口に立っている警護の衛士に見せて、鉱山内に入ると良い」
グレイアスは職人ギルドの窓口から『ノスフィルド鉱山入坑許可証』と書かれたシンプルなデザインの木の板を受け取ると、俺に手渡してきた。
「最終試験の期限は5日後の日没をあらわす鐘が鳴るまでに、何時もの城内の教室に鉱山で錬金した鉄を20kg持ってくること。 あと鉱山内には魔物が出現する場合もあるからな、不安ならば職人ギルドの隣にある、冒険者ギルドで護衛を雇うのもいいだろう。 ただし、不正防止策として土術士を護衛として連れて行くことだけは禁止する」
不正防止か。 土術士に錬金を代わってもらうという輩がいるかもしれないのかな。
「これで本試験の説明は以上だ。 何か質問はあるか?」
「いえ、特にありません」
「其れでは今日は休むと良い。 街の人間を守る立場からして夜半時に街の外への外出は勧める事は出来ないからな」
そう言いながら、グレイアスとともに職人ギルドから外に出ると、既に空は夕焼けの赤い色に染まりかけていた。
俺なら暗闇でも平気だが、要らぬ混乱を招かないためにも、グレイアスの提案どおり宿に戻る事にした。