第131話 寝不足での錬金
何時もの様に酒場で大量の肉を平らげたミコトは、膨らんだ御腹を擦りながら部屋へと戻ってきた。
「そろそろ、魔道具が亜空間に落ち着いたかな?」
昨日、ガンツさんの店から購入した空間魔道具を設置してから24時間以上が経過していた。
喜び勇んで周囲に人の気配が無い事を確認すると亜空間扉を出現させ、扉を開く。
すると亜空間倉庫の略中央に置かれている、チェスの駒のような物体は完全に先端まで赤く染まっている。
「これで、この道具袋を介して道具の出し入れが可能になるわけだな? では早速」
俺は亜空間倉庫内に置かれている複数の果物や、とても袋の中に入らないであろう長剣を手に取ると、その場で袋を手に取って次々と入れようとしたが何故か魔道具は反応しなかった。
「何故だ? 魔道具が赤く染まってるという事は適応したという事だろ?」
(マスター、もしかすると同じ空間に居るからではないでしょうか? 亜空間倉庫から外に出て試してみては?)
「ルゥの言う事も最もだな。目の前で見られないことは残念だけど」
改めて魔道具を試してみるべく、亜空間から外に出て扉を閉めたあと再度、魔道具を使用すると・・・・・・先程まで機能しなかった魔道具に次々と果物を入れることが出来た。
恐る恐る剣を入れてみると、深さが20cm程しかない道具袋に1m以上もある長剣が既に柄まで入ってしまっていた。
再度、亜空間倉庫を開き、どのように果物や長剣が置かれているか確認したところ、果物は他の果物類と一緒に、長剣は取り出した場所に寸分違わぬ状態で置かれていた。
「これは中央に置かれている魔道具が道具や武器防具、食料などを判別して置き場所を決めているのか?」
もう一つの事を確かめるべく扉を閉め、魔道具に手を入れて果物を取り出そうと頭で思い浮かべると手に何かを掴んでいる感触が伝わってきた。
もしや? と思い、手を道具袋から引き抜くと其処には紛れも無く果物が握られていた。
「そ、それじゃあ、次は長剣・・・・・・」
そう考えながら手を道具袋に入れると先程の果物とは違う、ズッシリとした感触が手に伝わってくる。
ゆっくりと手を引き抜くと其処には先程の長剣が。
「本当にガンツさんじゃないけど、どういう原理になっているんだか?」
こうして亜空間倉庫と繋がる、四次元道具袋を手に入れた俺は再び興奮して、今夜も眠れはしなかった。
2日連続で眠らなかった俺は今日も一睡もせずに、錬金講習のため城へと向かう。
今日はルナも待ちに待った、実際に錬金を試す日だ。
普通の人間なら睡眠不足でヤバイ展開なんだろうが、俺の場合は特に問題はない・・・・・・と思う。
「ミコトさん、おはようございます。 また徹夜したんですか?」
「ああ、おはようルナ。 錬金が出来ると思ったら興奮して眠れなくてね。フワアァァァーーー!」
「大きな欠伸ですねぇ~~ミコトさん、前から言おうと思ってたんですが、まるで子供みたいですよ?」
「大丈夫大丈夫。 今日さえ乗り切れば、思いっきり眠るつもりだから・・・・・・ZZZzzzz」
「って此処で寝ないで下さいよ!」
その後、立ったまま寝るという器用な真似をした俺はルナに叩き起こされ、教室へと向かった。
「ようし! 今日は鉱石を使って錬金を実際に行なうぞ。ってミコトはなんだか眠たそうだな、大丈夫か?」
グライアスは初日に錬金して見せた鉱石を木箱に大量に積んで教室の隅に置き、此方を心配そうに見つめている。
「らいりょうぶれす」
「何処をどう贔屓目で見ても、全然大丈夫そうには見えないんだが?」
「なんでも、今日の授業が楽しみで寝れなかったそうですよ」
「子供かっ!?」
ルナとグライアスと両方から子ども扱いされた俺は、最後(?)の力を振り絞り魔力を整えると一瞬で鉱石を錬金して見せた。
筈だったのだが、鉱石を完全に砂鉄のような粉末状にしてしまった。
「まだ寝ぼけ眼のようだな。 シャキっとしろ、シャキっと!」
(マスター、本当に大丈夫ですか?)
(今度こそ・・・・・・フワァァァァァ~~~)
俺は欠伸を手で押さえながら、粉末状になってしまった鉱石に手を翳すが。
(待ってください! 魔力が多すぎます。クラス5まで押さえてください)
ルゥの声とグレイアスからの容赦の無い拳骨で完全に覚醒した俺は、砂鉄を錬金することに成功した。
「ふむ合格。 まさか、これほどアッサリと成功させてしまうとはな」
「ミコトさん、凄いです!」
「ルナは本番に弱い方か? 魔力の放出がブレているぞ?」
「すいません、落ち着こうとは思っているんですが」
それから2時間後、授業時間タイムリミット間近になって漸く、ルナも錬金を成功させた。
が、魔力切れを起こしたのか、初日のように机に突っ伏していた。
「ルナもなんとか合格だな。 明日からは本格的に錬金の数をこなして貰うから、そのつもりで居ろよ? ミコトは睡眠を、ルナは精神統一でもして魔力の回復をするように! 今日は以上だ、解散」
「ギリギリでしたが、合格しました」
「・・・・・・ZZZzzzzz」
「ミコト、寝るなら帰ってからにしろ!」
その後、宿屋に戻った記憶が無いまま、ベッドで眼を醒ました。