第13話 白銀の剣
只管に武器を選び始めて数十分が経過した頃、武器防具屋にエミリアが現れた。
「あっミコト~久しぶりね。元気だった?」
「おぅ嬢ちゃん、仕事サボって兄ちゃんに会いにきたのか?」
「人聞きの悪いこと言わないでよ!今日は私の休日よ。ギルドに寄ってローラと話してたら、ミコトが剣を折ったって聞いたから此処だろうと思って来て見たら案の定だったわ。」
「折れたじゃなくて砕けたんだけどね。」
「お?そういや兄ちゃん、何か聞きたいことがあるって言ってたな。何が聞きたいんだ?」
「その事の方が重要だった。なぁハイドさん、ドラゴンの鱗で作られた剣って手に入らないかな?」
「ドラゴンの鱗か。いくら何でも簡単には手に入らねえな。俺もここ数年は見たことが無えし。」
「ねぇハイドさん、商業都市のガルデアなら手に入るんじゃない?」
「いや、あの街も最近はキナ臭い噂で持ちきりだしな。極力、近づかない方が身のためだ。」
商業都市ガルデア?商業って名が付くくらいだから品物には期待できるかな?
「その商業都市ってどんな場所なんだ?」
「商業都市ガルデアはこの国の領土ギリギリに位置する街で内外から数多くの品物が集まる、言うならば巨大な市場のような場所ね。」
さすがに地図無しでは辿りつくのは不可能に近いな・・・ガルデア行きの護衛依頼がギルドに張り出されるのを待つか。
「兄ちゃん、言うのを忘れていたが竜の鱗で作られた武器は滅多に手に入らない事から洒落にならない値段がついていることが多いんだ。ただ・・・ガルデアに行っても売っているかどうかは不明だがな。」
「一番安い剣で銀貨何枚か分かりますか?」
「銀貨?とんでもない、最低でも金貨1枚は必要になるぞ!」
金貨1枚といえば銀貨100枚と同等だったな・・・俺の所持金は銀行に預けてある金と合わせても銀貨90数枚がやっとだ。
「鱗で作られた装備品が強力だって事からドラゴンの保護が各国で始まったわけでもあるんだがな。」
手に入れたいのは山々だが、剣一本に最低でも金貨1枚というのは流石に勿体無いな・・・。
「探すのが難しいですし、手に入れるのは見送ります。」
「それがいい。兄ちゃんほどの腕なら、普通の剣でも十分すぎるほど強いだろうしな。」
「と言う事で強力な剣を一本見繕ってくれませんか?」
「う~ん・・・俺の店に今ある剣の中で一番強力な物か難しいな。」
レイドンと話しながら店内を隈なく見回していると一本だけやたらと目を引く銀色の剣に目が留まった
『この剣は一体・・・どうしてこんなに引き寄せられるんだろう?』
何故か他の剣には興味が持てず、無性にこの剣が欲しくなった。
「ハイドさん! この剣幾らですか?」
「兄ちゃん相手だから安くしてやりてえんだが、俺の生活もあるからな。銀貨30枚でどうだ?」
「銀貨30!? ちょっとハイドさん!ボッタクリじゃないの!?」
「嬢ちゃん、人聞きの悪いこと言わないでくれよ。」
ハイドさんとエミリアは何故か俺の事で言い争いをしているが俺は銀貨30枚を手にして買おうか買うまいか只管に悩み続けていた。
『ああーーー!どうしようかな。ハイドさんが言ったとおり、この店一番である事には剣の雰囲気で間違いないんだろうけど・・・通常の剣の約10倍の値段だもんな。』
極度の優柔不断である俺が考えること十数分、結果導き出された答えは他の冒険者に買われる位なら思い切って購入しようというものだった。
「決めましたハイドさん!その剣、買います!!」
「ちょっとちょっと良いの!?銀貨30枚だよ!?」
「おい嬢ちゃん、商売の邪魔はしないでくれよ。兄ちゃん、再度確認するが本当に買うんだよな?」
「はい。」
そう言って俺はハイドさんに銀貨30枚を手渡した。
「ようし商談成立だ!はいよ、剣を受け取りな。」
俺は剣を受け取るとすぐ腰に装備した。
「ちょっとハイドさん、あの剣何処から盗んできたのよ?」
「嬢ちゃん・・・嫌な事でもあったのか?さっきから酷え毒舌振りじゃねえか。まあいい、この剣は今から約5年前だったかな俺の店に来た貴族が『我が家に代々伝わる剣を買い取って欲しい』って言って来てな『それほど大事な剣なら売らねえ方が良いんじゃないですか?』と一応断ったんだが、どうしても纏まった金が必要だとかで、他の剣や鎧など一式を持ち込んできたんだよ。」
「よく5年も売れ残ってたわね。」
「この剣が持ち主を選んでいるのか、今までに購入した冒険者が悉く怪我を負っているとかで怖くなって直ぐに手放してしまうんだよ。」
「その剣って呪われてるんじゃないの!?」
「俺もそう思って調べてもらったんだが異常は見当たらなかったんだ。それどころか、寧ろ神聖な響きのある剣だと鑑定されたんだ。」
持ち主が不幸になる剣か・・・俺は怪我をしても直ぐに回復するから関係はないけどな。
そう思いながら俺は買ったばかりの剣の柄を握り締めた時、不思議な声が何処からともなく聞こえてきた。
(やっと逢えたね。待ってたよ・・・)
「誰だ!!」
「どうしたのミコト?突然大声だして。」
「今、誰か俺に話しかけなかったか?」
「私はハイドさんに夢中になってたから気づかなかったな。ハイドさんは何か聞こえた?」
「俺も何にも聞こえなかったが、空耳じゃねえのか?此処には俺達以外、誰も居ねえぜ?」
そうだよなぁ~この店の中には俺とエミリアとハイドさんの3人以外誰も客は居ないし、街の通りには沢山の人が歩いているものの話し声は何一つ聞き取れはしなかった。
「ミコト疲れてるんじゃないの?今日は早めに宿で休んだら?」
「それがいい、冒険者にとって疲れは禁物だぞ!おとなしく休んでいろ!」
やっぱり疲れてるのかな・・・幻聴が聞こえる事自体が異状だもんな。
「それじゃあ宿屋に戻る事にするよ。この剣、あり難く使わせてもらうよ。」
まだ空は明るいが、俺はハイドさんとエミリアに手を振り宿屋への道をゆっくりと歩いていった。