第129話 漫画のような魔道具
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これからも『異世界を渡りし者』を宜しくお願い致します。
錬金術を俺達の目の前で実践して見せた、グレイアスの言葉で教室の・・・・・・いやルナの緊張は解かれた。
「それでは最初は錬金に必要な魔力を掌の上で一定時間、保ち続けるところから始めてみようか」
ルナは魔力の維持が苦手なのか見るからに顔の表情がグレイアスと出会った時から一転した。
「そんな嫌そうな顔をしても、此ればかりは避けて通れないぞ? ほらほら、机の上に掌を上にして土術魔力を籠めてみろ」
俺も攻撃時以外に魔法を使用するのは初めてだったが、言われたとおりに魔力を掌に集めると。
「待て待て待て待て! ミコトの魔力は大きすぎるな、せめて10分の1くらいまで押さえてくれ。そのままでは城全体が錬金されてしまうぞ?」
「ミコトさん凄い」
俺も心なしか緊張していたのか、思っていたよりも魔力を出しすぎてしまったようだ
(マスター? 無意識かと思いますが、クラス40近くの魔力が漏れ出していましたよ?)
(クラス40!? いつの間にそんな事に)
(気の緩みがそのまま、魔力の栓が緩む結果になってしまったんじゃないでしょうか)
気を取り直してクラス5まで魔力を抑え、掌から放出させる事にした。
「うん。 まぁ、其れぐらいの魔力で妥当かな?」
見ると、ルナも額から汗を噴出しながらも掌から魔力を放出している。
「よしよし、そのままで最低でも3分は維持すること。 慣れれば気にならなくなるからな」
そしてそのまま1分、2分と経過して行き、2分40秒といったところでルナの魔力がユラユラと風で火が揺れるかのように不安定になりだした。
「ルナ、残り20秒だ、頑張れ!」
「そ、そうは言っても・・・・・・も、もう限界」
「残り10秒だ。 5、4、3、2、1、ゼ」
グライアスが、0のゼの言葉を口にした瞬間、ルナの掌から魔力の波動は消え、ルナ本人は白目を向いて机に突っ伏した状態となった。
俺は余裕でクリアしていたが・・・・・・。
「惜しいな、もう少しだったんだが」
「ルナ、大丈夫か?」
「な、なんとか。 もう少しだったんだけどな」
「一応念のために言っておくと、予選でも何人か魔道具を使用していたようだが、道具で魔力を底上げしたとしても潜在魔力には何の効果もないからな? 魔力の放出が出来ない限り、錬金を習得する事は不可能だと思ってくれ。 それでは今日の授業は此れまで!また明日、来てくれ」
講師のグライアスは、そう言って教室の扉に手を掛けたが、何かを忘れたのかポケットに手を突っ込みながら戻ってきた。
「いかんいかん、忘れていた。 次からは此れを門番に見せると良い」
そう言って木製の札のような物を未だ机に突っ伏しているルナの鼻先に置き、俺にも手渡してきた。
「此れはいわば俺の講習を受けているという証のような物だ。 朝の開門の時に衛士に見せれば、この教室へと案内してくれる。 一応言っておくが怪しい行動はしないようにな?」
『それじゃ!』と今度こそ手を振りながら会場を後にしていくグライアスだった。
「ルナ大丈夫か? 家まで手を貸そうか?」
「いや大丈夫。 また面倒な事になるし遠慮しておくわ」
「面倒な事?」
「うん、昨日家まで送ってもらったでしょ? あの時に父さんから『一緒に居た男は誰だ!?』とか母さんからも『孫の誕生は何時?』とか五月蠅かったんだから」
まぁ女の子の親からしてみれば、問題かもしれないが大袈裟な。
「幾ら『違う!そんなんじゃない』と言っても聞いてくれないし、やっと誤解を取り除けたのは深夜だったのよ!? 其れなのに2日続けて送ってもらったら今度こそ本気にしちゃうわ」
「それはまぁ・・・・・・御愁傷様です」
「言葉の意味は分からないけど、妙に悔しい気分になるのは何故?」
その後、教室で談話しルナの体力(魔力)が戻ったところで解散となった。
俺はというと宿屋には戻らずに、ガンツさんにお礼を言うために魔道具屋へと向かった。
魔道具屋に足を踏み入れると、丁度お客との交渉中だったようで店の奥からガンツさんの怒声と客であろう女性の声が響きわたってきた。
「アンタもわからねえな。 この魔道具は既に使用されたモンだ! 買い取る事はできねえよ」
「其処を何とかできませんか? 纏まったお金が必要なんです」
「出来ねえモンは出来ないんだよ!」
「・・・・・・分かりました。 他の店に行ってみます」
「何処でも同じ結果だと思うぜ?」
そう言って女性は両腕で胸の前に袋を抱き込むようにしてトボトボと歩いていく。
元気なく店から遠ざかっていく女性を溜息をつきながら見ていたガンツさんは店先で女性の後姿を見ている俺の姿に気がついた。
「おぅ、あんときの坊主じゃねえか。今日はどうした?」
「坊主って・・・・・・無事に錬金講習を受けれるようになったので、御礼を言いに伺ったのですが、何か取り込み中のようだったので」
「ああ、礼なんて言わないでくれ! ケツがむず痒くなっちまう」
先程の事が気になったので不躾かと思ったが聞いてみる事にした。
「先程の女性は?」
「『ある魔道具を買い取ってくれ』って言ってきたんだが、坊主が持ってきた普通の魔力増強や属性防御の魔道具ならまだしも、あれは特別でな。 一度使った物は買い取れねえんだよ」
「どういう物なんですか?」
俺がそう聞くとガンツさんは『ちょっと待ってくれ』と言って棚の中に手を突っ込んでいる。
「え~~っと、確かこの辺にあった筈だが・・・・・・っとあったあった。 此れが新品の状態だ」
ガンツさんが手に持っているのは何の変哲もない道具袋とチェスで言う、兵士の駒を少し大きくした、先端の丸い部分が青く輝いている魔道具だった。
「これは『魔袋』と呼ばれる高価な魔道具でな。 理屈は俺にも分からないんだが、この道具を袋から取り出して倉庫などに置いておくと、この道具袋で生き物以外ならどんな物でも出し入れが可能になるという代物だ」
ガンツさんは駒にかけられている、透明な袋を破かないように注意しながら俺に説明してくる。
「便利な物ですね。 どう使うんですか?」
「この道具を袋から取り出し、その場所に置いておくだけで良い。 丸1日が経過すれば先端部が青から赤に色が変わるから、そうすれば設置完了だ」
そういえば女性が持っていたのは先端部が赤かったような。
「さっき中古は買い取れないと言ったのは、一度でも使用してしまうと自動で道具が認識した場所に送られてしまうからなんだ」
それでか、自分の道具やお金が他人の物になってしまうものな。
「この魔道具は幾らなんですか?」
「買うなら金貨5枚だが、先程も言ったが此れは高価な魔道具な上に言うなれば、使い捨ての物で要らなくなったからといって売ることも出来ないんだが、其れでも買うか?」
金貨5枚・・・・・・日本円にして50万円か。
少し高いけど、人前で亜空間倉庫を使えないときに役立つな。
かなり迷ったが便利な物ということで首を縦に振り、買うことを肯定した。
「商談成立だ! もう後戻りは出来ねえぜ」
俺は腰の道具袋から金貨を5枚取り出すとガンツさんに手渡し、貴重な魔道具を手に入れた。
「丸1日経過するまでは使えねえから、其れだけは注意しろよ!」
早速、宿屋の部屋で試す為に急いで帰ることにした。
途中、急ぎすぎて足を縺れさせながら・・・・・・。