第128話 初めての錬金
翌朝、目が醒めた俺は亜空間倉庫に保存してある果物で軽く朝食を済ませると、錬金講習を楽しみに、昨日訪れた城へと足を勧めると其処にはクラスメイトになる女性が既に待っていた。
「おはよう。 早いね」
「あ、おはようございます。 昨日はありがとうございました!」
「身体は大丈夫だった?」
「疲れのためか、グッスリと休んだら回復しました♪」
他愛も無い話を延々と繰り返していると時間になったのか、重厚な扉の横にある人一人通れる小さな扉がゆっくりと開かれた。
「ん? 君達は? 城に何か用かい」
扉が開ききると同時に、衛士が欠伸を噛み殺しながら覚束ない足取りで姿を現し、此方に問いかけてきた。
「今日から錬金講習で此処に通う事となったミコトといいます」
「私はルナです。 よろしくお願いします」
「ああ、君達がグレイアス様が仰られていた・・・・・・って幾らなんでも早く無いかい? 講習開始時間は鐘が鳴ったあとだよ?」
『鐘』とは何の事を言っているのだろう? と思っていると、俺の横に居たルナが逸早く答えた。
「すいません。 居ても立っても居られずに早く来てしまいました」
ルナの言葉を笑いながら聞いていた衛士が身だしなみを整えるのと、ほぼ同時に鐘の音が響き渡った。
「此れより開門する!」
衛士の言葉とともに分厚い鉄の扉が鈍い音を放ちながらゆっくりと左右に開いてゆく。
(マスター、どうやら昨夜に聞いた鐘の音と先程聞えた鐘の音は朝の開門と夜の閉門を知らせるための物だったようですね)
(なるほど、時計代わりという訳か)
「ミコトさん? 難しい顔をして、どうかなさったんですか?」
「い、いや、これからの授業について行けるかどうか心配だったんだよ」
言い訳としては少し無理矢理だったかな? と思っていると・・・・・・。
「心配なさらなくても、ミコトさんほどの魔力量があれば余裕ですよ。 寧ろ私の方が心配です」
昨日のことを思い浮かべているのか、先程の元気な表情とは打って変わってルナは落ち込んだ表情を醸し出していた。
「俺が言う台詞じゃないけど、物事を最初から諦めてたら何も出来ないよ。 頑張ればきっと出来るさ」
「その通りだ!」
俺とルナとの会話に割り込むようにして、昨日の会場で腕を組んで立っていた衛士が城門から姿を現した。
「何事を為すにしても最初から諦めていては出来る事も出来なくなる! 最後の一瞬まで諦める事が無ければ、きっと達成できる。自分を信じろ!」
行き成り登場した、茶髪を短めに整えた衛士に俺は目が点となり、ルナは緊張した表情となり、先程まで会話していた眠たそうな衛士は直立不動で敬礼をしていた。
「あの貴方は?」
「え!? ミコトさん、この方を知らないんですか?」
「あ、ああ、別の街から旅をして来たからね。 そんなに有名な人なのかい?」
「あのですね~~~」
ルナは額に手を当てて溜息をついたあと、怒ったような表情で俺に説明しようとすると。
「はっはっは! 国外の者なら仕方ない。 俺は土術士隊隊長グレイアスだ、そして今日から君達2人に錬金を教える講師でもある。 宜しくな」
「は、はい! よろしくお願いします」
ルナは背筋をピンッと立てて、何回も何回も御辞儀を繰り返している。
(まるで街でアイドルにでも遭遇した一ファンのようだな)
「ミ・コ・ト・さ・ん? 何か失礼な事を考えませんでしたか?」
「・・・・・・気のせいだよ」
「間が気になりますが、まぁいいです」
「クックック、賑やかな奴だな。 こうしていても始まらん、講習会場に案内する。着いてきてくれ」
「は、はい!」
「分かりました」
それからグレイアス案内の元、城内を歩くこと数分後、会議場のような場所に到着した。
「さて、改めて自己紹介と行こうか。 俺の名はグライアス、其方のお嬢さんが先程言っていた通り、土術士隊の隊長を務めている。 そして今日から10日間錬金の講師を務める。よろしく頼む」
「此方こそよろしくお願いします」
ルナは興奮した表情で目をキラキラさせてグライアスを見つめている。
「それでは此れからの10日間の事を説明する。 君達には此れから6日間の講習の後、ある試験を合格した者が4日間の鉱山での採掘実習、及び錬金実習を執り行ってもらう。 実習の内容は不正予防のため、今はまだ言えないが」
「質問しても良いですか?」
「えっと、ミコトだったな。 なんだ?」
「その鉱山についてですが、魔物などの心配はどうなるのでしょうか? また、誰か護衛をつけても良いのでしょうか?」
「いい質問だ。 実習本番を迎える日にも言うつもりだが、鉱山内には魔物の襲撃及び鉱山の崩落などの危険性が伴う」
『魔物』という単語を耳にした瞬間、ルナの顔が緊張もしくは恐怖のため歪む。
「当日には職人ギルドで入坑許可を得ると同時に、必要であれば冒険者ギルドで護衛を雇っても構わない。 ただし、護衛費用については当人の負担とする」
「分かりました」
「質問は以上か? 他になければ第1日目の授業を開始する」
「「はい」」
「まず始めに錬金とは如何いうものか見本を見せておく」
そう言ってグライアスが部屋の片隅に置いてあった木箱から取り出したのは、何の変哲もない岩の塊のような物だった。
所々に黒い何かが点々と沁みのように岩に付着しているが。
「此れは街の近くの鉱山で掘られた鉄鉱石だ。 今はまだこのような状態なので、どれだけの鉱物がこの岩の中に含まれているか分からないが、これに錬金をすることによって」
グレイアスがそう口にした後、両手の掌から土気色の光が岩全体を包み込んだと思った次の瞬間、左手に今にも崩れそうな石の塊が、右手には黒光りする金属の塊が載せられていた。
ルナも俺も初めて目の前で見せられる錬金術に興奮を抑え切れなかった。
「これが『錬金』だ」
グレイアスが左手に持つ岩の塊を教壇の上に置いた途端、崩れるようにサラサラと砂が隙間から零れ落ちてゆく。
「最初から此処まで出来るとは思わないで欲しい。 まぁ、此れを教えていくんだがな」
こうして10日間の錬金講座の最初の授業が始まった。