第126話 酒場にて
漸く、この世界での金銭単位が完成したので早速本文の中で説明する事にしました。
少々説明文みたいな内容になっておりますが、ご了承願います。
ガンツさんの御蔭で『錬金』を習う事が出来るようになった俺は、街の人達に宿屋の場所を聞き、今いる城のちょうど裏手に位置する宿屋に行き着くことができた。
「いらっしゃいませ」
宿屋の扉を開くと、まるで待ち構えていたかのように少女が応対してくれた。
「あの~~御客様?」
「あ、ああゴメン。 1泊幾らなのかな?」
「えっと、少し待っててくださいね」
少女は天井を仰ぐような素振りを見せたあと、宿屋のカウンター内にある扉の中へと急ぎ足で入っていくと、数秒後に少女に連れられて妙齢の女性が姿を現した。
「まぁまぁ御客様ですか。 シャクライ亭へようこそいらっしゃいました」
「ええと1泊幾らなんでしょうか?」
「はい。 1泊あたり青銅貨5枚となっていまして食事は別料金となっていますが宜しいでしょうか?」
「食事は何処ですれば良いんですか?」
「隣で主人が酒場を経営していますので其方でお願いいたします。 それで如何なさいますか?」
「じゃあお願いします」
「分かりました。 ではどれだけの期間を御予定なされていますか?」
妙齢の女性が俺に期間を聞きながら少女に何かの合図を出している。
少女は其れに頷くとカウンター内の戸棚から『2』と書かれた鍵を持ってきた。
「城で講習を予定しているので、少なくても10日間は滞在すると思いますが構いませんか?」
「其れですと銀貨5枚となりますが、宜しいですか?」
まだ通貨が良く分からないが、手元には金貨もあるので大丈夫だと判断した。
「はい」
「分かりました。 それでは宿代は1日毎に頂きますので、よろしくお願いします」
「はい。鍵をどうぞ」
「ん、有難う」
少女が差し出してきた鍵を受け取ると妙齢女性の案内のもと、階段をあがりドアに大きく『2』と書かれた部屋へと辿りついた。
「此方がお部屋となります」
部屋の扉を開けた女性はハッとなり俺に対して頭を下げている。
「申し遅れました、私はこの宿屋を経営しているロディアと申します。 そしてこっちは娘のシンシアと言います。 ほらご挨拶して」
女性に隠れるようにして立っていた少女が、もじもじしながら俺の前に立ち丁寧に御辞儀しだした。
「私はシンシアと言います。 よろしくお願いします」
そう言って女性と少女は再度大きく御辞儀をして階段を下りていった。
俺は受け取った鍵をポケットに入れ既に鍵を開かれている扉を開き室内に足を踏み入れた。
其処は決して広いとはいえないが、生活に必要な机と2基の椅子、そして堅めのベッド、木の桶が2個置かれているのは洗面所だろうか。 そのうちの1個には並々と水が入っている。
(此処の宿屋が食事なしの素泊まりホテルだと例えるなら宿代は大体4~5000円、青銅貨1枚辺りが1000円相当と考えるのが妥当か。 ロディアさんに10日宿泊する旨を伝えた時、銀貨5枚と言っていた事から銀貨は1万円か)
(魔道具店の方も『金貨では使い辛いだろうから、銀貨10枚と交換するとも仰っていましたし、マスターの言葉をお借りするなら、10まんえん位となりますか)
(そうだな。 纏めると青銅貨が1千円、銀貨が1万円、金貨が10万円って所か。 ってあれ? まてよ、そう考えると魔道具店で最初の提示額は青銅貨7枚だから日本円にすると僅か7000円って事になるな)
(ガンツさんが来てくれなければ大損をするとこでしたね)
(まったくだ)
この世界での金銭の価値についてルゥと話していると不意に室内に轟音が鳴り響いた。
『グゥ~~~~~』
(な、何の音ですか!?)
(すまん、俺の腹の虫だ。 飯でも食いに行くか)
(はぁ。 マスターは本来は食べる必要なんてないのに困ったものですね)
(そうは言うが、人の3大欲求のうち、睡眠欲は我慢出来ても食欲は我慢できなくてな)
(マスターは人では無いでしょうに。ってあれ? 3大欲求って仰っていましたよね、もう一つの欲求はなんですか?)
(・・・・・・聞かないでくれ)
(? 分かりました)
顔が赤くなるのをなんとか誤魔化しながら、宿屋から出て隣にあるという酒場へと向かって歩く。
ロディルさんのいうとおり、宿屋の真後ろにひっそりと佇む酒場に足を踏み入れると、酒場という雰囲気に似合わない数人の客が静かに食事を楽しんでいた。
「おっ、らっしゃい。 この街ではあまり見ない顔だね、うちの料理は安くて美味い物ばかりだよ。どれにする?」
そう言われて御品書きを見てみるが『ルンゲ半身焼き』だの『ログドスープ』など聞いたことも無いメニューが書かれていて、何がなんだかサッパリ分からなかった。
言葉の使い方から考えてゲテモノ料理が出てきそうで少し心配になるんだが・・・・・・。
「決まったかい?」
如何答えれば良いか迷ったが、隣で俺と同じぐらいの背格好をした男が食べている肉料理が美味そうに見えたので其れを頼む事にした。
「じゃあ、隣の方が食べているものを4人前でお願いします」
俺がそう言った瞬間、隣のテーブルで必死に肉と格闘している男性も手を止め、むせ返りながら驚愕の表情で此方を見ている。
「ルンゲの半身焼きを4人前!? 大丈夫なのかい? 1人前でも凄い量だよ」
なんだ、此れがルンゲだったのか。
見た目は普通の肉料理ってとこだな。
「ご心配しなくても、お金ならありますから、お願いします」
「そういう問題じゃないんだけど・・・・・・少し時間が掛かるけど良いかい?」
「分かりました」
そして待つこと十数分後。 店員の苦しそうな息づかいとともに山のような料理が運ばれてきた。
「お、お待たせしました! ご注文のルンゲ半身焼き4人前です」
そう言って店員が2人がかりで持ってきた物はというと、巨大な木の皿に美味そうな匂いと熱々の湯気が立ち込めている、子豚のような動物が2頭盛り付けられている料理だった。
ルンゲの半身焼きが4人前だから、事実上、丸焼きが2頭と言う事になるか。
隣で食べていた男も、離れた席で酒(のような物?)を飲んでいる女性も手を止め、此方を凝視している。
「やっと来た! それじゃ頂きます」
そっと手を合わせ、自分の体格よりも一回りほど大きな肉の塊を手掴みで次々と口へと運んでいく。
『バリバリ、ムシャムシャ、ガリガリ、ゴリゴリ、グチャグチャ・・・・・・』
瞬く間に肉の塊はただの白い骨と化していき、傍から見れば流れ作業かの如く、料理の山が消えていく。
そして僅か数分後には、皿に山のように積まれていた肉の塊は、綺麗に肉を削ぎとられたかのような骨だけとなり、乱雑に皿に積まれていた。
「ふ~~食った食った。 まだ食べ足りない気もするが、腹八分目にしとくか」
俺がこう言うと、何故か静まり返っていた酒場内は虎の子を突付いたような騒ぎとなった。
「あ、あの量で八分目!?」
「それじゃ腹一杯まで食べると、どれくらいの量になるんだ?」
「いや、それ以前にあれだけの質量が、あの身体の何処に入ったんだ!?」
此方を噂している他の客達は俺に聞えないように小声で話しているようだが、嫌になるほどの高性能な耳を持つ所為で、丸聞えの状態だった。
流石に居心地が悪くなり、足早に勘定をすまし宿屋に帰る事にした。
「すいませ~ん。 御勘定おねがいします」
「は、はい只今。 えっとルンゲの半身焼きが4人前ですので、1人前辺り青銅貨1枚と黄銅貨5枚ですので、しめて青銅貨6枚となります」
黄銅貨? 青銅貨、銀貨、金貨の他にもあるのか。
4人前で青銅貨6枚、大体6000円と計算して1人前は1500円だから黄銅貨は100円ぐらいという事か。
あれだけの量でこの値段なら安いな。 この街に居る間は此処で飯を食うことにしよう。
「じゃあ此れで」
そう言って銀貨を1枚、店主に手渡すと。
「それではお釣りの青銅貨4枚です」
俺が酒場の外に出るまでの間、骨が積み上げられた皿と俺とを交互に見る客があとを絶たなかった。
酒場を出ると何処からとも無く、綺麗な鐘の音が一つ、街中に響き渡っていく。
「この鐘の音はなんだ? 何かの合図なのか?」
余談だが、俺の隣でルンゲの半身焼き1人前を食べていた男は食べ切れなくて店主に怒られているようだった。
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