第124話 とある店員の野望
色々と寄り道を繰り返しながら、漸く商店街と思われる場所に辿り着くと其処には何処まで店が続くのかと思わんばかりの商店が所狭しと並んでいた。
中央に人が通る道があり、左右には向かい合わせになるように様々な物を売る露天が並んでいる。
沢山の野菜(の様なもの?)を売っている店や見たことも無い、歪な形の果物、異様な雰囲気を醸し出している魔女といわんばかりの老婆が売る怪しげな薬などなど。
此処を歩くだけでも楽しげな雰囲気なのだが、本命は魔道具の店なので日が暮れる前に探さねばならなかった。
この世界のお金は持ってないので、美味しそうな果物を見つけても見ない振りをして魔道具を扱う商店を探していると店先に水晶や何かの飾りが付いた腕輪や指輪などが置かれている店を発見した。
(おっ? あれが魔道具の店かな?)
(マスター、通貨のことを如何説明するおつもりですか?)
(今までと同じ様に『何処か遠くの街から旅してきた』で良いんじゃないか?)
(う~ん、何か嫌な予感がするんですが)
(気にしすぎだよ行くぞ)
ルゥが言う『嫌な予感』というのを若干気にしながらも、魔道具店と思われる商店に入って行った。
「いらっしゃいませ! ありとあらゆる魔具を取り揃えていますよ。何をお探しでしょうか?」
如何みても頼りなさそうな若い店員が店の奥から姿を現した。
「ええと、此処は買い取りはしていますか?」
「勿論行なっていますよ。 ただ査定にお時間が掛かる場合がありますが、宜しいでしょうか?」
「はい大丈夫です。 じゃあ此れをお願いします」
「お預かりいたします。おや? 此れは見たことの無い魔道具ですね。何の効果がある物なんですか?」
違う世界の物を此処で売ることが問題にならないかと思いながら説明する事にした。
「赤い宝石のような物が付いている腕輪は魔力増幅効果の魔道具でこっちの指輪は身代わりの指輪といって装備者の命を一度だけ助けてくれる物です。 あとは・・・・・・」
この魔道具を買った店の主人が話してくれた内容と同じ事を喋っていたのだが、商店の主は何時しか此方を疑っているような目で見だしていた。
「どうかしましたか?」
「いえ、それほど貴重な魔道具を売られるわけは何だろうと思いまして」
「え? ああ、こっちの国の通貨を持っていないので手持ちの道具を売って金にしようかと思ってね」
「そうでしたか。 これから査定を始めますので、暫しお待ち頂けますか?」
「分かりました」
「それでは」
店主はそう言って魔道具を手に店の奥へと消えていく。
俺は店主の帰りを待ちながら、店先にある見たことの無い魔道具を手に取って眺めている頃、店主が入って行った店の奥では・・・・・・。
「『こっちの国』って言っていたな。 という事は別の国からの此方の様子を伺うために送り込まれた男と考えて良いのかも知れんな。 だとすれば、其れを発見した俺は貴重な魔道具の入手と、国からの報奨金とで一石二鳥の儲けという訳だな。 おい誰か! 衛士を呼んできてくれ、なるべく静かに急いでな」
(やっぱり、そういうわけでしたか。 主様の勘は当たっていたようですわね。 こうしてはおられません、報告しなければ)
俺の顔色を疑うような視線をした店主の事が気になり、俺以外には見る事の出来ない不可視の精霊を一体店主に張り付かせていたのだが、ルゥの言う悪い予感が当たっていたのだと確信を得た。
(そうか、やっぱり不審がられていたか)
(主様、どう致しますか?)
(此処は無かった事にして逃げるか)
(いえ、それでは返って怪しまれるのではないでしょうか? 此処は大人しくしておいた方が良いのでは?)
(だけど、捕まってしまうんじゃないか?)
(それでも、この世界の国ではありませんから証拠も何もありませんよ)
精霊達と会話していると店の奥から不自然な笑顔で店主が姿を現した。
「いやぁ~お待たせしました。 査定の結果、青銅貨7枚での買い取りになりますが宜しいでしょうか?」
「たった其れだけですか? もう少し良くと思っていたんですが・・・・・・分かりました。 魔道具を返してください。 別の店で買い取ってもらいますから」
この世界での青銅貨の価値はまだ分からなかったが、店主に張り付かせていた精霊の報告を聞く限りでは、大分此方を舐めているようだったので真面目な査定はしていないだろうと踏んでいた。
「此方といたしましても、此れが精一杯でして」
「だから此処では無いところで買取をしてもらうので、預けた魔道具を返してくださいと言ってるんじゃないですか!」
店主が言い訳がましく、衛士が到着するまで俺を逃がさないようにしているのは分かっていたが、いい加減五月蠅くなってきたので口調を荒げてしまっていると、大柄な髭面の男性が姿を現した。
「何の騒ぎだ!!」
一瞬、衛士が来たのだと思って逃げ腰になっていたが、店主の表情を見る限りでは如何やら違うようだ。
「て、店長!? 明日まで北の鉱山に採掘出張の筈では?」
店長? じゃ目の前の男は一体何者だ?
「俺のことは良い! 此れは何の騒ぎだと聞いているんだ。答えろ!」
「い、いえ。 それがその・・・・・・」
俺が今の今まで店主だと思っていた男は、突然現れた大柄な髭男に対して涙眼になっている。
店の出入口を髭男が塞ぐように立っていなければ一目散に逃げていても、おかしくないほどに。
「ハッキリしろ! ところでアンタは?」
此処で漸く俺の存在に気づいた『店主』と呼ばれた男が話しかけて来た。
「今コイツと口論していたようだが、アンタは一体何だ?」
「俺は此処に魔道具を売りに来たんだけど」
「おお客か! うちの若いモンがすまねえな。何をぼさっとしてやがる! 茶ぐらい出さねえか」
「はい。只今」
男がそういうと、心配そうに店の奥から此方を見ていた別の店員が、返事をしながら店の奥へと消えていった。
「それで何があったんだ? 客に聞くのも情けない話だが、詳しく話しな」
「え、え~と、この魔道具の買取提示額に納得がいかなかったんで別の店で買い取ってもらうから魔道具を返してくれと言ったんですが、何故か返してくれなくて」
「魔道具? ああ此れか。いったい、あの馬鹿は幾らの値を出したんだ?」
「全部で青銅貨7枚と言っていたかな?」
「この魔道具が青銅貨7枚だと!? いい加減な仕事してるんじゃねえよ!!」
男はそう言って、たった今まで俺の相手をしていた男を殴りつけると店主だと思われていた男は地面に倒れ込み、気を失ってしまった。
この世界のお金の価値に関しては、別の話の中で説明する予定ですので分かり辛いとは思いますが、もう暫くお待ち願います。