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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
土の精霊編
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第123話 魔法直撃

若干の混乱はあったものの、無事に街へと辿りついた俺は精霊の情報収集のため街を歩いてみる事にした。


宿に泊まるにも食事をするのにも、まずはお金が必要になるので街に入ってすぐに路地裏へと入り、亜空間の扉を開くと中においてある魔道具を5品ほど道具袋の中へとしまい込んでおいた。


(さてと道具屋は何処かな? ん? あれは・・・・・・)


ふと道具屋を探しながら空き地のような開けた場所に目を遣ると、親子だろうか子供が大人相手にキャッチボールのような事をしているのが眼に入る。


『この世界にも野球のようなスポーツがあるのか』と思いながら光景を見ていたのだが、何かおかしい。

子供から大人には拳大の大きさの球のような物が投げられているが、大人から子供には投げられていない。


しかも其れ以前に野球のミットなどは手に嵌めておらず、代わりに何か可笑しな手袋を装着していた。


「ほらどんどん来い! そんなことでは何時まで経っても一人前になれないぞ」

「よ~し、此れならどうだ。 あっ!?」

「なっ!? 馬鹿、何処に放ってるんだ。 其処の人、避けてくれ」


親子の焦っているような会話が為された次の瞬間、子供の手から離れた赤いボールのような物は一直線に俺に向かって飛んできていた。

その球は俺の目の前まで来て、漸く親子が行なっているのは断じてキャッチボールなどではないということが判明した。


が、落ち着いている場合ではなく目の前まで迫っていた其れを避けようとするが、ここで避けると俺の後ろで無邪気に遊んでいる女の子に直撃してしまうので、受け止めざるを得なかった。

俺は咄嗟に両手を胸の前で広げて受け止める体勢を取るが、其れはまるでフォークボールかのように俺の目の前で急降下し受け止めようと待ち構えていた掌をすり抜け、下腹の辺りに直撃した。


『ボムッ』

「うわっ!?」


俺は別に何とも無かったが、当たった衝撃で地面に大の字になって倒れた。


「嗚呼やっちまったか、あんた大丈夫か? 直ぐに水術士を呼んでくるから待っててくれ」

「お父さん・・・・・・」


子供は父親と俺を交互に心配そうな目で見つめている。


「そんな人、呼ばなくても良いですよ。 俺は大丈夫ですから」


俺は身体に付いた土埃を掃うような仕草をとりながら、何事も無かったかのように立ち上がると親子は目玉が零れ落ちるほどに目を見開いて俺を凝視していた。


「あ、あんた、子供の放った物とはいえ、ファイアーボールを腹に受けて何とも無いのか?」

「あれぐらいなら自分の魔法で治療できるので問題ないですよ」

「お兄ちゃん、もしかして痩せ我慢してない? 僕はそれなりに魔力が高いんだよ?」

「大丈夫だよ。 ほら」


俺はそう言ってシャツを捲くってみせると、其処には火傷はおろか傷のような物は1mmたりとも残ってはいなかった。


「ほんとうだ。 何の痕もない! お兄ちゃん凄いね」

「まあね。 柔な鍛え方はしてないからね」

「あんたはそう言うが、それでは俺の気が収まらん。 せめて謝罪として此れだけは受け取ってくれ」


そういって父親がふところから取り出した黒っぽい袋から何かを取り出すと、掌を開いて薄青色のコインのような物を5枚、俺に渡そうとしてきた。


「い、いえ怪我も無かった事ですし、受け取れませんよ」

「いや、あんたがいなければ事は大惨事になり、その問題を起こした我が子の炎術士になるという夢も絶たれ、更には後ろで遊んでいる子達も怪我では済まなかっただろう。 だから此れは受け取ってくれ」


父親は無理矢理、俺の掌にコイン5枚を握らせると子供共々、深々と頭を下げ足早に子供を連れて屋敷の中へと入ってしまった。


「あ、ちょっと」


大声を発するも既に親子の姿は見えず、後方で遊んでいる少女達が『なにか呼んだ?』と答えるだけだった。


(マスター、其れはあの親子の謝罪の物ですから、受け取らないと親子の立つ瀬がないと思われますが)

(そうだよなぁ~まあ返すにしても既に見当たらないしな。 有難く貰っておく事にしよう)


思いがけずにお金(かな?)を手に入れた俺は魔道具を換金すべく道具屋探しを再開した。

その頃、親子が逃げるかのように飛び込んだ屋敷では。


「あなた如何したの? 血相変えて飛び込んできて、まだ魔法の訓練の時間でしょ?」

「それがな・・・・・・」


父親が妻と思われる女性に事情を話し出すと、徐々に女性の顔から血の気が引いていった。


「まぁ、受け止め損ねた魔法が旅の方に!? それは大変じゃない。すぐに水術士を呼ばないと」

「落ち着いて話を最後まで聞け! 確かに魔法は直撃してしまい後方に倒れたんだが、次の瞬間には何事も無かったかのように起き上がってきたんだ。 旅人が言うには『自分で回復魔法を掛けたから大丈夫だ』と」

「それで如何したの?」

「本人は大丈夫だと言っていたが、其れでは俺の気が収まらんからな。 たまたま財布に入れてあった5枚の青銅貨を無理矢理手に握らせて逃げるように家に飛び込んできたんだよ」

「まぁ! ところであの子は何をしているの?」


そして母親のような人物が扉の鍵穴を内から外に覗き込んでいる息子に声をかけようとすると。


「お父さん、あの旅人さん何か考え事してたみたいだけど、やっと歩いてったよ」

「そんな見張るようなお行儀の悪い事は止めなさい! あなたは将来立派な炎術士の隊長になるのよ?」

「おいおい隊長だなんて、そんな何年も先のことを今から言ってどうする?」

「あなたは黙ってて。 あ、そうそう今月は御小遣いなしだからね」

「そんな~~~~」


屋敷から悲鳴が上がって何事かと街の衛士が駆け込んできたのは、また別の話である。



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