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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
氷の精霊編
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第120話 闇に誘う巨大な亀裂

翌朝、ウィレンドの宿屋の室内でレナードさんに教えられた言葉を思い浮かべていた。


(『大地よりも深き道、人が歩けぬ闇に閉ざされし谷、生ある者が辿り着けぬ地』かどんな所だろうな)

(マスター、その大図書館のある街に行って実際に本を見てみるのは如何でしょうか?)

(確かに其の方が早いな。レナードさんに街の場所を聞いてみる事にするか)


俺は何故昨日、街の名前を聞かなかったのかと後悔しながら宿屋を出てレナードさん宅に行く事にした。

朝早くにお邪魔することが『失礼にあたるかも』と思いながら酒場の裏にある昨日の家に辿りついたのだが。


「おや? 昨日の旅の御方ではありませんか、何かありましたか?」

「朝早くに申し訳ありません。 昨日聞きそびれた事をお伺いしようかと思ったのですが何処かにお出かけですか?」


レナードさんは何処かに出かけるのか、手に包みを持って家の前に立っていた。


「ええ此れから仕事なんです。もし良ければ歩きながら話しませんか? 規律が厳しい職場なので遅刻するのは避けたいんです」

「分かりました。ご一緒します」

「それで聞きたい事とは何でしょうか?」 

「昨日話されていた大図書館のある街に行って見ようかと思っているのですが、街の場所と街の名を教えてもらえないかと思いまして」


レナードさんは俺が言い切ると同時に表情が険しくなってしまっていた。


「そうでしたか、残念ですが今はもう無理なんです」

「えっ!? どうしてですか?」

「私が家族とともに父の住むこのウィレンドの街へと越してきたのが今から約5年前なのですが、それまでは大図書館のあるアルケイメルという街に住んでいたのです」


街の名はアルケイメル その街にある大図書館で調べる事ができれば。


「此処より遙か南方にある大陸に大図書館のある通称『学者の街』とも言われているアルケイメルがあるのですが、今から凡そ5年前から隣国との小競り合いが始まり、其の中間に位置していた街は戦禍に包まれ、焼け落ちてしまいました」

「それでは・・・・・・」

「はい。 街は面影もないほどに崩壊し、大図書館も今では魔物の巣窟となり果てています」


其処まで話したところで一つの建物の前でレナードさんは歩みを止めた。


「すいません。職場に到着したので話は此処までとさせてください」

「此処はギルドですね」

「私の職場はギルドの2階にある役場なんです。 今から朝礼が始まるので此れで失礼します」


レナードさんはそう言って俺に一礼すると急ぎ足で建物内へと入って行った。

精霊の手がかりともいえる『全ての母』という大図書館にある本を調べようにも今は魔物の巣窟か。

俺の足でもどれだけの日数がかかるか

仮にたどり着けたとしても本が無事であると言う確証はないな。


俺は街が魔物の巣窟と化しているという事実を知らされても折角の手がかりを諦めきれずに酒場で情報を得ることにした。


「すまないが酒場は夜からだ・・・・・・ってアンタか、今度は何のようだ? ビクトル爺さんに会えたのか?」

「いやビクトルさんは半年前から行方不明らしい。 ってそんな事よりもアルケイメルという街のことで情報はないか?」

「アルケイメルっていやぁ、学者の街って奴だよな。俺には縁の無い場所だし情報もねえな」

「そうか。 忙しいところすまない」

「気にすんな! あっそうだライト姉ちゃんに聞いてみてはどうだ? 姉ちゃんならビクトル爺さんに及ばないまでも物知りだし、何か分かるかも知れないぜ」


ライト姉ちゃん? ああ、シャノルクの酒場の女主人のことか。


「じゃあ行ってみる事にするよ」

「今度は客として酒場に来てくれよ!」

「ああ、すまないな情報ばかりで」


俺は開店準備に忙しい酒場をあとにしてシャノルクを目指し街の門から外に出た。

今度はギルドの仕事とは関係が無いので、早足で小高い丘の街道を歩いていると前回では気づかなかったが小高い丘の反対側(山の斜面ではない方)には何処まで深さがあるか分からないほどの大きな『大地の亀裂』とも言える崖が口を開いていた。


(レナードさんが言っていた『大地より深き道』『闇に閉ざされし谷』『生ある者が辿り付けぬ地』ってここの事じゃないだろうな? まさかな・・・・・・)


亀裂の内部がどうなっているのか気になり、真っ暗闇の亀裂内部を覗くように近づいていくと不意に防寒具を身に纏った男に声を掛けられた。


「おい其処のアンタ! 命が惜しかったら此処には近づくな」

「え!?」

「この崖に一度ひとたび足を踏み入れれば、命の保障はないぞ! 分かったら金輪際此処には近づくな」


俺は言い訳する間すら与えられずに無理矢理崖から引き離されてしまった。


「いいか? 絶っっっ対に近づくなよ?」


聞けば注意してきた男はシャノルクの街の外郭守護隊に籍を置く兵士で山の斜面から魔物に襲われたり、足を滑らせて転がり落ちてくる冒険者たちを網のような物で捕まえ、可能な限り崖に落ちるのを防いでいるのだという。


あたりを見渡せば山の斜面や崖の近くに注意してきた男と同じ防寒着に身を包んだ兵士が数mの間隔を置いて周囲に目を光らせている。

崖の内部や色々な事を知りたかったが、一度危ない行為をしてしまった所為で俺に注意してきた兵士とは違う複数の兵士からも奇異な目で見られてしまっていた。


俺のことを見張っているかのような監視の目はあるが、レナードさんから聞き及んだ3つの詩が当てはまる場所でもあるため、諦める事が出来なかった俺は兵士の目から逃れられる距離まで移動すると飛行魔法で宙に浮き上がり崖の対岸まで移動した。

流石に此処までくれば対岸で見張りをしている兵士の目は届かず、意を決して崖の中へと飛び込んだ。


亀裂に飛び込んでから既に数十分が経過しているが、何時まで経っても地面の感触はなく、このまま地の底まで落ちるのではないかという不信感と辺りは真っ暗で光など無いため、身体に当たる風が無ければ落ちているのか登っているのか分からなくなりそうで少し恐怖感を憶えることとなった。


(深いな。それにしても『大地よりも深き道』『闇に閉ざされし谷』か少し遠回りな言い方だが思っていた通り、高い確率で当てはまる場所だな。 残るは『生ある者が行きつけぬ地』か、此れも既に何百m落下しているのか分からないが、通常の人間なら既に耐え切れずに恐怖心で狂っているだろうな)

(マスター、幽かにですが地面が見えてきたようです。 落下時の衝撃に注意してください)


精霊は『地面は直ぐ其処だ』と言っているが、俺の眼には此れまでと何ら変わりはしない闇の空間が周囲に広がっているだけだった。




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