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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
氷の精霊編
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第119話 爺さんは行方不明

ギルドで配達の報酬である銀板1枚を手に入れた俺は酒場の主人に教えてもらったビクトル爺さんが住んでいるという建物へと辿りついた。

建物の窓から灯りがこぼれているという事はビクトル爺さんの家族かそれとも家を間違えたかの二つに一つだった。

考えていても仕方が無いと思い、意を決して扉をノックする事にした。


コンコンコンッ

扉を軽く叩いてみるも、誰かが出てくる気配はない。


コンコンッ


「ビクトルさん、いらっしゃいませんか?」

「は~い」


漸く返事が返ってきたが、如何聞いても爺さんと思われる声色ではないようだった。

応答があってから数秒後、パタパタという音とともに声が聞えてきた。


「お待たせしま・・・・・・『ズベシャッ』・・・いった~い!」

(コケたな) 

(コケましたね。それも音からして盛大に)

「グスッ・・・・・・どちら様ですか?」


目に涙を浮かべて真っ赤な鼻を左手で押さえながら右手で扉を開けて出てきたのは前掛けを身に付けた十二、三歳くらいの少女だった。


「えっと、ビクトルって御爺さんに聞きたいことがあってシャノルクから来たんだけど、御在宅かな?」

「おじいちゃんに聞きたい事? でも、おじいちゃん今いないよ?」


おじいちゃんってことはこの少女はビクトルさんの孫娘ってとこかな。


「おやおや、お客様ですかな?」

「あ、パパ、ママ~~お帰りなさい」

「こらミル! 知らない人がきたら扉を開けちゃ駄目って言ってあったでしょ?」

「ママ、ごめんなさ~い」

「まぁまぁ、それくらいで勘弁してあげなよ。 失礼致しました、玄関で立ち話もなんですので中に入りませんか? 暖かい御飲み物をお出ししますよ」

「ご迷惑では?」

「構いませんよ。 何か訳ありのようですしね」


こうして俺は男性に勧められるまま家の中に導かれることとなった。


「さて申し遅れました。 私はレナードと言います。 早速で申し訳ないのですが、どのようなご用件でしょうか?」

「実は酒場の主人から此方に住んでいるという、ビクトルさんが色々な事にお詳しいと聞き、お話を伺いに来たのですが御在宅ではありませんか?」


俺が“ビクトル”という名を口にした瞬間、目の前のレナードと名乗った男性が一瞬表情を曇らせた。


「父、ビクトルは半年ほど前から行方知れずになっています。 方々《ほうぼう》に手を回して探しているのですが、依然として消息は見つかっておりません」


あれ? 半年前にシャノルクに帰ったんじゃなかったっけ?

そうなると途中で見かけた死体はもしかするとビクトル爺さんなのか。 

いや、半年前に行方不明になったのなら雪原に横たわっているわけがないな。


「そうでしたか・・・・・・辛い事をお聞きして申し訳ありませんでした」

「いえ、お気になさらないで下さい。 それで父に聞きたい事とは一体なんですか? 私も小さい頃から色々な事を父より聞いておりますので疑問に答えられるかもしれないですよ」

「実は自分は東の国から様々な神聖なる場所を巡る旅をしているのですが、遙か北のこの地方にも神の宿りし場所があると耳にしたものですから、何か知っていることはないかと思いまして」

「神聖な場所ですか? 何か小さい頃に聞いた覚えがありますね。 思い出すので暫くお待ち願えますか?」


レナードさんは腕を組みながら天井を見たり目を瞑ったりと必死に思い出そうとしているようだった。


「主人は一度こうなったら中々戻ってこないので、宜しければ此方をどうぞ」


レナードさんの奥さん(?)がそう言いながら温かい濃緑色の飲み物を差し出してきた。


「ありがとうございます。 いただきます」


湯気が立ち上るソレをゆっくりと口に運ぶと、まるで抹茶と苦いお茶を混ぜて温めたような微妙な味が口の中に広がった。

が、腹の奥から何か熱いものが上がってくる様な感覚さえ覚えた。


「薬草を煎じた薬湯なんですよ。 飲み慣れない方には少し癖のある飲み物ですが、直ぐに温まりますよ」


微妙な味と感覚を味わっていると、突然レナードさんが立ち上がり大声を張り上げた。


「思い出したーーーー!」

「キャッ!? 吃驚した。脅かさないでよ」

「貴方が言っていた神聖なる場所ですが、私が小さい頃に住んでいた街にある大図書館での、とある本の一説によりますと『大地よりも深き道、闇に閉ざされし谷、生ある者が行き着けぬ地』という詩がありました。 どのような意味があるのかは分かりませんが本の表紙には『全ての母』と書かれていたので神聖な物だと思いますが」

「いえ充分です。 ありがとうございました」

「詩の文章から想像すると、かなり危険な場所だと思うので気をつけてください」

「はい。 薬湯御馳走さまでした」

「お兄ちゃん! またね~」

「ああ、またね」


俺は可愛らしい少女に見送られながら、その場を後にして準備として商店街を回ることにした。


雪国というだけあってか果物類は洒落にならないほど高価の物で買い込んだ食糧の殆んどは肉関係となってしまった。

実際、何の肉かは分からないが・・・・・・。


商店街を出る頃には辺りはすっかり暗闇と化しており、その日は宿屋で休む事にした。

宿屋の場所は街の人に聞いて直ぐに判明し、銅板7枚を払いその日は終了した。



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