第115話 依頼の秘密
借金の額を『銀貨2枚』と書き間違えてしまっていたため、『銀貨5枚』に訂正いたしました。
猛吹雪によって一寸先も見えないほどの悪天候に見舞われた俺は咄嗟に亜空間倉庫の扉を開き吹雪が止むまで倉庫で身を休める事にした。
改めて倉庫の中を見ると奥が見えないほどの広い空間に前の世界で収穫した果物が保管されている。
以前、精霊に聞いた内容によれば亜空間内に入れたものは時間に左右されず、新鮮な物は新鮮なまま保管されるそうだ。
いっその事、宿屋に泊まらずに亜空間内で生活しようとも考えたが後々面倒な事になる恐れがあったため却下する事にした。
こうして亜空間内で数時間ほど仮眠を取り、そろそろ夜が明けた頃だと思い扉をあけたのだが、夜は空けていたものの相変わらずの猛吹雪で視界は最悪の状況だった。
流石に猛吹雪の中を歩き再度雪崩に巻き込まれるのも馬鹿らしいので亜空間内に戻る事にした。
倉庫内の整理や討伐したホロビットの血抜きなどで時間を潰し更に2日経過した頃、漸く外に出る事が出来た。
ちなみに亜空間倉庫内に充満していた腐った生ゴミのような悪臭は風魔法で外に吹き飛ばし、赤く染まった床は水魔法で洗浄した。 少し痕は残ってしまったが・・・・・・。
「これで依頼を受けた日から4日が経過か。 そろそろ戻らないと依頼失敗となってしまうな」
俺は亜空間に保存してあったホロビットを縄で縛り、背中に背負う様にして街へと戻ると慌てたような表情の門番に話し掛けられた。
「あんたか! 吹雪は大丈夫だったか!?」
「ええ、なんとか生い茂った林の中で身を丸めて吹雪が止むのを今か今かと待っていました」
「そうか。 4日も前にあんたが街の外に行くのが見えたから心配していたんだが無事でよかったよ」
その後も門兵と軽い会話を繰り返した後、ギルドに向けて歩き出した。
はたから見れば、堂々と泥棒ルックで街中を歩いていくように。
ギルド内に入ってからも大量の魔物を背負っていた事で他の冒険者から注目をされていたが気にしないことにして窓口に話しかけた。
「依頼のホロビットを討伐してきたんだけど」
「お疲れ様でした! それでは検分いたしますので依頼対象を提出してもらえますか?」
そう言われ背中に背負っていたホロビットを受付の台に載せたところ受付に驚かれた。
「確かにホロビットに違いありませんが、そのまま持ってくるとは・・・・・・通常は皮を剥いで持ってくるものなんですよ?」
「そうなんですか? すいませんでした」
「いえいえ、少し驚いただけですので。 それでは汚れなどの検分を始めますので暫く待って貰えますか?」
受付の言葉に頷くと窓口の奥から数人の職員が応援として駆けつけ魔物の検分が始められた。
その後、討伐掲示板などを見て暇を潰していると1人の職員が声を掛けてきた。
「ミコトさん、検分が終了いたしましたので受付までお願いいたします」
「分かりました。 直ぐ向かいます」
手に持っていた依頼書を元通り掲示板に戻すと足早に受付へと足を運んだ。
「お待たせして申し訳ありません。 検分した結果、汚れのない物が2体と少し汚れがあるのが17体という結果でした」
受付はあきらかに疲れた表情で話を続けている。
「そのため報酬は合計で銅板63枚となり、銀貨に換算いたしまして銀貨6枚と銅板3枚となります」
「こんなに!?」
「此れが普通ですよ? 本来ランクアップの依頼はEからDの場合、Dランクの難易度が低い依頼が宛がわれるので報酬としては無難な方ですね。 発見し辛いホロビットをあれだけの量を討伐してきたのは驚きでしたが」
この依頼で持ち金が銀貨7枚、銅板9枚、銅貨5枚となった。
序に本来の目標であったCランクに昇格するべく依頼を受ける事にした。
「すいません。 Cへのランクアップ依頼はありますか?」
「続けさまに依頼を受けて、お身体は大丈夫なんですか? 無理は為さらないほうがいいかと」
「いえ、大丈夫です。 体力は人並みよりもありますから」
「分かりました、少し待ってください。 えっと今あるのはグレイウルフの討伐ですね、報酬は1頭につき銀板1枚となり前金として銀貨1枚を頂きますが宜しいですか?」
「分かりました」
そういって前金の銀貨1枚を渡しながら気になった事を聞いてみることにした。
「つい先程掲示板で『グレイウルフの毛皮採取』って依頼を見つけたんだけど同時に受ける事は出来るのですか?」
「いえ原則として複数受諾は禁止されています。 理由としては様々なことがありますが一番の理由として成功確率の低下が挙げられます」
「そうなんですか」
「ただし、今現在請け負っている依頼が終了した時点で掲示板で提示されている依頼品を持っていた場合は前金なしで報酬を得ることが出来ます」
と言う事はグレイウルフを討伐して毛皮を剥いでしまえば金になると言う事だな。
「依頼手続き完了いたしました。 期限は5日間、討伐証明は頭部の角となっております」
俺は依頼書を再度確認するとギルドの隣にある守護隊の駐留所に立ち寄って借金である銀貨5枚を返却し街の外へと足を進めた。
ギルドからの情報によると対象は以前、バクストの実を採取した森に生息している事が分かり気配を殺して木の陰に隠れながら探す事にした。
探し始めてら数時間が経過した頃、不意に森の奥から動物の悲鳴とも取れる呻き声が聞えてきた。
探しているグレイウルフかはたまた、まったく別の魔物か分からなかったので慎重な足取りで悲鳴が聞えた方へ歩いていくと・・・・・・其処には熊に良く似た体長が5m近くもある巨体の獣が僅か体長2mくらいの頭に角が生えた数頭の白い狼によって襲われているようだった。
数分後巨体の獣は息絶え、白い狼達の食料と化してしまっている。
(頭に角が生えた狼か、あれがグレイウルフで間違いないのかもな。 しかし名前がグレイなのに体毛の色は白なんだな)
俺は食事に夢中になっているグレイウルフに気づかれないように忍び足で地面に落ちている木の枝などを踏まないようにして近づいていったのだが此処で思いも寄らなかった出来事が起こってしまった。
「ヒャウッ!?」
突然、木の上から落ちてきた、溶けた雪の雫がタイミングが悪い事に首元へと入ってしまい、思わず悲鳴が上がってしまっていた。
当然狼達がその悲鳴を聞き逃すわけはなく、既に骨同然になった獣を食い足りない表情で口元を獣の血で真っ赤に染め上げ、項垂れていた数頭の狼が俺の方に一斉に顔を向けた。
かなりの確率で俺のことも『食料』という認識で見ているのだろう。
何か特別な合図があったわけでもなく、全ての狼が一斉に俺へと襲い掛かってきた。
俺は咄嗟に剣を引き抜き一番最初に大口を開けて襲いかかってきた狼を縦に一刀両断して倒した。
左右に両断された仲間を見て2、3頭は森の奥へと逃げて行ったが、残りは仲間を殺された恨みかそれとも食欲が恐怖心を上回っていたのか、躊躇せずに俺へと襲い掛かってくる。
魔物とはいえ、多少の知能を持っているのかバラバラな方向から俺に向かって来る。
俺も太腿や二の腕などを数箇所、噛まれたが数分後には全ての狼を倒し終えた。
「流石に此れだけの数を相手に無傷とはいえないか・・・・・・まぁ傷は残らないけどな」
一息終えた俺は早速、角を切り取り毛皮を剥ごうと考えたが此処で作業を開始すれば白い雪が降り積もった大地に狼達の血が染み渡り、その血の匂いに引き寄せられた魔物が後を絶たないだろうと考え亜空間倉庫への扉を開き全ての狼の死体を中へと放り込んで俺自身も亜空間へと足を踏み入れると扉を閉めた。
折角、長い時間掛けて念入りに綺麗に掃除したのに・・・・・・・・・。