第114話 魔物=防寒着?
少しグロテスクな描写表現があります。
食事をしながら読むのは、お勧めできないかも・・・・・・。
翌朝、俺は宿で朝食を摂るや否やギルドへと向かって歩いていった。
昨日ランクアップのためにと請け負った依頼では宿代には届かない銅板2枚だったのでプラスになるどころか逆にマイナスという結果に陥っていた。
このまま何時まで経っても借金が返せなければ、この街から別の街に行く事も出来ないので最低でもCランクまでランクアップしようと寝ながら考えていたのだ。
そして今日もランクアップの依頼を受けようとギルドの扉に手をかけるのだが、鍵が掛かっているのか中に入る事は出来なかった。
何時にギルドが開くのか分からないが暫く雪が降りしきる中、軒下に立っているとギルドの中から1人の女性が顔をのぞかせた。
「あら? 其処で何をしていらっしゃるのですか?」
「あ、すいません。 どうやら早く来すぎたみたいなのでギルドが開くまで此処で待っていようかと思いまして」
「そうなんですか。此処はお寒いでしょう? 良ければ中でお待ちになられますか?」
「そうさせてもらえると有難いのですが、御迷惑では?」
「いえ構いませんよ。 逆にギルドの前で凍死体になられる方が迷惑ですね」
笑えない冗談で話を弾ませながらギルド内で暖かいお茶を頂いていると先程、外で会った女性が話しかけて来た。
「もしかして、さっき言っていた『凍死体』の話を冗談だと思っていません?」
「本当にあったことなんですか!?」
「はい。 今から数年位前の話なんですが、まだ街に警備隊の駐留所が無かった頃、旅の女性が宿に泊まれるお金も持ち合わせて居らず、このギルドの軒下で身体を休ませていたようなのですが、翌朝には既に息絶えていたという話なんです。 其れが切っ掛けとなり、警備隊の駐留所を街に作り、対処しだしたそうなんですが」
それじゃあ、俺が宿屋で何回も目撃している女性はまさか幽霊?
だけど、そう考えると幽霊が扉をノックできるわけがないし・・・・・・ううむ。
「あ、そろそろギルドを開く時間ですね。 それでは私は窓口の奥に戻りますね」
「お茶、ご馳走様でした」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから」
お茶を飲み干した湯呑みを女性に手渡すと、そそくさと奥へと歩いていった。
数分後、窓口の奥に人の気配を感じた俺はランクアップの依頼を受けようと窓口へと足を運んだ。
「すいません。ランクアップ依頼を受けたいのですが」
「はい。 それでは身分証明書の提示をお願いいたします」
俺は胸ポケットに仕舞い込んでいた昨日此処で発行したばかりのカードを受付に差し出した。
「はい確認いたしました。 今現在のEからDのランクアップ依頼はホロビットの討伐しかありませんが、構いませんか?」
「え~と、ホロビットとは何ですか?」
「体長が30cmくらいの頭と手足が灰色でそれ以外が真っ白い体毛に覆われた、比較的大人しい魔物ですね。 そのホロビットの体毛が防寒服の材料になりますので、なるべく汚さずに討伐してください」
「ちなみに報酬は?」
「1匹あたり綺麗な状態で銅板6枚、少しでも汚れがついていたり傷がある場合は銅板3枚になっています」
「その場合は依頼前金は幾らになるんでしょうか?」
「最低報酬の1割ですから、銅貨3枚になりますね」
「分かりました。 その依頼受けます」
俺はそう言って懐から銅貨3枚を取り出し受付へと手渡した。
「確認いたしました。 それでは期限はこれより5日となっておりますのでご注意下さい」
受付を済ました俺は期限である5日を目標に出来るだけ多く狩る事にした。
すっかり顔馴染みになってしまった門兵と軽い会話をしながら街の外へと出てみたが、其処は雪が深深と降り積もる一面真っ白な銀世界・・・・・・。
「真っ白な風景の中から真っ白な魔物を探せってか? 依頼を甘く見ていたな」
数十分後、木が殆んど生えていない雪原を当てもなく歩いていると、不意に『ギュムッ』といった変な声(?)と何か柔らかい物を踏んづけたような感触が足に伝わってきた。
恐る恐る足を退けてみると、そこにはフワフワした手触りの雪ではない白い物体が氷原にめり込んでいた
「なんだこりゃ?」
手にとって持ち上げてみると白い体毛にチョコンと灰色の毛に覆われた頭と手足がくっついていた。
(もしかして此れが依頼にあったホロビットという魔物か? 如何見ても魔物と言うよりは癒し系の動物のように思えるんだが)
(マスター、この魔物可愛らしいですね~~~)
(和んでいるところ悪いが依頼だからな?)
(分かってはいるのですが、抵抗ありますね)
とりあえず剣で突き刺そうかと思ったが、そうすれば体毛に傷がつくし報酬が落ちる。 かといって可哀想だからと逃がしてしまえば報酬は受け取れないし・・・・・・と考えていると何時の間にか目を覚ましたホロビットが可愛らしい外見とは裏腹に大口を開けて飛び掛ってきた。
「うわっ!?」
俺は咄嗟の出来事で手にしていた剣でホロビットの身体を真っ二つに切り裂いてしまった。
「外見が可愛らしいからといっても魔物は魔物か。 しまったな報酬が」
ホロビットの真っ二つに分断された胴体からは生ゴミのような酷い匂いを発する真っ黒な血液が流れ出し、綺麗な白い体毛が徐々に黒く染まっていった。
流石に此処まで黒く染まってしまってはギルドに提出する事が出来ないと考えた俺は漸く見つけたホロビットの死体をそのままにしてその場を離れようと思ったのだが。
俺に殺された同族の恨みか、この嫌な匂いの所為か数え切れないほどのホロビットが地面の下から姿を現した。 そして俺の姿を見た瞬間に一斉に大口を開けて襲い掛かってくる。
咄嗟に剣を抜いて対応しようとしたが、それでは先程と同じ結果に陥ってしまうと考えていると鎧で覆われていない腕や足に次々とホロビットが噛み付いてきた。
次々と襲い掛かってくる魔物を手で撥ね退けながら身体に噛み付いているのを一体一体手で引き剥がし、頭部を力任せに握りつぶしていった。
握りつぶす事で当然の事ながら血液は噴出するので辺り一体はとんでもない悪臭に覆われていく。
そして数十分後には魔物の血液によって真っ黒に染まった雪原と山のように詰まれた頭の無い魔物が俺の周りに広がっていた。
俺の服も所々が魔物に食われて穴だらけになって、魔物の血の所為で凄い悪臭が漂っている。
(流石にこの格好で街に戻ったりしたら大騒ぎになるだろうな。 それに魔物を入れる袋も必要になるし)
色々と考えていると何時の間にか空は夕暮れを通り越して真っ暗になり、天候も1m先が見えないほどの猛吹雪と化していた。
俺は一時的に避難するため亜空間倉庫を開き、ホロビットの死体を全て空間内に放り込むと俺自身も空間内へと入り扉を閉めた。
『とりあえず外の吹雪が止むまで此処で休憩するとしようか。 着替えも必要だしな』
こうして俺は天候に左右されない亜空間倉庫内で保存しておいた果物を齧りながら一息入れる事にする。