第113話 ギルドランク昇格依頼
その世界で生活費の足しになるようにして高価な魔道具の数々を亜空間倉庫に収納していたのだが、今回の世界は魔法というものが存在していない為、別の方法で金を稼がねばならなくなった。
そこで街にあるギルドに登録し、資金を稼ぎつつ精霊のことを遠まわしに調べる生活が始まった。
(さて登録したはいいが、討伐依頼はランクC以上必須か。 今の俺のランクじゃ受ける事は出来ないな)
ギルド登録時に受けた説明では自分のランクの2個上の依頼までしか受ける事が出来ないらしい。
今は登録したてなのでギルドランクは最低ランクのFとなっている。
Dランク以下の仕事もあるにはあるが、ほぼ全てが採取依頼や雑用となっており報酬額も其れに見合ったもので多い物でも銅板8枚という有様だった。
(これは一刻も早くランクアップして金を稼がないと。 宿代で最低でも銅板5枚は必要だからな何時まで経っても街の守護隊から借金した銀貨2枚が返せないじゃないか)
ギルドの受付曰く、ギルド指定の依頼を成功させる事が唯一のランクアップの方法だと言う事だった。
考えていても始まらないため踵をかえしギルドの受付に向かう事にした。
「すいません。 ランクアップの依頼を受けたいんですが」
「あっ先程登録された方ですね。 え~と、FからEのランクアップですので此方の中から選んでいただく事になりますが」
そう言って受付の窓口から差し出された依頼書は『ロミル草を5本採取』『バクストの実を5個採取』の2枚だけだった。
ロミル?バクスト?どちらも流石に聞き覚えがない言葉だった。
依頼書には青色のロミル草と赤と黄色が入り混じっているバクストの実が描かれていた。
「あの~どちらも聞いた事の無い物なんですが、どのような物なんですか?」
「そうなんですか? どちらも寒冷地でしか育たない薬になる植物です。ロミル草の葉は擂り潰す事によって打ち身・捻挫に効く薬として、バクストの実は雪国特有の霜焼けなどの治療薬として用いられます」
「要は薬草の類だと思えば良いんですね?」
「薬草ほどの高価な物ではありませんが意味的にはあってますね」
「其々がどんな場所に生息しているのか教えてもらう事はできますか?」
「はい大丈夫ですよ。 まずロミル草ですが此れは赤い蔓が巻き付いた木の地面に生えていますし、バクストの実は高い木の上にしか実らないと言われています。 だからと言って雪国にとって貴重ともいえる木を伐採しないで下さいね」
外は一面雪景色だったからな木の根元ということは雪を退かさないといけないわけだし、かといってバクストの実は高い木の上か・・・・・・のっけから難しい事だな。
「どちらに致しますか? 両方とも報酬は同じ銅板2枚になりますが」
「それじゃあ、バクストの実の方でお願いします」
「分かりました。 それでは依頼受諾の前金と致しまして報酬の1割である銅貨2枚をお支払い頂けますか?」
「すいません。 銅貨は切らしているので銀貨でお願いできますか?」
「構いませんよ。 それでは、おつりとして銅板9枚と銅貨8枚をお返ししますね」
一気に重くなってしまった道具袋兼財布を腰にぶら提げ直した。
「それでは期限は3日間です。ではお気をつけて」
俺は手を振りながら受付を後にし街の門の方に歩いていくと見た事のある兵士が周囲を警戒していた。
「あれ? あんたは確か大雪崩に巻き込まれて奇跡的に助かった人だよな?」
「はい。 そうですが?」
「元気になって良かったな。 今度は何処に行くんだい?」
「ちょっとギルドの依頼でバクストの実の採取に行こうかと」
「そうなんだ。 今度は雪崩に巻き込まれないように注意しなよ」
と門番の兵は他人事のように笑いながら自分の持ち場へと戻っていく。
改めて街の外に足を踏み出すと一面銀世界に染まっていた。
恐る恐る雪の降り積もった地面に1歩踏み出したが気温の所為か僅かに沈んだだけで柔らかな雪の下は完全に氷と化していた。
街を出発して数分歩いたところで漸く高い木が聳え立つ森にたどり着くことが出来た。
そんな中で一際天高く聳え立つ一本の、少なくても樹齢数百年は経ってそうな巨大な樹が目の前に現れた。
「此れを登るのは一苦労だな。 枝に足をかけて登ろうにも不安定この上ないからな」
少しばかり悩んでいたが思うところがありミラに聞いてみることにした。
(なぁミラ、聞きたいことがあるんだけど良いか?)
(何で御座いましょうか?)
(此処に来た時に魔法の存在しない世界だと聞いたけど俺は使えるんだよな)
(はい。 主様の場合は世界に関係なく使用することが出来るはずですが・・・・・・まさか)
(人の見てないところでなら使用しても構わないよな。 魔力が無いって事は探知する事も出来ないって事だよな?)
(はぁ~~~主様には敵いませんね。 くれぐれも人に見つからないようにしてくださいね)
(それじゃ早速。 ルゥ近くに人がいないか気配を探ってくれないか?)
(暫くお待ち下さい・・・・・・・・・大丈夫です。 少なくとも半径1km圏内には人の気配はありませんね)
(分かった)
ルゥの協力で誰も周りにいないことを確認した俺は木に張り付くような格好で風の魔法を使用し、木を登っていった。
一気に地上10m近くの高さまで登ったが一向に頂点は見えなかったが周りには依頼者に書かれていた赤と黄色が入り混じった林檎のような形をした木の実が所狭しと実っていた。
「此れが依頼のバクストの実か。 色と形的には美味しそうだけど食えるかな?」
見た目が林檎に似ていた所為もあって齧りついたがバクストの実を口に入れた瞬間、想像だにしない消毒剤の味が口一杯に広がっていった。
『ブゥーーーーーーーー!』
「何だコリャ!?とても食えたもんじゃないな」
(マスター、ギルドの人も言っていたとおり仮にも薬なんですから)
(それは分かってはいたんだが、見た目が林檎そのものだったからな)
(まぁこの実が毒だったとしてもマスターは死にませんが、味までは保障しかねますよ)
(身に沁みて良く分かったよ)
俺は亜空間倉庫に保管してある果物で口直しをすると次々とバクストの実を捥いでは亜空間倉庫に放り込んでいった。
(こんなに取って如何するんです?)
(なぁに依頼は5個だったけど、街で売れば金になるかと思ってな)
(マスターって変なところで貧乏性なんですね)
(ほっとけ!)
取り合えず亜空間倉庫とは別に、依頼分のバクストの実5個を道具袋にしまい木を降りることにした。
あまり早く街に戻っても不振がられると思い、少し休憩してから戻る事にする。
木の合間でミラとこれからの事を会話しながら休憩していると何時の間にか山の斜面に一頭の真っ白な身体に赤色の目をした狼が此方をじっと見つめていた。
剣に手を置いて何時でも戦えるように身構えたが、白い狼は何もせずに森の奥へと静かに去っていった。
「何だったんだ? あの狼は魔物じゃないのか?」
暫く狼の歩いていった方向を見ていたが、空が暗くなり始めていたので街に戻る事にした。
街の門で先程の兵士に挨拶をしギルドの中へと入っていく。
「依頼されたバクストの実を持ってきたんだけど確認してもらえるか?」
「もう終わったんですか!? 早いですね」
驚いて興奮している受付を尻目に道具袋の中からバクストの実を5個取り出してカウンターに置いた。
「えっと確かにバクストの実で間違いありませんね。 では此方が報酬の銅板2枚になります。 それとEランク昇格おめでとうございます」
報酬を受け取った俺はこのままDランク昇格の依頼を受けようかと思ったが既に日は落ちて暗くなっていたので宿屋に戻り眠る事にした。