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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
氷の精霊編
118/230

第111話 事情聴取

今日で『異世界を渡りし者』投稿開始から丸1年が経過しました。


最初の頃と比べて更新速度は落ちましたが、頑張って最後まで書き続けるので此れからも宜しくお願い致します。

翌日、これまで体験した事の無いほどの肌寒さで目を覚ました。

窓の外を見てみると夜明けには程遠いようで遙か地平線の彼方に薄っすらと光が差し込めている程度だった。


「うう~~~こんなに寒いとは・・・・・・まぁ雪国だから仕方ないといえば仕方ないのだけど」


部屋の片隅にある暖炉を見ると数時間前には轟々と燃え盛っていたにも拘らず火は消え、代わりに炭が半分凍りついている状態だった。

暖炉の中にある薪を一本手に取ると、まるで氷の棒を持った感触が手に伝わってきた。


「流石に薪がこの状態では火はつかないか」


よく見ると暖炉の横の壁には張り紙がしてあり『薪は毎朝部屋に届けますが、大至急必要な方は受付まで』と書かれている。


「確かに今の状態では薪が必要だけど、この時間に行っては流石に迷惑だな」


俺は火のつかない暖炉を何時までも眺めていても仕方ないと思い、ベッドに戻ると猫か何かのように布団の中で丸くなり夜明けを待つことにした。

そしてそれから数時間後・・・


「お客様、朝食が御用意できましたので食堂まで御越し願います」


部屋の扉をノックする音と共に昨晩と同じ声が聞えてきた。

布団の中で蹲っている間に何時の間にか眠ってしまっていたようで、窓からは眩しいほどの光が差し込めていた。


(主様おはようございます。 良くお眠りになられましたか?)

(ああ、おはようミラ。 もしかして夢の中にいざなってくれたのは)

(はい。 差し出がましいとは思いましたが、主様がお困りのようでしたので)

(いや助かったよ、ありがとう)

(いえ、そんな勿体無いお言葉です・・・・・・)


ミラに朝の挨拶とお礼を言った俺はベッドから起き、普段着に着替えると食堂に向かう事にした。


「そういえば、さっき扉から聞えてきた声は昨晩と同じ女性の声だったな」


そうこう考えているうちに食堂に辿りついた。


「あら御客様早起きですね。 直ぐに食事の準備が出来ますのでお掛けになってお待ち下さい」

「あの~~本当に他の従業員は居ないのですか?」

「え? ええ、この宿は私の家族のみで経営していますので、とても他の従業員を雇う余裕は・・・・・・いかが致しましたか? 何か気になることでも?」

「いや何でもないよ。気にしないでください」

「そうですか~~~?」


女将さんと会話をしていると料理が出来上がったようで、目の前のテーブルに朝食が並べられていく。

夕食時と同じく、殆んど肉類は使われていなかったが美味しく頂く事が出来た。


「ご馳走様でした」


食事を終えて部屋に戻ると紐で縛られた数本の薪と一緒に缶の容器に入れられた油と火のついた蝋燭が置かれ、暖炉の中にあった消し炭は全て取り除かれていた。


「なるほど、此れで暖炉に火を点けろという訳か」


直ぐに暖炉に火をつけようとしたが、直ぐに出かける事を思い出し踏みとどまった。


数分後、俺は火のついた蝋燭と部屋の鍵を受付に渡して外出する旨を伝え、宿屋の出入り口で待機している兵士に声を掛けて駐留所までの道を歩んだ。

到着した先は街のほぼ中央に位置する宿屋より一回り大きい平屋の建物だった。


「それでは此方で待っていてください。 念のために武器は預からせていただきますが宜しいでしょうか?」

「分かりました」


俺は建物に入って直ぐの待合所に通され椅子に座っていた。 此処まで案内してくれた兵士は別の兵士と何か会話をしながら奥の扉へとはいっていく。


兵士が入って行った部屋とは別の扉からは兵士の訓練の声なのか、木の棒同士を打ち合わせている音と盛大な掛け声が聞えてきていた。

駐留所の待合室(と言っても出入り口付近に椅子があるだけなのだが)で待つこと十数分。

宿屋から此処まで連れてきてくれた兵士とは別の者が用意が整った事を俺に伝え、執務室に通された。

少しばかり緊張しながら扉を開けると、向かって正面左側の椅子には壁1枚隔てた外は氷点下という寒い雪国であるにも拘らず、見た目が暑苦しい上半身裸の厳つい顔の男と、右側の椅子には男とは正反対の、朱色の綺麗な髪を纏めている女性の姿があった。 どちらの視線も部屋に足を踏み入れた俺に集中しており緊張感は更に増大していた。


「イノフェル、あの者がオヌシの言っておった雪崩に巻き込まれていたという冒険者か?」


聞き間違いでなければ上半身裸の男は朱色の髪の女性を“イノフェル”と呼んでいる。

確かに宿屋に案内してくれた時は顔をマスクで隠しており、男性か女性か分からなかったが・・・・・・。

「そうですガルフォード隊長。良く来てくれたなミコト、紹介しよう。 此方はシャノルク内郭守護隊隊長のガルフォード殿だ」


この男性も守護隊隊長と説明され、頭を下げて挨拶をするとガルフォードと呼ばれた隊長も首を軽く縦に振って応えてくれた。


「では早速だがミコト、身分証明証を作成する際に幾つかの質問をさせてもらうが構わないか? 一応拒否する事も出来るが、その時は場合によっては最悪、街から強制追放処分が下る可能性もあるが」

「・・・・・・構いません。 答えられる事なら何でもお答えいたします」


数秒ほど考えたが、本当の事をいう訳にもいかないので嘘も交えて応える事にした。

その折に鋭い視線を感じ、室内を見回すとガルフォード隊長が俺の顔を穴が空くほど睨みつけていた。


「分かった。 それでは最初は・・・・・・」

「その前にイノフェル、ちょっと良いか?」


今まさに詰問を開始しようとしていたイノフェルの言葉を遮り、ガルフォードという未だに上半身裸の暑苦しい男が目尻を押さえながら割り込んできた。


「如何なさいました? ガルフォード隊長」

「こやつの顔と手元にある手配書の似顔絵とを見比べていたのだが、どうやら手配犯ではないようだ」

「それでは犯罪者という疑惑は考慮しなくても宜しいですね」

「ああ」


俺の顔を穴が空くほど睨みつけていたのはそういう訳だったのか。


「さて話を戻すが、先程ガルフォード隊長が仰られたようにミコトが手配犯でない事は証明された。 其れも踏まえて、まずは何処で生まれ育ったか出身地を聞かせてもらおうか?」

「はい。 出身地はこの地から遙か東方に位置する名も無き島国です」

「名も無き島国? どの様な場所だ?」

「少数民族が暮らす小さな島国だったのですが、今から数年前に火山の噴火の影響で島は海に沈み、たまたま山を散歩していた俺以外の一族は全て・・・・・・」


俺がそう応えた瞬間、ガルフォード隊長の眉がピクッと反応していた。


「そうか。 辛い事を思い出させるような質問をして済まなかった」

「いえ。 気にしてませんから」


どうせ出任せだし。


「そう言ってもらえると助かるが、何の取り得も無いこの街に来た理由は何だ?」

「自分のいた国では成人するまでは国外に出てはいけないと言う決まりがあったので、此れを期に各地を転々とし見聞を広めていました」

「そうか。 では身分証明書はその時に取得したのか?」

「はい何年前になるのかは良く憶えておりませんが」

「それで大雪崩に巻き込まれたときに無くしてしまったという訳か」

「雪が溶ければ出てくるかもしれません」

「残念だが其れは無いな。 この地は1年中、雪が降りしきる極寒の地。 雪が積もる事はあっても完全に溶けてなくなることは無い」


それから2時間に渡って取調べとも取れる質問と世間話を繰り返し、無事に守備隊発行の準身分証明書を発行してもらう事が出来た。

質問の答えを嘘八百で突き通したが、この世界に俺のことを証明する物が何一つとして存在していないからな・・・・・・。 気が病むが致し方ない。


「では、この証明書をギルドにある窓口に提出して身分証明書を再発行してもらうといい」

「ありがとうございます。 では失礼します」


俺は2人に頭を下げながら挨拶し執務室をあとにした。


ところ変わって此方はミコトが退出した後の執務室。


「如何でしたかガルフォード隊長、ミコトの様子は?」

「言葉や顔の表情を見ている限りではハキハキとしている感じで嘘をついてるようには見えなかったな」

「それにしても、今は無い故郷の島国ですか」

「その事なのだが、噂程度でなら聞いたことがある」

「本当ですか?」

「実際に見聞きした訳ではないので詳しい事は言えないが、噂によればその島国の一族は俺達には無い特殊な力を持つ者が存在していたと聞く。 それが何であるかは分からぬがな」

「特殊な力・・・・・・ですか。 ミコトも持っているのでしょうか?」

「其れは分からんが警戒しておくに越した事はないな」

「そうですね。 では隊の者に・・・・・・」

「頼む」


そんな遣り取りがされているとは知らない俺は駐留所から外に出た後、ギルドの場所を探していた。




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