第109話 白き世界
少し変わった異世界の設定を・・・・・・と考えていたんですが、大した成果は得られませんでした。
(主様、この地は氷の精霊が守護する土地でございます)
(まぁ、これだけ猛吹雪が吹き荒れる土地だからな。ある程度は予想できたよ)
色々な事が気になりながらもアルフェクダの地から次の異世界へと渡った俺が眼を開けると、其処は白い氷の結晶が暴風となって吹き荒れる極寒の大地だった。
街か集落が見えるまで空を飛行して移動しようと当初は考えていたが、風速が強すぎて前方に飛ぶことは出来なかったため1歩1歩、雪が降り積もる大地を踏みながら右左も分からない雪原を歩いていく事にした。
(マスター、前方500m程の場所に沢山の人の気配があります。 恐らく街か村があると思われます)
(分かった。何とかして辿りつかないと凍えてしまうな)
それから約2時間後、数十mはあろうかという向かい風に逆らいながら必死に歩いていると目の前に高い壁が聳え立っていた。
(マスター、沢山の人の気配はこの壁の向こうから発せられています)
(ということは・・・これは街を取り囲む壁か)
街の門を探して壁伝いに歩いていると高さ5mほどもある黒い扉が幽かに視界に飛び込んできた。
やっとの事で扉を見つけ近寄ったところで頭上から声を掛けられた。
「そこの君!早く街に入りなさい。 大雪崩がくるぞ!!」
大雪崩? それにしても、よくこんな暴風の中で人の声が聞き取れたな。
「何をしている、早く街に」
「おっとそうだった。 街に入らないと」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
俺が扉の取っ手に手が触れた瞬間に、視界を覆い隠すほどの雪崩が襲いかかり俺は生き埋めとなった。
「ウワアァァァァーーー!」
「くっ!間に合わなかったか。 誰か、衛士隊に連絡して雪崩が収まってから救助をするよう連絡を入れてくれ」
「はっ、了解いたしました! しかし、お言葉ですが既に手遅れではないかと」
「分かっている。 あれだけ大規模の雪崩に飲み込まれては、もう生きては居ないかもしれないが、せめて冷たい雪の下ではなく土の下で安らかに眠らせてやりたいからな」
「分かりました。 それでは連絡に行ってまいります」
それから9時間後、あれだけ吹き荒れていた吹雪は見る影も無く、一面銀世界の雪原が広がっていた。
「おい門兵、大雪崩の直前まで誰かが外に立っていたというのは本当のことなのか?」
「はい。間違いありません、此方からの呼びかけにも応じていたようでしたから」
「しかし此れだけの規模の大雪崩は未だかつて無い事ですね。 何か悪い事が起こる前触れでなければ良いのですが」
一方その頃、大雪崩に巻き込まれて雪の中に埋もれているミコトはというと・・・
(・・ター・・ご無・・・か?)
ん?此れはルゥの声か?何があったんだっけ?
(マス・・・・ご無事・・・?)
ルゥからの念話だということは分かっているんだけど、何故だか身体がピクリとも動かないな。
(マスター!)
(ルゥか!? どうした? そんなに慌てて)
(やっと気がつきましたか。 心配していたんですよ~~~)
(俺は一体どうしていたんだ? 何故身体が動かないんだ)
(此処は雪の中です。 憶えていませんか?街の中に入ろうとして大雪崩に巻き込まれたんですよ)
(!思い出した・・・。 あれから何時間が経過しているんだ?)
(主様、あれから大体9時間が経過しています。 今はフレイに頼んで御身体の解凍をしていますので、暫くすれば動けるようになると思います)
(解凍って)
(主様~~~解凍終わったよ~~~身体動かしてみて)
“解凍”という言葉を聞いて冷凍食品などの事を思い浮かべているとフレイの元気そうな声が聞えてきた
身体の節々の感覚を確かめてみると、ぎこちない動きではあるが問題なく手の指や足の関節を動かす事が出来た。
(では雪の中から脱出することにしましょうか。 何時までも此処にいては、また氷付けになってしまいますよ? 幸いな事に街の人達が主様を探しに来ておられるようですし)
(街の人達が?)
(主様は見張りの方の目の前で大雪崩に飲み込まれてしまったのですから、あの方たちは主様の死体を捜しているのでしょうね)
(まぁいいか。火の魔法で雪を溶かしながら地上に出るとするか)
俺は雪の中にいるのにも拘らず掌にこぶし大の火炎球を作り出して上へ上へと雪を溶かしながら地上を目指して進んでいると不意にミラから声が掛けられた。
(あと一つだけ地上に出る前に注意しなければならない事がございます)
(注意?何のことだ?)
(この世界には魔法という概念がないため、魔法を使う事ができる者は御伽噺のなかで登場する神様だけだと思われているので決して人の前では魔法を使わないで下さい)
(魔法の無い世界か・・・分かった。 極力、魔法は使わない事にするよ)
(極力ではなく、出来れば絶対に使わないようにして欲しいのですが)
(分かった分かった)
(本当に分かっているのでしょうか?)
ミラに魔法の存在が無い事を聞いた後、ルゥに地上までの距離を聞きながら土竜になった気分で土の中ではなく雪の中を掘り進むようにして頭上に手を伸ばし、木のような物(?)にしがみ付き無事地上に出る事が出来た。
手に掴んだ感触は木と思えないくらいの柔らかさで掴んだ瞬間に悲鳴のような声が聞えたような気がしたが、気のせいだという事にした。
「ふぅ~~死ぬかと思った。 やっぱり外の空気は美味いな」
改めて地上に出て自分が木だと思って握っていた物を見ると、其れはスコップを持った人の足首である事が判明した。
「あっ、すいません。 人だと思わなかったもので」
「・・・・・・・・・」
見ると俺がしがみ付いてしまった人は防寒装備で体中を固め、手にしたスコップを足元に突き刺したまま、俺のほうを凝視して固まっていた。
周りを見ると同じ様な装備で身を固めた十数人の手にスコップを持った人達も眼が点になって俺のほうを凝視しているようだった。
そんな中で逸早く我に返った兵士が興奮した口取りで俺に話しかけて来た。
「あ、あんた!あれだけの大雪崩に巻き込まれて無事だったのか!?」
「ああ、少し身体が冷えてるけど特に怪我はなかったな」
まぁ怪我を負ったとしても瞬時に回復するけどね。
魔法が存在しない世界だと説明するのが難しいから注意しないとな。
「目の前で大雪崩に巻き込まれたのを見たときは『もう駄目だ』と思ったんだがな。 神様の御加護があればこそだな」
「目の前でって?」
「君からは見えてなかっただろうけど、物見の塔から君に避難を呼びかけていたのが僕だったんだよ」
「よく、あんな猛吹雪の中で声が聞えましたね」
「ん?ああ、あれは街の扉に秘密があってね」
「秘密?」
俺と兵士との会話を遮るようにしてスコップを持った兵士の中で1人だけ甲冑の形状が違う兵士が話しかけて来た。
「無事であったことは喜ばしい事だが、何時までも濡れた服で外にいれば今度こそ無事では済まないぞ? 積もる話はあとにして宿屋で休まれてはいかがか? お前も本来の見張りに戻れ」
「兵士長、申し訳ありませんでした。すぐに戻ります」
目の前に立っている兵士長の発言から周りにいた兵士も雑談を交えながら続々と街の中に戻っているようだった。 俺に最初に話しかけた兵士も足早に扉の中へと消えていった。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。さてお疲れでしょう、宿屋に御案内いたします」
こうして俺は男性か女性か分からないほどに甲冑で全身を覆った、兵士長と呼ばれる人に引っ張られながら街にある宿屋へと足を進める事となった。
結局『魔法』が存在しない世界と言う事に落ち着きました。
世界に魔法がなくてもミコト自身は魔法を使う事が出来るので、この事が如何物語に影響するのか乞う御期待を