第108話 次々と圧し掛かる疑問
宿屋の客室で考え事で立ち竦んでいた俺のことを宿屋の主人が『体調が悪い』と勝手に判断し、たまたま街に立ち寄っていた法術士を無理矢理連れてくるといった話になっていた。
『ただ考え事をしていただけだ』と何回も何回も説明を繰り返しても聞いては貰えずに明朝まで宿のベッドに縛り付けられ、法術士の治療(?)を受けさせられていた。
「本当に大丈夫なんですかい? 無理はなさらない方が良いのでは?」
「大丈夫だって。 ちょっと街の中を歩いてくるだけだしさ」
翌日の昼頃に漸くベッドから解放された俺は街の様子を見るために外出する事にした。
「それじゃ行ってくるよ~~」
「お気をつけて」
過保護というか何というか、俺が不死身だと知らないからしょうがないか。
宿屋の主人に手を振りながら街を見回るために歩いていると、罅の入った建物の壁をセメントのような物で修復している住人や地面にこびり(・・・)付いている血糊を必死に洗い流している者、子供達も友達と遊ばずに親と一緒に家の中の掃除をしている姿と・・・まるで災害のあとのような復旧作業のような絵になっていた。
そして皆、口々に俺の姿を見かけるたびに感謝の言葉を投げかけている。
たぶん俺と外見の良く似た、誰かと間違えていると思うのだが。
それでも人々の表情に顔を向けながら街の奥に歩いていくと、こんな場所には居る筈の無い人物に出会う事になってしまった。
「あぁ勇者様・・・」
「俺は勇者じゃない、ただのミコトだ。 って如何してメルディン姫がこのような場所に?」
此処ザンカールの街ではなくアルフェクダ城に居る筈の、俺を召喚したメルディン姫が街の住民と同じ格好をして皆と同じ様に街の復興に勤しんでいた。
「如何してって勇者・・・いえミコト様が崩落寸前の城から私を助け出して街まで連れてきてくれたのではありませんか。 兄様達は残念でしたが、私が助かったのはミコト様の御蔭です。 本当にありがとうございました」
またしても俺が崩落寸前の城から姫を救ったと身に覚えの無い事を言われ、驚いていた。
(マスターが此れだけの人達から感謝されているところを見ると、マスターに救ってもらったという事実は強ち間違いでもないようですね)
(だけどルゥも知っての通り、この2ヶ月間は亜人達の結界の中から1歩たりとも外へと出てはいないんだぞ?)
(それが一番気になるところですが、マスターに外見がそっくりな人物とは考えられませんね)
(まぁ俺と同じ様に異世界から召喚するといった方法もあるにはあるが、俺と顔がそっくりな人物なんている筈も無いからな。 俺には兄弟なんていないし)
(あと考えられる事は、何らかの方法で別の時間からこの世界に遣って来たマスターというぐらいしか)
(別の時間から? そんな事が可能なのか?)
(分かりませんが、其れぐらいしか考えようがありません)
別の時間帯の俺か・・・と考えていると突然黙り込んでしまった俺を心配したのか、俺の表情を覗き込んでいるメルディン姫の姿が其処にあった。
「ミコト様、如何なされたのですか? 何処か体調がお悪いのですか?」
「なんでもない。 ちょっと考え事をしていただけさ」
「そうなんですか? そういえば、あの時もよく考え事をしていましたね。 まるで眼に見えない誰かと会話するかのように小刻みに唇を動かしながら」
「唇を動かしてた?」
「はい。 何か事ある毎に先程のような表情で考え込んでいるようでしたね」
メルディン姫をアルフェクダから助けた俺も精霊と会話していたという訳か?
「あ、それからあの時にも言いましたが私の事はメルとお呼び下さい。 アルフェクダが崩壊した今となっては私はもう王族ではありませんので」
「あ、ああ分かった」
「あの時もそう言って結局は呼んでくれなかったじゃないですか!」
メルディン姫が怒ったように頬を膨らませて俺に抗議していると家のほうから呼ぶ声が聞えてきた。
「メル~~こっちの掃除を手伝っておくれ~~~」
「は~い。わかりました! すいません、呼ばれたので行ってきますね」
「ああ、またなメル(・・)」
「はい!」
その後、宿屋に戻った俺は今のアルフェクダ城のことが気になり、宿屋の主人に旅を再開することを伝え翌朝出発する事にした。
夜が明けて出発しようと宿屋の扉を開けた瞬間に何処から聞きつけたのか街中の住人達の殆んどが集まり、盛大に見送ってくれたのは驚きだった。 実際に助けたのは俺じゃないのかもしれないのに。
街の住人に見送られながらアルフェクダ側の街の門を潜った俺は暫く普通に歩き、街側から見えない距離まで歩くと上空に飛び上がり空中を移動することにした。
最初、召喚された時は曲がりくねった道なりに謎の集団から襲われながらも4日かけてザンカールに辿りついたが、空を飛んでアルフェクダに行ったときは僅か4時間たらずで到着する事が出来た。
「此処があの(・・)アルフェクダか!?」
空を飛行していた時も、あの巨大なアルフェクダ城が中々見えてこないと思っていたのだが、実際に見てみると数ヶ月前の城の面影は何処にも無く、城のあった場所には、ただ瓦礫の山が高く積み上げられているだけの状態でしかなかった。
荒れ果てていた家屋の方も更に酷い状態で所々に大きな穴が空いており、酷い物では半分溶けた様な状態になっている物まで見受けられた。
「これは・・・一体此処で何があったんだ?戦争か?街の住人の反乱か?」
いや戦争ならザンカールの街もあの程度では済まないし、街の住人の反乱にしても強固な城を瓦礫の状態まで破壊することはとてもじゃないが無理だろう。
暫く考え込んでいたが、周りに生存者はいないのか精霊に頼んでみてもらったが生存者はおろか死体も一体も見つけられる事は出来なかった。
その後も瓦礫を魔法で砕きながら『騎士の死体とか鎧の破片か何か見つけられないか』と夕暮れ近くまで辺りを探したが何の成果も見つからずに、その場を後にした。
(ルゥ、どう思う?)
(マスターの言うように戦争でもあったのなら犠牲になった騎士の死体や飛び散った血の痕が見つかる筈なんですが、それらしき物は見つかりませんし。 どういうことなんでしょうか?)
(主様、皆で再度付近を捜索しましたが此れといって手がかりとなるものは全く見当たりませんでした。 申し訳ありません)
(いやミラやルゥが謝る事はない。 俺も探したが、まるで神隠しにでもあったかのように跡形も無く消えているのだからな、探しようが無いさ)
(メルさんやザンカールの街の方達が仰っていたように、主様に瓜二つの方の仕業でしょうか?)
(もしそうだとしても人を消え去る魔法なんて物があるのか?)
(そう言われると確かに)
色々な疑惑をたてながらも何一つとして信憑性が齎されないまま時間だけが過ぎていった。
(しょうがない。 気になることだらけだが今更ザンカールに戻るわけには行かないし次の世界に旅立つ事にするか)
(宜しいのですか?)
(ああ此処で俺がすべき事は何も無い)
(分かりました。それでは世界を移動します)
その直後、俺の身体が光に包まれたと同時に俺の姿がアルフェクダの地から消え失せた。
まるで最初から其処に存在していなかったかのように・・・。
数々の疑問がミコトの頭をよぎるも、如何する事も出来ないので次の世界に・・・という流れです。
少し強引でしたが、次からは別の世界編になります。