表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
水の精霊編
112/230

閑話⑥ 愚かなる守護者 【後編】

幽鬼族・・・ファントムは実体のない幽霊みたいな存在と思ってください

そうか皆、俺を応援しに来てくれたのだな? 皆に代わって、俺が日々の鬱憤を晴らしてやろう。

・・・と思っていたのだが、俺に掛けられた第一声は『馬鹿な真似はやめろ』という言葉だった。

しかも竜人族だけなら兎も角、牛魔族ミノタウロス人馬族ケンタウロス、羽翼族や滅多な事では他人に干渉する事がない幽鬼族ファントムまでもが俺を止めようとしてくる。

皆の説教に苛立ち始めた頃、漸く人間が闘技場に姿を現した。

正直、最長老様といえども手を出したい気持ちになっていた俺は恨みを晴らすかのごとく言い放った。


「良く逃げずに来たな人間。 命を捨てる覚悟は出来たのか?」

「ミコト殿、昨日の夜にリュシオンから事を聞き驚きましたぞ。 悪い事は言いません、決闘など中止してください!」


この期に及んでまだ止めようとするのか!? 上から命令する事しか出来ぬ、竜人族の恥さらしめ! 

いい怪訝かげん諦めて、俺が目の前の人間を八つ裂きにする様を其処で見ているが良い。


その数分後に開始された決闘だが当然の如く、人間の初撃は天然の竜の鱗の前になす術がなく弾かれていた。

カウンターとばかりに俺からも手を出したのだが、寸前でかわされたようだ

俺は考えを変え、攻撃の手を止めると人間が力尽きて無様に命乞いをするのを待つことにした。

命乞いをしなくとも体力が尽きた頃を狙えばトドメを指す事もできる。


人間は攻撃が通じないと分かった直後、どのような小細工なのか剣の刀身を光輝かせた。

俺は人間の攻撃にあわせて今度こそカウンターで身体に風穴を穿ち、トドメを刺そうと思い身体を横にずらしたのだが、人間は俺の腕に狙いをつけていたようだ。


俺が身体を横にずらした事により、人間如きの剣では絶対に傷つかない筈の強固な竜の鱗に醜い傷が刻み込まれた。


「ひ弱だと見下していた相手から傷を負った気分はどうだ?」


人間め!どのような事をした。

いや、人間風情が俺を傷つけられるわけがない。 


「くそっ! たかが人間の分際で・・・最長老様、この試合は無効です。 人間如きが竜人族の身体に傷を付けられる訳がありません。 これは第三者の攻撃によるものです」

「貴様! この期に及んで、まだそのようなふざけた事を申すか。 この愚か者を拘束せよ!」

「「はっ!!」」

「な、何をする離せ、離さんか!」


俺の言葉は受け入れられては貰えずに、最長老様直属の竜人族の戦士によって俺の身柄は拘束された。


「己の実力すら推し量る事の出来ない未熟者よ。 最長老様による、沙汰あるまで牢で謹慎致せ!」

「この俺が未熟者だと!? 聖域の守護を最長老様から任される、この俺が・・・」

「貴様は何か勘違いをしてないか?」

「何の事だ!」

「聖域を守護する者が強いと誰が決めた? 門は役職についていない者が交代で見張りにつくだけの事。 仮に守護者がおらずとも最長老様の結界を破って聖域内に侵入できる者など、この集落には居らん」


俺は初めて聞かされる事実に頭が真っ白になり、気がつくと拘束していた者の手を振り解き、全力でとある方向へと走っていた。


「くそっ!俺こそが選ばれし戦士なんだ。 聖域の守護者が誰でも良い筈がない」


そして気がつくと俺の身体は何時の間にか宙に投げ出され、次の瞬間には水の中に沈んでいた。


「ガボゴボゴボッ・・・こ、此処は何処だ!?」


急いで水面に浮上し周囲を確かめると、頭上には薄緑色の膜の様な物質に覆われた島があった。

俺は確信した。 あれは俺が今まで暮らしていた亜人の大陸だということを。

同時にそれは羽翼族や幽鬼族ファントムとは違い、空を飛べない種族である俺が集落に戻る事が出来ないと確信した瞬間でもあった。


「まぁいい、どちらにしろ未練はない。 あの場所にいた所で俺の居場所は何処にもないのだからな」


そういえば結界の外という事は此処は人間の住む街なんだよな? 良いことを考えた。 

胸の傷の仕返しといってはなんだが、人間どもを痛めつけてやる事にしよう。

亜人の集落で暮らしている人間が外の世界に出たときにどんな顔をするのか見ものだな。


先ず最初に誰から殺ろうかと考えながら周囲を見回すと怪訝そうな顔で此方を伺う白い髪に白い眼という、あの人間とは正反対の風貌をした少年が視界に飛び込んできた。


「お前に罪はないが、恨むならミコトとかいう黒い髪をした人間を恨みながら死んでくれ!」


俺は決闘で使ったように手を鉤爪状にすると恐怖心で動けないのか微動だにしない少年の胸へと爪を突き立てた・・・・・・筈なのだが、胸を貫くどころか爪の先が僅かに皮膚に触れている状態から抜く事も刺す事も出来ない状態となっていた。


「痛いですね~行き成り何をするんですか? 僕は何か、貴方を怒らせる事をしましたか?」


俺は冷や汗が止まらなかった。 少しでも力を入れれば子供の身体、しかも人間ならば容易く殺せると思っていたからだ。


「き、貴様何者だ? 何故俺の攻撃を受けて平然としていられる」

「何者も何も見てのとおり、何処にでもいる子供ですよ? 変ですね~~~亜人と人間は友好関係にあると聞いてきたので此方から危害を加えない限り、傷つけられる事はないと教えられたのですが・・・」


俺の腕はまるで目に見えない何者かに摑まれているかのように、どの方向に力を入れようとも決して動く事はなかった。


「それにしても、目の前にこんな物(・・・・)があると邪魔でしょうがないですね。 退かしてしまいましょうか」


少年は地面に落ちている小枝でも掴むように俺の手を取ると、無造作に捻じ上げた。


「グアアアァァァァーーー・・・な、何をする!?」

「何って視界の邪魔になるので退かそうとしただけですよ?」


そして次の瞬間、信じられないことに目の前に居る、ひ弱そうな少年に肩の付け根から腕を捻じ切られた。


「ギャアァァァァーーーー!!」

「強そうに見えて案外、脆いんですね。 僕の力で簡単に千切れるんですから」


少年は俺の腕を無造作に捻りきると、もう片方の腕も同じ様に捻り上げていく・・・。


「た、助けてくれ。 何でもする、命だけは助けてくれ」

「情けないですね。 強そうに見えるのに僕のような子供に命乞いだなんて恥ずかしくないんですか? それに無抵抗の僕を殺そうとしたのは貴方なんですよ?」

「▲●■●■様、お戯れはその辺にしてそろそろ戻られませんと」


一体何処から現れたのか少年の背後に頭から足元まで身体全体を黒い布で覆われた、口調からして年配の男が少年に跪いて声を掛けている。

しかし、少年の名前が聞き取れない言語だった事が気になるな。 


「もうそんな時間? もうちょっと遊びたかったんだけどな。 ねぇもうちょっとだけ、あと5分ね?」

「我侭を言われては困ります。 早く戻らないと彼等に気づかれてしまいますよ?」

「それは確かに困るね。 そうだ! ねぇ、コレ持って帰っても良いかな?」

「此れは・・・竜人ですか?  きちんと世話が出来るというのなら構いませんよ」


こいつらは何を喋っているんだ?

『コレ持って帰る』っていう意味不明な言葉を聞いた気もするが・・・。


「やったーーーー! ねぇ、君は今から僕のペットだよ。 粗相して僕に恥をかかせたらお仕置きだからね。 分かった?」

「ちょっと待て。 どういうことか説明しろ!おいっ」

「じゃ僕は先に帰ってるから、ちゃんと連れて帰ってきてね。 千切れた腕も持って帰ってきてね」

「了解いたしました」


少年はそういうと、最初から存在していなかったかのように姿が掻き消えた。


「全く殿下にも困ったものだ。 おい、丁重に連れて行け!」

「「「はっ!」」」


これまた何処から現れたのか、俺の周りに禍々しい鎧を着込んだ3人組が現れ、俺を拘束したかと思うと次の瞬間には森の中にいた筈が形容しがたい空の色をした場所に連れて来られていた。


「こ、此処は何処だ!? 俺に何をするつもりだ」

「ふぅ、貴方は此れから殿下の愛玩動物ペットとして過ごして貰います。 言い忘れましたが拒否は出来ませんから、もし逃げ出したりしたら命はない物と思ってください」

「俺がペットだと!? 誇り高き、選ばれし民である竜人のこの俺が・・・」


その後、テュレイスをその世界で見た者はいないという。

 



謎の少年の正体については物語の終章で・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ