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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
水の精霊編
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第105話 竜人との決闘

今まさに人間を『ひ弱な生き物』と見下す、竜人族とミコトとの試合が始まろうとしていた。

流石に俺に敵意を持つ相手とはいえ、リュシオンの弟である存在を殺したくないので模擬戦用の剣を借りようと思っていたのだが、リュシオン曰く『大丈夫だからその剣で良い』との事だった。


舞台の外野には何時でも身柄を押さえられるようにと最長老を始めとする、他の亜人族が構えていた。

中には対戦相手である、竜人族の実の兄であるリュシオンや力自慢の牛魔族ミノタウロスのロイマスや俊敏な人馬族ケンタウロスのフェロスも軒を連ねている。


「ほう?ひ弱な人間の分際で良く逃げずに此処に姿を現したものだ。 それだけは褒めてやる」

「その人を見下した態度が何処まで続くかな?」

「ほざけっ! 叩き殺してくれるわ」


リュシオンの弟は行き成り、手を鉤爪のようにして俺に襲い掛かってきた。

余程短気なのか馬鹿なのか、確実に自分が有利であると判断し何の防御もせずに飛び掛ってくる。

俺はカウンターで相手の勢いを利用して致命傷にならない場所に剣を振るが、弟の身体の表面にビッシリと隙間なく覆われている鱗によって刺さるどころか傷一つ付けられずに弾かれる結果となってしまった。


「その程度か? やはり人間はひ弱な存在よ」


弟は弾かれた剣を見て薄ら笑い、鉤爪状の手を振り下ろしてきた。

俺は咄嗟に身を翻し右腕に掠り傷を負ってしまう。

とは言っても不死身の肉体なので瞬時に傷は治療され、痕は残らないが。


「手応えはあったと思ったんだが・・・人間は逃げ足も速いのだな」

「その皮膚が天然の鎧という訳か。 道理で隙だらけなわけだ」

「今頃気づいても遅いわ!我等竜人族こそがこの世で最も強き存在。 最弱たる人間など赤子の手を捻るも同然だ」


リュシオンの弟の愚かなる発言を聞いていると何処からか冷たい視線が弟に浴びせられている事に気がついた。


「何処を見ている?怖気づいたか。 今なら頭を地面に付けて謝罪すれば、許してやらん事もないぞ?」


俺の剣戟を受けて『やはり大した事はない』と思っているのか、此方に攻撃する素振りも俺の攻撃に対する防御をする素振りも見せずに、ただ舞台上で高笑いを続けている。


此れには舞台を取り囲んでいる亜人達もあきれた表情で、白い目線を弟に向けている。

さらには取り押さえようと構えている他の竜人達からも鋭い視線を向けられていた。


自分が最強種と信じる愚か者は後方から発せられる殺気とも思える視線に気づいていないと思われる。

流石に人間が魔法を使うのは不自然極まりないので魔法剣を使って倒すことにした。


(お灸を据えてやらないとな。 クラス20解放だ)



俺はイスラントール闘技大会で使用した魔法剣を使うべく魔力を解放する。


(生理的にも受け付けない奴だけどリュシオンの弟だからな、なるべく致命傷になる場所は避けないと。 とはいえ何処を狙えば殺さずに倒せるのか・・・腕か脚を狙えば良いのか?) 


クラス20の魔力が俺の腕を伝ってルゥに注がれ、白銀色の刀身が金色へと変化する。


「なんだ? 勝てないと思って小細工でも始めたか?」

「小細工かどうか、自分の身で確かめるんだな」

「ほざけっ!」


俺は風の魔法による加速も使い、懐に飛び込むと魔力によって金色に輝く剣で弟に切りかかった。

リュシオンの弟も光る剣は小細工と思っているのか防御の姿勢も見せずに踏ん反り返る様に立っている。

が、何を思ったのか弟が身体を少し横に動かした事で俺が狙っていた腕から外れ、胸に向かって切りかかる形となってしまった。



「しまった!?」


軌道修正しようとするも時既に遅く、剣は無情にも胸に吸い込まれていった。


『ズバァァァン!!』


今度の魔力を帯びた剣は竜鱗に弾かれる事なく、弟の身体の表面に右肩から左脇腹に掛けて深い傷跡を刻み込んだ。


『ブシャァァァァァーーー』


攻撃を馬鹿正直に真正面から受けた弟も事態が飲み込めず、傷跡から鮮血をほとばしらせながら舞台に膝をついた。


「な、何故だ!? 何故、この俺が人間如きの攻撃で傷を負わねばならんのだ」


弟は胸の傷を右手で押さえながら、左手を地面について立ち上がろうと足に力を入れるが、ただ震えるだけで立ち上がることは出来なかった。

そんな折、殺気だった視線を込めていた最長老が弟に近寄り、トドメともいえる言葉を投げかけた。


「ひ弱だと見下していた相手から傷を負った気分はどうだ?」

「くそっ! たかが人間の分際で・・・最長老様、この決闘は無効です。 人間如きが竜人族の身体に傷を付けられる訳がありません。 これは第三者の攻撃によるものです」

「貴様! この期に及んで、まだそのようなふざけた事を申すか。 この愚か者を拘束せよ!」

「「はっ!!」」

「な、何をする離せ、離さんか!」


リュシオンの弟は胸の傷から血を流しながら両脇を他の竜人族に拘束され舞台から下ろされた。


「全く、身の程を知らぬ愚か者めが・・・ミコト、愚弟であるテュレイスに代わり謝罪する。 すまなかった」


弟の名前はテュレイスっていうのか。

出来れば本人から教えてもらいたかったけど、あの様子だと如何考えても無理だな。


それはそうと結構深めに入ってしまったが、あの傷が原因で死に至るって事はないよな?

そう疑問に思い、リュシオンに聞いてみると。


「俺の方こそ、ついかっとなってしまった。 あの傷は大丈夫だろうか?」

「あの程度の傷なら心配はない。 我等竜人族の自己再生能力は、例え腕を飛ばされようとも時間さえ掛ければ元通りになる」


まるで『蜥蜴の尻尾みたいだな』と言いそうに成ったが流石に失礼になると思い言わずにおいた。


「アイツの処分はどうなるんだ?」

「我らが兄弟、最長老の息子とはいえ重い処分は免れないだろう。 自分が見下していた人間に負けたばかりか、神聖なる決闘に不服を唱えたのだからな」

「ちょっと待て。 最長老の息子!?」

「ああ、言わなかったか?」

「初耳だ・・・」

 

舞台を取り囲んでいた他の竜人族を含む亜人達からもテュレイスの行動を非難する声が数多く寄せられ、ただ一人として彼の味方する者は居なかった。


その後のリュシオンの話によるとテュレイスは最長老の命により謹慎処分となったそうだが、見張りについていた竜人族の隙をついて逃亡したとの事だった。


皆、俺への仕返しが来ると思い、家の周りに最長老の命で防御陣が敷かれたのだが襲撃はおろか、テュレイスの姿さえ集落で見ることは出来ずに何時の間にか行方不明という扱いとなった。


そして人間の住む町にまでテュレイスの捜索網は広げられたが、何の手がかりも得られずに聖域での祭りの日を迎えることとなってしまった。



次話は今回の決闘相手となった竜人、テュレイス視線での物語を書こうと思っています。


なるべく早く仕上げようと思っているので楽しみにお待ち下さい

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