第104話 仲良く食事する筈が・・・
少し展開に手を加えました。
人間を見下している亜人の設定ということで
亜人達の集落で45日が経過し聖域での祭典まで残すところ半月という、この頃になるとミコトのことを『たかが人間』と呼ぶ者はたった一人を残しておらず、聖域を守護する竜人族の兄とまで仲良くなっていた。
その『たった一人』の聖域の門番である竜人族の弟だけは受入れてはくれなかったが。
聞けば自分達、竜人族が誰よりも優れていると思い込み、寿命が短い人間を蔑んでいるようだった。
この事には俺と仲良くしている、兄であるリュシオンも心を痛めていた。
或る日の夜、俺と仲違いをしている聖域の門番である竜人族の弟と俺との仲を取り持つため、キイラさんの家で食事会が催される事となった。
当然、俺と顔を合わす事も喋る事も気にいらない弟は食事会に来る事を拒否していたのだが、最長老の命令と言う事で無理矢理参加させられていた。
事を心配した最長老が『命令』という言葉で間に入ってくれたのである。
「兄者も最長老様もどうかしている。 ひ弱な人間など我等と肩を並べる資格すらないというのに」
「お前はまだそのような事を言っておるのか!? しかも事もあろうに最長老様をも侮辱するとは!」
「いや何回でも言わせてもらう。 たかだか100年前後しか生きられぬ人間と最低でも1000年以上もの寿命をもつ我等竜人族が同じ高さの場所で飯を食うとは・・・」
「そのような事を仰らずに此処は私の顔を立てて、どうか穏便に」
竜人族の弟はキイラさんと実の兄であるリュシオンに言葉を投げかけられながらも、俺に背を向け食事をしていた。
「ミコト、すまぬな。 弟に代わって失礼を詫びよう」
「兄者! 下賎な者に頭を下げるとは・・・竜人族のプライドを捨て去ったのか!?」
「貴様はまだそのような愚かな事を」
間に入って仲を取り持とうとしていたキイラさんが青い顔をして右往左往している中、リュシオンの必死なる説得が続いている。
(マスター、好き勝手言われてますね。 流石の私も腹が立ってきました)
(ルゥ殿の言うとおりです。 主様の事を馬鹿にするなど我等精霊が黙っておけません!)
(2人(?)の気持ちは分かるけど、事を荒げるのも如何かと・・・)
(((いえ、此処はビシッと実力を示すべきです)))
会話に参加していなかった火の精霊であるフレイと風の精霊であるシルフまでもが竜人族の弟の言葉に我慢ならないといった表情でミラに混じって苦言してきた。
(正直、力で認めさせるという行為は嫌いなんだけど、この際しょうがないか)
(主様、実力の差を思い知らせてあげてください)
ミラの後押しを受け、キイラさんとリュシオンに説教と言う形で話しかけられている弟に声を掛けた。
「如何すれば俺のことを認めてもらえるのですか? 力を示せば良いのですか?」
俺の問いに此処に来て初めて俺と目線を合わせた弟は嘲笑しながら睨みつけてきた。
「ふんっ、ひ弱な人間如きが強靭な肉体を持つ我等と互角であるとでも?面白い。 その考え、真っ向から粉々に打ち砕いてくれるわ!」
「ミコトさん!? なんてことを・・・今からでも遅くはありません。発言を撤回してください」
「そうだ。 いかに弟が愚か者とはいえ、竜鱗に守られた我等が身体はおいそれと傷つける事はできん。 悪い事は言わん、発言を撤回するのだ」
「くくくっ臆病風に吹かれて逃げ出すのか? やはり人間はその程度の生き物なのだな」
「いえ撤回はしません。 その伸びきった天狗の鼻を圧し折ってあげましょう」
「ほう?面白い。 場所と日時は貴様に決めさせてやろう。 好きな日を選択するが良い」
「では日時は明日の昼、竜人族の修練所で」
「態々、竜人の里でやり合うと? 皆の前で醜態を晒すと良いわ!」
弟は高笑いしながら乱暴に家の戸を開けると何処かへと歩いていってしまった。
「ミコトさん、何て事をしてしまったのですか!? もう取り返しがつきませんよ?」
「その通りだ。 弟の性格からいって公開処刑するつもりだろう、明日は無理にでも棄権するべきだ」
「大丈夫ですよ。 俺もあそこまで言われては腹の虫が治まりませんから。 それじゃあ明日に備えて眠りますね・・・おやすみなさい」
キイラさんとリュシオンが揃って頭を抱える中、俺は自分に宛がわれた部屋に戻り眠りについた。
そして翌朝、決められた時間に竜人族の集落にある修練場に行くと其処には何処から事を聞きつけたのか大勢の亜人達が闘技舞台の周りに集まってきていた。
そんな中、舞台の中央では何の防具も武器も身に付けていない弟が仲間の竜人族に囲まれて何かを喋っている。 取り囲んでいる中にはリュシオンと最長老の姿もあった。
「良く来た人間。 命を捨てる覚悟は出来たのか?」
「ミコト殿、昨日の夜にリュシオンから事を聞き驚きましたぞ。 悪い事は言いません、決闘など中止してください!」
弟が話しかけたことから俺の姿を確認した最長老は愚かな決闘を辞めさせるべく、俺の前に立ち塞がった。
「あの者には後日、厳重注意いたしますので此処は一つ」
「いえ良い機会ですし、実力を思い知らせてあげましょう。 ひ弱な人間の力がどのような物か」
「・・・分かりました。 ただ万が一の場合は皆で取り押さえますので、その事はご了承下さい」
最長老は俺にそっと頭を下げると、舞台の上で弟と会話している他の竜人族に声を掛け、舞台を降りていった。
「最長老様、止めなくても宜しいのですか?」
「構わん。 ただし何時でも取り押さえる準備はしておけ」
「分かりました」
そういう遣り取りから数分後、子供の喧嘩のような試合が始まろうとしていた。