第102話 『近づくな』と言われると
お待たせしました。
最近、腰痛でパソコンの前に座っている時間が限られてくるので、かなりシンドイです。
背もたれに寄り掛かりながら書いていますが、それでもキツイです。
集落で生活し始めてから数日が経過した頃、いつもの様に散歩しながら歩いていると何時の間にかキイラに『決して近づくな』と言われていた聖域の前に佇んでいた。
更に聖域へと続く門の前には御伽噺や物語で登場するような龍の姿を持つ者が2人、2本足で立ち他者を圧倒するかのような眼で周囲を見据えていた。
「むっ!? 其処に居る者は誰だ?」
その姿に圧倒されながら立ち竦んでいると、1人の竜人が話しかけて来た。
流石に怪しがられたのか目線は俺を捕らえているが、手は何時でも剣を抜けるようにと腰の鞘へと添えてあった。
「其の方は人間か? 何故このような場所に人間が居る!?」
「まあ待て」
問答無用でヤられるかと思っていると、もう片方の者が此方に飛び掛かろうとしている相方を諌めた。
「兄者、何故止める? 人間がこの集落に居る事自体、不審極まりない事だぞ?」
「長老が言っていたことを忘れたのか? 精霊の加護を受けた人間が集落に住んでいると言っていただろう?」
「だが人間だぞ!?」
「話しにならん、お前は聖域の門番に戻れ。 人間への話は俺がする」
「・・・・・承知」
俺のほうへ突っかかってきた龍の姿をした人間は俺を睨みつけながら聖域の前へと戻っていった。
「さて人間、済まなかったな。 弟はあの通り猪突猛進な性格でな、手を焼いて困っておるのだ」
「あの人間人間って・・・俺の名前はミコトです」
「そうか度々すまないな、だが此処は大陸を取り囲めし結界の要とされる聖なる泉。 何人たりとも祭りの時以外での聖域への立ち入りは禁じられておる」
「すいません。 集落の中をいつもの様に散歩していたら此処に辿りついてしまいました」
「そうか、先程も言ったが此処は精霊が棲むと言われている聖なる泉・・・もしも此処に異変が生じる事となれば大陸を取り囲む結界は一瞬で消滅し、亜人に悪意を持つ人間や邪な意志を持つ魔物が傾れ込んで来るだろう」
「分かりました。 ところで貴方方は?」
「我等は誇り高き竜人族・・・といっても最長老様と我等兄弟、集落に棲む家族を合わしても10人しか居らぬがな」
「なるほど竜人族ですか、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。 それでは此れにて失礼しますね」
「言い忘れたが今日より53日後、精霊様に感謝する祭典が聖域にて執り行われる。 聖域に興味があるなら、その時にまた来るが良い」
別れ際に竜神族の門番からそう言われ、軽く頭を下げ集落へと戻っていった。
集落に入ると木を背にして此方を見つめているキイラに出くわした。
「ミコトさん、聖域に近づかないで下さいと言いませんでしたっけ?」
「もしかして見てたんですか?」
「何時もの日課である森の見回りをしていたら聖域の門番と口論しているミコトさんの姿が見えたんですよ」
「そうですか・・・でも行くなと言われて好奇心が芽生えるのは人としての性じゃないですか?」
「気持ちは分かりますが、祭典の日を待ってくれませんか? 最悪、命に拘る事なんですよ?」
「分かりました。 もう行きません」
「お願いしますよ。 本当に・・・」
散々キイラさんからの説教を聞いた後、寝床を貸してもらっている家に戻り夕食を済ませた後、眠りについた。
その夜、久しぶりにミラによって夢の中へと呼ばれることとなった。
「ん? 此処は夢の中か?」
「その通りです主様。 御足労をお掛けいたしまして申し訳ありません」
「御足労と言っても俺は寝ただけなんだけどな・・・・それで何か用なのか?」
「はい。 水の精霊から、主様にお話があるとの事で」
「水の精霊から? 分かった聞こうか」
「では・・・」
ミラであると思われる光り輝く人型が身を翻すと、その後から全身が薄青色の人型が此方へ歩いてきた。
「態々御呼び立て致しまして、申し訳ありません。 水の精霊の思念体でございます」
青い人型は俺の目の前まで歩いてくると深々と頭を下げていた。
「突然如何したんだ?」
「貴方様には泉の目と鼻の先まで来られたにも拘らず、お目見えできなかった事。この場を深く謝罪いたします」
「それはしょうがないだろ? 亜人達も決まりだと言っていたしさ」
「ありがとうございます。 それでは53日・・・いえ52日後を楽しみにお待ち申し上げております」
其れだけを言うと、水の精霊は其処に誰も居なかったかのように姿が掻き消えてしまっていた。
そうして何事も無かったかのように朝を迎え、いつもの様に集落を歩き回る事にした。
聖域の扉が開かれる52日後を楽しみに待ちながら、亜人達と生活を共にし一分一秒でも早く皆と仲良くなるため頑張って暮らしていこうと改めて決意した。