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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
水の精霊編
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第97話 人間と亜人

北の大陸に着くまでの食料を買い込み異空間へと収納した俺はザンカールを出て暫く歩いていた。

理由はと言えば、羽根も翼も無い普通の人間が空を飛んだりしたら間違いなく大騒ぎになるからだ。

そうして歩くこと十数分、ようやくザンカールの街が視界から見えないところまで来る事が出来た。


「大分歩いたし、此処から飛んで「キャアァァァァァーーーー!!」なんだ?」


今まさに飛ぼうとしていたところで何者かの叫び声が聞えてきた。

何事かと思い、声のするほうへと歩いていくと背中に白い羽根の生えた亜人の女性が手に剣や槍といった武器を持った複数の者達に囲まれていた。

良く見れば肩から血を流していることに気がついた。


「化け物風情が人間と同じ赤い血を流してんじゃねえよ!!」

「そんな・・・」

「ああ!? 喋るんじゃねえ!耳が腐っちまうだろうがよ」


羽根の生えた亜人の女性は何か動作をするたびに蹴られたり殴られたりを繰り返し行なわれていた。


「やめろ!!その人を離せ」


俺は咄嗟に剣を抜き、亜人を囲っている一角に体当たりをして女性の前に割り込んだ。


「なんだお前は?俺たちは化け物を退治しているんだ。邪魔するんじゃねえよ!」

「何が化け物だ。この女性は亜人じゃないか!」

「亜人か・・・笑わせるな!背中にある羽根を見ろ。俺達とは全然違う化け物じゃねえか!!」

「わ、私は化け物なんかじゃない」

「大丈夫だ。 事が済めば治療するから、それまで我慢していてくれよ?」

「はい。 ありがとうございます」

「ごちゃごちゃと何を喋ってやがる。 化け物に味方するなら貴様も敵だ!皆、やっちまえ」


散々亜人の女性を罵っていた男が合図すると、周りを取り囲んでいた男達が一斉に武器を振りかぶりながら襲い掛かってきた。


「しょうがないな・・・出来る事なら、あまり人間は傷つけたくは無かったんだが」


俺は自分の攻撃で命を落とすような致命傷を与える事は避けるため剣を鞘に戻し、拳打で打ちのめしていった。

あるものは剣の柄を握っていたコブシを砕かれ、ある者は肩の関節を砕かれたりと血は出てはいないが戦う事が出来ないまでに打ちのめされていった。


戦い始めてから約20分が経過した頃には地面に2本の足で立っているのは俺だけとなっていた。


「も、もうやめてくれ!俺たちが悪かった。命だけは助けてくれ」

「信用できないな。別の場所で同じ事を亜人に対して繰り返すのだろう? 此処でトドメを刺しておくか」


芝居がかった冷血な目で男達を睨みつけてやると、腰が抜けているのか悲鳴を上げながら四つん這いや匍匐ほふく前進のような体勢で一目散に逃げていった。


「情けない奴等だ。おっと大丈夫か?怪我は然程でもないようだな」

「何方かは存じませんが、危ないところを助けて頂き、ありがとうございました」

「いやいいよ。 あんなのが俺と同じ人間だと思うと無性に腹が立ってくるけど。 今回の事で人間を嫌わないで居て欲しい。 あんな馬鹿野郎どもが全てではないからな」


俺は亜人の女性に優しく声を掛けながら回復魔法で傷を治療していった。


「分かっていますよ、ザンカールの人達にも良くしてもらってますから。 それにしても・・・貴方は人間なのに魔法を使えるのですね。吃驚しました」


人間なのに?如何意味だろうか・・・聞いてみることにしよう。


「この世界の人間は魔法を使えないのかい?」

「この世界? 変な言い回しをしますね、まるで別の世界から来られたみたいに・・・」

「あ、ああ、いや何でもないよ、気にしないで」

「そうですか~? あ、先程の魔法を使えるかという問いですが、魔法は私達みたいに精霊と契約したものにしか扱う事が出来ません。 魔力自体が異質なる物と人間達に恐れられていますから、貴方が如何して魔法を使えるのか分かりませんが、なるべく人前で使わない方がいいですよ?」

「そうだな。 よし、これで怪我は治った筈だ。ちょっと立ってみてくれる?」


俺がそう言うと、地面に手を突いて蹲っていた女性は土を掃いながら苦も無く立ち上がった。


「うん。大丈夫みたいだね」

「本当にありがとうございました。この御恩はいつか必ず」


亜人の女性は其れだけを言うと羽根を広げ、宙に浮かびあがっていく・・・。

何度も何度も此方を振り返り頭を下げ、遠く北の方へ飛び去っていった。


(マスター、人間は自分とは違う生き物に恐れ敵意をむき出しにします。 ザンカールの人達のように、亜人に対して友好的な方々もいらっしゃいますが)

(そうだな。 会話さえすれば分かり合えると言うのに愚かな事だよな)


それから俺は何処に人の目があるか分からないため、人間が行けると言う所まで歩いていく事にした。

飛んでいく事を前提として事前に購入しておいた食料は僅か1週間で底をつき、森に自生している果物や見るからに毒だと思われる怪しげなキノコや襲い掛かってきた魔物をも口にしながら足をすすめた。

ルゥに気配を探ってもらいながら、持ち前の身体能力を駆使して走り続ける事凡そ20日間、ようやく北の大陸の目と鼻の先という場所に辿り着く事が出来た。


「目の前にある大陸が亜人達が住むと言われている北の大地か・・・」


俺の目の前には薄紫色のもやに包まれた、不思議な違和感を醸し出す大陸が広がっていた。


「問題はどうやって内部に入るかだな。 精霊の加護を受けし者しか出入りする事ができない結界とは」

(主様?私達のことをお忘れですか?)

(ミラか。どういうことだ?)

(『どういうことだ?』とは心外ですね。 私は精霊王ですよ?精霊の加護を受けし者なんて主様の存在以上に考えられませんよ)

(それじゃあ、俺にも結界を通り抜けられると言う事か?)

(問題ないでしょう)


俺はミラの言葉を信じ、練習を思い出して風の魔法を全身に覆うと空を飛んで結界に突入した。

結界に入る直前に無意識に息を止め、目を瞑ってしまったが、気が付くと何の抵抗も感じずに結界内に立っていた。



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