第96話 飛行魔法習得
皆さんは地震で怪我など負ってませんか?
自分が住んでいる地域では、酷くても震度1~3の揺れで済みましたので怪我も無く大丈夫でした。
元々不死身なため疲労感と言うものは何も無かったが一呼吸おいてから異次元空間への扉を開いた。
改めて亜空間内へと入ってみて思った事はと言えば、その広さだろう。
物を取り出しやすいようにと入口近くにおいてある荷物を修行の巻き添えで壊さないようにと100mほど奥へと歩いていったのだが、それでも目の前には地平線が広がるのみだった。
(自分でこの空間を作っといてなんだけど、流石に広すぎるだろう!?)
(マスターの無尽蔵な魔力を使って作られた空間ですからね。 間違いなく、前例の無い広さでしょうね)
(確かにな・・・此れだけ離れれば良いか。 修行を開始するぞ)
(分かりました。確か闘技大会の時に教えてもらった内容によると風の魔法を身体を包むようにして展開させて宙に浮くところからですね)
(そうだな。それじゃあ・・・始めるとするか!)
俺はイスラントールの武道大会にて風の魔術師から教えてもらったことを心の中で反芻しながら魔力を解放し、風の魔法を身体の周辺に展開させた。
身体を浮かせるだけなら、エルフの森近くに落下した時に一瞬ながら成功したので、難なく習得できたが問題は此処からだった。
普通の魔術師とは違い、俺の場合は魔力切れを起こさないため自分で魔法を解かない限り空中に浮き続ける事が出来るが、第二段階である空中移動は何をしようと1mmたりとも動く事はなかった。
(マスター、あの時の言葉を思い出してください。 魔法を後方や側面に放出する事で、その逆の方向に移動する事が可能になるんです)
(いや理屈は分かっているんだが、いざ実行しようとすると上手く行かなくてな)
(私には応援する事しか出来ませんが、マスターなら必ず出来ます)
(どこぞの熱血漫画じゃないんだからさ)
(意味が分かりませんよ、気合で頑張ってください)
ルゥはそう言うが、後方に魔法を飛ばそうとすれば身体の周りを覆っている風の膜が薄くなって落下するし、落下を止めようと風の膜を強化すれば身動きが取れなくなるし・・・一体、如何すればいいんだ?
その後、瞬く間に亜空間内で数時間が経過し徐々に感覚が攫めて来たのか、少しずつではあるが移動する事ができるようになっていた。 腹が減った事で久々に外へと出ると辺りは既に真っ暗になっていた。
(もうこんな時間か。 ん?あれは?)
部屋の扉を見ると、扉の横にある小窓には緑色をした何かのスープとメモのような物が置かれていた。
メモにはこう書かれていた。
『宿屋特製の薬膳スープです。 少し苦味がありますが、疲労回復には最適なので、お召し上がり下さい』
どうやら俺の体調を気にしてくれた宿屋からの、お心遣いのようだった。
「俺はいろんな人に迷惑を掛けてしまっているな。 此れを喰って修行の再開と行くか」
その後、宿屋の主人に感謝しながらスープを口へと運んだが、少しどころか洒落にならないほどの苦味にのたうちまわる事になってしまった。
現代風に言い換えるならば、100%のニガウリジュースを飲んでいるかのようだった。
寝る間も惜しんで明け方近くまで修行した事によって、高速移動とまでは行かないものの思い通りの方向へと移動する事が出来るようになっていた。
俺はその結果に満足し、部屋へと戻った。
修行に熱中していた所為か、既に夜が明けていたがベッドで一休みすることにした。
寝ている時に誰かから呼ばれたような気もするが、気にもしないで寝続けたが、気が付くと窓の外は赤く夕暮れの色に包まれていた。
「!? 俺はどれだけ眠っていたんだ?」
(マスター、幾らなんでも寝すぎですよ。 宿のご主人も流石に心配して何度も様子を見に来てましたよ? 私も何回も呼びましたが、カラ返事ばかりで全然起きてくれないんですから)
(そうなのか?)
俺がルゥに色々と寝ている間の事を聞いていると、不意に扉が開かれた。
其処には宿屋の主人と、背の低い背中に羽根のある初老の男性が息を切らせながら立ちすくんでいた。
「お、お客さん、やっとお目覚めになられましたか!?」
俺は何の事か分からずに首を傾げていると、宿の主人が話しかけて来た。
「お客さんは丸一日目を醒まさなかったんですよ!」
「丸一日!?」
「何度声を掛けても応答が無かったので、たまたま街に居られた妖精族のお医者様に来ていただいたという訳です」
宿の主人がこういうと影から蜻蛉のような羽が背中にある亜人が現れた。
「あまりワシのような年寄りを急がせるものではないぞ。あ~~~疲れたワイ」
「お手数をお掛けいたしまして、申し訳ありませんでした」
咄嗟のことでベッドの上に腰掛けたまま、2人にお礼を言った。
「なぁに取り越し苦労じゃったが、無事に何よりじゃ。 見る限りでは顔色も良さそうじゃし問題は無かろうて。 それじゃあワシは此れで失礼するぞ」
「俺のために態々ご足労願いまして、ありがとうございました」
「困った時はお互い様じゃ、ではまたな」
妖精族の初老の男性は片手を上げて挨拶をすると、背中の羽根で窓から飛び立って行った。
「貴方にもご迷惑をお掛けいたしまして申し訳ありませんでした」
「いいってことよ。 先生も言ってたが無事で何よりだ、それじゃあな」
その後、丸1日寝ていた所為か流石に眠気は起きず、完全に日が昇るまで異空間で修行する事になり完全に空中移動を物にする事ができた。
翌朝、2日分の宿泊費として80GLを支払い宿屋を後にした。
「お客さん、本当に大丈夫かい? 無理しない方が良いんじゃないか?」
「いえ、ぐっすりと眠らせていただきましたし、ご主人特製の薬膳スープの御蔭もあって体調は万全ですよ。 本当にありがとうございました!」
「困った時はお互い様ですよ。 また来てくださいね」
宿屋を後にした俺は食材店などで食料を買い込み、北の大陸への旅を再開する事にした。
東日本大地震で亡くなられた方々に、心からご冥福をお祈り申し上げます。