第95話 見かけとは裏腹に・・・
ついに目標としていた、100部数目を更新できました!
「んっ!? なんだあれは?」
アルフェクダの城下町と比べると天と地ほども離れた活気のあるザンカールの街を歩いていると道具屋の店先で背中に黒い羽と腰の部分に尻尾が生えた男が店主となにやら会話していた。
一瞬、魔物に襲われているのかと考えたが道行く人達も街の門番も特に慌てている様子は見受けられず、それどころか陽気に挨拶を交わしていた。
「それじゃあ、次回は一ヶ月後くらいにでも、お邪魔致しますね」
「ああ待ってるよ。 あんたの所の品物は質が良いからな、皆も楽しみにしてるんだよ」
「それは何よりのお言葉。 皆も喜ぶでしょう・・・それでは失礼致します」
背中に羽根の生えた、悪魔のような背格好をした男は店から大通りの方向に数歩歩いたところで背中の羽根を広げ、飛び去っていった。
「あれは一体・・・」
俺が何時までも見ていると行き成り急加速し、あっという間に姿が見えなくなった。
色々と気になることも有るので男が会話していた道具屋へと足を運ぶ。
「あの~すいません」
「あっと、いらっしゃいませ。 何をお探しでしょうか?」
「すいません、道具を買いに来たわけではなく、少し聞きたい事があるんですが宜しいでしょうか?」
「は、はい。 私にわかる事ならなんなりと」
「それじゃあ・・・先程店頭で背中に羽根が生えた方とお話されてましたが、あの方は?」
一瞬“悪魔”と言いそうになってしまったが、悪い予感がしたので言い換えることにした。
「ああ、さっきの事ですね。 あの方は羽翼族のキイラさんです。 週に一回は北の大陸から行商に来てるんですよ」
「羽翼族?」
「知りませんか? 此処から歩いて数十日も掛かる北の大陸に住む亜人の方ですよ。 あんなに優しい種族なのに一部の国の人達からは姿が違うと言うだけで悪魔と呼ぶ人も居るらしいですけどね。 全く見かけだけで判断するなんて低俗な事ですよ」
「そうなんですか。 北の大陸か、興味あるな」
「お客さん、歩いていくのは流石に無理ですよ?」
「どうしてですか? 数十日歩けば到着するんじゃないんですか?」
道具屋の店員は溜息を一つすると詳しい説明をしだした。
「ハァ~本当に知らないんですね。 確かに先程、数十日歩けばと言いましたが、行けるのは北の大陸の手前までなんです。 其処から先は進む事は出来ません」
「進む事は出来ないって・・・海か何かで? 船があれば行けるんじゃないんですか?」
「いえ、彼らの住んでいる大陸には強力な結界が張り巡らされており、普通の人は中に入る事はおろか、近づく事さえ出来ないと言われているんです」
「結界?」
「古くからの御伽噺では精霊が張った結界と言われてますが、確かめた方はいらっしゃらないので」
精霊の結界か・・・もしかすると俺が探している精霊は其処に居るのかもな。
(マスター、数十日も旅をしなければならないとなると食料も大量に買わないといけませんね)
(そうだよなぁ~出発時に貰った1000GLで足りれば良いけど・・・って数十日かかるんだよな!? さっきの羽翼族とやらは数十日も掛かって此処に来るのか!?)
「お客さん?如何したんですか、急に黙っちゃって」
「ねえ店員さん、さっきの羽翼族の人は数十日も掛かって此処まで行商に来るんですか?」
「ああ、その事を考えていたんですか。 彼らには羽根がありますから、私達が数十日も掛かる距離を彼らは何の遮蔽物も無い、空を飛んで10日くらいで来られるそうですから」
なるほど空を飛ぶという手があったか・・・。
前の世界に到着した時に一瞬だけ浮く事が出来たから、慣れれば空を飛ぶ事が出来るかもしれないな。
(マスター?魔法の練習をするのですか?)
(ああそうだ。 宿に泊まって亜空間倉庫で練習する事にしよう)
(分かりました。 それではまずは宿屋の場所を探す事からですね)
(どうせだから目の前の店員に聞く事にしよう)
(そうですね)
精霊の声は普通の人間には聞き取る事が出来ないため、道具屋の店員は此方を不思議そうな目で眺めていた。
「お客さん、具合でも悪いんですか? 無理はなさらない方がいいですよ?」
「いや、そういうわけでもないんだけど。 少し旅の疲れがあるだけですから」
「無理は禁物です! 丁度直ぐ其処に宿屋がありますから、倒れる前に行って下さい」
完全に俺を病人扱いしている目の前の店員に一言文句を言ってやりたかったが、凄い剣幕で言い返すことは出来なかった。
「直ぐ其処?」
「此処から見える赤い看板のある建物です。 心配なさらなくても、宿代は高くありませんから」
「分かった。 そうさせてもらうよ、ありがとう」
「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。 出来れば今度来る時は何か買って行って下さいね」
道具屋の店員から後ろ髪を引っ張られそうな言葉を投げかけられながら赤い看板を目指して歩き出した。
歩き出して数分が経過した頃、青い壁に緑色の屋根という何処から見ても目立ちそうな2階建ての建物にベッドの絵が描かれた赤い看板が掲げられていた。
「どうやら此処で間違いないようだが・・・それにしても派手な建物だな」
いつまでも看板を見て溜息をついている訳にも行かないので意を決して建物の中へと入って行った。
外見があんなだから中も凄い事になっているのかと思ったが至ってシンプルな感じだった。
「おっ、いらっしゃい!」
「泊まりたいんですが、部屋は空いてますか?」
「おお、空いてるよ! 1泊2食付で50GLだが構わないかね?」
「はい。 お願いします」
「それじゃあ、此れが部屋の鍵だ。 部屋は2階の一番奥だから間違えないようにな」
「すいませんが旅の疲労は酷いため、夜まで休ませていただきますね」
「それなら夕食は部屋の中に入れるようにするから、ゆっくり休んでくれ! 身体は大事にな」
俺は軽く宿屋の親仁に頭を下げ、『そういえばこの世界に来てから何も食べていないな』と思いながら、重い足取りで部屋のある2階へと歩いていった。
「全然大丈夫そうじゃねえな・・・。滋養の食事を作ってやるか」
明らかに何かを誤解している宿屋の主人を横目で見ながら、部屋へと行くと部屋の扉の横に窓が備え付けられていた。
『これは一体なんだろう?』と思いながら部屋に入り、窓の裏側を見てみると窓と同じ高さのある台に貼り紙がしてあった。
『この台は外から食事を配給するための物です。 此処には物を置かないで下さい』とあの宿屋の店主からは想像も出来ないほど、綺麗な字で書かれていた。
心の中で迷惑を掛けている事を謝罪した後、修行の前に休憩する事にした。
物語の中で金銭の単位であるGLは、1GL=約100円と考えてください。