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神秘解戦~オルゴールプラネット~  作者: 白石誠吾
第一章-前編「邂逅前夜」
9/14

Op.8「虫喰い穴」

 まるで空間そのものに亀裂が入っているかのような異様な光景。

 前方300メートル先、地上から約20メートルの上空に起こった異変。

 それは、緑豊かな森の上に発生した縦30メートル級の巨大な裂け目だった。


 この不気味な現象に興味を惹かれつつも安易に近づくつもりはない。

 むしろ、今にも逃げ出した方が良さそうなほど不穏な気配が漂っている。

 それなのに何故か目の前の常軌を逸した光景から目が離せず、その場に立ち尽くしてしまう。


(空間の亀裂……どういう原理だ? これから何が起こる? いや、とりあえず距離を……)


 見惚れるような形で20秒ほど空を見上げ続けたところでようやく我に返った。

 そして頭を切り替え、腕の中の有能なロボに目の前の現象を確認しようとした。

 しかし、思わぬ形で一足先に答えが提示されてしまう。


魔導災害の脅威指標(ハザードレート)ステージ5の緊急信号を受信しまシタ」


 クロの後頭部付近からビービー、と緊急地震速報のアラームに似た警報音が響き、それと共に機械音声で伝えられた不穏な情報。おまけに目元のディスプレイも赤く点滅し、警戒心を煽るような状態となっている。


「続いて、推定レベル4の次元層の虫喰穴(ワームホール)の観測に伴い、現在地が魔導災害指定区域および緊急避難区域に指定されまシタ」

「は? 次元層の虫喰穴(ワームホール)? 魔導災害? もう訳わかんねぇな」

「速やかに避難用シェルターへ避難してくだサイ」

「いや、避難用シェルターってどこ!?」

「現在地から最も近い避難用シェルターを検索しマス。少々お待ちくだサイ」


 クロの目がローディング中のゲームのようにぐるぐると回り始めた。

 避難用シェルターとやらの場所を検索しているのだろう。

 なぜ避難しなければ分からない状況だが、避難が必要なのは確かだろう。

 現状の説明を求めてフリーズとかされても困るので大人しく解答を待つ。

 避難用シェルターとやらの位置情報をもらって、その道中に色々聞けばいい。

 これが今できることと割り切り、何を聞くべきか頭の中を整理しようとするが……


 メキッ――


 上空にある空間の裂け目から大きな亀裂音が轟いた。

 先ほどまでのパキっという軽い音が強く深い音へ変化した。

 その不気味な音と共に空間に生じた亀裂はゆっくりと範囲を拡大していく。

 最初は30メートルほどだった縦の亀裂は、40メートルほどに広がっていく。

 さらに、その亀裂部分から蜘蛛の巣のようにヒビ割れが広がっていった。


「どう見てもヤバそうだよな」


 クロが避難用シェルターの情報を検索中みたいだが、直感でこの場に留まるのはマズいと感じた。

 とりあえず、距離を取ろうと来た道を引き返そうとするが――


 ガシャンッ――


 分厚いガラスが粉砕されたような音が轟いた。

 それは空間の裂け目を起点として、周りにヒビ割れていた箇所が大きく砕け散った音だった。


「なっ!?」


 振り返り再び視線を向けると、空にぽっかりと()()()が誕生していた。

 先ほどの話の流れからして、あれが次元層の虫喰穴(ワームホール)なのだろう。

 ただ、それに対する解説はまだ貰っていないので何が起こるか分からない。


「ん? 何も起こらなっ……」


 俺の楽観的な考えは、獰猛な獣の雄叫びに吹き飛ばされた。


 グォオオオオオオオオオオオ


 体の芯に響くような巨大な咆哮を上げ、黒い穴から顔を出したのは巨大な鮫。

 大きく開いた口には、獲物を噛みちぎるための鋭利なギザ歯。

 体表は上部が黒く、下部は青白い。色合い的にはスタンダードな鮫の印象。

 普通の鮫と違うのは常軌を逸したサイズであること。

 まだ体が半分ほどしか見えてない状態で10メートルは優に超えている。

 全長になればその倍もしくはそれ以上ということになる。


「マジかよ……」


 この巨大鮫を目にして当然、その存在と大きさには驚愕せざるを得なかった。

 しかし、俺の頭の中で真っ先に思い浮かんだのは悪夢。

 森の中で眠っていた時に見た、巨大鮫に追いかけ回されて喰い殺される悪夢だ。

 あれが現実になるのではないかと直感的に途轍もない不安感を覚えた。


「いやいや、さすがに……って違う。今はそんなこと考えてる場合じゃないし」


 どうにか自分の中の不安を払拭しよう試みる。

 しかし、目の前の超常的な現象と存在の連続に思考が上手くまとまらない。

 今すぐこの場を離れろと本能が警鐘を鳴らしているのに、脚が固まってしまう。

 そして巨大鮫の赤く獰猛な瞳が俺の姿を捉えたことで、背筋が凍り付くような感覚と共にようやく我に返った。


「やべぇ。バッチリ目が合っちゃったよ……」


 次の瞬間には一目散に走り出していた。

 先ほどまでのんびり歩いて来た森の中へと逆走していく。

 その中でふと思う。

 空中の黒い穴から鮫が出てきたのは驚愕だが、ここは陸地。

 地面に落ちてピチピチ跳ねてりゃ可愛いものだな、と一瞬だけ後方を振り返り……

 そこには絶望的な光景が広がっていた。


「ふざけんなっ! ()()()()()()()()()()!」


 巨大な鮫が水中の魚のごとく優雅に泳いでいる。

 どこをって? 空を! 宙を! 空中を!

 そして猛スピードで俺の方へと向かってきている。

 これだけでもヤバい状況だというのに、さらなる絶望が後方に広がっていた。


「マジかよ……何匹いるんだよ」


 俺を猛追する巨大鮫の後方では今もなお、上空の黒穴から続々と未知の生物が溢れ出る。同種の巨大鮫、キラキラした鱗の魚、槍を持った半魚人のようなモンスターが次から次へと顔を出す。


「あの穴、どこと繋がってるんだよ。ヤバすぎるだろ」


 そして、黒穴から飛び出してきた魚型のモンスターたちは二手に分かれていた。

 まずは、非常に残念なことに俺が標的とされている。

 先行して俺を追う巨大鮫に追従して同種の巨大鮫が6体ほど後方から迫り来る。

 その他の魚型の怪物たちは、30体ほど群れを形成して別方向へ泳いでいく。

 これで大半の怪物たちは別の方向に飛んで行ったが、喜んでいる余裕はない。

 むしろ状況は悪化している。

 結局のところ、計7体の巨大鮫に追われる状況となってしまったのだから。


「ハァハァ……ハァハァ……」


 額に汗を浮かべ、息を切らしながら森の中を駆け抜けていく。

 後方の巨大鮫たちも同様に木々の間を()(くぐ)り、時には衝突して薙ぎ倒しながら俺の方へと迫って来る。


 先ほどまでは、未知に心を躍らせこの森の中を気分よく走っていた。

 というのに、今度は未知なる存在に追われて逃げ惑っている。

 相手は俺よりも明らかにスピードが速く、また空から襲撃される可能性もある。

 このまま走って逃げていても喰われるのは時間の問題。


 どこかに身を隠さなければ死ぬ! と考えている最中にさらに絶望感を煽るお知らせが届く。


 ピーピッピピピピ


「念波障害のため避難用シェルターの位置を確認できまセン。移動を推奨しマス」

「ハァハァ……クソっ……そりゃそうなるよな!」


 さっきまで森の中にいたからクロは現在地に関する情報を受信できなかった。

 来た道を戻ってしまえば、また同じ状態になるのは明白。

 超常的な存在を前にして気が動転し、冷静さを欠いた自分の判断ミス。


(いやっ、いきなり空が割れてそこから空を泳ぐ巨大鮫が出てきて追いかけられるなんて誰が想像できるんだよ!)


 内心で悪態をつきながら走る。ただ、ひたすらに走る。

 既に後方を泳ぐ巨大鮫との距離は80メートルほどに詰められてしまっている。

 この距離は俺の残りの寿命と同じ。ゼロ距離になった瞬間に死が確定する。

 今はまだその巨体が木々の間をすり抜けられず、衝突したり、迂回してくれているので少し時間を稼げている。

 

 何もない平地なら既に追いつかれ、噛み殺されて丸呑みにされていただろう。

 そんな最悪の未来を避けるため、木々が密集している方へと逃げ込んでいく。

 どこか安全地帯でもないかと周囲に目をやりながら懸命に足を動かす。

 すると、前方が急な傾斜となっており少しだが後方から迫る鮫たちの視線を切れると思い、勢いよく駆け下りた。


 その先には――


「線路?」


 地面に設置されているレールとその下部を支える枕木と路盤。

 森の中を遮るように配備されている線路。

 線路があるということは列車でも走っているのだろう。

 これがドラマや映画なら、ここで列車がやって来て飛び乗って逃げ切るという展開になるだろうが、現実はそんなに甘くないようだ。


 何の気配もない。


 まぁ、この状況で電車が来たら個人的には助かるが、乗客がいたら大惨事。

 助かりたいが周りを巻き込みたくはないなー、と思いつつ線路を挟んで向かいの草木が密集している茂みの中に飛び込んだ。


「ハァハァ……クロ! あの鮫たちどうにかする方法とかねぇの?」


 息が整わないまま飛び込んだ茂みの中でクロに問いかける。

 そんな都合の良いことはないのだろうが、こちらも藁にも縋る思いなのだ。

 ここで戦闘モードの機能があるので任せてください、とか言ってくれたら一生感謝する。


「解析鑑定中……解析鑑定中……」


 予想外の返答と共にクロの目元に搭載されたレンズが動き出す。

 俺の後方上空を泳ぐ巨大鮫にピントを合わせているようだ。

 解析鑑定中という言葉からして、何らかの情報を探っているのか?

 俺にあの鮫たちに関するデータでも提供してくれるのだろうか。


 ただ、生態とか弱点を教えてもらってもこの身一つで武器もない。

 あんな巨大鮫を相手に素手で格闘するとか無理ゲーなんですけど。

 一瞬にして噛み殺されて丸呑みにされる未来しか見えない。


「解析完了。対象を確認しまシタ。対象魔獣は、魔海の巨大鮫(メガロドン)。生体情報および能力値指標(パラメーター)を展開しマス」

一章前編の終了まで残り3話!

毎週、土曜日12時頃に更新中です!

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