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神秘解戦~オルゴールプラネット~  作者: 白石誠吾
第一章-前編「邂逅前夜」
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Op.6「答え合わせ」

「ふぅー」


 森の中で『最果ての英雄』を読み終えた俺の口から漏れたのは、大きな溜息だった。

 ただし、それは疲弊や落胆ではなく、むしろ胸の内を満たされた感嘆の吐息。

 壮大な世界の歴史や英雄の軌跡が記され、心躍る冒険譚に圧倒されてしまった。

 一作品を読み終えた満足感や、心地良い疲労感と共にいくつもの疑問も残る。


 周囲を木々の緑が彩る中、俺は背後の大木にもたれかかり、そよぐ葉音を耳にしながら頭の中を整理していく。


惑星迷宮ダンジョン、魔法に魔術、三人の英雄、最果ての地、冒険者、そして世界の中心に存在する神秘の宝……」


 先ほどまでの壮大な物語を思い返す中で、根本的な疑問が思い浮かぶ。


「これはただの空想の物語なのか?」


 当然のことながら、俺の疑問に答えてくれる人は誰もいない。

 ラノベや冒険譚なら結構ありそうな話だけど、歴史や地理が妙にリアルな感じ。

 加えて、仮面のお姉さんの言葉や魔法とか魔術を実体験してしまった俺は、これが史実かもしれないという説を否定できなくなっている。


 そして、もしこれが今いる世界の物語なら、俺はとんでもない場所に足を踏み入れてしまったということだ。


 またもや自分が別の世界にいるのではないか? という疑念だけが深まるばかり。

 そんな中、突如として周囲の大自然に似つかわしくない電子音がどこからか響き始めた。


 ピーピッピピピピ


「うぉっ、なんだ!? 何か鳴り出したぞ」


 この謎のアラーム音の発生源はすぐに特定できた。

 俺の隣だ。より正確には隣に置いてある紺色のバッグの中。

 先ほど確認した三つ目の謎アイテムである黒い金属製の球体。


 ピーピッピピピピ、ピーピッピピピピ


 すぐさまそれを取り出すと、中央にある電子的なディスプレイが赤く点滅。

 何か起こりそうな雰囲気がプンプンと漂い始めた。


 ピーピッピピピピ、ピーピッピピピピ


「おいおい、爆発とかしないよな?」

「SP-V96起動シマス」

「え?」


 急に機械音声が流れたかと思えば、両手で抱えている球体が変形していく。

 俺は、焦りつつもすぐさまそれを地面に置いてその様子を見守る。

 数秒が経過し、球体の内側に格納されていた丸い頭部と小さな腕が顔を出す。

 そして、あっという間に小さい人型ロボットが完成した。


「ワタシはサポート型アンドロイドSP-V96。クロとお呼びくだサイ。それではマスター、ご用件ヲどうゾ」


 黒い球体から変形した全長20センチほどの小型ロボットとのご対面。

 クロという名前らしい。一見すると小さく黒いペッ〇ー君だ。

 そして何故かマスター認定されてしまった。


(こんなロボット見たことないな……)


 一見すると人型の小さなロボ。

 しかし、先程の変形やサポート型アンドロイドという聞き馴染みのない名前。

 加えて、妙に技術力の高さを感じさせる変形と滑らかな口調。


 本当に別の世界にいるのでは? という疑念と期待がまた一つ膨らんでいく。


「えっと、じゃあクロ。色々と聞きたいことがあるんだけど……」

「あらゆる質問にお答えいたしマス。はりきっテどうゾ」


 機械音声なのに絶妙に人間味のある返答に少し戸惑ってしまう。

 Si〇i的な人工知能を有したロボットなのかもしれない。

 兎にも角にも、ようやくだ。

 ようやく自分の中にある疑問を解消できるチャンスがやってきた。


 まずは、はりきって一番聞きたい質問から。


「じゃあ、お言葉に甘えて。現在地を教えてくれ!」

「検索しマス。少々お待ちくだサイ」


 無機質な返答。はりきって元気よく質問した俺がバカみたいじゃないか。

 ちょっと恥ずかしい。

 今だけは周囲に人がいなかったことを心の底から喜べる。


 そんな俺を置き去りに、森に似つかわしくないピーっという電子音が流れる。

 検索中を示す保留音なのだろうか。

 目元のディスプレイもぐるぐると回っている。

 どちらにせよこれで現在地が判明する。

 これで東京近郊の森とかだったら笑える。

 逆にまったく聞いたことのないような地名が出てきたら最悪。

 でも、心のどこかでそれを期待している自分もいる。


 そして、十秒ほど経過したところでピーっという保留音が途絶えた。


「現在地を確認できませんでシタ」

「ポンコツかよ!」


 思わず大きな声を出してしまった。

 期待していた分、落胆が大きかった。

 質問には応えるけど、答えることはできないってか! 頓智かよ!

 無駄に高性能さを感じさせるデザインに騙されてしまった。


「ワタシはポンコツではありまセン。移動を推奨しマス」

「移動?」

「ハイ、念波ねんぱ圏外のため移動を推奨しマス」


 ネンパ?電波の聞き間違いか?

 とにかく、森の中だから電波が悪くて情報を取得できないということだろう。

 確かにその可能性は高そうだが、コイツの言い訳でないかと疑ってしまう。

 だが、移動するというのはアリだな。


「まっ、いつまでも森の中にいるわけにもいかないもんな」


 それにこのポンコツに頼らずとも自分の足と目で確認すればいい。

 他者から貰った答えより、自分で導き出した答えの方が信用できる。

 とんだ肩透かしを食らわされたが、やるべきことはハッキリした。


 残る懸念点はというと……


 再び視線を地面に転がる小さな黒い箱へ向ける。

 その表面に記されているのは、悪魔系-幻命譜ライフスコア-タイトル『月華の英霊(アルテミス)』。

 コレをどうしたものか。この箱の存在が気になって仕方がない。

 嫌な思い出しかないので放置しておきたい気持ちの方が強い。

 しかし、恐らく恩人である仮面のお姉さんが置いていったもの。

 必要なものか、手助けになるアイテムの可能性もある。


 少し悩んだ末、開かなければいい。そう決めてバッグの奥底へ押し込んだ。

 そしてショルダーベルトを肩に掛け、小型ロボを抱えて重い腰を上げる。


「よしっ、行くか」


 どの方角に向かうのが正解かは分からないので、気の向くままに進むのみ。

 せめてこの場所が樹海のような巨大な森でないことを願っておこう。

 あと、どうか獰猛な熊とかと遭遇しませんように!


 こうして、あてもなく歩き始めたが道中の時間を無駄にするつもりはない。

 今度は期待値をどん底まで下げて質問を再開する。

 現在地のように電波を必要としないような情報なら答えてもらえるかもしれない。


「クロ、また質問いいか?」

「あらゆる質問にお答えいたしマス。はりきっテどうゾ」


 いや、もう張り切れないから。

 疑心暗鬼で半信半疑でしかないから。

 答えを貰えたらラッキーくらいで挑もう。


「神秘のオルゴールって何?」

「神秘のオルゴールとは、惑星迷宮ダンジョンの秘宝デス」


 惑星迷宮ダンジョン? さっき読んだ『最果ての英雄』の作中に出てきた単語だ。

 たしか……八つの天体迷宮てんためいきゅうの総称で、神が人類に与えた試練?

 百層におよぶ広大な異空間で魔獣を生み出す、とか書いてあった覚えがある。


 って、待てよ? だとすると、さっきのあの物語は本当に史実なんじゃ……


 しかし、こちらのことなどお構いなしに神秘のオルゴールの説明が続く。

 不明点をその都度確認していては話が進みそうにないので、一通り聞いてみよう。


「神秘のオルゴールを開いた者は、幻想的な音色と共に『原譜げんぷ』と呼ばれるタイトルのみの譜面と音形構成符号メロディグリフが魂へと刻まれマス。そして魂に譜面が刻まれた者ハ、術式を創作シ、魔法の行使が可能となりマス。よって一般的に、『魔法使い』『魔法師』『原譜の能力者』と呼称されマス」


 身に覚えのある話に思わず足を止めてしまう。

 思い当たる節があるなんてものじゃない。

 謎の集団に捕らわれていた時の記憶が蘇り、少し鼓動が早くなる。

 頭の中では、ゆっくりと点と点が繋がり始めている。


「また、神秘のオルゴールは二つに分類さレ……」

「神秘のオルゴールの中に眠る譜面、通称『原譜(げんぷ)』には三つの種類が存在シ……」


 無機質な説明を噛み砕き、記憶と照らし合わせつつゆっくりと飲み込んでいく。

 次々と追加されていく新情報で既に満腹だというのに容赦なく説明は続く。


「原譜の能力者は、獲得した譜面を基に術式を創作することデ……」

「術式が完成した場合には、術式口上フレーズとイメージが脳裏に舞い降りテ……」

「原譜の能力者には、先天的な能力者と後天的な能力者のパターンがアリ……」

「――以上が神秘のオルゴールに関する基本情報となりマス」


 ようやく長い説明が終わった。

 当然、理解が追い付いていない部分もある。

 しかし、今の内容を要約するとこうなる。


 まず、神秘のオルゴールは二つの種類に分けられる。

 ➀箱の外装が白いものは、『天使系』に分類される神秘のオルゴール。

 ②箱の外装が黒いものは、『悪魔系』に分類される神秘のオルゴール。


 そして神秘のオルゴールという小さな箱の中には、一枚の譜面が入っている。

 通称『原譜げんぷ』と呼ばれるその譜面は、三つの系統ジャンルに分けられる。


 ➀解釈譜ワードスコア…タイトルの解釈から術式を創作し、魔法を発現させる。

 ②色想譜カラースコア…タイトルからの連想によって術式を創作し、魔法を発現させる。

 ③幻命譜ライフスコア…タイトルに宿る命と対話・共感・共鳴により術式を創作し、魔法を発現させる。


 このいずれかの原譜を獲得した者が、『魔法使い』『魔法師』『原譜の能力者』と呼ばれる存在ということ。また、原譜の能力者には、生まれ持って魂に原譜が刻まれている先天的な能力者と、神秘のオルゴールを開いて後天的に能力者となるパターンがあるらしい。


 そして()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そのために必要なのが、術式創作じゅつしきそうさく

 魂に刻まれた譜面を用いて術式を創作することで、魔法の行使が可能となる。

 ただし、術式創作の方法については獲得した原譜の種類、相性、資質など様々な要素が絡み合うため特定の方法は存在しない。


 術式が完成すると、術式口上フレーズおよびイメージが脳裏に舞い降りてくる。

 それをトリガーとして魔法を発動させる。


「記憶と合致する部分が多いな、ってかありすぎだろ」


 緩やかな傾斜を描く獣道を進みながら、顎に手を添えて思索を巡らせる。  

 地面を踏みしめるたび、乾いた落ち葉がかさりと鳴り、遠くで鳥のさえずりが響く。そんな自然の音色を背景に、大量の情報と自らの記憶を照らし合わせながら、一歩一歩を確かめるように歩を進めていく。


 まず、俺が獲得した神秘のオルゴールとそれに付随する原譜は三つだ。


 一つ目は、天使系-解釈譜ワードスコア-タイトル『夢』。


 この譜面が入っていた神秘のオルゴールは白い外装で重厚なデザインだった。

 ただし、これに関しては自分で開いた覚えはなく、目の前で勝手に開くのを見たという認識。


 二つ目は、悪魔系-色想譜カラースコア-タイトル『黒』。


 三つ目は、悪魔系-幻命譜ライフスコア-タイトル『百眼の巨人(アルゴス)』。

 この譜面が入っていた神秘のオルゴールは黒い外装で重厚なデザインだった。

 悪魔系の二つに関しては苦い記憶しかない。

 謎の集団に強制的に開かされて地獄のような苦痛を味わった。

 ヘンテコ仮面男は許すまじ。


 そして開いてはいないが、所有している神秘のオルゴールが一つ。

 悪魔系-幻命譜ライフスコア-タイトル『月華の英霊(アルテミス)』。

 これも例に漏れず、黒い小さな箱に高級感のあるデザインが施されている。

 恐らく、この箱の中にも『原譜(げんぷ)』と呼ばれるタイトルと五線譜のみの譜面が入っているのだろう。


 また、神秘のオルゴールを開いてその中の原譜を獲得した者は術式を創作し、魔法を使うことが出来るという点にも心当たりがある。


「アレだよな……」


 思い出すのは、殺意の感情と悪夢の魔法。

 意味も分からず拘束され、ヘンテコ仮面男に蹴り飛ばされ、神秘のオルゴールを開かされ、地獄の痛みを味わって抱いた本物の殺意。


 その殺意に呼応するかのように頭の中に技名みたいなフレーズとイメージのようなものが浮かび、それを口に出すことであの仮面男に悪夢を見せた。


「夢の曲技-第一番-夢限牢獄むげんろうごく、だったか」


 あれが魔法だとすると、俺は無意識に術式創作し魔法を発現させたということ。

 仮面男の取り巻きも『この短時間で術式を創作するなど!』とか騒いでいた。

 加えて、あの男自身も俺が魔法を行使したと憤慨していたお墨付きもある。

 少し強引ではあるものの色々と辻褄は合う。


 自分の記憶とロボの情報にある程度の整合性があるので一定の信憑性もある。

 パズルのピースがゆっくりと嵌まっていく感覚と共に、大きな疑問も残る。


 ヘンテコ仮面男を筆頭としたあの謎の集団は何の実験をしていたのか?

 俺を実験台にしてまで何を企てていたのだろうか。

 確実に言えるのは、神秘のオルゴールに関連しているということ。


「せっかくなら当ててみようか」


 まず、アイツらは二つの神秘のオルゴールを俺に開かせようとしていた。

 ここがあの実験の肝だろう。


 そして俺はあの二つの箱を開き、地獄の痛みを味わって中身の原譜を獲得した。

 これが実験の目的と結果。

 考察するための材料は他にもある。

 一つ目の箱を開いた時に聞き取れた『まだ一つ目』『先天的な能力者』『想定外』という言葉とそれに伴ったあの集団の動揺。


「二種類の神秘のオルゴール、三つの系統ジャンル、異なるタイトル……そこから考えられるのは……」


 例えば、天使系の原譜の能力者は、悪魔系の原譜を獲得することはできない制約があるとか? 安直だが、天使と悪魔ってなんだか相反するものって感じだし。


「んー、これは違うな。あの時点では、俺が天使系の神秘のオルゴールを事前に開いていたことは知らなかった様子だったもんな」


 それでもアイツらは実験を続行した。

 ということは、天使系でも悪魔系でもよかったということになる。

 ついでに言うと、獲得している原譜の系統ジャンルも同様に気にしていなかった。


 それにこの仮説だと天使系と悪魔系の両方を用意していないとおかしい。

 でも、アイツらが用意していたのは二つとも悪魔系の神秘のオルゴール。


「だとすると、それ以前の問題ってことだから……」


 よりシンプルな答えが頭の中に思い浮かぶ。

 そろそろ答え合わせしてみよう。

 用意した答えを胸に、腕に抱える小さなロボに問い掛ける。


「クロ。一人の人間が複数の原譜を獲得することは可能なのか?」

「不可能デス。原譜の能力者が神秘のオルゴールを開いた場合、死に至りマス」


 当たり(ビンゴ)だ。アイツらの俺を使った実験の目的が見えた。

毎週、土曜12時頃に更新中です。

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