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神秘解戦~オルゴールプラネット~  作者: 白石誠吾
第一章-前編「邂逅前夜」
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Op.4「迷子」

 金髪で茜色の瞳の少女に殴り飛ばされる異様な光景。

 金髪で茜色の瞳の少女の膝を枕にして眠る心温まる風景。

 空を飛ぶ鮫に追いかけ回され喰い殺される悲惨な情景。


 そんな断片的で、脈絡の欠片もない夢から俺はようやく目を覚ました。


「んんっ……」


 生い茂る緑葉の隙間から顔に差し込む木漏れ日が眩しい。

 心地良いそよ風に乗って爽快感のある森の匂いが漂っている。

 鳥たちのリズミカルな囀りが周囲に響く。

 吸い込んだ新鮮な空気が体の中を浄化していく。

 まるで初夏に森林浴でもしているかのような……


(ん?)


 まるで森の中で気持ちよく日向ぼっこしているような……


(んん??)


 まるで森の中で優雅にお昼寝でもしているような……


(んんん???)


 寝起きの薄っすらとした意識の中をクエスチョンマークが埋め尽くす。

 次に脳裏に浮かんだのは、拘束され酷い仕打ちを受けた光景と神秘的な炎の龍。

 そして、魔法を使う仮面の女剣士と傲慢に高笑いするヘンテコ仮面。


「うわっ!」


 穏やかな気分が一瞬にして吹き飛び、それに連動するように飛び起きた。

 幸い手足に枷も鎖も付いていないので、問題なく起き上がることができた。

 いや、問題はそこじゃない。


「もー、勘弁してくれよ」


 心の声が漏れるのも仕方ないだろう。

 目の前には青々と生い茂る木々が立ち並び、草木も相まって緑一色の大自然。

 俺は、その中でも一際大きい大木の木陰で気持ちよく眠りこけていたようだ。

 先ほどまでの地獄のような状態に比べれば天地の差だが、これはこれで困る。


「どこだよ、ここ……」


 答えてくれる人は誰もいない。すなわち、周囲には誰もいない。

 人の気配すら全く感じさせない大自然のど真ん中。

 俺を助け出してくれたであろう仮面のお姉さんの姿も見当たらない。


 爆破生き埋め縛りプレイの挙句に氷漬け、最後は森の中に放置プレイ。

 てんこ盛り過ぎて死ぬ。いや、実際に死んだけど……


「死んだはず、だよな?」


 自問しながら自分の両腕を見つめ、そこから全身へと視線を向けていく。

 生き埋めになり、潰れたはずの両手両足を確認しても傷の一つも残っていない。

 それどころか以前よりも体が軽く、力が漲っているようにも感じる。


 そんな俺の体はというと黒いコートを羽織り、無地の白シャツに黒いパンツのモノトーンコーデ。


 自分の服ではないというのにサイズまでピッタリだ。


「ホントどうなってんだよ」


 一体全体なにがどうなっているのやら、これからどうすればいいのやら……

 疑問だけが増え続ける一方で、答えは見つからない。

 誰かが答えを授けてくれることもない。

 俺は力が抜けたように地面にへたり込み、呆然と空を見上げた。


「キレイだなー」


 考えるのをやめた。見上げた空は澄み渡っており、雲一つない青空。

 周囲から聞こえてくるのは鳥の鳴き声のみ。

 空を自由に飛ぶ鳥たちを眺め、全身で自然を感じること三分。

 ここであることに気づく。


「これからどうしたもんかな、ってそういや何だコレ?」


 眠っていた俺の隣に丁寧に置いてある紺色のバッグ。

 サイズはそれほど大きくなく長めのショルダーベルトが付いているバッグだ。

 見覚えはないが、ここには俺しかいないので俺のものということにしておこう。

 バッグを手に取ると、その陰には見覚えのある黒い箱も転がっていた。


「うげっ……まーたコレかよ」


 神秘のオルゴールと呼ばれていた重厚感のあるデザインの小箱。

 謎の集団に無理やり開かされ、体内が焼き焦げるような痛みを味わったことを嫌でも思い出す。

 表面のラベルに記されているのは、前回とまた異なるようだが……


 悪魔系-幻命譜ライフスコア-タイトル『月華の英霊(アルテミス)』。


「よしっ、絶対に開かないようにしよう」


 そう堅く決意して紺色のバッグを手に取る。

 想像以上にずっしりとした重量感があり、硬い感触が伝わって来る。

 中身は見当もつかないが、ここで拝見しないという選択肢はない。


「さて、コッチは何が入ってるのやら」


 ごそごそとバッグの中を探って出てきたものは四つ。


「なんだこれ?ガラクタ?」


 まず一つ目は、刀の柄のような形状の金属板。

 全長20センチほどで少し厚みがあり、握るにはちょうどいいサイズ感。

 実際に握ってみると、軽量で異様に手に馴染むような感覚があるが用途は不明。


「で、次は聞いたことない題名の本か……」


 二つ目は、一冊の本。

『最果ての英雄』というタイトルで、三人の勇者っぽい人たちが背を向けて並び立つ表紙。中をパラパラと捲ってみると、童話のような挿絵や文章がずらり。

 ただし、かなり読み込んだ形跡や濡らした跡が目立つ。

 これ絶対、コーヒーか何かこぼしてるだろ。


「今度はっと……黒いボール?」


 三つ目は、メロンほどの大きさの黒い金属製の球体。

 ただし、とても軽く電子的なディスプレイやボタンが搭載されていて少し不気味な雰囲気を放っている。

 当然ながら、これも用途は不明。

 爆弾とかじゃないことを願っておこう。


「ガラクタばっかりかよ。って、これは……」


 ここまで用途不明の物体と小汚い本しか入っていなかったので、ゴミ袋かと思ったが、四つ目はこれまで俺が溜め込んでいた疑問のいくつかを良くも悪くも解消するものだった。


 その四つ目は、()()


 実際は手紙なんて大層なものではなく、俺に向けて二言だけ書き殴ったような紙切れ。しかし、記されている内容は、短くも衝撃的で頭を抱えさせるには十分なものだった。


 その手紙に記された内容はというと――


()()()()()()()()()()()()()()()。目立たぬよう生きなさい』


 この世界において、ね。

 まるで俺が別の世界にでもいるかのような言い回しだ。


「ただ、思い当たる節は色々あるんだよなぁ」


 謎の死亡から始まり、神秘のオルゴール、謎の施設での拘束、タイトルだけの譜面、氷の魔術、炎の龍に仮面の女剣士、俺自身が行使したと思われる悪夢の魔法。


 通常では考えられない事象の数々、バカげているが別の世界にいると考えた方が腑に落ちることが多い。

 確証はないが、現在進行形で物証と状況証拠だけはどんどん増えていく。


 また、手紙の内容から推察すると、残念ながら俺を助け出した仮面のお姉さんは近くにはいないということだ。


「目立たぬよう生きなさい、か。助けてあげたけど面倒は見れないから勝手に生きろってことだよな」


 それで森の中に放置? 人里離れた大自然の中で生きろということか?

 仙人にでもなれと? ターザンにでもなれと?

 こっちはゴリゴリ都会育ちのシティボーイ。

 サバイバル経験なんて皆無の現代育ちの都会っ子。

 読書にボードゲームが趣味の生粋のインドア男子なんですけど!

 生きろという割には殺しにかかってますよね、と小言の一つも言いたくなる。

 助けて抱き締めたのなら最後まで面倒見てくださいよ、と懇願したくなる。


「さてさて、どうしたもんかな……」


 スマホも財布もなく、この身一つでどこかも分からぬ森の中。

 この場を動いていいのか、悪いのか。

 何一つ状況が釈然としない中、俺の視線は手元にある一冊の本に注がれる。


「最果ての英雄、ねぇ」


 こんな状況で読書してる場合じゃないんだけど、なぜか無性に心が惹かれる。

 今、これを読めと言われている気がしてならない。

 そして俺もこの本に目を通す必要があると感じている。

 なら、躊躇ためらう理由なんて何もない。

 気が付けば、俺は本能の赴くままにページを捲り始めていた。

毎週、土曜12時頃に更新予定です。

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