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神秘解戦~ダンジョンプラネット~  作者: 白石誠吾
第二章 - 「新生始動」
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Op.37「隠された光」

(さて、なんて答えるべきか……)


 俺はカプセル装置内で、肩まで青緑色の回復液に浸かりながら思考を巡らせる。

 液体がわずかに揺れるたび、肌を包むぬるりとした感触が神経をくすぐる。

 この新感覚をもう少し堪能したいところだが、どうやらそんな余裕はなさそうだ。


 焦りも動揺も、絶対に表には出してはいけない。

 あくまで、何も知らない事件に巻き込まれただけの青年を演じる必要がある。


(間違っても、俺じゃないと断言するのはナシだな)


 そう口にした瞬間、『なぜ言い切れるのか』と疑問を抱かせてしまう。

 そのまま根拠を問い詰められれば、今の俺ではボロが出てしまう可能性も高い。


 既に道中の車移動の際に、同じような話題には一度触れている。

 その時の会話と矛盾しないように、『身に覚えがない』というスタンスで押し通す。


 あとは、シアが何故この質問を俺にぶつけてきたのか。

 その根拠を探ることができれば、上出来といえるだろう。


 質問を質問で返すのは、あまり好みではないが今はそんなことを言っている場合ではない。


「逆にシアちゃんはさ、なんで俺がそれを知ってると思うの?」


 できるだけ肩の力を抜いた軽い声音が、ガラスに覆われたカプセルの中でぼんやり反響する。


 同時に、俺は水面に身を預けるようにゆっくりと身体を浮かせた。

 青緑色の回復液がさざ波を立て、細かな波紋がカプセル内部に広がっていく。

 全身を脱力させてリラックスしていることを示しながらも、視線だけはシアから逸らさない。


 彼女の表情の揺れ、一挙手一投足、その全部が今の俺にとっては重要な情報だ。

 不信感を抱かせないように会話を転がしつつ、少しでも多くを引き出す必要がある。


「それは……」


 返ってきたのは、即答ではなかった。

 シアは少し困ったように眉尻を下げ、胸の前で組んでいた手を緩める。

 そのまま左手を顎に添えて考え込むような仕草を見せた後、短く息を吸い込み、決意を固めたように口を開いた。


「私は、あの奇跡の光に救われる直前まで、ルナの戦闘を遠隔でサポートするために、レーダーで周囲の状況を確認していました」


 そこから、当時の状況が丁寧な口調で語られ始めた。

 俺は、頭の中でルナから事前に聞いていた情報と、自分自身の行動を一つずつ照らし合わせていく。


「あの時、ロックスホエールが目の前まで迫ってきて、私はもうダメだって思ったんです……」


 シアは自分の制服の袖を、ぎゅっと握りしめていた。

 当時の恐怖がフラッシュバックしているのだろう。

 さっきまでピンと立っていた白い獣耳はぺたりと倒れ、肩もわずかに震えている。


 この様子を見るだけでも、かなりの恐怖体験だったことが窺える。

 それでも彼女は、しっかりと言葉を紡ぎ続けていく。


「でも、その時にレーダー探知範囲内に、五つの魔力反応が現れました」


 少し伏せられていたシアの視線がゆっくりと持ち上がり、碧眼が真っ直ぐに俺を射抜く。

『あなたじゃないんですか?』と言わんばかりの問い掛けるような眼差し。


 彼女の言う五つの魔力反応というのは、間違いなく俺と四体のメガロドンだろう。

 数も一致しているし、位置的にも疑う余地はなさそうだ。


「その後、すごく大きな魔力反応が観測されたことに驚いていたら、あの奇跡の光がやってきたんです」


 俺は肩まで浸かった回復液の中で、シアの言葉を脳裏で反芻する。


 奇跡の光とは、『涙の魔法』を指し示していると考えて間違いない。

 ただし、あれはルナやシアを助けようと思っての行動ではなかった。

 単に、自分が死なないように足掻いただけの結果だ。


 それも今回は運が良かっただけで、目の前のケモ耳少女すらも殺していた可能性も大いにあった。


「それから、あの大爆発が起こって……レーダーで周囲の状況は確認できなかったんですが……」


 そこでシアの言葉が途切れた。

 最後をどう締めくくるか、迷っているのが分かる。

 もはやその先を聞くまでもない。

 彼女が何を言いたいのか、どこまで推測しているのかは、もう十分理解している。


 だから、俺はシアの言葉を引き継ぐように口を開いた。


「その現場には、記憶喪失の謎の青年がいた、と?」

「はい」

「それでシアちゃんは、俺があの光の正体について何か知ってるんじゃないかと考えたわけだ」

「……」


 口元をぎゅっと引き結んだ少女がコクリと頷き、肩口までの白髪が縦に揺れる。

 すなわち、無言の肯定。


 たしかに、状況証拠は揃っている。

 俺が犯人、もしくは何らかの形で関与していると考えるのは自然な流れだ。

 だが、断定する材料は揃っていない。

 だからこそ、今こうして真偽を確かめるために、俺へ直接質問を投げかけてきたのだろう。


(何のしがらみもなけりゃ、『俺がやった』って明かして恩を売るのもアリなんだろうけどな……)


 シアを救った『奇跡の光』は、俺が意図せず放った魔法による攻撃。

 そして、魔法を使えるのは原譜の能力者のみ。

 能力者であることを隠して立ち回る必要がある以上、口が裂けてもここで真実を話すことはできない。


 そうなると、この話の着地点も別に用意しなければならない。


「なるほどね。シアちゃん、あの光の正体は……」


 俺はわざと真剣な表情を作り、言葉をそこで切る。

 張りつめるような空気を意図的に作り出す。

 カプセル内で深く吐いた息によって、青緑の水面にゆったりと波紋が広がっていく。


 ガラス越しに交わる視線。

 秒単位で緊迫していく空気。

 シアの喉が、きゅっと小さく鳴るのが分かる。

 彼女がどれほど、この答えを待ち望んでいるかが痛いほど伝わってくる。


 そのまま、ゆっくりと三秒が経過。

 秒針のないこの部屋で、十分すぎるほど長く感じられる沈黙。

 そして、緊迫感がピークに達したところで、俺は肩の力を抜いた軽い口調に戻す。


「ごめん、俺にも全然分かんないんだよね」


 その瞬間、張りつめていた空気が一気に弛緩した。

 緊張からの緩和。

 シアは思わず、鳩が豆鉄砲を食ったようなキョトン顔になる。


「えっ……本当ですか? ホントのホントに何も知らないんですか?」

「ここに来る時に話した通りだよ。俺も訳も分からず、あの光に助けられただけだから」


 一応、嘘ではない。

 本当に訳も分からないまま、涙の魔法を創作して撃っちゃっただけだ。

 あの瞬間は気持ちや肉体が昂っていたような感覚で、今思い返してもあまり覚えていない。


「そう、ですか……」


 シアの肩が、わずかに落ちる。

 残念そうな気配を滲ませながらも、それ以上を追及してくる気配はなかった。


「なんか、期待に沿えない答えになっちゃったみたいで、ごめんね」

「いえ、そんな! ルナを助けてもらっただけでも、本当になんとお礼を言ったらいいか……」


 シアは慌てて首を横に振り、申し訳なさと感謝が入り混じったような表情を浮かべる。

 若干の落胆はありそうだが、この場は丸く収まったと判断していいだろう。


 そして本来なら、ここで話を締めておくのが最善。

 これ以上、余計なことは言わず話題転換すべきところ。

 だが、俺の中に湧き上がった好奇心が、それを許さなかった。


「これは『もしも』の話だけどさ、あの光が俺の仕業だったとしたら、シアちゃんは怖くないの?」


 自分でも、これは言うべきじゃないセリフだと分かっている。

 匂わせもいいところの発言だ。

 それでも、彼女の価値観を知りたいという衝動のほうが勝ってしまった。


 もしも、自分の目の前にいる男が山や森一つを消し飛ばすような怪物だったとしたら。

 彼女は、それをどう受け止めるのか。

 恐怖するのか、それとも――。


「怖い、ですか?」


 シアは少しだけ首を傾げた。

 表情は柔らかいままだが、どこか困っているようにも見える。

 恐らく、質問の意図が上手く伝わっていないようなので補足していく。


「個人の力であんなことができちゃう化け物が目の前にいたら、俺なら怖いなと思ってさ」

「そうですね……悪意を持って、その力を振るわれたら、もちろん怖いです」


 俺の質問の意図を理解したシアは、ゆっくりと言葉を選ぶように話し始めた。


「でも、その化け物さんは、私やルナを含めて多くの人の命を救ってくれました。今、こうして私たちがお(うち)に帰ることができるのも、その力のおかげです。私の勘ですけど……化け物さんは、ちょっぴり恥ずかしがり屋で、とっても優しい人なんだと思います」


 そう言って、彼女はふわりと微笑んだ。

 回復カプセルのガラス越しだというのにその笑顔は、穏やかな温もりを感じさせる。

 そんなシアの姿を見て、素直に『この子が生きていてよかった』と思った。


(まぁ、勘の方は的外れもいいところだけどね)


 実際のところ、俺は恥ずかしがり屋でもなければ、そんなに優しい人間でもない。

 むしろ、冷酷と分類される側の人間だと自覚している。

 それでも、シアの言葉は不思議と悪い気はしなかった。

 だから俺は、そのまま『真実』を飲み込み、柔らかい笑みの仮面を被る。


「そっか。いつか、あの光の正体が分かるといいね」


 心にもないセリフ。

 けれど、シアは疑うことなく『はい』と優しく頷いた。


 これで、この話題は一件落着。

 そう判断した俺は、ようやく肩の力を抜き、回復液の浴槽に深く身体を預ける。

 だが、ホッと一息をつく暇もなく事態は移り変わっていく。


 その引き金は、今も正面のモニターに映し出されているニュース映像の一幕だった。


「続いては、明星ギルド団長リヒト・ルーキフェル氏へのインタビュー映像です」


『明星ギルド』――その単語が、脳裏に引っかかった。

 どこか警戒心を刺激され、胸の奥を冷たい指先で軽くなぞられたような感覚。


(明星ギルド……どこで聞いたんだっけな……)


 記憶を辿るのに、そう時間はかからなかった。

 何故なら、ほんの数十分前に起きた強烈に不快な出来事だったから。


『今回の件、明星ギルドの管轄だったことを君は理解しているのかい?』


 ルナのことを異様に敵対視していた成金男の発言だ。

 そして、その答え合わせをするようにモニター画面に見覚えのある嫌な顔が映し出された。


「えぇ、今回の件で犠牲者を出さず無事に収束を迎えたことを、嬉しく思います。僕たち明星ギルドは、この国の平和を守るために日々、苦しい鍛錬に励んでいますから。これも当然の結果ですよ」


 整えられた白髪に黄金の瞳。

 白いスーツ姿で作り物の爽やかな笑顔を浮かべ、インタビューに応じる青年。

 ルナを目の敵にして、悪意を撒き散らしていた人物とは思えない丁寧な口調。

 本当に俺が目撃した人物と同じなのか疑いたくなってしまう。


「シアちゃん、アイツって……」

「そういえば、まだ説明してませんでしたね」


 さっきまでの柔らかな表情から一転、どこか嫌気がさしたような陰を落とした顔で、シアはモニターを見つめていた。

 そして、こちらへ視線を戻すと、重たく閉ざしていた口をゆっくりと開いた。


「彼は、明星ギルド団長のリヒト・ルーキフェル。この国に五人しかいない原譜の能力者の一人です」

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