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神秘解戦~ダンジョンプラネット~  作者: 白石誠吾
第二章 - 「新生始動」
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Op.34「銀色のお姫様」

(おぉ……これまたすげぇ美人な子だな)


 秋色に染まっていた周囲の空気が、ふっと揺らいだ。

 その揺らぎの中心に立つ銀髪の少女は、まるで一枚の絵から抜け出したような気品を纏っている。


 暖色に満ちた世界の中で、その銀髪だけが季節から外れた冷たさを宿していた。


 そして、氷のように澄んだ青の瞳も印象的だ。

 身長は150センチほどの小柄さだが、華奢な体つきとは裏腹に、立ち姿にはか弱さではなく圧倒的な風格が漂っている。


 彼女の服装は、胸元にリボンをあしらった白いブラウスに紺色のジャンパースカート。

 スカートの裾には、高級そうな生地の黒いフリルが施されている。

 その佇まいは、どこかのお嬢様学校にでも通っていそうな雰囲気だ。

 また、膝上までの白いハイソックスが、整った脚線を引き立てており、その絶対領域には、幼さの中に不思議な色気が宿っていた。


 総じて、清楚さと気品を兼ね備えた銀が映える美少女。

 俺はそんな印象を抱きつつ、目の前の少女へ視線を向けていたのだが……


「うげっ。出たな、嫌味女……」


 隣のルナが、苦虫を噛み潰したような顔で毒づいた。

 しかし銀髪少女は、ルナの言葉などそよ風ほどにも気に留めず、日傘を優雅に折りたたむとスカートの端をつまみ、淑女の所作で華麗に一礼。


「ごきげんよう。名誉の停学中のルナさんは、随分とご活躍だったようですね」


 上品な微笑みと裏腹に、その声音には確かな棘がある。

 一方でルナは、上品とは正反対の表情で今にもかみつきそうな勢いだ。


 だが、互いに本気で嫌悪しているような気配ではない。

 むしろ銀髪少女は、ルナをからかって遊んでいるような雰囲気。

 この二人は、犬猿の仲といった感じなのかもしれない。


「うっさいわ! アンタはいちいち嫌味言わないと喋れないわけ!?」

「あらあら、随分とご機嫌ななめなようですね」

「おかげさまでね! アンタがいっつも嫌味ばっか言ってくるからでしょうが!」

「ふふっ、困りましたね。まったく身に覚えがありません」

「こんのっ……」


 謎の銀髪美少女VS怪力金髪美少女の舌戦は、銀髪側がかなり優勢の様子。

 このままルナが撃沈されるのも時間の問題か……と思い始めた頃、二人の会話に割って入ったのは、秋を冠する少女フォルンだった。


「シャルっちもこっち来たんやね。お魚食べる~?」

「いえ、私は遠慮しておきます。それよりも……先ほどは見事な手際でしたね、フォルンさん」

「えっへん! ……って言いたいとこやけど、シャルっちほどじゃないよ」

「ご謙遜を」

「本気だよ」


 氷のように澄んだ瞳と、熱を帯びた橙色の瞳が交差する。

 その瞬間、空気が一気に張り詰めた。

 秋の風と銀の冷気がぶつかり合うように、バチバチと見えない火花が散る。

 二人が何の話をしているのか分からないが、まるでライバルのような雰囲気だ。


(なんだこの混沌とした状況は……。まず二人が何を話してるのかよく分かんねぇし、ルナが停学中? 学校の話題か? ってか、名誉の停学中って何なんだろ?)


 俺は頭の中が混乱しながらも、視線は自然と『シャルっち』と呼ばれた銀髪少女に引き寄せられていた。


(改めて見ても、本当にとんでもない美少女だな)


 やはり印象的なのは、肩口まで伸びたわずかに紫を帯びた淡い銀髪。

 風にそよぐその髪には、黒のレースリボンが添えられ、冷たい色調の中に静かな意志と上品な威厳を感じさせる。

 人形のように整った顔立ちも相まって、まるでどこかの国のお姫様のようだ。

 ただ、氷の結晶を彷彿とさせる青く澄んだ瞳は、どこか冷酷そうにさえ見える。


(でも、どこか幼くて小生意気なお嬢様感があるような……)


 そんな失礼な感想を抱いた瞬間、彼女の青い瞳がピタリとこちらを捉えた。

 優しく微笑みかけてくるその表情は美しいのに、俺の心臓は嫌な意味で大きく跳ね上がる。


(ヤベっ。ちょっとジロジロ見過ぎたか?)


 さり気なく視線を逸らしたところで、俺は隣でシアが顔を引き攣らせていることに気がついた。また、彼女の視線が目の前の銀髪少女に釘付けされていることにも。


「シアちゃん、あの子がどうかしたの?」


 小さく声をかけると、彼女の獣耳がピンと跳ねて我に返ったようにこちらへ振り向く。

 その碧眼には、明らかに不安や動揺の色が滲んでいた。

 そして、次に彼女の口から出た言葉は、またも俺を仰天させるべきものだった。


「えっとですね、彼女が先ほどお話したシャーロット・セレンティア。この国に五人しかいない原譜の能力者の一人なんです」

「………………マジかよ」


 もはや大きく驚くよりも、声を漏らして啞然とするしかなかった。

 シャーロット・セレンティア。

 ほんの一分前くらい聞いたばかりの名前なので忘れるはずもない。


「さっき話してた『双星の世代』のもう一人ってこと?」

「はい。彼女が可憐なる白銀の姫君(シルヴィス・ヴィーナ)の二つ名を持つ()()()()()使()()。秋の魔法使いであるフォルンさんと双璧を成す能力者です」


 秋の魔法使いの次に現れたのは、銀色の魔法使い。

 ルナと相性が最悪らしい同世代の能力者。

 それはもう見てご覧の通りという感じなのだが、俺が気になったのは彼女の持つ魔法の譜面の系統ジャンル題名タイトルだった。


「銀色の魔法使い。ってことは、あの子が持つ原譜は……」

「悪魔系-色想譜(カラースコア)-タイトル『銀』。彼女だけがこの国で唯一、色の名を冠する魔法使いとして知られています」


 俺は脳裏でシアの言葉を反芻し、当然のように疑問にぶち当たる。


(国で唯一の色の名前を持つ魔法使い……あれ? いや、ちょっと待てよ……)


 刹那、この世界で目覚めた直後の悪夢のような出来事が頭の中を駆け巡った。

 

 大聖堂のような不気味な施設。ヘンテコ仮面男を筆頭とした謎の集団。

 実験体のように扱われ、無理やり開かされた神秘のオルゴール。

 そして、心地良い音色と譜面が詰まった小さな箱に記されていた文字。


 悪魔系-色想譜(カラースコア)-タイトル『黒』。


(つまり、俺は銀髪少女と同系統の力を所持してるってことなのか?)


 もしくは、色違いでまるで別物なのか。

 そこら辺の詳しい知識がないのでまだよく分からない。

 希少性がかなり高いことだけは判明したが、こうも出会う人が連続して魔法使いとかだと、これから出会う人もそうなんじゃないのかと疑いたくなってくる。


「シアちゃん。一応確認だけど、この国って人口が30人とかじゃないよね?」

「このアルタイル共和国の人口は、約3億人ですね」

「……そっか。あとさ、今のこの状況ってかなりマズいと思うんだけど……」


 何故なら、目の前には『双星の世代』を代表する二人の能力者。

 秋の魔法使い、フォルン・オータムフェスト。

 銀色の魔法使い、シャーロット・セレンティア。

 そして、二人の同世代で先ほど原譜の能力者となったルナ・トワイライト。

 彼女たち三人が揃い踏み、三竦みのような構図となっている。


 ただし、ルナが能力者になったことはまだ露見してないし、知られてはいけない。

 さっきもフォルンに勘づかれそうになっていたし、このまま会話を続けていて大丈夫なのかと心配になったのだが……


「奇遇ですね。私もそう思います……」


 シアの少し震えた声で確信した。

 大丈夫じゃない。全然、大丈夫じゃないようだ。

 彼女はぎこちない笑みを浮かべ、少し蒼褪めた顔色になっている。

 俺も恐らく同じような表情になっていることだろう。


 二人の心が一致し、通じ合ったところでグギギと重たい首を回して、未だに小競合いを続ける三人へ目を向けた。


「お二人とも、褒め言葉を率直に受け止める素直さは大事ですよ」

「シャルっちだけには言われたくなーい。でも、ルナっちが素直じゃないのは賛成~」

「ざっけんな! その言葉そっくりそのままアンタらに返してあげるよ! 特にひねくれ者の銀髪!」


 絶賛、言い争い中だった。

 果たして、ルナは自分が原譜の能力者になったことを覚えているのだろうか。

 いや、この場では忘れていた方が変に取り繕わなくていいのかもしれないが。

 

 と、内心でヒヤヒヤとしながら見守っていたのだが、少し離れた場所から男の野太い声が届いた。


「お嬢~! そろそろ戻ってきてくだせぇ!」


 視線を向けると、遠くからこちらへ手を振る熊のような大柄な男の姿があった。

 お嬢とは、一体誰のことだろうか。

 その答えは、考える暇もなく張りのある大きな声で示された。


「はいよ~! それじゃあ、私は戻るね~! バイバーイ!」


 片手を大きく振り返すフォルンは、そのままルナとシャーロットに別れを告げて颯爽と立ち去って行った。

 同時に、秋の匂いがゆっくりとほどけて静かに霧散していく。

 この場に残されたのは、眩く輝く金髪と銀髪の少女が二人。

 茜色と氷青色の瞳が、ゆっくりと交差する。

 そこから一拍の間を置き、先に口を開いたのはルナだった。


「で、アンタはわざわざ嫌味言いにここまで来たわけ?」

「ふふっ。それもありますが、私がここへ足を運んだのは貴方への忠告のためですよ」

「私に忠告?」

「はい。貴方に手柄を横取りされた、などとご機嫌斜めな方々が騒ぎ立てていらっしゃったのでお気をつけください」

「あー、そういうことね。そりゃ親切にどーも」

「礼には及びませんよ。それでは、私もこれで失礼するといたしましょう」


 言葉を交わし終えた銀髪少女は、上品な佇まいでルナの横を通り過ぎる。

 そのままこの場を立ち去るのかと思っていたのだが、何故か彼女は俺の前で一度立ち止まった。


(……え、なんで?)


 小柄な体格から少し見上げる形で俺の姿をその氷青色の瞳へ収める。

 柔らかく微笑みつつも、どこか値踏みするような視線が突き刺さる。

 蛇に睨まれた蛙とは、まさにこのことを指すのだろう。


 俺はどう反応していいのかも分からず、3秒にも満たない時が経過した。

 その後、彼女は軽くお辞儀をして小さな足取りで消えていった。


(何だったんだ今の……?)


 この時、俺はまだ理解していなかった。

 最後のルナとシャーロットのやりとりの意味を――

 銀髪の少女に向けられた視線に込められた感情を――

 この世界における原譜の能力者の存在価値を――


 そして、すぐさま波乱に満ちた形で思い知ることとなる。

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