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神秘解戦~ダンジョンプラネット~  作者: 白石誠吾
第二章 - 「新生始動」
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Op.32「秋の訪れ」

 爆発の跡地を進み続け、ロックスホエールの巨大な死骸が横たわる地点まで辿り着いた。

 ここまで来ると、鼻が曲がりそうなほど強烈な血の臭いと、鉄錆のような生臭さが空気を支配していた。


 喉の奥がひりつき、胃が反射的に痙攣する。

 隣を歩くシアの顔色が真っ青から真っ白になっていく中、俺は再び足を止めた。


「どしたー? またなんか珍しいものでもあった?」

「これ……」


 ルナの問いかけに応じながら、俺は地面から一枚の薄く丸い欠片を拾い上げた。

 指先に乗るそれは、まるで宝石の破片のように淡く光を宿している。

 触れると硬く、しかし薄く軽い。

 地面一帯にその欠片が散らばり、足音に合わせてパキパキと乾いた音が弾けていた。


「そりゃ、ロックスホエールの宝石鱗ほうせきりんだね。ほらアレだよ」


 ルナが指差した先にあるのは、岩山のように巨大な魔獣の骸。

 砕けた岩塊のような黒い皮膚の隙間、その内側一面に宝石めいた鱗がびっしりと敷き詰められている。


 おそらく、俺の魔法が直撃した爆発の衝撃であの鱗が砕け散り、宙を舞ったのだろう。


「これ、鱗だったんだな。あの爆発の後さ、空からカラフルな星屑みたいに降ってきて綺麗だなーって結構感動してたのに」

「それなっ! 私も見てたけどめっちゃ綺麗だったよね! 死に際に幻でも見てるんじゃないかなって思うくらいに素敵な光景でさ……物語の一幕みたいでドキドキして……ホントに……」


 勢いよく同意していたルナの声が、徐々に尻すぼみにしぼんでいく。

 そして最後には、苦い表情を浮かべて黙り込んだまま膝から崩れ落ちた。


(本当に感情豊かというか、天真爛漫な奴だよな……)


 地面に手をつき、ぶつぶつと『こんな奴に……』『最悪だ』などと小声で呟くルナ。

 何のスイッチが入ったのかは知らないが、俺はとりあえず静観するしかない。

 こういう時に彼女を下手につつくと危険なのは学習済みなのだ。

 っと、余裕を持っていたのだが……


「……ぬぁああああああああああああ!」


 突然、ルナが奇声とともに勢いよく立ち上がり、俺の胸ぐらを掴む。

 そのまま怪力でぐわんぐわんと振り回された。


「おい、急になんだよ! 頭イカレちゃったのかよ!」

「んぁああああああああ!」


 起きたまま悪夢にでもうなされているように呻き声を上げるルナ。

 おかしい。俺は、悪夢の魔法を使っていないんだけど。

 持病の発作とか? 俺の知り得ないこの世界独自の病気とか?

 とにかく、このまま揺さぶられ続けたら確実に目が回って吐いてしまう。


 そう思いながら、唯一ルナを止めてくれそうなシアに助けを求めた。


「シアちゃん! 親友が壊れたからどうにかしてくれ!」

「うぷっ……く、臭くて吐きそうです……」


 本当に助けが必要なのは、俺よりも彼女の方だった。

 今にも嘔吐しそうになるのをギリギリで耐えるように口元を押さえている。

 その鮮やかだった碧眼は完全に色を失い、焦点も合っていない。


「マジで勘弁してくれよ……」


 ルナに揺さぶられつつ、この混沌とした状況に頭を痛め始めた時だった。

 ほのかに柑橘を感じさせる甘い風が吹き抜けた。

 血と腐臭が支配していた世界が、一瞬にして塗り替えられていく。


(なんだ? これは……金木犀の匂い?)


 甘く優しい香り。漂う風には秋の気配が滲んでいる。

 まるで、突然に季節が切り替わったような奇妙な感覚だった。


「この匂いは……」

()()()が近くにいるね」


 冷静さを取り戻したルナが動きを止め、何か心当たりがあるように呟く。

 先ほどまでの悪臭が消え、正気に戻ったシアもどうやら同じようだ。


 俺は、二人にこの匂いの正体を問いかけようと口を開いたその時――


「あれぇ~!? ルナっち&シアっちやん!」


 少し離れた場所から明るい声が届き、そちらへ視線を向ける。

 そこには栗色の長髪を揺らし、串焼きの魚を片手に大きく手を振る少女がいた。


 ♪―♪―♪


 栗色の髪を揺らしながら、串焼きの魚を片手に全力で手を振る少女が、こちらへ駆け寄ってくる。

 見た感じだと、同年代くらいの天真爛漫な女の子。

 鮮やかな橙色の瞳が印象的だ。


 しかし、彼女が近づくごとに甘く優しい香りがふわりと漂い、秋の訪れを感じさせる。

 先ほどまで鼻を刺していた血生臭さが、気づけば金木犀を思わせる清らかな香りに塗り替えられていた。


 そんな彼女の服装は、淡い黄色地に紅葉の刺繍が施された着物風の装いで、どことなく和を感じさせる。さらに、光を受けて揺れる栗色の髪は、ところどころに紅葉色の光を宿したように見え、秋の陽光そのもののようだった。


「ルナっちー! シアっちー! やっほー!」


 軽やかに弾む声。

 笑顔は太陽みたいに眩しく、近づくたびに空気がほぐれていく。

 まるで彼女自身が季節そのものを連れて歩いているようだ。


(この子が……、この場の空気が一変した原因なのか?)


 そんな疑問を胸の内で抱いていると、隣でルナが顔を引き攣らせていた。


「うげっ! マジか……、こんな時に……」

「あの子がどうかしたのか?」


 小声で尋ねると、ルナは慌てて俺の袖を掴み、さらに声を潜める。


「あの子に、私が原譜の能力者になったこと言っちゃダメだからね」

「なんで?」

「いーから! あとでちゃんと説明してあげるから!」

「よく分かんないけど、了解」


 俺は素直に頷いておいた。

 当然、なぜルナが原譜の能力者になったことを話してはダメなのか、疑問は残る。

 だが、この後に自然な形で原譜の能力者の立場などを尋ねることができる。

 そう考えれば、この流れは悪くない。

 むしろ、好都合だ。


(さて、何をどう訊くべきかな)


 なんて楽観的に考えていたのだが、隣のシアが身を寄せてきて小さな声でそっと伝えられた内容に驚愕することとなった。


「彼女は、フォルン・オータムフェスト。この国に五人しかいない原譜の能力者の一人です」

「えっ……」


 突然、目の前に現れた原譜の能力者。

 理解が追いつくより先に、俺の心臓がドクンと跳ねた。

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