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幕間⑤「再会と邂逅」

幕間パートの最終話になります。

 厄災の虫喰穴(ワームホール)の発生という未曾有の魔導災害に見舞われた星屑の森。

 その場所にも、ようやく静けさが戻りつつあった。

 三つのギルドが到着してからは、事態の収束は驚くほど早かった。

 

 白銀ギルドが結界を構築し、現場一帯を完全封鎖。

 秋風ギルドが地上に溢れた魔獣を掃討。

 明星ギルドがワームホールの封鎖を進める。

 

 その後の処理は虫喰穴の防衛隊(ホールドガード)が引き継ぎ、魔導列車の乗員・乗客に死傷者はなく、死者はゼロ。

 まさに奇跡と呼ぶべき結末で、この魔導災害は幕を閉じることとなった。

 

 ――ただ一つ、乗員・乗客を救った“奇跡の光”という最大の謎を残して。

 

「そろそろかなー」

 

 星屑の森に流れる小さな川の畔で、ルナは救援部隊の到着を待っていた。

 その傍らには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 端正な顔立ちの右頬は大きく腫れ上がり、見るも痛々しい。

 ルナは罪悪感をにじませながら、その頬にそっと手を添えた。

 

(……あー、やっちゃったなぁ)

 

 あの大爆発の中、彼は宙を舞った満身創痍のルナを抱きとめ、命を救ってくれた。

 大好きな物語のワンシーンのような光景に、胸の内が大きく高鳴った。

 しかし、その直後に投げかけられたのは、千年の恋も冷めるような一言。

 悪意がないことは分かっていた。

 けれど気づけば反射的に、拳が彼の右頬にめり込んでいた。

 

 気を失った彼をどうにか木陰へ運び終えた今も、ルナの胸には助かった安堵と、拭えない重苦しさが同居していた。

 

「ルナー!」

「あっ! シア!こっち、こっちー!」

 

 森の中に車両の走行音が響き、もはや懐かしい親友の声が耳に飛び込んだ。

 ルナはぱっと顔を上げ、大きく手を振りながら自分の存在を示す。

 やがて車両が砂煙を巻き上げて停まり、そこから飛び降りたのはシアだった。


 救援部隊の車両を借りて駆けつけた彼女は、ルナの姿を確認した瞬間、碧眼の瞳に涙を滲ませて駆け寄っていった。

 ルナも肩口までの金髪を揺らし、重たい足取りでシアの方へと歩み寄る。

 そして何も言わず、ただ衝動に突き動かされるように互いをぎゅっと抱きしめた。

 

「よかった……! 本当に無事でよかった……!」

 

 シアの震える声が耳元で響く。

 ルナの胸にも、張り詰めていたものが一気にほどけていき、その温もりが、『生きて帰ってこれたんだ』と心の奥底から実感させた。

 

「シア……うん。ちゃんと生き延びた。脇腹はちょっと痛いけどね」

 

 そのまま言葉もなく、ただ互いの無事を確かめるように数秒間抱き合った。

 ――だが、先に口を開いたのは白髪の少女だった。

 何かを堪えきれなくなったように、どこか気まずそうな小さな声で。

 

「ルナ。あのね……」

「ん?」

「……ちょっと臭うね」

 

 空気が凍り付いたような一瞬の静寂。

 その後、ルナはシアから身を引き剥がすようにしてばっと距離を取った。

 そしてそのまま頭を抱え、爆発したように悶えながら叫ぶ。

 

「……うがぁぁああ! もー! どいつもこいつも臭いとか重いとか好き勝手言いやがって! 仕方ないじゃん! ってか、シアだってあんなカッコつけた遺言みたいなこと言っちゃってさ! 『ごめんね、ごめんね』って……ごほっ、げほっ!」

「はーい、ちょっとプシューっとしますねー」

 

 シアはルナの言葉を遮るように、ポケットに忍ばせていたスプレーを噴射した。

 

「ちゃんと消臭スプレー持ってきてた私に感謝してね」

 

 プシューという間の抜けた音が森の中に響き渡る。

 ルナに勢いよく吹きかけられたスプレーは、かなり強力な消臭アイテムだった。

 

「ごほっ、ごほっ! ちょっ! コラ! もっと丁寧にっ! けほっ!」

「はい、これでよしっ。うん、もう臭くないよ」

 

 ルナの首元に顔を近づけ、クンクンと匂いを確かめるシア。

 ルナはまだ納得がいかない様子で、不満げに頬をふくらませていた。

 それでも、こうしてじゃれ合える日常が戻ってきたことを、胸の奥で確かに実感するのだった。

 

「んで、魔導列車の方は大丈夫なの?」

「うん、車体は焦げてたけど大きい怪我をした人もいないみたいだったよ。今は、ホールドガードの人たちが後処理してくれてると思う」

「そっか。よかった~」

 

 感動の再会を果たした二人の話題は、当然ながら事態の顛末へと移っていった。

 まず、ルナは乗員乗客が全員無事であることを知り、ほっと息を吐いた。

 逆にシアは、どうしてルナがあの大爆発の中で生き延びられたのかという疑問を投げかける。

 

「ルナこそ、あの大爆発受けて大丈夫だったの?」

「あー、それがさ……」

 

 ルナは何か言いづらそうな表情を浮かべながら、頬をポリポリと掻く。

 そしてそのまま後ろを向き、未だ木陰で眠る青年の方へ視線を向けた。

 シアも同じように彼を見つめながら、ルナに問い掛ける。

 

「あの人は?」

「実はさ、あの大爆発があった時に……」

 

 そこから歯切れ悪くルナの口から語られたのは、まるで物語のような一幕。

 『愚者と約束の木』の漆黒の王子様が恋人の姫を救い出す名シーンを彷彿とさせる救出劇。

 

 しかし、その最悪の結末を聞き届けたシアは笑いを堪えるように口元を抑えていた。

 

「ぷっ……ふふふ。ご、ごめん。笑っちゃダメだよね」

「もう既にめちゃくちゃ笑ってるでしょうが」

「でも、一瞬で散る初恋もいいと思うよ! そんなの普通は経験できないし、ほら! 花火みたいでさ!」

「全然、フォローになってないんだけど」

 

 そんなやり取りを交わしながら、二人は木陰で眠る黒髪の青年の傍に腰を下ろした。

 

「でも、そっか。この人がルナの命の恩人なんだね」

「……うん」

「それで、その命の恩人をブン殴っちゃったんだ」

「んぐぐ……分かってるよ! あとでめちゃくちゃ謝るから! だから、とりあえず治してあげて! 特に右の頬!」

「わぁ、証拠隠滅しようとしてる~」

 

 シアはくすくす笑いながら、持参した医療用のアーティファクトを取り出した。

 ペンのような形をしたそれを青年の腫れ上がった頬へとかざすと、先端から放たれた淡い光がじんわりと肌に溶け込んでいく。

 ほどなくして、痛々しかった腫れが見る見るうちに引いていった。

 

「うん、これならすぐ治りそうだね」

「よかったぁ……」

「目を覚ましたら、ちゃんとお礼言わないとね。あ、ゴメンなさいの方が先かな?」

「どっちも言います~! まぁ、コイツには文句の一つも言ってあげたいとこだけど」

 

 ルナが不満げに頬を膨らませ、眠り続ける青年の頬を指先で軽く突いたその時――

 

 ピピピピ――。

 

 シアの持つ通信用デバイスが森の中に似合わぬ電子音を響かせた。

 

「あっ、フィオネさんから着信だ。ちょっとルナの無事を報告してくるね」

「うん、お願い。全然、無茶してないって言っといて」

「分かった。無茶した挙句に命の恩人を殴り飛ばしてたって、ついでにロアママにも伝えとくね」

「やめろぉおお! それマジで私の誕生日が命日になっちゃうやつだから!」


 クスクスと笑いながら救援部隊の車両へ戻っていったシア。

 残されたのは、ルナと眠る青年だけ。

 川のせせらぎと風の音が、二人を包み込む。

 ルナは青年の頭をそっと自分の膝に乗せ、殴ってしまった頬に再び手を添える。

 そして忘れようのない場面を思い返していた。

 

(この人が私の命の恩人なのは間違いない。でも、それだけなのかな? 私が感じたとんでもない魔力、シアや魔導列車に乗ってた人たちも救ったあの光も、もしかして……)

 

 胸の奥が、理由もなくざわりと騒いだ。

 異様な硬度を誇る二層鎧の岩盤鯨(ロックスホエール)を一撃で粉砕した光の奔流。

 星屑の森に新たに切り拓かれた一本道。

 命の恩人である謎の青年。

 ルナは、地面に転がる宝石鱗の残骸を手に取りながら彼に問い掛ける。

 

「君は……一体、何者なのかな?」

 

 答えはもちろん返ってこない。

 夏風に煽られた木々のざわめきが微かに耳に届くだけ。


 しかし、次の瞬間、青年の睫毛がかすかに揺れた。

 閉じられていた瞼が、ゆっくりと、確かに開いていく。

 そして、ルナの茜色の瞳と、青年の蒼の瞳が交差した。


 その瞬間――

 星屑の森に流れる運命の旋律が、静かに、しかし確かに動き出した。

次回から第二章となるのでお楽しみに!

毎週、土曜12時ごろに更新中です。

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