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幕間④「強者の集い」

前回に引き続き、濃いキャラたちの登場回になります。

 厄災の虫喰穴(ワームホール)が発生した際、その対応は大きく三段階に分けられる。

 

 ➀ 発生区域の封鎖。

 結界魔術や、その術式を組み込んだアーティファクトによって周辺を隔離し、魔獣を外へ逃がさないことが必須。初動の遅れは被害拡大に直結するため、即応性が何よりも求められる。

 

 ② 地上に出現した魔獣の殲滅。

 これは言うまでもなく、討伐部隊が到着する前にワームホールから発生した魔獣を掃討する段階を示す。撃ち漏らせば後にどこかで繁殖し、人里や街を襲う危険があるため、細心の注意が求められる。

 

 ③ 穴の封鎖。

 最も重要な工程。ワームホールそのものを早急に封印もしくは消滅させなければならない。魔法や魔術、あるいは専用のアーティファクトを用いて一刻も早く閉鎖し、魔獣の侵攻を断ち切ることが急務となる。

 

 ――これらの対応が本来、虫喰穴の防衛隊(ホールドガード)の職務とされる。

 だが今回は、現場に取り残された魔導列車とその乗員・乗客の救助に人員を多く割くため、三つのギルドが緊急対応を担うこととなった。

 

 白銀ギルドは、➀発生区域の封鎖。

 秋風ギルドは、②地上に出現した魔獣の殲滅。

 明星ギルドは、③穴の封鎖。

 

 この割振りについては、冒険者およびギルドを統制・管理する自由組合が間に入り、急ぎ対応方針を決定。

 本来なら競い合うライバル関係の冒険者派閥。

 決して仲が良いとは言えない三つのギルドが連携することは極めて難しい。

 ゆえに今回も、互いに協力するのではなく、それぞれが割り当てられた段階の作業を独立して実施する運びとなった。

 

「お嬢、そろそろ現場上空へ到着しやすぜ」

 

 ワームホール発生現場へ急行する秋風ギルドの魔導戦艦。

 その船首に立つのは、紅葉柄の刺繍が映える淡い黄色の着物風ダンジョンウェアを羽織った少女。

 栗色の長髪を編み込み、鮮やかな橙の瞳を輝かせながら、彼女は満面の笑みで香ばしい団子を豪快に口へと運ぶ。

 武骨な艦と緊張感漂う空気の中、その飄々とした姿はひときわ異彩を放っていた。

 

「んー、このお団子めっちゃ美味しい~」

 

 部下たちに『お嬢』と呼ばれ、気さくに慕われるその少女の名は、フォルン・オータムフェスト。

 秋風ギルドを束ねる団長にして、アルタイル共和国にわずか五人しか存在しない原譜の能力者だ。


 そんな彼女は、今まさに命の危機に陥っていた。

 

「っんぐ!? んーっ! んーっ!」

「お、お嬢!?」


 フォルンは豪快に頬張った団子を喉に詰まらせ、身振り手振りで側に控える部下の男へ必死に助けを求める。

 その様子を察した獣人種の部下が、慌てて水を差し出した。

 彼女はそれを受け取って一気にあおり、どうにか事なきを得た。

 

「っぷはぁ、危ない危ない。お団子で喉に詰まらせて死ぬとこやったわ~」

「勘弁してくださいよ。ウチの団長ともあろう人が団子詰まらせて死んだんじゃ笑えませんよ」

「いや、むしろめっちゃ笑えるでしょ」

 

 フォルンがようやく息を整えたその時――新たな獣の咆哮が空を震わせた。

 

 ――シャァアアアアアア!!!

 

 正面上空から、白い槍を掲げた人型の海妖系魔獣の群れが咆哮を上げながら迫ってくる。

 その不気味な魚人の群れも、フォルンにとっては先ほど喉に詰まらせた団子の方がよほど脅威だった。

 

「ふぅ……食後の運動にはちょうどええかな」

 

 軽く伸びをしてから、彼女は右腕を天へとかざす。

 

「原譜解放! 秋の曲技-第三番-紅葉散火こうようさんか

 

 フォルンが自ら創作した魔法の題名を告げた瞬間――

 金木犀の香りが漂い、風が紅に染まり始める。

 周囲の空気はまるで季節そのものを塗り替えるかのように一変した。

 やがて天より舞い散るのは、数え切れぬほどの紅葉。

 鮮やかな紅を宿したその葉は魔力を帯び、触れた瞬間に火花を散らして燃え上がる。

 当然、フォルンの目前まで迫っていた魚人の群れもその身を焼き焦がすこととなった。

 そして、命を燃やし尽くされた魔獣の亡骸は紅葉と共に灰と化し、風に乗って静かに地上へ舞い落ちていった。

 

「よーしっ! みんなー! 狩りの時間だよ!」

 

 フォルンの天真爛漫な笑顔が、一瞬にして狩人のような獰猛な笑みに変わる。

 それを合図に、秋風ギルドの屈強な獣人種の戦士たちが一斉に動き出す。

 斧を担ぎ、銃を構え、剣を抜き払う――その眼差しは皆、獲物を前にした獣そのもの。


 そしてその先頭に立つのは、豊穣の紅葉乙女(ハーベストメイデン)の異名を持つ少女。

 彼女の名は、フォルン・オータムフェスト。

 秋風ギルドの団長にして、四季の名の一つを冠する秋の魔法使い。

 

 ♪―♪―♪

 

 アルタイル共和国には、多くの冒険者の派閥『ギルド』が存在する。

 それは冒険者やサポーターを団員として構成された組織であり、主に迷宮探索を生業としている。

 その中でも、五人の原譜の能力者が率いる五つのギルドは『五大ギルド』として名を馳せていた。

 

 ➀王将ギルド

 ②豪傑ギルド

 ③白銀ギルド

 ④秋風ギルド

 ⑤明星ギルド

 

 この序列は第八迷宮『海王星迷宮ネプチューン』での到達階層を基準とした格付けであり、同時に彼らの実力を端的に示している。


 ただし、評価はそれだけでは決まらない。


 地上における依頼達成率や社会貢献度、さらには派閥としての人気なども考慮される。故に、今回のようなワームホール発生事案における人命救助や魔獣討伐は大きく評価される。

 

 逆に、所属団員の不祥事や依頼の失敗はペナルティとして反映され、評価を落とす要因となってしまう。

 

 だからこそ――


 このワームホール発生の事態に、苛立ちを隠せず身を震わせる者がいた。

 

「あぁ……全く、どうしてこう……どいつもこいつもッ!」

 

 まるで王の玉座を思わせる豪華な椅子にふんぞり返り、整えられた白髪を苛立ち紛れにかきむしる青年。

 その指先には、大ぶりの宝石が嵌め込まれた指輪がいくつも煌めき、ギラギラといやらしいほどの光を放つ。

 身にまとうのは、高級感あふれる金糸の刺繍を贅沢に施した純白のスーツ型ダンジョンウェア。

 

 青年の名は、リヒト・ルーキフェル。

 明星ギルドの団長にして、アルタイル共和国にわずか五人しか存在しない原譜の能力者の一人である。

 

「なんでよりにもよってさぁ。僕のギルドのパーティが警備依頼の担当なのさ」

 

 豪華な装飾が隅々にまで施された明星ギルドの魔導戦艦の一室。


 リヒトは、今回の救助対象となっている魔導列車ギンガの警備依頼を任された冒険者パーティ『白亜の翼』の情報が記されたリストを、苛立たしげにめくっていた。

 

「依頼達成率40パーセントって……こんなゴミども拾うんじゃなかったよ」

 

 明星ギルドはここ数年、所属の冒険者やサポーターを大量に抱え込み、急速に勢力を拡大してきた。

 今回、魔導列車ギンガの護衛依頼を引き受けている『白亜の翼』もその一つ。

 魔導学院の生徒であれば、それなりに見込みはあるだろうと受け入れた。

 それが実際のところは、暴力沙汰や依頼現場でせこい盗みをしてペナルティを受ける始末。


 さらに、今回の件で列車の乗員乗客に死傷者でも出てしまえば、『白亜の翼』が所属する明星ギルド全体への非難へと繋がる。


 五大ギルドの頂点の座を狙うリヒトにとって、それは到底、看過できるものではなかった。

 だからこそ、今回の一件は明星ギルドの中だけで内々に処理するつもりでいた。


 しかし――

 

「よりにもよって、あの女どもまでしゃしゃり出てきやがって……」

 

 窓越しに見えるのは、明星ギルドの魔導戦艦に並んで飛行する二隻の魔導戦艦。

 共和国政府と自由組合は今回の事態を深刻視し、『白銀ギルド』と『秋風ギルド』にも緊急依頼を出したのだ。


 よりにもよって、自分たちの目の上のたんこぶである二つのギルドにだ。


 当然、彼は『明星ギルドだけで全て対応可能だ』と強硬に提案した。


 だが返ってきたのは、あっさりとした却下の一言。


 結果として、三つのギルドで分担して事態の鎮圧にあたることとなった。

 これは裏を返せば、『明星ギルドだけでは力不足』と見なされたも同然であり、リヒトにとっては屈辱以外の何物でもなかった。

 

 そんな苛立ちを募らせる彼のもとへ、さらに追い打ちをかけるような凶報が届く。

 

「リヒト様。現場からの追加情報が入りました」

「ッチ、さっさと寄越せよ」

 

 無機質な雰囲気を漂わせ、人形のように感情の色を見せない部下の少女から、リヒトは報告書を乱暴に引ったくった。

 その勢いのままに記された文字へと視線を走らせる。

 

 ・現時点で確認されている魔獣の数と能力値指標パラメーター

 ・乗員・乗客の名簿。

 ・ワームホール発生地点を中心に描かれた周辺地図。

 

 だが、リヒトの目を釘付けにしたのは別の記述だった。

『魔導列車に乗り合わせた冒険者が魔獣誘引用の発煙筒(デコイスモーク)を使用し、魔獣を誘導中。至急の救助を要す』――そう書かれた一文。

 そして、見覚えのあるその対象者の名前。

 

「……ルナ・トワイライト? 僕の顔に傷をつけたあのクソ女じゃないか」

 

 リヒトは報告書を片手でぐしゃりと握り潰し、逆の手をゆっくりと自らの右頬へと当てた。

 そこに残るのは、薄く走る一本の線。

 かつて、とある事件のいざこざで激昂したルナ・トワイライトによって刻まれた、忌まわしき切り傷の痕跡である。


 ――もちろん、報復は忘れなかった。


 彼女が通う魔導学院には圧力をかけ、停学処分に追い込んだ。

 あらぬ噂を流布し、他の冒険者たちが彼女を避けるよう仕向けた。

 自由組合にも手を回し、ランク降格という重いペナルティを科させた。

 徹底的に潰した。


 二度と冒険者としてやっていけないように。

 結果、ルナが組んでいた冒険者パーティは解散。

 今や彼女は、無所属のはぐれ冒険者として孤立し、一人で細々と活動するしかない存在となった。


 ――もう二度と、あの目障りな金髪も、忌々しい茜色の瞳も、その名すらも目にすることはない。

 リヒトはそう確信していたのだ。

 

「ッチ、あれだけ潰したのにまた湧いて出てきやがって……しかも、今回の現場に居合わせるなんてどれだけ僕をイラつかせれば気が済むのさ」

 

 彼は吐き捨てるように呟き、報告書へと視線を落とす。

 そこに記されていたのは、現場で魔獣に対応しているのがルナ・トワイライトただ一人であるという事実。


 つまり、この件が無事に収束すれば、賞賛を浴びるのは彼女だ。

 明星ギルドが、いやリヒト・ルーキフェルが彼女に尻ぬぐいをしてもらった形になる。

 プライドの高い彼にとって、それは到底受け入れられるものではなかった。


「それに『白亜の翼』の三人は、現場にいるくせに情報も寄越さず何をやってるのさ」

 

 苛立ちがさらに募る。

 警備依頼を任されている彼らの不甲斐なさは明白だったが、今は追及している暇はない。

  一刻も早く現場に急行し、自らの手で事態を鎮圧しなければならない。

 そう決意し、リヒトが豪奢な椅子から腰を上げたその瞬間だった。

 

 ――グォオオオオオオオオオオオオ!

 

 外から魔導戦艦の内側にまで轟き渡る獣の咆哮。

 リヒトは舌打ちをし、側に控える灰色の髪をした少女へ鋭い視線を向けた。

 人形のように無機質な雰囲気を漂わせるその少女は、合図を受け取ったかのように口を開く。

 

「リヒト様。通信室より報告です。正面より数十体の魔獣が接近中です。迎撃しますか? それとも迂回しますか?」

「……ミア、君は本当にバカなのかい? 今は時間が惜しいんだ。迎撃して、最短距離で突き進むに決まっているだろう」

「承知しました」

 

 自分の部下の無能さに、リヒトは深い溜息を吐いた。

 そして苛立ちを紛らわすように、側に置かれた一振りの剣へと手を伸ばす。

 豪奢な装飾が施されたその剣こそ、彼を今の地位へと押し上げた国宝にも匹敵する聖剣であった。

 リヒトはそれを片手に取り、足早に魔導戦艦の船首へと向かう。

 

「これ以上、足止めされるわけにはいかないんだよ」

 

 普段であれば、この程度の雑事は部下に任せておけば十分。

 だが今回は一刻を争う。

 白銀ギルドも秋風ギルドも、そしてあのルナ・トワイライトまでもが、自分の手柄を奪おうと動いているのだから。


 まずは、明星ギルドに割り振られた任務を誰よりも早く完遂すること。

 できることなら、他のギルドに割り振られた仕事すら奪い取り、自らの功績としてしまいたい。

 

 様々な思惑を巡らせながら戦艦内の連絡路を駆け抜け、リヒトは船首へと到着した。

 そして既に魔獣と交戦していた部下たちを冷たく一喝する。

 

「僕がやる。君たちは下がっていろ」

 

 部下たちを退かせ、煌びやかな聖剣を高々と掲げる。

 その刃に溜め込んだ苛立ちを叩きつけるように、彼は自ら編み出した魔法の題名を高らかに口にする。

 

「原譜解放――光の曲技-第一番-黎明紅断れいめいこうだん

 

 刹那、宝飾のように輝く刀身から紅蓮の光が噴き出した。

 熱を帯びた光が刀身を伝い、やがて一条の斬撃として収束する。

 そして、リヒトが剣を振り抜くと同時に、紅蓮の閃光が空を切り裂いた。

 

 ――グガッ!?

 

 射線上にいた二層鎧の岩盤鯨(ロックスホエール)の下位種『岩鯨』の分厚い体表を一刀両断。

 分断された巨躯は重力に引かれ、地の果てへと消え失せた。

 

「僕の邪魔をする奴らは、全員潰してやるさ」

 

 不敵な笑みを浮かべ、リヒトは冷たくそう吐き捨てる。

 彼こそが、傲慢なる光の聖剣士(プライドネスセイバー)の二つ名を持ち、明星ギルドの頂点に君臨する青年。

 そして――この国で唯一の原譜を宿す聖剣の使い手にして光の魔法使い。

次回の幕間⑤もお楽しみに!

毎週、土曜12頃更新中です。

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