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幕間③「救援部隊」

幕間③は、第一章の裏で動いていたキャラのお話になります。

 厄災の虫喰穴(ワームホール)の発生速報が、アルタイル共和国中を駆け巡っていた頃。

 話題の中心地――星屑の森にある『双星の丘』を目指し、白昼の青空を切り裂くように四隻の魔導戦艦が一直線に突き進む。


 最前の空を駆けるのは、一際巨大にして荘厳なる旗艦。

 その後を三隻の艦が矢のように追随し、編隊は天空を貫く槍のごとき鋭さを帯びていく。

 大空を切り裂く風切り音と魔導戦艦のエンジン音が轟き、大気を震わせながら大地へと響き渡っていた。

 

 そしてその先頭を進む船の艦首には、円環の中に十字を刻んだ紋章を描く旗が高々と翻り、烈風にたなびく。

 誰もが知るそのマーク――それは世界調和機構に加盟する同調国の証であり、同時に『世界調和』の名の下に、同調国内で治安維持活動を行う世界調和連合軍の魔導戦艦であることを示していた。


 ガチャンッ――


 甲板を叩く風切り音の中、艦内側のハッチが開く。

 次の瞬間、白と紺を基調とした制服姿の隊員が、足早に艦首へと駆け出してきた。

 強風に煽られながらも姿勢を崩すことなく、同じ隊服を身に纏う青年の背後でぴたりと立ち止まる。

 

「アレク隊長! まもなく現場に到着します!」


 報告の声に、艦首に立つ彼は振り返らず、短く応じた。


「……あぁ、分かったよ」

 

 艦首最前部で白いマントが烈風を受けて大きくはためく。

 その背には、魔導戦艦と同様の世界調和機構のシンボルマークが刻まれる。

 紺色と白を基調とした戦闘服で武装し、腰には煌めく剣を携えた茶髪の青年。


(今回こそは、オレたちが手柄をあげてみせる……必ずアイツよりも先に……)


 胸中でそう呟きながら、彼は再び前方へと視線を戻す。

 

「オレたちは魔導列車に取り残された乗員・乗客の救助を最優先だ。後続の三隻には、ワームホールの対処と魔獣の掃討を迅速に遂行するよう伝えてくれ」

「了解しました!」

 

 鋭い眼差しで前方を見据えながら指示を飛ばすその青年の名は、アレク・セオドール。

 世界調和連合軍の中枢部隊『世界調律騎士団』に所属し、同調国であるアルタイル共和国に駐在する彼は、国内で発生するワームホールに対処する部隊――通称『虫喰穴の防衛隊(ホールドガード)』の部隊長を務めている。

 

 そのアレクのもとに慌ただしい伝令が駆け込む。

 

「正面より複数の魔力反応を確認! こちらへ迫っています! 数は……10、いや20体! 迎撃態勢へ移行しますか!?」


 報告を受け、アレクはわずかに眉を寄せ、少し苛立ち気に後続の魔導戦艦三隻へ視線を向ける。

 だが次の瞬間には背筋を伸ばし、堂々たる声で指示を飛ばす。

 

「いや、ここはオレが一撃を放って道を切り開く。だから、魔力障壁シールドを全面展開して前進だ。本格的な迎撃は、後ろの自己中な冒険者たちにやらせておけばいいさ」

「了解しました!」

 

 命令が伝わるや否や、艦全体を覆う魔力障壁シールドが構築される。

 そして数秒後――空を泳ぐ無数の海妖系魔獣が雄叫びを上げながらその姿を現す。

 

 グォオオオオオオオオオオオオ

 

 アレクは腰の剣を抜き放ち、刀身に左手を添える。

 吐息と共に魔力を解き放ち、低く詠唱した。

 

「正義の曲技-第一番-天心奮迅てんしんふんじん

 

 自身の正義感を魔力に上乗せして威力を上昇させる魔法を発動。

 右手で掴む剣の刀身が、瞬く間に青白い光に包まれていく。

 そして迫り来る魔獣へ向けて剣を振りかざす。

 

「オレの正義を執行する!」

 

 放たれた斬撃は閃光となって数体の魔獣を薙ぎ払い、空に一本の道を切り拓く。

 先頭を進む艦隊が駆け抜けた先に現れたのは、山のごとき巨体を揺らす大型魔獣『二層鎧の岩盤鯨(ロックスホエール)』。

 その眼前には、今まさに巨大な口に呑み込まれようとする魔導列車の姿。

 

「クソっ! 間に合わない……んなっ!?」

 

 焦燥の声を漏らしたアレクの瞳に、地上を走る巨大な閃光が飛び込んだ。

 まるで一条の流星が地を駆け抜けるように、光の筋が大地の上を迸っていった。

 それが救いの兆しか、それとも新たな災厄の幕開けか。

 この時、その答えを知る者は誰一人いなかった。

 

 ♪―♪―♪


 星屑の森周辺に発生した厄災の虫喰穴(ワームホール)

 初期観測では危険度(深度)レベル4に分類されていたが、ほどなくしてレベル5へ移行。

 現場で確認されている魔獣の数は30体を超え、なお増殖を続けている。

 

 さらに、ワームホールから放出される魔力の放出力音量(コアプレスチュード)は、上昇の一途を辿り、危険度(深度)はついにレベル6到達目前という非常事態に達した。

 その現場には、いまだ293名の乗員・乗客を抱えたまま立ち往生する魔導列車が取り残されている。

 

 アルタイル共和国政府はこの事態を重大な危機と判断し、虫喰穴の防衛隊(ホールドガード)の派遣に加え、国内五大ギルドのうち『白銀ギルド』『秋風ギルド』『明星ギルド』へ緊急依頼を発令した。

 

「――では、先程お伝えしたように、各ギルドで分担して対応をお願いします」

 

 アレクと彼が率いるホールドガードが搭乗し、先行して現場へ急行する魔導戦艦より後続の三隻へ届けられた通信。その通信内容は、三つのギルドで分担してワームホールの対処にあたってほしいというものだった。


 これを受け、動き出すのは国内に五人しかいない原譜の能力者のうち三名。

 

「さて、手早く片付けてしまいましょう」

 

 白銀ギルドの魔導戦艦――艦首近くに設えられた展望室。

 備え付けられたテーブルに腰掛ける可憐な少女は、優雅に紅茶を口に運ぶ。

 湯気とともに漂う芳しい香りを楽しみながら、机上のチェス盤に細い指先を伸ばし、軽やかな音を立てて駒を動かす。


 やがて彼女がすっと立ち上がると、淡い銀に紫を帯びた長髪が風に舞い、陽光を受けてきらめきを放つ。

 小柄でありながら、その気品と美貌は場を支配するほどの存在感を纏っていた。

 

 ――グォオオオオオオオオオオオオ!

 

 その銀髪の少女が搭乗する魔導戦艦へ数体の海妖系魔獣が鋭い咆哮を上げながら迫る。

 彼女の側に控える部下たちが一斉に動き出そうとするが、少女は静かに片手を掲げ、白い指先ひとつで制した。

 そして一挙手一投足に気品を漂わせながら、彼女は淡々と唇を開く。

 自ら創作した魔法の題名を、まるで詩を朗読するかのように呟いた。

 

「原譜解放……銀の曲技-第三番-天穹てんきゅうちょう

 

 刹那、少女の周囲から数百に及ぶ小さな銀の球体が浮かび上がる。

 それらは鼓動するように震え、形を変えて蝶を象り、瞬く間に無数の銀色の蝶が羽ばたき始める。

 そのつばさは淡い光を散らし、銀粉を撒きながら宙を染め上げるかのごとく優雅に舞う。

 やがて蝶の群れは一斉に進路を変え、正面から迫る魔獣たちへと雪崩れ込む。

 次々と触れられた魔獣は、銀色の絵の具に肉体が浸食されたように動きを止める。

 最後には、空を泳いでいた獰猛な魔獣たちは、銀の彫像となって地の果てへと消えていった。

 

「では、皆さん。作戦を開始しましょう」

 

 銀髪の少女は、凛とした佇まいで周囲に控える部下へ指示を下す。

 彼女の名は、シャーロット・セレンティア。

 可憐なる白銀の姫君(シルヴィス・ヴィーナ)の二つ名で知られる白銀ギルドの頂点に君臨する少女。

 そして――この国で唯一の『色』の名前を冠する原譜の能力者にして銀色の魔法使い。

来週の幕間④もお楽しみに!

毎週、土曜12時頃に更新中です。

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