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幕間②「親心」

幕間②は、ルナとシアの帰りを待つ家族の物語になります。

 アルタイル共和国――第二都市ベガ。

 その街角に、ひっそりと佇む小さな喫茶店『幻想喫茶キラキラ』。

 旅人も常連も分け隔てなく迎え入れる、街に溶け込んだ憩いの場。

 いつもの店内には、優しいオルゴールの音色が流れ、立ちのぼる珈琲の香りと共に、客たちの穏やかな談笑が小さく木霊する。


 ――しかし今、その穏やかな音は一つとして存在しない。

 響いているのは、カウンター近くに設置されたラジオから流れる物々しいニュースの声だけだった。


「速報です。本日正午過ぎ、アルファ地方『双星の丘』付近で次元層の虫喰い穴(ワームホール)の発生が観測されました。この影響で、現場近くを走行していた魔導列車ギンガが機材トラブルにより緊急停車。現在も乗員・乗客あわせて293名が現場に取り残されており、予断を許さない状況が続いています。この非常事態を受け、共和国政府は――」


 この緊急の一報に固唾を呑み、真剣な眼差しで耳を傾ける三人の姿があった。

 まず、ルナとシアの育ての親であるアークレイ夫妻。

 二人がまだ5歳の頃、施設から引き取り、我が子同然に愛し、ときに厳しく育ててきた。

 血のつながりこそなくとも、その絆は実の親子以上に強い。

 だからこそ――。

 大切な娘たちが魔導災害に巻き込まれたという報を受けても、声を荒らげることはなかったが、心中は決して穏やかではなかった。


「ロアナ……」

「……アンタは相変わらず心配性だね。あの子らなら大丈夫だよ」


 寡黙で強面の大男――ビスタは言葉を呑み込んだまま、しかし顔には『心配』の二文字を貼りつけたようにして妻を見やった。

 そんな視線を、ロアナは力強い言葉と確かな眼差しで一蹴する。

 これまでも何度も肝を冷やさせられてきた。

 特に、お転婆な方の娘には。

 それでも毎度、入口のベルを『カランカラン』と鳴らし、けろりとした顔で『ただいまー♪』と帰ってきたものだ。

 何度、愛ある拳骨と雷を落としてきたことか。

 今回も、きっと同じ――。

 そう自分に言い聞かせながら、ロアナは赤茶色の髪を束ね直し、堂々とした佇まいでルナの誕生日パーティ用の料理を準備する。


「ロアママ! ルナ姉もシア姉も、全然連絡つかないよ!」


 一方で、カウンター席に座る竜人種ドラコの少女が、今にも泣き出しそうな声で騒ぎ立てる。

 腰まで伸びた緋色の髪が印象的なその少女の名は、リオ・トワイライト。

 ルナとシアと同じくアークレイ夫妻に引き取られた15歳の娘であり、ふたりを本当の姉のように慕っている。

 そんな彼女が両手で握り締めるのは、テレパスフォン。

 先ほどからずっと画面とにらめっこしながら通信を試みていたものの、いくら呼びかけても返信はない。

 不安は募る一方で、想像したくない未来がリオの心を掻き乱す。

 そんな彼女を落ち着かせるように、ロアナとビスタは静かに言葉を紡いだ。


「あの子らは、ちゃんと帰ってくるさ。リオも信じて待っててやんな」

「ルナは強い。シアは賢い」


 ロアナの声は力強く、それでいて諭すように優しかった。

 ビスタは言葉数は少ないが、大きな掌をそっとリオの頭へ添える。

 その温もりが、不安で揺れる胸を静かに落ち着かせていく。


「……うん」


 しかし、三人の不安を煽るニュースは続く。


「続報です。アルファ地方『双星の丘』付近で観測されている次元層の虫喰い穴(ワームホール)について、深度がレベル4からレベル5へ上昇したと、魔導省および自由組合が正式に発表しました。依然として、一刻の猶予も許されない状況が続いています。共和国政府は自由組合と連携し、虫喰穴の防衛隊(ホールドガード)に加え、五大ギルドのうち『明星ギルド』『白銀ギルド』『秋風ギルド』に緊急依頼を発令。速やかな対応を求めているということです」


 テキパキと料理の準備を進めながら、不穏な続報に眉をひそめるロアナ。

 強面の顔をさらに険しくして、約束したケーキの準備に取りかかるビスタ。

 カウンター席では、リオが両肘をつき、腕を組んで祈るように頭を乗せていた。

 重たい沈黙が店内を支配する中、ロアナは二人に向けて口を開く。


「あたしゃ、ちょいと裏で準備してくるから。店番、頼んだよ」


 そう言い残し、裏の厨房へ下がったロアナは、背後の壁にもたれるように身を預けた。


「……ハァ……」


 胸の奥に押し込めていた不安が、吐息とともにこぼれ落ちる。

 今回ばかりは嫌な予感が拭えなかった。

 同時に、続報を耳にしてから最悪の未来が脳裏に過ぎる。


 そんな彼女の心情を察するようにして後を追ってきた大男が、ロアナの肩に手を添えるようにして短く言葉をかけた。


「大丈夫だ。あの子たちなら」

「あんた……」


 ロアナの心情を誰よりも理解している旦那のビスタは多くを語らない。

 ただ、弱さを見せたがらない妻に寄り添うのみ。

 そして二人は、どうか娘二人が無事に帰って来るのを願うばかり。


「バカ娘ども、ちゃんと無事に帰ってくるんだよ」


 厨房の窓から巨大樹を見据え、ロアナは再び力強く呟いた。

 遠い空の下で厄災と対峙するルナとシアの無事を祈って――。

来週の幕間③もお楽しみに!

毎週、土曜12時頃に更新中です。

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