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神秘解戦~オルゴールプラネット~  作者: 白石誠吾
第一章-前編「邂逅前夜」
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Op.2「悪夢」

「パラレル計画、実験第一段階……成功です!」

「「おぉお!」」


 大きなモーター音と数十人の大きな歓声が頭の内側に響いてくる。

 気分は最悪。途轍(とてつ)もなく目覚めの悪い寝起きのような感覚だ。


(うるさい……こっちは眠いんってのにもうちょい静かに……いや違う……俺は確か……生き埋めになって死んだはず……)


 ぼんやりとしている視界と共に寝ぼけていた意識が徐々に鮮明になっていく。

 それと同時に、自分の置かれている状況が理解できず困惑する。


(どういうことだ?)


 実は死んでいなくて家で眠ったまま悪夢でも見ていたのだろうか。

 もしくはあの絶望的な状況から奇跡的に助かって病院のベッドの上だろうか。

 そんな淡い希望を込めた俺の予想は、目の前の光景と自身の状態によって即座に否定された。


(おいおい、どうなってんだよ……)


 大聖堂のような広大な空間の中央で、俺の両手両足首には鎖のついた枷。

 それが周囲の四本の柱と繋がれ、首輪もおまけで雁字搦(がんじがら)めに拘束されている。

 天井はドーム状で豪華な装飾が施され、足元には巨大な魔法陣のような紋様が物々しく刻まれている。

 さらに正面奥には、異様さと不気味さを纏った赤黒い大木が聳え立つ。

 そして周辺には、この空間に似つかわしくないハイテク機材と十人ほどの人影。


(なんだアイツら? ってか、ここどこだよ……)


 彼らは、白いローブのフードを目深に被っているので顔はよく見えない。

 数人は全身を防護服のようなものに身を包んでおり、見たことのないような大きな銃を携えている。


 また、不可解なことがもう一つ。先ほどから声が出せない。

 喋れないのではなく、発した声が消えているような奇妙な感覚。

 何がどうなっているのかずっと理解が追いつかない状況がずっと続いている。


「インスペクター、実験を次の段階へ移行せよ!」

「パラレル計画、実験第二段階へ移行します! 各員、配置についてください」


(パラレル計画? 実験? って、おい! ちょっと!)


 こちらのことなどお構いなしに俺の四方を囲むように人影が移動していく。

 そんな中、一人だけ色の違う黒いローブに身を包んだ男が二つの小さな箱を持って近寄って来る。


(日本人、ではなさそうだな……)


 顔の上部のみを趣味の悪い仮面で覆った長身で細身の男。

 雰囲気的に年齢は、30代後半から40代前半。

 両腕には、譜面の一部を切り取ったような紋様の刺青。

 加えて、左手の甲には()()のマークが刻まれている。

 そして趣味の悪い仮面の奥からは紫紺(しこん)の瞳が俺の姿を捉えている。

 最後に、仮面の男は運んできた黒い箱を丁寧に俺の前に置き、すぐさま距離を取っていった。


(これは、あの時の箱に似てるな……)


 目の前に置かれた二つの黒い箱のデザインは見覚えのあるものだった。

 死の直前か死後か定かではないが、『夢』というタイトルで五線譜のみの譜面が入っていた白い箱と似ている。

 その表面のラベルに記されていたのは確か……


 天使系-解釈譜(ワードスコア)-タイトル『夢』。


 だが、目の前に置かれている黒い箱の表面に記されているのは先ほどとは異なる。


 悪魔系-色想譜(カラースコア)-タイトル『黒』。

 悪魔系-幻命譜(ライフスコア)-タイトル『百眼の巨人(アルゴス)』。


 これを開けば先ほどと同じようにオルゴール音色が響き、中から音符記号のような文字のオブジェとタイトルだけの譜面が浮かぶのだろう。

 だが、それが何を意味するのかは依然として分からない。

 俺からしっかり距離を取っていることから考えて危険な代物の可能性が高い。


「各員、配置完了しました!」

「始めるぞ」


 何かの準備が整ってしまったようだ。嫌な予感しかしない。

 少し離れた場所から仮面男が俺の方へ視線を向けて命令を下す。


()()()()()()()()()()()()()()


 聞き覚えのない『神秘のオルゴール』という単語。

 しかし、間違いなく目の前に置かれた黒い小箱を指している。

 前回は勝手に開いたし、死んでいるのかよく分からない状態で一瞬の出来事だったが……


(嫌な予感がする。こっちは爆破生き埋め縛りプレイの三連コンボで既にお腹いっぱい。おかわり不要なんだよ)


 内心で悪態をつきつつ様子を窺おうとするが、それも徒労に終わってしまう。

 俺の意思とは関係なく体が勝手に動き始めた。


(クソっ、体が勝手に……さっきからどうなってんだよ!)


 いい加減に驚くのにも疲れてくる。抵抗しても勝手に体が動いてしまう。

 命令された通りに神秘のオルゴールと呼ばれていた小さな箱へと手を伸ばしていく。

 手を伸ばす先にあるのは二つある箱のうちの一つ。

 悪魔系-色想譜(カラースコア)-タイトル『黒』と記された黒色の小箱だ。


 抵抗も許されず俺の指先が箱の上部へ触れる。

 そのままゆっくりと蓋を開くと、オルゴールの音色が響き始めた。

 ここまでは前回と同じ。

 違うのは、その後だった。

 無数の音符記号に似た文字とタイトルだけの譜面が宙に浮かび上がり、俺の胸元に吸い込まれるように消えていったのだ。

 そして、俺が開いた小さな黒い箱は、淡い輝きの欠片を残して跡形もなく消えていった。


(すげぇ。どういう原理だ? いや、それよりも何も起こらなっ……)


 神秘的な光景に少し安堵したのも束の間、次の瞬間には体内に燃えるような激痛が走った。


(ぐっ……ぐぁああああああああああああああああ)


 経験したことのないような痛み。

 例えるなら、体の奥底から炎が沸き上がり体内を焼き尽くすような痛み。

 全身の血液が沸き上がり、沸騰させられているかのような苦痛。


魔力の放出力音量(コアプレスチュード)の急上昇を観測! 各員警戒してください!」

()()()()()()()() ()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「フッハハハ! これは想定外だが計画に支障はない。続行せよ!」

魔力の放出力音量(コアプレスチュード)……7000……7500……8000……上昇しています!」

「素晴らしい。凄まじい魔力だ!」


 魔力? 周囲の会話が薄っすらと聞こえるが気にしている余裕は欠片もない。

 本来ならのたうち回っているような痛みだが、両手両足の枷がそれを許さない。

 そして追い打ちをかけるように目の前の男から非情な命令が下された。


「神秘のオルゴールを開きなさい!」


 再び自分の意思とは関係なく体が動いていく。

 本来なら思うように動けない状態であっても強制的に動かされてしまう。


 俺の手が向かう先はもう一つしか残っていない。

 悪魔系-幻命譜(ライフスコア)-タイトル『百眼の巨人(アルゴス)』と記された小さな箱。


(クソっ……やめ……ろ……)


 これを開けば再び地獄のような痛みを味わうことになる。

 そう思い必死に抵抗を試みる。

 すると、火事場の馬鹿力というものだろうか。

 先ほどは為す術もなく操られていた体がどうにか動きを止める。

 しかし、一瞬でも気を抜けば体の支配権を奪われそうだ。


「ッチ、無駄な抵抗をするな!」


 憤慨するように駆け寄ってきた仮面の男が、大きく足を振り上げる。

 次の瞬間、このヘンテコ仮面は抵抗できない俺の鳩尾(みぞおち)を蹴り飛ばした。

 そして、悶絶し地に伏せる俺を何度も踏みつけて動かないことを確認すると、再び非情な命令を下して足早に去っていく。


「命令だ。神秘のオルゴールを開け!」


 再び自動的に動き出す俺の体。

 抵抗も虚しく、再び小箱の上部に指先を乗せて開いてしまう。

 そして先ほどと同じ過程で、胸元に音符記号に似た無数の文字とタイトルだけの譜面が吸い込まれていく。

 これ以上、何も起きないで欲しいという祈りも届かない。


(クソがっ……うぅっぁああああああああああああ)


 体の中で燃え盛る炎に燃料を投下されたように更なる業火が体の中を駆け巡る。どうにか逃れようと体を捻じっても、引きちぎれるほど腕を引っ張っても逃れることは叶わない。

 ガシャンガシャンと鎖の音色が空虚に響くだけ。


魔力の放出力音量(コアプレスチュード)……8600……9400……10000! 異常値へ到達!」

「はっははは! 凄まじい! 凄まじい魔力だ! これならあの御方もお喜びになるだろう」


 仮面男の高笑いが広大な空間に木霊する。

 今も煮えたぎるような痛みにもがき苦しむ俺を見下し、蔑むような笑みを浮かべている。


(聞こえたぞ。これで誰かが喜ぶ? ふざけやがって……)


 沸々と怒りが込み上げてきた。

 なぜ俺がこんな仕打ちを受けなければならないのか。

 意味も分からず死んだかと思えば、今度は拘束されて拷問。

 実験動物のように扱われている状態にも苛立ちが募っている。

 終わらない悪夢のような状態にもうんざりしてきた。


(あぁ……いい加減うぜぇな)


 自分の中で痛み、苦しみ、苛立ち、憎悪など色々なものが渦巻いている。

 その全てが一つに凝縮されて明確な『殺意』へと姿を変える。

 枷と鎖が外れた瞬間に目の前の奴らを皆殺しにしてやりたい衝動に駆られる。

 特に目の前で高笑いしているヘンテコ仮面だけは必ず。


(こいつだけは絶対殺す)


 殺意を増幅させていく中、突如として胸元にほんのりと温かさを感じた。

 次いで、頭の中に変なイメージと短文のフレーズのようなものが舞い降りた。


(なんだ?いや、もうどうにでもなれ)


 本能的に、殺意の赴くままに頭の中に舞い降りてきたものを吐き捨てるように口にする。溜め込んだ憎悪と殺意を放つように、目の前の男を睨みつけ……


原譜解放(げんぷかいほう)……夢の曲技(きょくぎ)-第一番-夢限牢獄(むげんろうごく)

毎週、土曜日12時頃に更新予定です。

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