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神秘解戦~ダンジョンプラネット~  作者: 白石誠吾
一章-後編「邂逅前夜」
28/36

Op.27「二つの夢」

一章後編の最終話は、ルナ視点の物語になります。

 謎の光線による攻撃が二層鎧の岩盤鯨(ロックスホエール)に炸裂し、巨大な爆発が巻き起こった。

 その余波で私は空高く弾き飛ばされ、風に煽られて目まぐるしく回転する視界の端に()()()()()()()()()が映り込んだ。

 

 ――アルタイル共和国の中心にそびえる伝説の巨大樹。


 刹那、走馬灯のように『愚者と約束の木』の物語が脳裏に溢れ出していった。


(あぁ、やっぱ素敵なお話だよなぁ……)


 上空から落下していく私は、薄い意識の中で大好きな物語に想いを馳せる。

 幼い頃から何度も読み返し、何度も胸を熱くさせてくれた作品。

 いつも寝る前には必ず手に取り、甘酸っぱさと切なさに眠りを誘われた。


 気がつけば、街のどこからでも見える巨大樹に目が吸い寄せられるようになっていた。

 その度に、約束の二人が築いたこの国をもっと好きになっていった。

 

 ――いつか私にも、漆黒の王子様みたいな人との運命の出会いがあるのかな。

 そんな夢を抱くようにもなった。


 今では私の人生に欠かせない大切な物語のひとつ。

 でも、一番好きとまでは言い切れない。


『ルナは、二つの演目どっちの物語が好きなの?』


 今朝、劇場へ向かう途中でシアに尋ねられたあの質問が、頭の片隅をよぎる。

 『最果ての英雄』と『愚者と約束の木』どちらが好きなのか。

 改めて考えてみてもその答えは、あの時と同じで選べない。

 だって、好きの種類が違うから。


(結局、未完成の大傑作(マスターピース)って何だったんだろ……)


 勇者パーティ『ブレーメン』の物語を知る人なら一度は抱く疑問。

 すなわち、千年前から世界中の人たちがずっと胸の内に秘め続けてきた疑問。

 私だってその一人。


 死ぬ前に『未完成の大傑作(マスターピース)』がどんなものなのか知りたかった。

 世界最大の神秘に満ちたお宝を探しに行く冒険の旅をしてみたかった。

 英雄たちが最期に残した言葉の謎を解き明かしたかった。

 それが私の夢。

 小さい頃からいつか絶対に叶えるんだって思い続けた夢だった。

 けど、もうそれも……


(あぁ……やっぱり死にたくないなぁ)


 満身創痍で力の抜けた身体が落下していく中、脳裏に蘇る二つの物語。

 『最果ての英雄』と『愚者と約束の木』。


(もし、この二つのどっちか選べば助かるって言われたら……私は――)


 なんて、くだらない妄想で恐怖を紛らわせようとしたその時だった。


 ()()()()()()()()()()()()()


 同時に胸の奥がドクンッと跳ね、大きく脈打ち始める。


(えっ? えっ!?)


 戸惑う暇もなく、ふわりと身体が支えられる。

 空中で――誰かが私を優しく抱きとめていた。


 その人物と視線が交差する。


 深く青い空色の瞳。

 漆のように艶やかな黒髪。

 私と同い年くらいの整った顔立ちの青年。


 彼は黒いコートを纏い、大好きな物語に登場する『漆黒の王子様』そのもの。

 そんな彼に、空中でお姫様のように抱きかかえられている私の図。

 この光景は、まさに『愚者と約束の木』の裏表紙に描かれた一枚の絵。

 魔王との戦いで窮地に陥ったユエをノクティスが助け出した時のような一コマ。

 さらに、上空から色鮮やかな星屑のようなものが舞い散り、この一幕に彩りを添える。


(……あれ、私もう死んじゃった?)


 現実とは思えない幻想的な光景。

 一瞬、本当に死んだのかと思ったけど、それを否定するように心臓が騒ぐ。

 ドクンっドクンっとうるさく鳴り、私に何かを知らせるように。


(なに、この感じ……)


 恐怖とも違う。緊張とも別物。

 胸が温かく、ぎゅっと高鳴るような、今まで経験したことのない感覚。


 もしかして、これが『恋』ってやつだったりするのかな?

 もしかして、これが『運命の出会い』ってやつなのかな?


 そうだといいな。

 これが私だけに見えている幻影じゃないといいな。

 でも、もしこれが夢ならずっと醒めないでいてほしい。

 

 そんな願望に浸っていると、青年がふいに私の顔を覗き込んだ。


(めっちゃ見られてる……!)


 彼の腕の中で支えられながら地面へゆっくり降下していく。

 その中で、何度か視線が交差する。

 

 どうしよう。あんまりジッと見つめられるとさすがに恥ずかしい。

 あれ? そういや今の私ってズタボロで匂いとかもヤバくない?

 さっきまで血生臭い魔獣誘引用の発煙筒(デコイスモーク)を使って汗だくで走り回ってたよね?

 めっちゃ生臭い海妖系魔獣と戦って、何度も地面転がったりしてなかった?


 朦朧としていた意識がいつの間にか鮮明となり、同時に嫌な記憶が次々に脳裏に浮かんでくる。


(……いや、ちょっと待っ――)


 あまりに最悪な自分の状態に思い至ったのは、ほぼ同時。

 だけど、既に手遅れだった。

 彼は眉間に深い皺を寄せ、私から顔をそむけるように視線を上げ――


「重っ!!! ってか、めっっっちゃ臭せぇえ!!!」


 ……私の中で何か大事なものが壊れる音がした。

 同時に、魔導列車の中でシアに食べ過ぎを注意されたことが脳裏に過ぎる。

 先ほどまでの心のときめきや、幸せな気分はどこへやら。

 恋に落ちたと思ったら、絶望のどん底に叩き落とされた。

 一瞬、芽生えた恋心は無残に砕け散り、私の初恋は十秒も経たず終わりを迎えた。


 最後に残ったのは、なんかムカつくという怒りの感情だけ。


「うっさい! このアホー!!!」


 気づけば意識は完全に覚醒し、動かなかった身体の自由も戻っていた。

 千年の恋も冷めるような冷や水をぶっかけられた反動だったと思う。

 そして、地面に着地する寸前のところで、私の拳は彼の右頬を見事に打ち抜いていた。


「がはっ!?」


 白昼にカラフルな星屑が舞い落ちる初夏のとある日。

 金髪の少女ことルナ・トワイライトは、最悪な形で運命の出会いを果たす。

 決して重なり合うことのない二つの影が交錯。

 この出会いは定められた運命か、奇跡の巡り合わせか、それとも運命の悪戯か。

 ここより始まるのは、今はまだ誰も結末を知り得ぬ神秘を紐解く物語。

このエピソードで一章後編が終わり、一章完結となります。

ようやく主人公とヒロインが出会い、ここから一気に物語が加速していきますのでお楽しみに!


今後の展開としては、一章の裏側の動きと二章の前段階を描いた幕間のエピソードを五話挟んだ後に二章を開始予定です。

幕間の五話では、個性的なキャラたちが登場するのでこちらもお楽しみに!


ここまでの一章全体の感想や評価をいただけると嬉しいです。

毎週、土曜12時頃に投稿しているので引き続きよろしくお願いいたします!

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