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神秘解戦~オルゴールプラネット~  作者: 白石誠吾
一章-後編「邂逅前夜」
21/23

Op.20「進展」

 ルナが20体の魔獣と会敵し、戦闘に入ったのとほぼ同時刻。

 魔導列車ギンガの運転室でも大きな進展があった。


「自由組合アルファ6番支部との通信が回復しました!」


 何度も外部との通信を試みていた車掌の男性が、興奮気味に声を上げた。

 刹那、沈黙に包まれていた運転室の空気が揺らぐ。

 次元層の虫喰穴(ワームホール)の発生直後から念波障害によって外部との連絡は途絶していた。

 救援を求めることも、いつ助けが来るのかも分からず、閉塞感に包まれていた運転室にようやく希望の光が射し込んだ。


「私がまとめている情報を共有するので、こっちに繋いでもらえますか?」

「はい!」


 ルナの戦闘をサポートしながら、車掌の男性に指示を出すシア。

 彼女は椅子の背にもたれず、前屈みの姿勢で操作卓へ身を寄せていた。

 視線は魔力探知機(レーダー)のモニターと、自身のサポート用デバイスの画面を忙しなく行き来する。

 指先は音形構成符号メロディグリフを素早く叩き、連続するキー音が緊迫した空気を刻む。

 戦況を把握しつつ、報告用のデータを同時進行で組み上げていく。

 その動きには、一切の迷いがなかった。


 そして一拍の静寂を挟み、運転室内に凛とした女性の声が響く。


「聞こえますか。こちら自由組合アルファ6番支部です。現状の報告を願います」

「えっ……フィオネさん? 私です! シアです!」


 通信相手の聞き慣れた声に、シアは一瞬戸惑いながらも安心感を覚えた。

 途切れがちだった通信のノイズ越しに、確かによく知った声が聞こえる。

 シアはすぐさま名前を名乗り、自分の存在を伝えた。

 この状況において、彼女の存在はそれほどまでに大きいものであった。


 その声の主、フィオネ・プルメリア。

 冒険者を統制・管理する組織『自由組合』の職員であり、ルナの冒険者活動を支える担当アドバイザー兼マネジャーだ。自由組合に寄せられた依頼のうち、どの依頼を受注するのかなどを提案し、依頼者との仲介、交渉・調整役を担っている。


 また、迷宮探索においても事前の座学講習や装備の手配、階層攻略の相談などを引き受け、冒険者のキャリアを支援する職務全般を担当している。

 シアとルナにとっては、三つ年上の頼れるお姉さん的存在でもあった。


「……えっ? シア?」


 フィオネもまた、緊急避難区域内で立ち往生している列車の現状把握に努めていたが、まさか通信相手が妹のように可愛がっているシアだとは思わなかった。

 同時に、胸の奥にとてつもなく嫌な予感がよぎる。


「なんであなたがそこに……まさかルナも?」

「はい……偶然乗り合わせちゃってお手伝いしてます。それより急がないとルナが!」

「落ち着きなさい。すでに虫喰穴の防衛隊(ホールドガード)と秋風ギルド、白銀ギルド、明星ギルドからの増援を手配済みよ。だから、まずは落ち着いて状況を教えてちょうだい」

「ごめんなさい。データにまとめているので転送します!」


 張り詰めていたシアの肩から、わずかに力が抜けた。

 フィオネの声が、ほんの少しだけ彼女の心を落ち着かせる。

 シアは息を整え、手元のキーボードを叩きながら必要なデータを即座に転送した。


【状況報告データ】

 救助対象車両名:魔導列車ギンガ

 救助対象者①:乗員・乗客293名

 救助対象者②:ルナ・トワイライト(交戦中)

 ※救助対象者②はD2ランク冒険者であり、魔獣誘引用の発煙筒(デコイスモーク)を使用して単独で20体の魔獣を誘導中。即時の増援が必要とされる。冒険者プロフィールおよび能力値指標(パラメーター)は以下に記載。対象者は前衛職のため、回復術師(ヒーラー)および後衛職の増援を希望。


【冒険者プロフィール】

 氏名:ルナ・トワイライト

 年齢:18歳

 性別:女

 人種:C型鬼人種(オグレス)

 所属ギルド:無所属

 所属パーティ:無所属

 ポジション:前衛

 使用武具:ブレード

 個人ランク:D2


【実績】

 ・脅威度D1『赫毛の巨獣熊(レッドベア)』を単独討伐。

 ・ギルドモール内での魔導テロ事件において、実行犯の確保。

 ・ヴィオラ山脈麓の大規模ワームホール対応依頼にて遊撃部隊前衛を担当。

 ・脅威度D2『蒼糸の水蜘蛛(アクアスパイダー)』を単独討伐。

 ・前所属のC2ランク冒険者パーティ『月花(げっか)の組』において脅威度C3『全身結晶の恐竜獣(アクアサウルス)』を討伐。

 ・定期討伐遠征43階層へ参加。

 ・『流星の子どもプロジェクト』に参加協力。


【特記事項】

 ・新星暦2007年、終末の前厄災(ラグナロック)において明星ギルド団長である『傲慢なる光の聖剣士(プライドネスセイバー)』ことリヒト・ルーキフェル氏を殺害未遂。魔導学院より三か月の停学処分。

 ・鮫の魔人『シャークザリッパー』共同討伐作戦において命令違反。クエストポイント20点の減点。

 ・幼少期より剣鬼ことガルシオン・ヴィルフリード氏に師事。

 ・国家ギルド主導の定期遠征において独断専行のため18点減点。


【魔術適性】

 攻撃魔術:適性度2/10

 防御魔術:適性度1/10

 回復魔術:適性度0/10

 拘束魔術:適性度0/10

 支援魔術:適性度2/10


能力値指標(パラメーター)

 ➀魔力総量:2/10

 ②魔力制御:3/10

 ③基礎体力:7/10

 ④機動力:5/10

 ⑤戦闘技能:7/10

 ⑥攻撃力:3/10

 ⑦防御力:1/10

 ⑧索敵:1/10

 ⑨支援補助:1/10

 ⑩射程:1/10

 Totalスコア:31/100


 シアは送信したデータの内容を要約しながら、フィオネに現状を報告した。


「――というわけで、ルナがデコイスモークを使って魔獣を誘導しながら時間を稼いでいます。できるだけ早めに増援をお願いします」

「またあの子は無茶して……大丈夫よ。もう増援は手配済み。あと五分で現着予定だから」

「よかった。それと、魔獣に関する情報なんですけど――」


 救助対象者の確認を終えたシアは、続いて現時点で判明している20体の魔獣について、手元のデータを参照しながら説明を始めた。


 ➀脅威度F1ランク『宝石鱗の魔獣魚(ジュエルフィッシュ)』:10体。

 ②脅威度E3ランク『魚人型の魔獣戦士兵(フィッシャーウォリア)』:6体。

 ③脅威度D2ランク『魔海の巨大鮫(メガロドン)』:4体。


 ※各魔獣の生体情報および能力値指標(パラメーター)については以下に記載。


 ➀『宝石鱗の魔獣魚(ジュエルフィッシュ)

 【生体情報】

 名称:宝石鱗の魔獣魚(ジュエルフィッシュ)

 分類: 海妖系小型魔獣

 脅威度:F1(第六級討伐対象)

 体長:50~70cm

 体重:10~15kg

 魔力量:6万EP

 スキル:『空間遊泳』『宝石鱗』『魔力感知』


 【能力値指標(パラメーター)

 攻撃力:1/10

 防御力:4/10

 機動力:3/10

 知能:1/10

 魔力量:1/10


【特徴】

 宝石のように硬度が高く、色鮮やかな鱗が最大の特徴。その頑丈な鱗は外敵から身を守り、エサを捕獲する際には敵に突進して弱らせてから捕食する習性を持つ。群れを形成して行動することを好む傾向があり、大群で大型魔獣にも襲い掛かることもある。基本的に水中を生息域とし、二層鎧の岩盤鯨(ロックスホエール)の背を住処として好む。また、エサを求めて空間遊泳スキルによって陸地へ襲来することも多い。そして硬度の高い宝石鱗に覆われた肉は柔らかく、鱗と同様に高値で取引される。


【調査報告】

 魔導省および自由組合の魔獣災害調査によると、対象魔獣によって毎年約2000~3000人の負傷者が確認されており、人的被害が年々増加傾向になっている。また、被害の80%以上が北側諸国で発生しており、対象魔獣の発生地および生息地域に起因している。


【特記事項】

 対象魔獣については、脅威度F1に分類されるため推定死傷者数は50人規模とされる。また、新星暦1956年には宝石鱗の魔獣魚(ジュエルフィッシュ)の大群がシェアト共和国を襲撃する事件が発生。これにより首都機能の一部が停止。以降、対象魔獣の脅威度が一部改訂。一体あたりの脅威度は低いものの、群れを形成した際の危険度を考慮し10体につき脅威度が一つ上昇することとなった。また、ワームホール発生時に同魔獣が大量に出現した場合には、同時に二層鎧の岩盤鯨(ロックスホエール)の出現も警戒する必要がある。


 ②『魚人型の魔獣戦士兵(フィッシャーウォリア)

 【生体情報】

 名称:魚人型の魔獣戦士兵(フィッシャーウォリア)

 分類:海妖系中型魔獣

 脅威度:E3(第五級討伐対象)

 体長:160~170cm

 体重:90~100kg

 魔力量:30万EP

 スキル:『魔力感知』『戦技』『空間遊泳』


 【能力値指標(パラメーター)

 攻撃力:3/10

 防御力:3/10

 機動力:4/10

 知能:4/10

 魔力量:3/10


【特徴】

 海妖系魔獣の中でも二足歩行で、より人に近い姿であることが最大の特徴。魚に両手両足が生えたような外見で全身が緑青色の鱗で覆われており、背中と肘付近にも橙色のヒレがある。水中でも首の根元のエラから呼吸が可能。魚類系の魔獣が人化した生物とされ、二足歩行で移動し両手で武器や武術などを使用する。その戦闘技能については個体によってレベルが大きく異なる。その理由として、第八迷宮『海王星迷宮(ネプチューン)』の内部にて死亡した人間の転生体であると考えられており、媒介となった人の魂から戦闘技術を継承しているとされる。


【調査報告】

 魔導省および自由組合の魔獣災害調査によると、対象魔獣の被害については軽微なものであり、そのため脅威度は低く見積もられている。しかし、同魔獣はエサである人を食べることで知性が高くなっていくことが証明されており、脅威度が個体によって分散する傾向にある。


【特記事項】

 対象魔獣については、脅威度E3に分類されるため推定死傷者数は800人規模とされる。また、新星暦1972年には同魔獣が1000人以上の人間を食らいその後、人語を喋り、詠唱と祈りの掌印を使用して魔術を展開したという事例も発生している。その際、軍隊を結成していくつもの国を襲撃したという事例も確認されているので、同魔獣については早期の討伐が推奨される。


 ③『魔海の巨大鮫(メガロドン)

 【生体情報】

 名称:魔海の巨大鮫(メガロドン)

 分類:海妖系大型魔獣

 脅威度:D2(第四級討伐対象)

 体長:18~20m

 体重:8000~9000kg

 魔力量:40万EP

 スキル:『空間遊泳』『威圧』『血肉吸収』『超嗅覚』『魔力感知』


 【能力値指標(パラメーター)

 攻撃力:5/10

 防御力:3/10

 機動力:6/10

 知能:3/10

 魔力量:4/10


【特徴】

 凶暴な性格に加え、食欲旺盛で人の血肉を好んで食らうため第四級討伐対象に認定。基本的に水中を好むが、人間を捕食するために空間遊泳のスキルを使用して陸地に狩りへ出向く習性を持つ。水中と比較すると空中を遊泳するスピードは半減するが、時速70キロ程度の速度で空中を遊泳することが可能。特に嗅覚に優れており、魔力と血の匂いに敏感に反応する。また、血肉を摂取することで再生能力が上昇する特性もあるので戦闘の際には注意が必要となる。


【調査報告】

 魔導省および自由組合の魔獣災害調査によると、対象魔獣による被害件数は毎年約8000件に上っている。十年前と比較して約二倍に増加しており、年々増加傾向となっている。また、人的被害に加えて魔導戦艦が襲撃された事例も多発しており、漁業、水産業、運輸業などにも多大な損害を与えている。


【特記事項】

 対象魔獣については、脅威度D2に分類されるため推定死傷者数は1500人規模とされる。この脅威度に関しては、新星暦1990年に同魔獣がミザール公国デルタ地方に発生した際、マンドラ湖を遊覧中の魔導船二隻が襲撃された事件に起因している。護衛依頼を引き受けていた海牛ギルドおよび風花ギルドが共に壊滅。透明度の高さで有名な湖が一夜にして深紅に染まり、死者1500人の大規模魔獣災害となった。後に『マンドラの悲劇』と呼ばれ、対象魔獣の脅威度をD1からD2へ引き上げるきっかけとなった。他にも類似した事例が発生しているため輸送船、魔導戦艦には上位冒険者パーティの同行が推奨される。


 ※上記、計20体におよぶ魔獣については、現在ルナ・トワイライトが交戦中。

 別途、魔導列車に向けて侵攻中の10体については、魔力の放出力音量(コアプレスチュード)『1200db~6500db』を観測。推定脅威度はF1~C3。現時点で個体の詳細については不明。


「これは……」


 フィオネは、ルナが交戦中の魔獣に関する情報を読み取り、言葉を詰まらせた。

 同時に、普段は冷静沈着なシアが珍しく取り乱していた理由を察する。


 本来、D2ランクの冒険者が高い確率で討伐できるのは、同ランクの魔海の巨大鮫(メガロドン)1体、もしくはそれ以下の脅威度を持つ魔獣5体前後が限界とされている。


 それにもかかわらず、ルナは最低限の装備でメガロドン4体と交戦しつつ、防御力の高い宝石鱗の魔獣魚(ジュエルフィッシュ)10体、さらに対人戦闘に特化した魚人型の魔獣戦士兵(フィッシャーウォリア)6体を同時に相手取っている。


 今回は討伐が目的ではないにしても、状況は極めて危険であることは明白だった。


「シア、あの子に伝えて。必ず生きて持ち堪えること。戦わず、逃げに徹しなさいって。あと、帰ってきたら話したいことが山ほどあるから、って」

「ふふっ、了解です。ちゃんと伝えておきますね」


 フィオネの伝言を受け、シアが戦闘中のルナへ通信を飛ばす。

 するとすぐに、『お任せあれ♪』という、いつも通りの軽い返答が返ってきた。

 その声を聞いたフィオネは、少し呆れたように、それでいて深い安堵を滲ませた溜息を漏らした。


「ハァ……まったく、あの子は……。――それで列車の方は、あと五分ほど持ちこたえられそうかしら?」


 現在、魔導列車側も予断を許さない状況にある。

 血肉に飢えた10体の獣が、我先にと迫りくる。

 ルナが大半の魔獣を誘導したことで数は大幅に減っているものの、シアの胸には拭いきれない懸念が残っていた。


 ()()()()()()()()()()C()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 すなわち、その高位魔獣は囮に釣られず、一直線に魔導列車へ向かっている可能性が高いということだ。


魔力障壁シールドを全面展開しているので、今のところは大丈夫だと思います。……ただ、魔力反応が1キロ先まで迫っていて、おそらくCランク帯の魔獣が……。余裕はなさそうです」

「そう……。とりあえず、そっちで詳細が分かり次第すぐ知らせて。こちらで増援部隊に共有しておくわ」

「分かりました。あと、今の防衛体制についてなんですけど――」


 シアは、警備依頼を受けている『白亜の翼』のパーティメンバー情報や、魔導列車を囲む『魔力障壁シールド』と『砦雲』による二重防衛体制の現状を報告しようとした時だった――。


 ドンッ――!


 シアを含めた運転室の三人が、座席から転げ落ちるほどの強烈な衝撃に襲われた。


「なんだっ!?」

「きゃっ!?」


 運転室の窓に走る、蜘蛛の巣のようなひび割れ。

 防壁が破られたのではない。外部からの攻撃を防ぎきった余波。

 だが、それだけで今の一撃がいかに強烈だったかを物語っていた。


「シア!? 何が起こったの!? 応答しなさい!」


 通信機越しに響くフィオネの声だけが、運転室内に虚しく反響する。

 シアは痛みに耐えながら身を起こし、外の様子を映すモニターへ視線を向けた。


 そこに映っていたのは――

 ()()()()()()()()()()()()()()()C()1()()()()()()()()()()()()()姿()()()()

 

「なんで……魔力反応はまだ1キロ先だったのに……」

次回もお楽しみに!

毎週、土曜12時頃に更新中です。

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