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神秘解戦~オルゴールプラネット~  作者: 白石誠吾
一章-後編「邂逅前夜」
16/23

Op.15「魔導災害」

魔導災害の脅威指標(ハザードレート)ステージ5の緊急信号を受信しまシタ」


 突然に訪れた緊急の一報に、ルナとシアは険しい表情で顔を見合わせた。

 張り詰めた空気の中で交わる視線。

 その静かな真剣さこそ、事態の重大さを如実に物語っていた。


 魔導災害の脅威指標(ハザードレート)とは、魔獣の襲撃や惑星迷宮(ダンジョン)に起因した災害の危険度を示す指標。その危険度は五段階に分けられており、より危険性や緊急性が高い区域であるほどにその数値が上昇していく。


・ステージ1:警戒準備区域

 緊急時に備え、避難経路や避難先を事前に確認する段階。

・ステージ2:警戒区域

 ただちに避難行動へ移れるよう、準備を整えることが求められる。

・ステージ3:避難推奨区域

 状況が悪化する前に、可能な限り速やかな避難が推奨される。

・ステージ4:避難指定区域

 災害の危険が切迫しており、速やかな避難が義務づけられる。

・ステージ5:緊急避難区域

 命の危機が目前に迫っているため、即時かつ無条件での避難が必要。


 そして現在、ルナたちを乗せた魔導列車が走行する区域に発令されている魔導災害の脅威指標(ハザードレート)は、最高レベルのステージ5。

 すなわち、何らかの要因で現在地である星屑の森周辺が即時避難を必要とする『緊急避難区域』に指定されたということを意味していた。


 その要因に心当たりのあったシアは、すぐさまそれをルナに共有しようとした時だった――


「これって多分……きゃっ!」

「おわっ!?」


 直後、キィイイッと金属が擦れ合う甲高い音が響き、激しい衝撃が二人を襲った。


「っと、危ない危ない」


 体勢を崩したシアを、ルナが素早く抱き寄せて地面に伏せたことで、どうにか大事には至らなかった。

 一体、何が起こったのか?

 答えは明白だった。

 先ほどまで耳に響いていた走行音も、足元を揺らしていた振動もない。

 魔導列車は、まるで息絶えたかのように停止していた。


 ビービービービービービー


 そして今の衝撃で乱雑に転がった二人の通信用デバイスから、魔導災害の脅威指標(ハザードレート)ステージ5に至った理由が無機質な音声で告げられる。


「推定レベル4の次元層の虫喰穴(ワームホール)の観測に伴い、現在地が魔導災害指定区域および緊急避難区域に指定されまシタ」


 ルナとシアは思わず息を呑む。

 また、この内容を捕捉するように魔導列車内でも緊急の車内アナウンスが流れ始めた。


「ただいまこの魔導列車ギンガは、緊急停止信号を受信したため緊急停車いたしました。現在、安全確認および状況確認を実施しております。お急ぎのところ申し訳ございません。発車まで座席から立ち上がらず今しばらくお待ちください」


 先ほどからの魔導災害の脅威指標(ハザードレート)ステージ5の緊急信号および魔導列車の緊急停車の要因は、『次元層の虫喰穴(ワームホール)の発生』に起因していた。


 次元層の虫喰穴(ワームホール)とは、惑星迷宮(ダンジョン)の誕生時より人類を苦しめてきた災害の一種。

 大陸上空に位置する天体迷宮の内部と地上を繋ぐ『()』が時空を超えて発生し、そこから迷宮内の魔獣が襲来してくる災害。

 このネプチューン大陸においては、上空の第八迷宮『海王星迷宮(ネプチューン)』の内側と地上を結ぶ道が開通したことを意味する。


 ここで重要になるのが、()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 惑星迷宮(ダンジョン)の構造上、内側へ深く進むほどに危険度が増す環境であり、それに比例して魔獣の脅威度も上昇する。

 つまり、地上と通じる階層の深さと危険度で小規模の魔導災害として処理できる場合もあれば、国家規模の魔導災害へ繋がる場合も存在するということだ。


 では、どのように次元層の虫喰穴(ワームホール)が通じている階層のレベルを判別するのか?


 一つ目は、発生した次元層の虫喰穴(ワームホール)のエネルギー量を観測すること。

 これはワームホール発生直前の空間が歪む音『次元層の亀裂音(ワームノイズ)』の出力規模や、発生時の推定魔力量から試算しておおよその規模感を把握できる。


 二つ目は、目視での確認。

 ワームホールは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 つまり、『下層』や『深層』などの非常に危険な領域と通じているほどにエネルギー量は大きく、穴の大きさも肥大化していく。


 そして、次元層の虫喰穴(ワームホール)の危険度(深度)は10段階で区分されている。


レベル1:表層(第1層~第19層)と通じており、穴の規模は約1~19メートル。

レベル2:上層(第20層~第29層)と通じており、穴の規模は約20~29メートル。

レベル3:上層(第30層~第39層)と通じており、穴の規模は約30~39メートル。

レベル4:中層(第40層~第49層)と通じており、穴の規模は約40~49メートル。

レベル5:中層(第50層~第59層)と通じており、穴の規模は約50~59メートル。

レベル6:下層(第60層~第69層)と通じており、穴の規模は約60~69メートル。

レベル7:下層(第70層~第79層)と通じており、穴の規模は約70~79メートル。

レベル8:深層(第80層~第89層)と通じており、穴の規模は約80~89メートル。

レベル9:深層(第90層~第99層)と通じており、穴の規模は約90~99メートル。

レベル10:最深層(第100層)と通じており、穴の規模は約100メートル。


 今回、ルナたちの現在地付近で発生した次元層の虫喰穴(ワームホール)の危険度はレベル4。

 すなわち、第八迷宮『海王星迷宮(ネプチューン)』の中層に分類される階層域と通じていることを意味している。また、このレベル4という指標は10段階の中では下位の方に位置するが、非常に危険であることに変わりない。


 そのことをよく知る二人は、緊急停車した列車内でこの後に起こり得る最悪の場合を想定して行動に移っていた。


「シア、この列車の『警備依頼』受けてんのどこのギルドか調べて。あとそのパーティの情報と能力値指標(パラメーター)もお願い」

「うん、任せといて」

「私もいざって時に暴れてもいいようにフィオネさんに連絡入れとくかな」


 『怒られそうだけど』と呟きながら、ルナは通信用デバイスを手に取り、専属のアドバイザー兼、自由組合の職員であるフィオネへと連絡を試みた。

 しかし、ノイズ混じりのエラー音が返るばかりで繋がらない。

 ルナは、難しい表情を浮かべながら何度か通信を繰り返す。


「んー、やっぱ繋がらないなぁ」


 一方で、シアはリュックから取り出したサポート用デバイスに保存されているデータを確認していた。

 そして音形構成符号(メロディグリフ)が刻まれたキーボードを叩く指先が、ふいに止まる。

 数秒の沈黙の後、彼女は大きな溜息と共に天を仰いだ。


「もぉ、なんでこんな時に限って……」

「ん? なんかマズイ感じ?」

「この魔導列車の警備依頼を受けてるギルドなんだけどさ……明星(みょうじょう)ギルドみたい」

「マジか……」


 嫌なギルド名が告げられた途端、ルナの頬がぴくりと引き攣る。

 そのまま彼女は目を閉じ、大きく息を吐きながら額に手を押し当てると、シアと同じくそのまま重く天を仰いだ。


 二人が嫌悪する明星ギルドとは、アルタイル共和国に五人しかいない原譜の能力者の一人『傲慢なる光の聖剣士(プライドネスセイバー)』が率いる冒険者の派閥。国内でもトップ5に入る五大ギルドの一角であり、週刊ダンジョンの到達階層の順位表(ダンジョンチャート)にもその名を連ね、派閥の規模は今や国内最大に迫る一大勢力だ。


 そして何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を引き起こしたバチバチに因縁のあるギルドであった。


「しかも、ここの警備依頼を受けてるのウチの学院の生徒みたい……」

「うわっ、最悪過ぎるでしょ」


 シアは顔を青ざめさせ、ルナもさらに深く頬を引き攣らせて絶望を悟った。

 魔導列車の警備依頼――それは、走行中の列車を魔獣や外敵から守るための依頼である。とはいえ実際に襲撃が起こることは稀で、ほとんどは乗客同士の揉め事を仲裁する程度。そのため冒険者ランクが低くても受注可能で、小遣い稼ぎ感覚で引き受ける者が多いのが実情であった。


「これが、この魔導列車の警備依頼を引き受けてるパーティと構成メンバーだね……」


 シアは白い獣耳をしゅんと伏せ、沈んだ表情でデバイスの画面をルナに向ける。

 そこには、魔導列車ギンガの警備依頼を受けた冒険者パーティの情報が表示されていた。


【パーティ名:白亜(はくあ)の翼】

 所属ギルド:明星ギルド

 パーティランク:D1

 パーティ構成:三人一組(スリーピース)

 依頼達成率:40%


【構成メンバー➀】

 氏名:ミランダ・トレーボル

 年齢:18歳

 性別:女

 人種:原人種(ヒューム)

 所属ギルド:明星ギルド

 所属パーティ:白亜の翼

 ポジション:後衛

 使用武具:魔弾の中型銃(クオーター)魔弾の大型銃(ギバウス)

 装着宝具:魔力保存用の腕輪(ストレージリング)

 個人ランク:F3


【実績】

・定期討伐遠征32階層へ参加。

・キメラクラブ大規模討伐作戦における後方支援。


【特記事項】

・新星暦2006年、市街での魔獣掃討戦に後方支援として参加。その際に避難家屋から金銭を盗難。自由組合条例の違反により罰金および降格処分。

魔素結晶(マナメタル)の採掘依頼において規約違反によりクエストポイント20点の減点処分。


【魔術適性】

 攻撃魔術:適性度1/10

 防御魔術:適性度3/10

 回復魔術:適性度0/10

 拘束魔術:適性度3/10

 支援魔術:適性度2/10


能力値指標(パラメーター)

 ➀魔力総量:3/10

 ②魔力制御:4/10

 ③基礎体力:1/10

 ④機動力:2/10

 ⑤戦闘技能:2/10

 ⑥攻撃力:2/10

 ⑦防御力:2/10

 ⑧索敵:2/10

 ⑨支援補助:3/10

 ⑩射程:3/10

 Totalスコア:24/100


【構成メンバー②】

 氏名: ローガン・ムアヘッド

 年齢:18歳

 性別:男

 人種: C型熊人種(ベアード)

 所属ギルド:明星ギルド

 所属パーティ:白亜の翼

 ポジション:前衛

 使用武具: 魔力刃の大斧(パワーアックス)

 装着宝具:魔力保存用の腕輪(ストレージリング)

 個人ランク:E2


【実績】

・ギガントフロッグ討伐作戦における前衛職を担当。

・脅威度E3『魚人型の魔獣戦士兵(フィッシャーウォリア)』の単独討伐。

・定期討伐遠征32階層へ参加。


【特記事項】

・一般市民への恫喝行為および暴力行為による二度の厳重注意。

・市街地における私闘行為によりクエストポイント10点の減点処分。

魔素結晶(マナメタル)の採掘依頼において規約違反によりクエストポイント20点の減点処分。


【魔術適性】

 攻撃魔術:適性度2/10

 防御魔術:適性度1/10

 回復魔術:適性度0/10

 拘束魔術:適性度0/10

 支援魔術:適性度0/10


能力値指標(パラメーター)

 ➀魔力総量:2/10

 ②魔力制御:1/10

 ③基礎体力:5/10

 ④機動力:2/10

 ⑤戦闘技能:3/10

 ⑥攻撃力:4/10

 ⑦防御力:3/10

 ⑧索敵:1/10

 ⑨支援補助:1/10

 ⑩射程:1/10

 Totalスコア:23/100


【構成メンバー③】

 氏名:サム・ブラウン

 年齢:18歳

 性別:男

 人種: B型小人種(ミゼット)

 所属ギルド:明星ギルド

 所属パーティ:白亜の翼

 ポジション:前衛

 使用武具: ショートブレード

 装着宝具:魔力保存用の腕輪(ストレージリング)

 個人ランク:E1


【実績】

・ギガントフロッグ討伐作戦における戦闘補助。

・定期討伐遠征32階層へ参加。


【特記事項】

・一般市民への恫喝行為および暴力行為による二度の厳重注意。

魔素結晶(マナメタル)の採掘依頼において規約違反によりクエストポイント20点の減点処分。


【魔術適性】

 攻撃魔術:適性度1/10

 防御魔術:適性度2/10

 回復魔術:適性度1/10

 拘束魔術:適性度1/10

 支援魔術:適性度2/10


能力値指標(パラメーター)

 ➀魔力総量:2/10

 ②魔力制御:3/10

 ③基礎体力:3/10

 ④機動力:3/10

 ⑤戦闘技能:3/10

 ⑥攻撃力:2/10

 ⑦防御力:2/10

 ⑧索敵:1/10

 ⑨支援補助:1/10

 ⑩射程:1/10

 Totalスコア:21/100


 表示されたデータを最後まで確認し、二人の表情はさらに曇っていた。

 ――やはり、警備を担当しているのは魔道学院の同級生。

 実力は学院内では中堅程度だが、素行は最悪。

 加えて、ルナを敵視する派閥の筆頭格でもある。

 今回の事態もルナが無闇に首を突っ込めば、揉め事が大きくなるのは明白であった。


「うわ……よりによってコイツらかぁ」


 額に手を押し当て、ルナは苦々しい表情を浮かべながら天井を見上げる。

 吐き出した声は、苦笑にも諦めにも似ていた。


「今頃テンパってなきゃいいんだけど」

「でも、学院で一応は対処法も学んでるし、大丈夫だよね?」

「んー。ま、今回は列車が動き出すまで、乗客を落ち着けて外に出さなきゃいいだけだから大丈夫でしょ」


 そう言いつつ、ルナは緊急停車したまま動く気配のない列車の窓に視線を向けた。

 目先に広がるのは、青々とした木々と草花が生い茂る星屑の森。

 自然豊かな光景を茜色の瞳に映しながらも、彼女の胸中は穏やかなものではなかった。


(……なんで動かないんだろ? もう魔獣に挟まれてる? もしくはワームホールが同時に二つ発生したとか? いや、どちらにせよこの状況は……)


 魔導災害の脅威指標(ハザードレート)ステージ5に指定された緊急避難区域では、一分一秒の遅れが命取りとなる。発生した次元層の虫喰穴(ワームホール)から魔獣が溢れ出し、人の臭いや魔力を感知し、容赦なく襲いかかってくる。


 この魔導列車など大量の餌を詰め込んだ弁当箱にほかならない。

 すなわち、どんな形であれ一刻も早くこの場を離脱することが最優先事項だ。

 にもかかわらず、緊急停車から既に三分が経過しようとしていた。


「動かないね……」


 シアも同じ疑問を抱いていたのか、小さく吐き出すように呟いた。

 その表情は硬く、握りしめた拳が不安を物語っている。

 ルナは励ますようにニコッと笑みを浮かべ、明るい声をかけた。


「大丈夫だって! いざとなれば私がどうにかするからさ」

「それを心配してるの!」


 心配したはずがそれ以上に心配されているというオチであった。

 シアの両手がルナの頬をむぎゅっーと挟む。

 ルナは肩を竦め、情けない表情を浮かべるしかなかった。


 こうして張りつめていた空気がふっと和らぐ。

 そしてこのまま何事もなく発車してこの場を離脱してくれれば、と二人が思い始めた矢先のことだった。


「大人しく座ってろって言ってんだろうがよ!」


 荒々しい男の怒声とともに、『ドンッ』という衝撃音が車内に轟いた。

次回もお楽しみに!

毎週、土曜12時頃に更新中です。

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