⭕ わらいもの 9
──*──*──*── 小学校
──*──*──*── 2階・教室
──*──*──*── 帰りの会
男子生徒
「 おい、見ろよ!
雨が降って来たぞ!
凄い量の雨だ!! 」
男子生徒
「 は?
マジかよ!? 」
男子生徒
「 天気予報、外れてんじゃんかよぉ~~ 」
男子生徒
「 濡れて帰るとか最悪だぁ~~~~!! 」
女子生徒
「 やだぁ~~!
うち、共働きだから迎えに来てもらえないのにぃ~~ 」
女子生徒
「 置き傘してる男子が居たら、女子に貸しなさいよ! 」
男子生徒
「 ふざけんなぁ!
何で自分の傘を女子に貸さないといけないんだよ!
諦めて濡れて帰れよ!! 」
男子生徒
「 そうだ、そうだ! 」
窓の外から見える土砂降りを見て、男子生徒達と女子生徒達が言い合いを始めた。
帰りの会が終わると、[ 教室 ]を出る前に担任教師が口を開く。
担任教師
「 そう言えば──、玄関の傘立てに、傘が置かれてたよな。
久賀瀬はカッパを持って来てるから、使わないんじゃないか?
折り畳み傘も持って来てたよな。
久賀瀬から貸りる手も有るか。
月曜日に返せば、盗んだ事にもならないしな──。
気を付けて帰れよ~~ 」
口論している生徒達へとんでもない爆弾を投下して、担任教師は何食わぬ顔で[ 教室 ]から出て行った。
担任教師の言葉を聞いた生徒達の目付きと顔色が変わる。
朝の会や短い休み時間を使って、散々馬鹿にして、からかった久賀瀬千晴の存在を思い出したのだ。
雲1つ無い晴天だったのに1人だけ、大人用の傘を持って来て、長靴,カッパ,折り畳み傘を入れた手提げ袋を持って登校して来た久賀瀬千晴──。
給食を食べ終わった後、[ 教室 ]を出て行ったきり戻って来なかった久賀瀬千晴──。
[ 保健室 ]から来たキノコンが久賀瀬千晴の机,椅子,ランドセル,ロッカーの中の私物まで持って行ってしまった為、[ 教室 ]には久賀瀬千晴の所有物は1つも無い状態だった。
嫌がらせで隠していた久賀瀬千晴の私物もキノコンに回収されてしまい、久賀瀬千晴は当分の間、[ 保健室 ]で授業を受ける事になった。
給食の時間に久賀瀬千晴へした事が決定打となったのは疑い様も無い。
梅浦
「 ちくしょう!
千晴が居れば否応無しに奪えたのに! 」
稻羽
「 おい、下駄箱に急ぐぞ!
他の奴に傘を持って行かれるかも知れない! 」
西口
「 いなち、[ 保健室 ]に行かないのか?
千晴に『 貸してくれ 』って── 」
稻羽
「 アホか!
[ 保健室 ]に行ってる間に取られるだろ!
月曜日に返せば問題無いってマッキーも言ってたろ! 」
埜村
「 よし、行こう! 」
久賀瀬千晴に対して、積極的に嫌がらせをしていた稻羽,梅浦,西口,埜村,所の5人は[ 教室 ]を出る。
2階廊下を走り、階段を駆け下り、1階廊下を走り[ 下駄箱 ]へ直行した。
──*──*──*── 1階・下駄箱
急いで上履きを脱ぎ、下駄箱の中から靴を取り出し、履き替える。
上履きを下駄箱の中へ入れたら傘立てへ移動する。
傘立てには1本だけ傘が立てられた状態で置かれている。
長くて立派な傘だ。
安物ではなく、相応の値段の傘なのだろう。
持ち手には “ 180cm ” と書かれたシールが貼られている。
所
「 180って結構デカいよな?
5人で使っても十分なんじゃないか? 」
埜村
「 5人も入るかな? 」
稻羽
「 引っ付けば濡れないって! 」
女子生徒
「 一寸男子ぃ~~!
黙って使うなんて良くないわよ! 」
埜村
「 うわっ!
うっせぇ女子が来やがった!
いなち、早く行こうぜ! 」
所が傘立てから傘を取る。
[ 正面玄関 ]を出ると同時に傘を開く。
バッと開いた傘の中へ稻羽,梅浦,西口,埜村,所が入り[ 校庭 ]へ出た。
女子生徒
「 稻羽君,梅浦君,西口君,埜村君,所君──!!
レディーファーストしなさいよっ!! 」
西口
「 男女平等の時代に “ レディーファースト ” なんて死語を使うなぁ!
抑、ガキはレディーに入らないんだよ、ばぁ~~かぁ! 」
女子生徒
「 西口ぃ~~!!
月曜日、覚えてなさいよっ!!
先生に言い付けて、学級裁判の刑だからね!! 」
傘を奪われ濡れて帰らなければならない女子生徒達は、[ 正面玄関 ]で立ち止まった状態で、稻羽,梅浦,西口,埜村,所の5人を責め立てる。
キンキン声でギャーギャーと騒いでいる女子生徒達を無視し、稻羽,梅浦,西口,埜村,所は[ 正門 ]を出た。
稻羽
「 それにしても、この傘──何でこんなに破れてるんだ!! 」
梅浦
「 これじゃあ、傘の意味が無いじゃんかな 」
西口
「 千晴の奴──、まさか態と破れた傘を持って来たのか? 」
埜村
「 こうなるって予測してかよ?
あの千晴だぞ、有り得ないだろ~~ 」
所
「 でもさ千晴は電波野郎だろ。
神様がどうとか良く言ってるじゃん 」
稻羽
「 馬鹿だな。
神様なんか居る訳無いだろ。
千晴には友達が居ないから、ヤバい発言して関心を惹きたいだけの痛い子ちゃんなんだよ 」
梅浦
「 そうだよな。
神様なんかが仮に居たとしても何も出来ないよ! 」
西口
「 電波千晴の言う事を真に受けてたら、電波が移るかもな! 」
埜村
「 破れたボロい傘を持って来やがった事を責めてやらないと!
千晴こそ、学級裁判に掛けてやらないとだぞ 」
所
「 罰として、月曜日は水攻め刑だな!
便器の水を千晴にぶっ掛けてやらないと! 」
稻羽
「 馬鹿だな。
パンイチで踊らせるんだよ!
オレ達が濡れた分だけ、恥を掻いてもらわないと駄目だろ 」
梅浦
「 パンイチ良いな!
花壇に立ちションさせてやろうぜ!
花壇を手入れしてるキノコンに吊し上げられるよ!
パンイチで! 」
西口
「 ぎゃはははは(≧▽≦)!!
キノコンにパンイチで吊し上げられる電波千晴やべぇ~~~~ 」
埜村
「 マッキーにも協力してもらおう!
日教祖思想のマッキーは千晴を危険視してるから僕達を擁護してくれるよ 」
所
「 学校保健師は千晴の味方だから、バレない様に手を回さないと── 」
稻羽
「 なら、千晴以外のクラスメイトにだけ、一斉メールで内容を伝えよう。
マッキーにも連絡して、皆で千晴を──── 」
話に夢中になっていた稻羽,梅浦,西口,埜村,所は「 プァップァッーーー 」と鳴るクラクションの音に気付かない。
雨音が激しくて聞こえないのだ。
大人用の傘は大きくて信号が隠れてしまい、色も見えない。
信号の色が赤に変わった事に気付かぬまま、信号無視をして横断歩道を歩く。
其処に派手にスリップをした大型バスが突っ込んで来た!!
スリップした大型バスは横転し、道路を滑りながら横断歩道を歩いていた稻羽,梅浦,西口,埜村,所を巻き込んだ。
大型バスは “ 回送中 ” だった為、乗客は乗っておらず、怪我をしたのは運転手1人だけで済んだが、横転し滑った大型バスに巻き込まれてしまった5名の子供達は怪我をしただけでは済まなかった。
道路には大量の血が流れ出るが、雨により流されて行く。
稻羽,梅浦,西口,埜村,所は大型バスが突っ込んで来た衝撃で遠くに飛ばされていた。
小さな身体が衝撃に耐えられる筈もなく、稻羽,梅浦,西口,埜村,所の5人は既に絶命していた。
道路に転がっているスマホの画面には、月曜日の学級裁判で久賀瀬千晴を吊し上げ、恥を掻かせる為の詳細な内容が出ており、クラスメイトと担任教師へ一斉メールの送信を完了する通知が届いていた。
画面には返信メールが続々と届いているが、返信メールに既読が付く事は無い。
電柱の天辺から地上を眺めている2名の人物が居た。
見た目は若い少女で、10代くらいだろうか。
少女達には人間に有る筈の影が無い。
地上を見ながらクスクスと笑っている少女達は、互いに顔を見合わせて、何か喋っていた。
地上では事故現場に人集りが出来ており、野次馬達はスマホを片手にパシャパシャと写メを撮ったり、動画を撮ったりしている様だ。
あの人集りの中に警察や消防署へ連絡をした心有る者が居るかは不明だ。
???
「 盗ったら取られる──。
世の中の真理ねぇ~~。
神佛って厳しいわよねぇ~~。
そのお蔭で魂5つ、ゲット出来たから、再来月のノルマ達成ぇ~~♥️
来月まで遊んで過ごせるわぁ~~♥️
死んでくれた5人には感謝しなくちゃね★
(≧▽≦)きゃはははは♥️ 」
???
「 大型バスをスリップさせて、横転させるなんて荒業を良く思い付いたよね~~ 」
???
「 普通に突っ込ませても詰まんないじゃ~~ん!
こういうのには劇的な “ ドラマ ” が必要なのよ。
演出,演出ぅ~~ 」
???
「 演出ねぇ~~。
でもさ、丁度良かったよねぇ。
5人揃っててぇ~~ 」
???
「 キノコン、様々よね★
それにしても小学生で窃盗罪を犯すなんて、不逞ぇガキよね。
未だ9歳でしょ。
可哀想では有るけど、同情は出来ないわよねぇ 」
???
「 死神に “ 可哀想 ” なんて感情は無いんですけどぉ~~。
課せられたノルマ分の魂を回収するのが使命の死神に、同情心なんか邪魔なだけじゃん。
新しい命を送り出す為には、生きてる命を終わらせて、現存してる魂を減らさないといけないんだから!
死神が使命をサボったりしたら、命の輪廻流転が滞っちゃう。
命の数を減らすのは崇高なる使命なんだから、誇りを持って行わなくちゃ! 」
死神
「 だよねぇ~~。
任期が明ける迄、死神として与えられた使命を全うする事が贖罪だもんね……。
自殺して命を捨てた代償って重いよねぇ…… 」
死神
「 勝手に人生を諦めて、途中で生きるの放棄して、神佛の慈悲で授かった命を自分の都合で捨てちゃったんだから仕方無いじゃん。
人間だった頃は真理なんて知らないで生きてたし、欠片も興味無かったじゃん。
任期満了まで頑張れたら、また人間に生まれ変わるんだよ。
頑張るしかないじゃん 」
死神
「 でもさ、記憶は無くしちゃうんでしょ?
また自殺しちゃう様な悪辣な環境の中に産まれちゃったら──って思うとねぇ? 」
死神
「 それは言わない御約束でしょ~~。
死神は何時如何なる時も “ 真心を込めて ” 魂を回収しなくちゃね★ 」
死神
「 それな★ 」
死神 & 死神
「「 きゃはははははは(≧▽≦)♥️♥️♥️ 」」
2名の死神は、笑いながら姿を消す。
人間の誰にも死神の笑い声は聞こえない。
事の顛末を確りと見届けていたミニマムキノコン以外には────。
◎ 訂正しました。
出来ないよな! 」─→ 出来ないよ! 」