✒ それから 7 / 碁会所
──*──*──*── 碁会所
お祖父ちゃん,お祖母ちゃんが管理人をしている《 碁会所 》は久し振りだったりする。
《 碁会所 》に入ると、顔馴染みだけど久し振りな人達から笑顔で出迎えてもらえた。
驚いた人達も居たけど、直ぐに嬉しそうな顔で駆け寄って来ては、声を掛けてくれる。
相変わらず和気藹々としている《 碁会所 》で安心しちゃった(////)
兄ちゃんは直ぐに年配の人達に取り囲まれて、奥へ連れて行かれちゃったよ……。
兄ちゃんに指導碁を打ってもらいたい人数がヤバいよぉ~~。
兄ちゃんの指導碁って拝まれちゃう程に人気が有ってモテモテだぁ。
僕も兄ちゃんの “ 8面打ち ” を見たいよぉ~~。
絲腥玄武
「 マオは人気者だな。
久賀瀬千晴、此処で我と一局だ 」
久賀瀬千晴
「 は…はい! 」
僕は陰陽師さんに促されて椅子に腰を下ろして座る。
僕の向かいには陰陽師さんが椅子に腰を下ろして座った。
御互いに「 お願いします 」と挨拶をして、対局が始まった。
久賀瀬千晴
「 あ……ありません…… 」
僕は陰陽師さんに惨敗した。
見事な迄の惨敗だ。
兄ちゃんより強いって本当だったんだ……。
完膚無き迄に負けた僕は、陰陽師さんから「 席を変わるぞ。君が白を打つと良い 」って言われた。
どういう事なのぉ??
絲腥玄武
「 すまない。
赤石と黄石を用意してくれないか 」
陰陽師さんが言うと、赤石と黄石を用意してもらえた。
御互いに椅子から腰を浮かせて立ち上がって、座る場所を交代する。
絲腥玄武
「 君は黄石で、白石の続きを打ち、優勢を維持する事だ。
私は赤石を使い君が投了した劣勢な黒石の続きを打つ。
君は投了をしたが、早過ぎた事を我が教えよう。
この劣勢に見える黒石は優勢に変えられる 」
久賀瀬千晴
「 えぇっ?!
そんな事が出来るんですか?
劣勢の黒石が優勢な黒石に勝てるなんて── 」
絲腥玄武
「 出来るからするのだが──。
打ってみれば分かる。
盤上には常に “ 逆転の一手 ” が隠されている事を忘れてはならぬ 」
久賀瀬千晴
「 逆転の一手?? 」
絲腥玄武
「 黒石の劣勢を覆す “ 逆転の一手 ” は此処だ 」
陰陽師さんは盤上に赤石を打つ。
僕にはとても “ 逆転の一手 ” には見えないよぉ~~。
そんな所に赤石を打って、本当に覆す事が出来るの??
絲腥玄武
「 今は未だ意味の無い石だが、この石を生かしながら打つ。
これは応用の出来る手だ。
覚えておいて損はないぞ 」
久賀瀬千晴
「 そうなんですか?
僕、ちゃんと覚えます!! 」
久賀瀬千晴
「 …………嘘だ……こんな事って…………ありません…… 」
確実に優勢だった筈の白石が、物の見事に逆転しちゃった。
優勢だった白石が瞬く間に劣勢に変わっちゃったぁぁぁぁぁ!!
盤上では黄石は赤石に追い詰められていた。
確かにさっき迄は何の意味も無い無害な赤石だった筈なのに、今は重要な役割を果たしている。
何時の間にか “ 逆転の一手 ” に化けていたんだ!
間違いなく盤上で “ 生きて ” いる!!
絲腥玄武
「 どうだ。
隠れた “ 逆転の一手 ” を上手く活かす事が出来さえすれば、劣勢を優勢に変える事も可能となる。
囲碁とは奥が深いものだ 」
久賀瀬千晴
「 …………これがプロ棋士の実力…… 」
???
「 それは無理じゃよ。
プロ棋士でも盤上から “ 逆転の一手 ” を見付けるのは至難の技じゃよ。
これは遥かな高見から盤上を見ておるから出来る事なんじゃ 」
久賀瀬千晴
「 お祖父ちゃん!
お祖父ちゃんでも分からないの? 」
お祖父ちゃん
「 うむ、分からんのぅ。
この “ 逆転の一手 ” を弓弦先生でも見付けられるか…… 」
久賀瀬千晴
「 そんなに?? 」
絲腥玄武
「 今の弓弦ならば、此処ではなく── 」
陰陽師さんが言うと、別のキノコンが赤石を打つ前の碁盤を持って来て、ササッと入れ変えてくれる。
赤石と黄石で打った碁盤はキノコンに回収された。
棋譜の記録をするんだね。
絲腥玄武
「 ──此処に打つかも知れぬな 」
陰陽師さんが赤石を打った場所は、さっきとは違う場所だ。
久賀瀬千晴
「 あの……逆転の一手って1つじゃないんですか? 」
絲腥玄武
「 1つでは無いな。
幾つも隠れている場合も有る。
大体が化ける迄は相手に潰されぬ様、守りながら生かす必要が有る。
中々難しいが、誰にでも出来る事ではない。
覚えておけば役に立つ 」
久賀瀬千晴
「 はい…… 」
今の僕にはハードルが高過ぎるよぉ~~。
プロ棋士にも分からない事を教えられても困っちゃうけど……、覚えていられるかなぁ……。
絲腥玄武
「 折角だ。
この続きも打つとしよう。
君の番だ。
黄石を何処に打つ 」
久賀瀬千晴
「 えぇとぉ…… 」
陰陽師さんって、意外とスパルタかもぉ~~。
優勢な白石を維持しつつ、赤石から白石を守りながら黄石を打たないといけないなんて──、難し過ぎるよぉ~~~~。
何処に打ったら良いのかな??
???
「 うわっ、また随分としごかれてるなぁ~~。
玄武さん、相手は未だ小学生だよ 」
絲腥玄武
「 マオか。
もう “ 8面打ち ” は済んだのか? 」
マオ
「 うん……。
やっと解放されたよ!
千晴の棋力はどう? 」
絲腥玄武
「 うむ、悪くは無いな。
鍛え方次第だろう。
我が相手をしては有能な芽を潰してしまうな 」
マオ
「 自覚はしてるんだね……。
( オレには手加減してくれるし、指導碁なのになぁ…… )」
絲腥玄武
「 経験が足りぬな。
実力者との実戦を積む事だ。
この棋力なら中学生生を相手にしても比毛は取らぬだろう 」
マオ
「 玄武さんから御墨付き貰えるなんて凄いじゃんか、千晴! 」
久賀瀬千晴
「 う…うん…… 」
陰陽師さんは、プロ棋士より断然強い人なんだ……。
ど…どうしよぅ…………。
当分は碁石を触りたくないかも知れない…………。
碁石を持つ手がプルプルと震えてるよぉ~~。
恐いんだ…………陰陽師さんと打つのが……恐くて堪らないんだ……。
心が折れちゃいそうだよぉ~~~~。
マオ
「 千晴?
もしかして、禁断症状が出てたりするのか?
玄武さんが手加減しないからぁ~~~~ 」
絲腥玄武
「 それは済まぬな……。
プロを目指す院生を潰しては申し訳ないな。
此処迄にするとしよう 」
マオ
「 そうだね。
それが良いよ!
( 鬼畜の諸行だよ!
確実に息の根を止めに掛かってるじゃんか……。
何でオレには手加減してくれるのに小学生には手加減しないんだろう…… )」
盤上の棋譜を見ている兄ちゃんの顔は青ざめている。
そんなに酷い棋譜なのかなぁ……。
僕……かなり頑張ったつもりなんだけど…………。
マオ
「 千晴、玄武さん相手に此処まで食らい付いて頑張ったな。
凄いよ、自分を誇って良いんだからな! 」
兄ちゃんは僕の肩を抱いて頭を撫でてくれる。
キノコンが記録を終えた棋譜のコピーを綴った棋譜帳を持って来てくれた。
こんなに沢山、陰陽師さんと打ったんだ……。
マオ
「 もう、こんな時間か。
囲碁を打ってると直ぐに時間が経っちゃうな。
玄武さん、帰りがてら弓弦さんに会って行こうよ。
《 囲碁教室 》で先生をしてるんだ 」
絲腥玄武
「 そうなのか?
立ち寄るのも良いな 」
マオ
「 じゃあ、オレ達は帰るよ。
千晴、また会おうな 」
久賀瀬千晴
「 う…うん!
今日は有り難う! 」
兄ちゃんと陰陽師さんは《 碁会所 》を出て行った。
《 囲碁教室 》に寄るって言ってたよね。
厳蒔弓弦先生と知り合いなのかなぁ……。
お祖父ちゃん,お祖母ちゃんと一緒に帰る僕は、キノコンから貰った棋譜帳を見直す事にした。
いっちぃは──常連さん達と対局中みたい。
僕とは逆に楽しそうに打ててるみたいで良かったぁ~~。




