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魔王の弾丸  作者: ぷりんせすこうたろう
第一章 出会いの書
8/39

八話 魔弾の射手

三人の会話から一夜明け、そして再び時間は夕方へ。

ロレーヌは慣れた道だと言わんばかりに馬を進める。


そして西日が強く指す時間に、まさしく西側に村を迎えて一同は

村が観察できる場所に到達した。


ロレーヌはクリントに貰った望遠鏡で村を覗き込むが

西日が強く、様子はよくわからなかった。

「クリント、村が見える場所まで来たけど日差しが強くてよく見えないわ」


そういわれるとクリントはロレーヌの側までやってきた。

「貸してくれ」

とその望遠鏡を目で見るとロレーヌはクリントに望遠鏡を渡す。


そこから無言で終始クリントは村の様子を伺っていたが

十分程度したところだろうか、クリントは顔を引っ込め

幌馬車の中に寝転がって言った。


「夜まで待とう」

「どういうことかしら?」


相変わらず言葉足らずの男にロレーヌは先を促した。

なおヤンは酔いつぶれて寝ていた。


「今のところ村は無事だ。オーガが徘徊している様子もなかった。

 だが村の一部が損壊している場所があった。

 念の為オーガが奇襲してくる可能性を考慮してここで待機するのがベストだ」

「わからないわ……迎撃するなら村に入ったほうが村を守れるんじゃないかしら?」


決してロレーヌはクリントの言いたいことがわからないわけではないという表情であった。

その証拠に彼女の表情はほほ笑みを浮かべている。

すべてはクリントが何を考えてるか?に注がれているようにも感じる。


そんな様子を察してかクリントは言葉を付け加えた。

「そもそも迎撃しきれないほどのオーガが

 でてきたら村にいるよりここにいて逃げたほうが早い。

 もし迎撃出来る数であるならば俺にとってはこの位置が一番攻撃に適している。

 だからここで待つんだと言っている」


その言葉に満足気にロレーヌは答える。

「何をするかまで教えてほしかったけどそれはこの村の平和を見届けたときにしましょう。

 貴方の指示通り夜が来るまでここで待つわ」

そういうロレーヌにクリントは再度望遠鏡を投げつけると

ロレーヌは落としそうになりながらもそれを受け止めた。


「ちょっと! 投げるなら投げるって言ってよね!」

口をとがらせて不満をあらわにするロレーヌだがクリントはどこ吹く風といった様子で続ける。

「それで村の様子を見張っていてくれ、もしオーガがでてくるようなら教えてくれ」

そういうとクリントはヤンを揺すって起こした。

「爺さん、済まないが少し警備を変わってくれないか?

 少し休憩したい」

「……なんじゃーその程度で音を上げるとはー。鍛え方が足らんのじゃないか?」


完全に酔っ払いと化しているヤンだったがクリントは無視して続ける。

「万が一に備えておくのも俺達の仕事だ」


そういうとクリントは熟睡を避けるかのように馬車の壁によりかかり、目を閉じた。

ヤンは自分本位なクリントの行動に腹を立ててロレーヌに言う。

「エールはもっと無いのか?!」

「先生、流石に商品に手を出すのは止めてくださいね」

と少し困り顔をしつつも馬車の角にある荷物を指さした。


ヤンはその箱を開けるとそこにはエールが大量に入っていた。

「いやぁ、エールがこんなに飲み放題だと、つい飲みすぎてしまうな」

「そう思うなら少し自重なされたほうがいいのでは?

 あまりうるさいことは言いたくないのですが先生のお体が心配ですわ」


しかしヤンもまたどこ吹く風といった様子で再びエールを飲み始めるのであった。

そんな二人の様子を見て苦笑いをしつつもロレーヌは

「一人旅よりもやっぱりずっといいものね」と独り言を呟いた。






そして日は落ちて夜を迎える。

村の窓から明かりが灯り始め、村の明かりは人々の活気を示すかのように揺らいでいる。


「クリント、起きてるかしら?」


そうロレーヌが呼びかけると彼はすぐに反応した。

「今起きた、オーガの襲撃はなかったか?」

「ええ、私達も村に入りましょう」


笑顔で語るロレーヌをみて、クリントは街を見下ろした。

クリントは再度村の様子をうかがうと言った。


「ロレーヌ、望遠鏡を」


ロレーヌは言われるがままに彼に望遠鏡を渡すと

彼は村から少し離れた場所に目を向けた。

その場所を望遠鏡で確認すると、彼はその揺れ動く光の群れを指し示す。

村に灯る明かりと違い、その「明かり」は動き、そして村に近づきつつあった。


「オーガの襲撃だ。明かりの数だけでみても最低でも五匹はいるな」


そういいながら再びロレーヌに望遠鏡を渡すクリント。

促されるままにロレーヌはクリントの指し示す方角を望遠鏡で覗くと彼に問いただした。


「クリント、貴方の想定通りになったけど、どうするのかしら?」

「やれるだけのことをするだけだ」


そう言うと彼は抱えるように手を広げるとその両手にはスナイパーライフルが現れた。

対人用狙撃銃M24、それを彼は生成後速やかに

近くの荷物箱を台座にバイポットを立てて銃を構えた。

クリントは明かりが動く方向にスコープを向けるとすぐに狙いを定めた。


「何をするのかしら?」

興味深そうに覗き込むロレーヌに対してクリントはあくまでも簡潔に言う。

「ロレーヌ、ここから敵を倒す。

 一番手前の奴からやるから実際に倒せたかどうかの確認を頼みたい」

「て、手前ね、ちょっとまってね……今みてるやつ……でいいのよね」


パァァアアン!


乾いた音とともにロレーヌの見ていたオーガの頭に銃弾が命中し

頭の一部が炸裂するように弾けて血しぶきを撒き散らして倒れた。


発砲と同時に排莢を行う。流れるようにボルトアクションをこなすクリント。

「手前のオーガは倒れたわ!」

「次はその右側にいるやつをやる」


そう言って数秒で彼はすぐに次のオーガに向けて発砲した。

乾いた音とともに時間差で排莢音がカランと馬車の中に響き渡る。


慌ててロレーヌは二体目のオーガに目を移すと、二体目のオーガも同様に

頭を打ち抜かれて倒れていた。


「二体目も倒れて動けなくなったわ」

「次、左奥、一番村に近づいているオーガをやる」


パァァアアン!


クリントはまるで機械のようにその作業を淡々とこなしていく。

排莢された薬莢はまるで無駄を嫌うクリントを示すかのように

地面に落ちるとすぐに霧散して現実から消失していく。


気がつけばクリントは四体のオーガを速やかに排除していた。

そしてクリントは五体目のオーガの様子をみていたが引き金は引かなかった。

ロレーヌはそれに気が付きクリントに声を掛ける。


「クリント?」


しかしクリントは答えない。

次第にクリントはオーガ以外の何かを探すようにスコープを動かし始めた。


「ねぇクリント、なにがあったの?」

その様子を見かねてか、ヤンが答えた。

「オーガが撤退しないのが気に入らないんだろう。

 これだけの長距離の攻撃、人間ですら普通なら戸惑い混乱する。

 オーガとて夜に目が利くわけではない、仮に松明をもっている

 オーガが全滅すれば彼らは逃げることすら叶わなくなる。

 しかしその残り一匹が進むでもなく、撤退するでもなく立ち尽くしている理由。

 それを探しておるのだろう」

「ご明察、恐らく村のオーガと連携して何かを企んでるようにも見える動きだ」


その瞬間であった、直近で雄叫びのような声を挙げるトロールの声を聞いたのは。


ウオオオオオオオオオオオン!


すでにそのトロールは巨大な棍棒を振り上げて今にも幌馬車ごと粉砕せんと

振り下ろす瞬間であった。


日が陰り視界が悪い中を利用した巧妙な奇襲。


ロレーヌは咄嗟に身構え、クリントが振り向き、銃口をむけて迎撃しようとしていたが

流石に振り下ろす速度に間に合わない!


瞬間、小さい影がひょいっとトロールに向かって飛び出す影が見えた。




ダァン!




それはトロールの咆哮よりも短く、しかしクリントの銃撃よりも激しい炸裂音にも似た

ヤンがトロールに向かって繰り出した縦拳の一撃であった。


音とともに膨大な溢れ出るヤンのマナが辺り一帯に吹き荒れるように流れ……。




そこに立っているはずのトロールは手足のパーツのみを残し跡形もなく消し飛んでいた。

先程の方向が嘘のように静寂が訪れる。


「フン、一撃も保たないとは造作もない」

そういうとヤンは馬車の中に戻ってきて再びエールを飲みはじめた。


クリントは再び村の方を確認していると、一つの明かりが村から離れていくのを確認し

手元のライフルは青白い光が粉のように霧散するかのように消失した。


「あんたそんなでたらめな威力を人間に向けようとするなよ」

クリントは軽口を叩くとヤンも応戦した。

「試合をする者はお互いに覚悟ぐらいしておくものだ」

「大体いつもあんたが仕掛けてくる方だろ……」


「まーまーお二人共、今回はどうなるか少し心配もしてたけど

 二人のお陰で特に被害も出なくてよかったわ。

 早速村に向かって凱旋と行きましょう!」


そういうロレーヌの楽しげな顔をみてクリントは珍しく小さく笑みを浮かべ

ヤンもまんざらではない様子でエールを飲み進めるのであった。

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